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ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
スーパーコンピュータ『京』®  商標登録:第5486228号 ほか 特許:第5212469号 ほか
 権利者:(商標)独立行政法人理化学研究所 (特許)富士通株式会社

世界トップクラスの
スーパーコンピュータは
多数の特許技術に
支えられています。

(独立行政法人理化学研究所 掲載許可済)

並み居る各国のスーパーコンピュータを引き離し、演算速度世界1位の座に輝いた『京(けい)』。 偉業達成から2年、既に実用段階に入った『京』は、医療や産業などの分野で次々に目覚ましい成果を挙げています。 純国産の最先端コンピュータは、いかなる特許技術に支えられているのか? 『京』の開発をリードしてきた独立行政法人理化学研究所 計算科学研究機構(以下、計算科学研究機構)の皆さんに取材しました。

『京』開発の背景

日本の科学と産業の発展のため「世界NO.1」を目指す

取材担当者
2011年6月、『京』は世界最速のコンピュータに認定され、新聞やテレビでも大きく取り上げられました。 数字でいうとどれくらいのスピードだったのですか。
計算科学研究機構
8.162ペタフロップス…1秒間に8162兆回の計算スピードを達成しました。 2位の中国のスーパーコンピュータが2.56ペタフロップスでしたから、その3倍の速さです。
取材担当者
圧勝だったのですね。それにしても1秒間に8162兆回も計算を行うというのは…私達の想像を超えた世界です。
計算科学研究機構
実はこの時『京』は開発途中で、まだ8割程度の能力でした。 現在は10ペタフロップス、つまり1秒間に1京回(1京は1兆の10000倍)の演算が可能です。

取材担当者
完全ではなかったにもかかわらず世界1位とは驚きです。 このような超高性能のコンピュータを開発した背景を教えていただけますか。
計算科学研究機構
現代の科学研究では「理論」「実験」と並んでコンピュータによる「シミュレーション」が重視されています。 シミュレーションを活用すれば、これまで実験や観測でも解明できなかった新しい知見を容易に獲得できるからです。 しかし精緻なシミュレーションを行うためには、ハイレベルな演算能力を持ったコンピュータが欠かせません。 このような観点から、日本の科学技術と産業発展のために我が国も世界トップクラスのスーパーコンピュータを持つべきだという声が高まりました。 そして2005年、文部科学省主導のプロジェクトとして『京』の開発が始まったのです。
取材担当者
それまで日本に世界レベルのスーパーコンピュータはなかったのですか。
計算科学研究機構
2002年、『地球シミュレータ』というスーパーコンピュータが世界NO.1になっています。 しかしそれ以降、新しい開発計画はありませんでした。ところが海外では、日本とはうらはらにアメリカ、 中国をはじめ様々な国がスーパーコンピュータの開発に心血を注いでいたのです。 『京』のプロジェクト立ち上げには、こうした状況への危機感もあったと思います。 開発スタートから7年を経て2012年6月に『京』は完成、2012年9月から企業などへの利用を開始しました。

取材担当者
既に具体的な成果はあがっているのでしょうか。
計算科学研究機構
はい。一例をあげると、創薬の分野でがんの新薬の候補物質を10個以上特定しました。 薬の開発では、病気の原因となるタンパク質を見つけ出し、それに結合する新たな化合物を創る必要があります。 しかしタンパク質の種類は10万以上、化合物にいたっては10の60乗以上もあり、すべての組み合わせを実験で確かめることはできません。 そこで『京』の圧倒的な演算能力を活用し、膨大な組み合わせをシミュレーションで確かめました。 通常のコンピュータでも可能ですが、結果がでるまで2年かかります。しかし『京』をフル活用すれば6時間弱で計算できるのです。
取材担当者
開発期間の大幅な短縮につながりますね。他にどんな成果がありますか。
計算科学研究機構
世界で初めてタンパク質レベルのミクロな運動から臓器レベルまでをカバーした心臓モデル、自動車の開発などに役立つ空気の流れの詳細なシミュレーション、 次世代半導体材料のシミュレーションなど、『京』は今、さまざまな分野で、目覚ましい成果をあげています。
『京』を支える特許技術

CPUやネットワークなど、多数の技術で特許を取得

取材担当者
世界トップクラスの性能を発揮するため、新たに開発された技術はありますか。
計算科学研究機構
開発当初から、『京』には10ペタフロップス(1秒間に1京回の演算能力)という、 高い目標が課せられていました。 この前人未踏の計算速度を達成するべくまず開発されたのが「SPARC64TMVIIIfx」という高性能のCPUです。 CPUはコンピュータの頭脳ともいえる部品で、通常は1台のコンピュータに1つですが、 『京』は、この「SPARC64TMVIIIfx」を8万個以上つないでいます。
取材担当者
8万台を越えるパソコンがつながっているイメージでしょうか。

計算科学研究機構
そうです。並列計算機というのですが、1つの仕事を複数のコンピュータで分担して受け持つのです。 高速かつ効率的に仕事をさせるには、各CPUをつなぐネットワークも非常に重要で、 そのために「6次元メッシュ/トーラス結合(Tofu)」という革新的な接続方法も開発しました。

取材担当者
CPUやネットワークは計算科学研究機構で開発したのですか?
計算科学研究機構
開発したのはプロジェクトのパートナーである富士通さんです。 私たちは開発主体として全体を統括し、実際の開発作業は富士通さんが受け持ちました。 富士通さんは『京』のためにCPUやそれをつなぐインターコネクト、OS、ファイルシステム、 運用管理システムなどで多数の独自技術を開発しています。 またそれらのうち87個のアイデアについて国内や海外で特許を出願しています。
取材担当者
特許の権利者も富士通さんになるのですか?
計算科学研究機構
そうです。 私たちも仕様や要望は出しますが、それを実現する部分…つまり特許の対象になるような技術の開発は富士通さんが行いました。

取材担当者
スーパーコンピュータの名称『京』についてもお聞きしたいのですが、こちらは商標登録は行っていますか?
計算科学研究機構
はい。商標登録は私たちの母体である理化学研究所で行いました。
取材担当者
どのような経緯で『京』というネーミングが生まれたのでしょうか。
計算科学研究機構
2010年4月に一般公募で募り、集まった1529件の候補の中から、10ペタを表す単位を名前にするという視点が評価され、 『京』に決まりました。また京という字はもともと大きな「門」を表しており、「計算科学の新たな門」という意味も重ねています。
取材担当者
筆文字も印象的ですね。
計算科学研究機構
ロゴマークの筆文字は、書家の武田双雲先生にお願いし、日本の科学技術を支える力強さを表現していただきました。 また「ケイ」という響きも外国の方が発音しやすく、記憶に残る愛称になったと自負しています。
取材担当者
競争の激しいコンピュータの世界では模倣からいかに独自技術を守るかが重要だと思います。 『京』は技術の面では87もの特許を取得した富士通さんが、 そしてブランドの面では『京』という印象的な商標を登録した理化学研究所が、両側からしっかり守り支えているのですね。
「知的財産権」の取得について

どんな技術が特許になり得るのかを知りたい

取材担当者
計算科学研究機構が単独で、開発成果に関する特許出願等を行ったことはあるのでしょうか。
計算科学研究機構
当機構は2010年、『京』を適切に運用するための組織として、理化学研究所により設立されました。 いまのところはまだ、私たちだけで特許を出願した事例はありません。 しかし母体である理化学研究所には「知的財産戦略センター」というセクションがあり、 研究所で生まれたさまざまな成果を知財として権利化するための業務はここで行われています。
取材担当者
特許の実施権許諾や譲渡なども積極的に実施しているのですか。
計算科学研究機構
はい。理化学研究所は 開発成果をどんどん発信し、産業や社会に還元することが使命なのです。 特許出願や商標登録出願等を行うことでその価値を分りやすく開示し、企業に対して積極的に働きかけ、 産業分野で幅広く活用してもらいたい、と考えています。

取材担当者
なるほど。日本の科学や産業の発展を促す、という意味では『京』の目的とも重なりますね。 今後、計算科学研究機構で知財の権利化をするような機会は巡ってきますか。
計算科学研究機構
今、『京』を使ってさまざまな共同開発をしていますが、 その過程で私たちの成果を私たち自身で特許化するケースは出てくるかもしれません。
取材担当者
その場合は弁理士を活用して、ということになると思うのですが、弁理士について、 何か疑問や要望があれば、せっかくですのでお聞かせください。
計算科学研究機構
我々研究畑の人間は、開発した技術について特許を取得する価値があるのか、 また開発した技術やアイデアの中でもどういった部分が特許になり得るものなのか、そういった点がいまひとつ分りません。 ですから研究者を対象に、特許について今述べたようなことをレクチャーしてもらえるとありがたいですね。
取材担当者
分かりました。日本弁理士会近畿支部では知財に関するセミナーの開催や、講師の派遣なども行っています。 セミナーは参加無料ですので、機会があればぜひご参加ください。 今後、特許や意匠、商標登録などを行うケースがでてきた際、きっとお役に立つと思います。 今日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。



独立行政法人理化学研究所 計算科学研究機構
理化学研究所が、スーパーコンピュータ『京』の運用と『京』の高度化研究を主たる目的に、 2010年7月1日、設立しました。ユーザーに対して使いやすい計算環境を提供するとともに、 『京』を中核として計算科学と計算機科学を連携させ、先進的成果を創出します。


2014年2月14日掲載