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平成21年10月22日判決 知的財産高等裁判所 平成20年(行ケ)第10398号

キーワード
:引例との相違点に係る構成が証拠に示されていない
関連条文
:特許法29条2項
主文
:進歩性がないとした無効審決の取消し


1.事件の概要
本件発明の課題が引例に示されていないことから、相違点に至るための動機付けを欠くとされ、審決が取り消された。


2.事件の経緯
(1)
対象の特許:特許3782813号
(2)
事件の経緯
平成18年3月17日:登録(登録時の請求項の数は3)
平成19年10月1日:被告が無効審判請求
平成20年1月10日:原告が訂正請求
平成20年9月16日:訂正を認めつつ、無効とする審決(本件審決)


3.本件発明、争点及び判決の要旨
本件発明は、簡単に説明すると、複数枚の『化粧用パック材』を剥離可能に積層させた『化粧用パッティング材』において、一枚一枚の『化粧用パック材』をウォータージェット噴射によって表面加工することで、剥離時に生じる毛羽立ちを防止させた発明であった。

本発明(改行、部材番号挿入は筆者)
吸水性を有し,且つ,顔面の部分的パックに適する厚さ及びサイズに形成された化粧用パック材(2)であって,
該パック材(2)はウォータジェット噴射によって表面加工されて成り,
該パック材(2)は複数枚が積層されて化粧用パッティング材(1)を構成し,且つ,
該化粧用パッティング材(1)は側縁部近傍を圧着手段によってパック材(2)が剥離可能に接合されて成り,
該パッティング材(1)に化粧水を浸潤させてパッティングし,該パッティング動作終了後,該パッティング材(1)から前記パック材(2)を一枚毎剥離し,該剥離したパック材(2)を顔面の必要個所に所定時間装着させてパックできるように構成されたことを特徴とする
化粧用パッティング材(1)。



4.審決の内容
本発明は、引用例、本件検証物(被告製造の「リリアンパフ(商品名)」)、周知例1~8に基づいて、進歩性なし

ア:引例(特開2000-335667)
・・・単位コットン1は天然綿等を素材とし、ウオータージェット加工等の手法によりふっくらと仕上げられ、毛羽立ちが少ない肌にやさしい状態のものに仕上げられている。この単位コットンは、必要に応じて複数層の積層構造体にしたり、スーパー長繊維綿を混入させたりしても良い。また単位コットンの大きさは、使用形態によって、適宜の大きさ、厚さのものに仕上げられる。

・・・図2の個別包装体3は、5枚の単位コットン1を積層した状態で、全体の厚さを約半分に圧縮した状態で気密性袋2の開口部をヒートシールして得た例を示しており、図4のパッケージ体5は、この個別包装体3を8個一列状に積層して完成させた例を示している。したがって、本発明に係る個別包装体3及びパッケージ体5は、元の単位コットン1の厚さの比較で見ると、全体の嵩が約半分になっていることになる。


イ:本件検証物:被告製造の「リリアンパフ(商品名)」:省略

ウ:周知例1~8
  周知例1:実公昭56-45538号公報
  周知例2:実用新案登録第3082655号公報
  周知例3:特開2002-360338号公報
  周知例4:佐伯チズ著「佐伯チズのスキンケア・メイク入門」と題する文献
  周知例5:特開平11-76698号公報
  周知例6:特開昭62-110967号公報
  周知例7:特開平3-287818号公報
  周知例8:特開2001-355130号公報

【一致点】
吸水性を有する化粧用シート部材であって,該シート部材は複数枚が積層されて化粧用パッティング材を構成するようになっている化粧用パッティング材。

【相違点】
本件発明1は,化粧用シート部材が,顔面の部分的パックに適する厚さ及びサイズに形成された化粧用パック材であって,該パック材はウォータジェット噴射によって表面加工されて成り,化粧用パッティング材は側縁部近傍を圧着手段によってパック材が剥離可能に接合されて成り,該パッティング材に化粧水を浸潤させてパッティングし,該パッティング動作終了後,該パッティング材から化粧用シート部材を一枚毎剥離し,該剥離した化粧用シート部材を顔面の必要個所に所定時間装着させてパックできるように構成されているのに対し,
引用発明は,少なくとも単位コットン1(化粧用パッティング材)は,ウォータジェット噴射によって表面加工されて成っているが,各層(化粧用シート部材)がウォータジェット噴射によって表面加工されて成っているか不明であり,単位コットン1(化粧用パッティング材)は積層した各層(化粧用シート部材)がどのように接合されているのか不明であり,単位コットン1(化粧用パッティング材)に化粧水を浸潤させてパッティングし,該パッティング動作終了後,単位コットン1(化粧用パッティング材)から各層(化粧用シート部材)を一枚毎剥離し,該剥離した化粧用シート部材を顔面の必要個所に所定時間装着させてパックできるように構成されているか不明である点


5.審決のポイント(本判決で誤りとされた部分)
審決では、相違点について、各層(化粧用シート部材)にウォータージェット噴射による表面加工をすることが、当業者が必要に応じて適宜なし得ることであると判断していた。


6.裁判所の判断
(1)
化粧用シート部材にWJ加工をするとの構成に係る解決課題
・・・本件各発明において,個々の化粧用パック材にWJ加工を施すことにより解決すべき主たる課題は,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止にあったということができる。
(2)
化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離される各層(各部材)にWJ加工を施す動機付け
・・・その他,本件全証拠によっても,化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離される各層(各シート部材)にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆のある刊行物(本件出願前に頒布されたもの)が存在するものと認めることはできない。
(3)
本件審決の判断の当否
上記(1)及び(2)のとおり,化粧用パック材にWJ加工を施すとの本件各発明の構成は,化粧用パッティング材から個々の化粧用パック材を剥離する際に生じる毛羽立ちの防止を主たる解決課題として採用されたものであるところ,同課題が本件出願当時の当業者にとっての自明又は周知の課題であったということはできず,また,引用例を含め,化粧用パッティング材(化粧綿)から剥離される各層(各シート部材)にWJ加工を施すことを動機付ける旨の開示又は示唆のある刊行物(本件出願前に頒布されたもの)は存在しないのであるから,・・・各層を1枚ごとに剥離可能としてパック材として使用する際にその使用形態に合わせて各層にWJ加工を施すことについてまで,本件出願当時の当業者において必要に応じ適宜なし得ることであったということはできず,その他,引用発明の各層にWJ加工を施すことが本件出願当時の当業者において必要に応じ適宜なし得たものと認めるに足りる証拠はないから,相違点1に係る各構成のうち化粧用パック材にWJ加工を施すとの構成についての本件審決の判断は誤りであるといわざるを得ない。


7.執筆者のコメント
本判決では、本発明の出願書類に明示されていたとはいいにくいような課題についても、従来技術と丁寧に比較することで、客観的かつ詳細に認定しているように思われる。
そして、本判決では、このようにして認定された本発明の課題については、出願当時の当業者にとって自明又は周知の課題であったと認めるに足りる証拠もなく、解決課題として認識されていなかったとされ、相違点に至るための動機付けを欠くと判断され、さらに、必要に応じ適宜なし得たものと認めるに足りる証拠がない、と判断されている。
このように、本発明の課題を、従来技術と比較して客観的かつ詳細に認定した場合には、進歩性を否定するための証拠としても、このような客観的かつ詳細に認定された課題を少なくとも示唆するような記載が必要になるのではないかと思われる。


(執筆者 合路 裕介 )


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