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平成21年3月25日判決 知的財産高等裁判所 平成20年(行ケ)第10305号
- 審決取消請求事件 -

審判番号
:不服2008-1551号
出願番号
:特願平10-225547号
発明の名称
:ヒートシール装置
結論
:特許庁がした審決を取り消す。
関連条文
:特許法29条2項


1.事件の概要

(1)
原告は、発明の名称を「ヒートシール装置」とする特許出願をしたが、拒絶査定を受けた。
(2)
原告は、この拒絶査定を不服として拒絶査定不服審判を請求した。
(3)
特許庁は、本願発明が、特開平8-230834号公報(引用例)に記載された発明(引用発明)並びに実開昭55-104613号公報(周知例1)及び実開昭54-88073号公報(周知例2)に記載された周知技術(周知技術1及び周知技術2)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるとして、拒絶審決をした。
(4)
本件は、原告がこの拒絶審決の取り消しを求めた事案である。



2.本願発明の内容
本願明細書の記載によれば、本願発明(特許請求の範囲の請求項1)及び本願発明の技術内容は、以下の通りである。
(1)
本願発明(特許請求の範囲の請求項1)

【請求項1】合成樹脂層を含む積層体からなる包材をチューブ状とし、該チューブ状の包材を、加熱機構を有する開閉自在な一対の加圧部材を用いて、液面下で横断状にヒートシールするシール装置において、加圧部材の少なくとも一方の作用面に、シール帯域の容器内面側外側に隣接して合成樹脂溜まりを形成し得る溝が設けられていることを特徴とするヒートシール装置。
(2)
本願発明の技術内容(判決文中の裁判所の認定を抜粋したものに加筆)

本願発明の技術内容は、ヒートシール装置において、シール時にシール帯域(高周波コイル2とシーリングゴム4との間に挟まれる部分)内の液体を溶融樹脂とともにシール帯域外へ流出させる方法(本願の図1参照)では、シール帯域の液体や汚れを完全に排除し、優れたシール性が得られるものの、容器内側に流出した溶融樹脂が均一にはみ出さず、これによって、容器内側の縁部に波打った溶融樹脂ビード7が形成されて、容器に圧力がかかった場合にビード7から亀裂が発生することがある(本願の図2参照)という課題を解決するために、シール帯域の容器内面側外側に隣接して合成樹脂溜まりを形成し得る溝16を設けて、溶融樹脂を夾雑物と共にシール帯域から容器内面側に向かって押し流すことによって、シール帯域には夾雑物のない優れたシール性を有する薄い合成樹脂層を形成する方法とし(本願の図6、7参照)、シール帯域から流出した樹脂を溝16に流入させることで、容器内側に流出した溶融樹脂が均一な幅の合成樹脂溜まりを形成し、これによって、容器内側の縁部に波打った溶融樹脂ビード7が形成されないようにしたものである。



3.引用発明及び周知技術1、2の内容
(1)

引用発明の技術内容(判決文中の裁判所の認定を抜粋したものに加筆)

引用例の記載によれば、引用発明の技術内容は、以下の通りである。

引用発明の技術内容は、シール装置において、溶融したポリエチレン樹脂56がシール部分Sの範囲を超えて過度に流れ出してしまう結果、シール部分Sにおいて熱融着に寄与するポリエチレン樹脂56の量が少なくなり、適切な接合強度が得られず、また、シール部分Sから流れ出たポリエチレン樹脂56が固化して包装容器の内側に固着して、ヒビ割れを発生させることがある(引用例の図4参照)という課題を解決するために、「溝75」をインダクタ31に形成して、シール部分Sの範囲を超えて流れ出ようとするポリエチレン樹脂56を「溝75」内に滞留させることで、ポリエチレン樹脂56の流れを阻止して、シール部分Sの範囲から流れ出ない、あるいは、過度に流れ出すことがないようにして、適切な接合強度を確保するものであると認められる(引用例の図5、11参照)。インダクタ31は、シールブロック19に一部を表面に臨ませて埋設され、ドーリー93との間で包材を挟持し、誘導加熱によって包材11の一対のアルミニウムホイル55によって挟まれた一対のポリエチレン樹脂56を加熱して、シール部分Sにおいて包材11を熱融着によって接合させるものであるから、インダクタ31の表面がシール部分Sに対応する領域ということができる。また、「溝75」は、インダクタ31の中央部に設けられた凸部71の側部に設けられているから、シール部Sの端部に設けられているということができる。



(2)

周知技術1、2の技術内容(判決文中の裁判所の認定を抜粋したものに加筆)

周知例1には、「一対の熱盤の双方に深い隙間を幾條も設け第2図に示すように対向する双方の突出部(2)の平らな面で筒状フイルムを挟み熱シールするのであるから、筒状フイルム(7)の内面に附着した液分は突出部(2)によって上方と下方に押し出され、熱押圧されない各溝隙間部(3)の個所の筒状フイルム部分、即ち横長状に並行した熱シールされない個所に液分が入り込む。」との記載がある(周知例1の図4参照)。そして、周知例1には、低温の液体を充填する場合に熱接着面が極度に冷やされて接着に時間がかかるという問題を解決する旨が記載されている。

また、周知例2には、「本案においては圧着体の対向する挟着面に非圧着部分を設け・・・熔着される部分に付着した食品等の内容物を非熔着部分に完全に排除して加熱シールし得る」との記載がある(周知例2の図3、4参照)。そして、周知例2には、内容物が付着してシール効果が阻害されて熔着が剥がれやすくなるという問題を解決する旨が記載されている。

このような周知例1、2の記載によれば、周知技術の技術内容は、シール装置の挟着部に深い隙間や非圧着部分を設けるとその部分は熱シールされない個所となり、非熔着部分とするものであり、したがって、シール装置の挟着部に設けた合成樹脂が流れ込む溝についても十分深く設けることで非溶着の熱シールされない部分とすることは、周知の技術であると認められる。




4.審決の内容
審決は、「本件審判の請求は、成り立たない。」と結論した。審決が認定した本願発明と引用発明との一致点及び相違点、並びに相違点に係る判断は、以下の通りである。
(1)
一致点

合成樹脂層を含む積層体からなる包材をチューブ状とし、該チューブ状の包材を、加熱機構を有する開閉自在な一対の加圧部材を用いて、液面下で横断状にヒートシールするシール装置において、加圧部材の少なくとも一方の作用面に、シール帯域の容器内面側に合成樹脂溜まりを形成し得る溝が設けられていることを特徴とするヒートシール装置。
(2)
相違点

本願発明は、合成樹脂溜まりを形成し得る溝が、シール帯域の外側に隣接して設けられているのに対し、引用発明ではシール帯域の端部に設けられている点。
(3)
相違点に係る判断

引用発明においては、溶融された合成樹脂層がシール帯域の範囲を超えて流れ出ようとするが、シール帯域の端部に溝を設けているため、溝の存在によって滞留部が形成されて合成樹脂の流れは阻止され、シール帯域から流れ出ない。しかし、この場合も本願発明と同様に、シール帯域の溶融された合成樹脂層は表面に付着していた夾雑物と共に溝に向かって押し流され、シール帯域の端部に合成樹脂溜まりが形成され、その結果、シール帯域のうちの合成樹脂溜まりを除いた大半の部分には夾雑物のない優れたシール性を有する薄い合成樹脂層が形成されるものと認められる。また、溝に流入した合成樹脂は均一な幅の合成樹脂溜まりを形成し、シールエッジが直線的でシール帯域外に向かって凹凸がないものとなるため、亀裂が生じることはないものと認める。したがって、前記相違点に係わる構成によって格別な効果上の差異が生じるものとは認められない。

引用発明のシール帯域の端部の溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部は夾雑物を含むため密封性にはそれほど寄与しないものと認められ、例えば実願昭54-1227号(実開昭55-104613号)マイクロフィルムの第4~6頁または実願昭52-160306号(実開昭54-88073号)マイクロフィルムの第3~4頁にも記載されたように、合成樹脂の流れ込む溝を十分深く設けることで、溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部を非溶着の熱シールされない部分とすることは周知の事項であるので、引用発明において密封性にはそれほど寄与しない合成樹脂溜まり部を、シール帯域の外側に隣接し、シール帯域としては機能しない部分として配置することも当業者が容易になし得たものと認める。また、これによって、シール帯域では夾雑物のない優れたシール性を有する薄い合成樹脂層が形成され、シールエッジが直線的でシール帯域外に向かって凹凸がないものとなることは当業者が容易に想到し得たものと認められる。



5.判決の内容
裁判所は、審決の相違点に係る容易想到性の判断には、誤りがあると判断した。その理由は、以下の通りである。尚、原告は、審決の相違点に係る容易想到性判断の誤りの他に、一致点の認定の誤り・相違点の看過についても争っているが、この点について、裁判所は、原告の主張が失当であると判断している。
本願発明と引用発明の相違点は、「本願発明は、合成樹脂溜まりを形成し得る溝が,シール帯域の外側に隣接して設けられているのに対し、引用発明ではシール帯域の端部に設けられている」点にある。本願発明と引用発明との相違は、合成樹脂溜まりを形成する「溝」の設置場所のみであって、その構成における相違点は、一見すると、極めて僅かであるとの印象を与える。
しかし、上記のとおり、「溝」の設置場所の相違点によって、本願発明においては、シール帯域から流出した合成樹脂で容器内側に波打った溶融樹脂ビードが形成されないようにする解決手段を提供するのに対して、引用発明においては、シール帯域からの合成樹脂の流れ出しを規制してシール帯域の樹脂量を確保する解決手段を提供するものであるという点で、解決課題及び解決手段において、大きな相違があるというべきである。
そこで、引用発明を出発点として、周知例を適用することによって、本願発明が容易に想到することができたか否かを検討する。引用発明は、シール帯域内に合成樹脂溜まり部を設けて、熱融着に寄与するポリエチレン樹脂の量を確保することにより、「接合強度を維持」するようにしたものであるから、単に、「溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部を非溶着の熱シールされない部分とする」ことを開示する周知例を指摘することによって、その周知の技術を適用して、引用発明とは異なる解決課題と解決手段を示した本願発明の構成に至ることが容易であるということはできない。引用発明は、接合強度維持を目的とした技術であるのに対し、周知技術は、接合強度維持に寄与することとは関連しない技術であるから、本願発明と互いに課題の異なる引用発明に周知技術を適用することによって「本願発明の構成に達することが容易であった」という立証命題を論理的に証明できたと判断することはできない。



6.執筆者のコメント
本判決では、引用発明への周知技術の組み合わせに関して、周知技術が、「溝を設けた部分に形成される合成樹脂溜まり部を非溶着の熱シールされない部分とする」ものであり、引用発明の解決課題である接合強度維持への寄与には関連しない旨の指摘をしている。したがって、本判決は、引用発明に周知技術を組み合わせるにあたり、引用発明と周知技術との間に、課題の関連性が必要であることを示唆しているように思われる。


(執筆者 山根 政美 )


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