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平成21年3月12日判決 知的財産高等裁判所 平成20年(行ケ)第10205号
- 審決取消請求事件 -

事件名
:強化導電性ポリマー事件
キーワード
:数値範囲と発明の効果との関係、阻害要因
関連条文
:特許法29条第2項
主文
:特許庁の審決を取り消す。


1.事件の概要
平成6年(1993年)3月30日国際出願(PCT/US94/03514)
平成7年9月29日翻訳文提出(特願平6-522357号)
発明の名称:強化導電性ポリマー
平成16年4月12日:一次補正
平成16年12月15日:二次補正
発明の名称:ポリマー組成物およびその製造方法
平成17年1月31日:拒絶査定
平成17年5月9日:拒絶査定不服審判請求(不服2005-8590)
平成19年6月5日:三次補正
平成20年1月21日:拒絶審決


2.争点及び判事事項
(1)
本発明の内容
【請求項1】ポリマー組成物の製造方法であって,
(a)
炭素フィブリル0.25~50重量%をポリマー材料と配合し,ここでこのフィブリルの少なくとも一部分は凝集体の形態であり;
(b)
この配合物を混合して,上記ポリマー材料中に上記フィブリルを分布させ;次いで
(c)
この配合物に剪断力を適用して,上記凝集体の実質的全部が,面積ベースで測定して,35μmよりも小さい径を有するまで,この凝集体を分解させる;
工程からなる製造方法。」
炭素フィブリルの凝集体が面積ベースで測定して35μmよりも小さい径を有する場合に,十分な導電性及び許容されるノッチ付き衝撃強さ(充填剤を含有しない場合の75%より大きいノッチ付き衝撃強さ)を得ることができる。
(2)
引用発明の内容

引用文献1(特開平2-276839号公報)
(特許請求の範囲)
「熱可塑性エラストマーの少なくとも1種100重量部、ゴム状重合物0~200重量部及び…極細炭素フィブリルを上記熱可塑性エラストマーとゴム状重合物の合計で100重量部あたり1~50重量部配合して得られる、所望により架橋された熱可塑性エラストマー組成物」
「…炭素フィブリルは凝集体構造をとりやすく,そのまま用いると分散性が悪く,成形物の外観などを損うこともあるので,機械的な破砕,例えば振動ミルやボールミルを用いたり,水や溶媒の存在下で超音波照射をしたり,これらの併用などにより,凝集構造を解いてから使用することが好ましい」(3頁右上欄8行~14行)
引用文献2(特開平3-74465号公報)
(特許請求の範囲)
「フィブリル…が互いにからみ合った凝集体で,その最長径が0.25mm以下で径が0.10~0.25mmの凝集体を50重量%以上含有する炭素フィブリル0.1~50重量部…を含有する樹脂組成物」
「極細炭素フィブリルの凝集体において,その径が0.25mmを超えるものが多量存在すると,樹脂組成物を製造するための混練工程において,樹脂中の極細炭素フィブリルが分散不良となり,樹脂への導電性付加効果が十分でなく,機械的強度及び加工性が低下し,また成形品表面外観を著しく損ねることになる。極細炭素フィブリルにおいて,径が0.1~0.25mmの範囲内の凝集体の含有率が50%を下回る場合にも,導電性付与効果が十分でなく,また得られる樹脂組成物の機械的強度が低下する」(4頁左上欄16行~4頁右上欄9行)
引用文献3(国際公開第91/01621号、特表5-503723号)
「本発明は,一種類以上の充填剤及びマトリックス材料を攪拌ボールミルに導入し,それら充填剤及びマトリックス材料(炭素フィブリルが例示されている)を,充填剤によって形成された凝集物の粒径を予め定められた値よりも小さな値に減少させるのに充分な反応時間を含めた反応条件下で剪断力と衝撃力との併合力に掛け,マトリックス材料全体に亘って充填剤を分散させる諸工程を含む複合体製造のための配合方法を発明として特徴づけるものである。好ましい具体例として,凝集物粒径の予め定められた値は充填剤の粒径の1000倍以下,一層好ましくは100倍以下,更に好ましくは10倍以下である。充填剤の特性軸の一つ以上(その粒径の尺度)の大きさが1μmより小さいのが好ましく,0.1μmより小さいのが一層好ましい。」(8頁右上8行~20行)
(3)
審決の内容
本願発明は,引用発明1~3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから特許法29条2項により特許を受けることができない。
<一致点>(主引例:引用文献2)
いずれも,
「ポリマー組成物の製造方法であって,
(a)
炭素フィブリル0.25~50重量%をポリマー材料と配合し,
ここでこのフィブリルの少なくとも一部分は凝集体の形態であり;
(b)
この配合物を混合して,上記ポリマー材料中に上記フィブリルを分布させる;
工程からなる製造方法」である点。
<相違点>
(c)
この配合物に剪断力を適用して,上記凝集体の実質的全部が,面積ベースで測定して,35μmよりも小さい径を有するまで,この凝集体を分解させる」点

争点概要<PDF>



3.執筆者のコメント
3.2.引用文献1および3にはいずれも、炭素フィブリルの樹脂中の分散性を改善するという本件発明とは異なる理由により炭素フィブリルの凝集体の径を小さくする動機付けは記載されている。審査基準によれば、「引用発明が、請求項に係る発明と共通する課題を意識したものといえない場合は、その課題が自明な課題であるか、容易に着想しうる課題であるかどうかについて、さらに技術水準に基づく検討を要する。」、「別の課題を有する引用発明に基づいた場合であっても、別の思考過程により、当業者が請求項に係る発明の発明特定事項に至ることが容易であったことが論理づけられたときは、課題の相違にかかわらず、請求項に係る発明の進歩性を否定することができる。」(第2章、2.進歩性、2.5論理づけの具体例、(2)動機づけとなり得るもの、[2]課題の共通性)とされており、審決もこのような論理付けにより、本願発明の進歩性を否定したものと思われる。
しかし、裁判所は、引用文献には、本願発明を構成する「面積ベースで測定して,35μmよりも小さい径」という具体的数値と得られるポリマーの「導電性及び許容されるノッチ付き衝撃強さ」という効果の関係についてまでは記載されていないことから進歩性を認めた。
導電性ポリマーの導電性や機械的強度は自明な課題であり、当業者が適宜検討するポリマーの特性であると思われるが、当該特性を改善するために炭素フィブリルの凝集体の径を検討する動機付けは引用文献にはないため、裁判所の判断は妥当と思われる。
本件は、引用文献がいずれも出願人自身の先願であり、同一の技術分野での特許ポートフォリオを築くため、改良発明を先願の公開後に出願する場合には、当該先願に対する特許性を検討する必要があり、引用文献に具体的に記載されていない構成と作用効果の関係により進歩性が認められた本件は、参考になる事例である。


(執筆者 山本 健二 )


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