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平成21年1月28日判決 知的財産高等裁判所 平成20年(行ケ)第10096号
- 拒絶審決取消請求事件 -

事件名
:回路用接続部材事件
キーワード
:容易想到性
関連条文
:特許法29条2項
主文
:拒絶審決取り消し


1.事件の概要
引例には、上位概念(フェノキシ樹脂:A)と実施例で具体的物質(ビスフェノールA型:a1)を用いた回路用接着剤が開示されていた。これに対して、異なる下位概念(ビスフェノールF型:a2)を用いた回路用接着剤の進歩性を否定した拒絶審決が取り消された。


2.事件の経緯
(1)
対象の特許出願:特開平8-315884号
(2)
事件の経緯
出願日:平成7年5月16日
平成17年5月27日:拒絶査定
拒絶査定不服審判請求(不服2005-12671)
平成17年8月3日:補正(本件補正)
平成20年1月29日:補正却下及び拒絶審決


3.本件発明、争点及び判決の要旨
(1)
本願補正発明(下線部分:補正部分)
請求項1
「下記(1)~(3)の成分を必須とする接着剤組成物と、含有量が接着剤組成物100体積に対して0.1~10体積%である導電性粒子よりなる、形状がフィルム状である回路用接続部材。
(1)
ビスフェノールF型フェノキシ樹脂
(2)
ビスフェノール型エポキシ樹脂
(3)
潜在性硬化剤」


4.審決の内容
引用発明(甲4:特開平6-256746号公報)に基づいて、容易に発明できる(特29条2項違反)。


5.引用発明の開示事項

請求項1:アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、潜在性硬化剤を含む接着剤組成物
【0008】:ビスフェノール型エポキシ樹脂
【0013】:導電粒子は0~30体積%の広範囲で用途により使い分ける
【0014】:本発明の接着剤組成物はフィルム状接着剤として特に有用


6.審決取消事由
(1)
取消事由1(引用発明の認定の誤り及び相違点の看過)
判断がないため省略
(2)
取消事由2(相違点に係る容易想到性判断の誤り)

[1]

引用例の実施例として「PKHA(フェノキシ樹脂、分子量25000、ヒドロキシル基6%、ユニオンカーバイド株式会社製商品名)」が記載されていることを根拠として、引用発明のフェノキシ樹脂として、ビスフェノール型フェノキシ樹脂を用いることは当業者が容易に推考し得るとの判断は誤り
理由:
  ・PKHAはビスフェノールA型フェノキシ樹脂
[2] 相溶性をより一層良くするように、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いてみようとすることは、当業者が容易に推考しえたことであるとの判断は誤り
理由:「相溶性」は、組成物の検討項目の1つにすぎない
[3] 接着性をより一層よくなるように、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いてみようとすることは、当業者が容易に推考しえたことであるとの判断は誤り
理由:引例に、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることにより接着性が向上するとの記載はない。
ビスフェノールF型フェノキシ樹脂は、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂より耐熱性低い⇒ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を使用する動機付けがない
[4] 作用効果(補修性)が格別優れたものでないとの判断は誤り
理由:本願と引例とは構成が相違するので、補修性の効果を根拠に引例から本願発明を容易に想到したということはできない。
本願と引例とは補修性の測定条件、測定方法が異なっている。


4.裁判所の判断
取消事由2(容易想到性の判断の誤り)のみについて判断
(1)
本願明細書及び補正書の記載
【0001】―【0003】
【0005】
【0012】―【0013】
【0023】
【0025】―【0028】
【0030】-【0031】
(2)
引例(甲4)の記載
【0007】
【0017】-【0018】
【0020】
【0022】
【0023】―【0026】
(3)
判断

[1]

前提
「出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は、当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから、容易想到性の有無を客観的に判断するためには、当該発明の特徴点を的確に把握すること、すなわち、当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。そして、容易想到性の判断の過程においては、事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが、そのためには、当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって、その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することは必要となる。さらに、当該発明が容易想到であると判断するためには、先行技術の内容の検討に当たっても、当該発明の特長点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく、当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である。
[2] 審決判断の当否についての検討
(i)
本願明細書の実施玲と比較例1との対比部分の記載から
「本願補正発明においてビスフェノールF型フェノキシ樹脂を必須部分として用いるとの構成を採用したのは、ビスフェノールAからフェノキシ樹脂を用いることに比べて、その接続信頼性及び補修性を向上させる課題を解決するためのもの」
(ii)
引例【0007】の記載から、
「格別、相溶性や接着性に問題があるとの記載はない上、回路用接続部材用の樹脂組成物を調製する際に検討すべき考慮要素としては耐熱性、絶縁性、剛性、粘度等々の他の要素も存在するのであるから、相溶性及び接着性の更なる向上のみに着目してビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることの示唆等がされていると認めることはできない。また、一般的に、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂が本願出願時において既に知られた樹脂であるとしても、それが回路用接続部材の接続信頼性や補修性を向上させることまでは知られていたものと認めるに足りる証拠もない。
(iii)
ビスフェノールF型フェノキシ樹脂はA型フェノキシ樹脂に比べて耐熱性が低いという問題があった。
⇒格別問題点が指摘されていないビスフェノールA型フェノキシ樹脂に代えて、耐熱性が劣るビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることが当業者に容易であったとはいえない。
(iv)
審決の問題点(引用発明にビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることが容易である根拠について)
審決が引用する「PKHA」は、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂であるから、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることに対する示唆にはなり得ない。
[3] 結論
引例に記載された発明のフェノキシ樹脂についてビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることが当業者にとって容易想到であるということはできない。


(執筆者 神谷惠理子 )


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