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平成21年4月27日判決 知的財産高等裁判所 平成20年(行ケ)第10121号
- 審決取消請求事件 -

事件名
:切換弁及びその結合体
キーワード
:主引例および本願発明の技術的特徴に対する副引例の技術的特徴の相違
組み合わせ容易(適用可能)の根拠不明
関連条文
:特許法第29条第2項
主文
:特許庁が不服2007-19302号事件について平成20年1月21日にした審決を取り消す。


1.事件の概要
原告は、名称を「切替弁及びその結合体」(後に「切換弁及びその結合体」と補正)とする発明について特許出願をし、拒絶査定を受けたので、これを不服として審判請求をしたが、特許庁が請求不成立の審決をしたことから、原告がその取消しを求めた事案である。裁判所は、審決を取り消した。


2.本願発明
【請求項1】
蛇口と連結可能な原水流入口と,原水をそのままストレート状またはシャワー状に吐水する各原水吐出口と,浄水器に接続可能な原水送水口とを備えた切換弁本体並びに取っ手部分を備えた切換レバーとを有する切換弁であって,該切換弁本体の内部に,該切換レバーと連動して回動する回転軸の回動操作により各原水吐出口または原水送水口への水路の切り換えを行う水路切換機構及び該切換レバーによる回動伝達部にラチェット機構とを有するとともに,該切換レバーが,その取っ手部分の上面側または下面側の少なくとも一部分に,前記回転軸に対して常に平行となる略平面部を有する切換弁。


3.争点
引用発明2によって本願発明と引用発明との相違点イに係る構成を容易に想到し得たか否か?[取消事由2]
相違点イ:本願発明が「切換レバーによる回動伝達部にラチェット機構を有する」としているのに対して引用発明ではその様な構成を有していない点


4.判決要旨
当裁判所は,「引用発明と引用文献2に記載された発明は,蛇口に連結する切換弁において,水路切換機構を回動させる手段である点で共通するものであるから,引用発明において,回動伝達部にラチェット機構を用いることで相違点イに係る本願発明の構成とすることは,当業者に容易である。」(審決書5頁13行~16行)とした審決の判断には,十分かつ合理的な説明を欠き,誤りがあると解する。その理由は,以下のとおりである。
(中略)
(3)
容易想到性についての判断
引用発明と引用発明2とを対比すると,引用発明では,「該レバーの回動により回動する軸体の回動操作により各分岐流路への水路の切り換えを行う構成を有する切換弁」とされているとおり,その操作力の方向は,レバーを回すこと,すなわち回転(回動)であるのに対し,引用発明2では,「押し部11を押す」とされているとおり,操作力の方向が押し部を押すこと,すなわち直動であるとの点で,操作力の方向において相違する。
そして,本願発明は,操作力の方向については,「該切換レバーと連動して回動する回転軸の回動操作により各原水吐出口または原水送水口への水路の切り換えを行う」とされているとおり,切換レバーを回動させるものであって,引用発明と共通する。さらに,本願発明では「取っ手部分を備えた切換レバー」と「該切換レバーによる回動伝達部にラチェット機構とを有する」構成の両者を採用することにより,「取っ手部分」を小さい力で押圧しても,ラチェット機構に大きなトルクを作用させることが可能になる等の効果を奏することが説明されている(もっとも,当裁判所は,そのような効果が格別のものであると解するものではない。)。
そうすると,引用発明は,レバーと回転軸との関係においては,「回動-回動変換」方式を採用している点において,本願発明と共通するのに対して,引用発明2は,押し部と回転軸中心との関係において「直動-回動変換」方式を採用しており,押し部11を押す直動の操作力を回転板9の回動に変換するとの技術的特徴を備えている点において,引用発明及び本願発明と相違する。
引用発明2の技術的特徴及び相違点を考慮するならば,引用発明と引用発明2とを組み合わせて本願発明の構成に到達すること,すなわち,引用発明2のラチェット歯94を,引用発明の回動伝達部に適用することにより,本願発明の構成である「該切換レバーによる回動伝達部にラチェット機構を有する」構成に至ることが容易であるとはいえない。
(4)
被告の主張に対して
この点について,被告は,以下のとおり主張する。すなわち,①被回動部材と回動部材との間にラチェット機構を設けたもの等は,本件出願前に周知となった技術事項である,②審決では,上記の技術事項がいずれも周知であることは明記していないが,実質的にこれらの点を踏まえて判断したものであり,引用文献2に記載されたラチェット機構の構造(直動-回動変換部)をそのまま引用発明に採用するのではなく,これを引用発明の回転操作されるレバーの回動伝達部に適用可能な構造として採用することを前提として判断をしたものである,③引用発明2の水流切り換え機構に「直動-回動変換部」を備えたラチェット機構を見た当業者が,引用発明の回動操作されるレバーの回動伝達部に,「回動-回動変換部」を備えたラチェット機構を採用することは,格別の困難を伴うことなく,当業者が容易に想到し得ることであるなどと主張する。そして,本件訴訟において,周知文献として,乙1周知文献ないし乙3周知文献を提出する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり,採用できない。
まず,そもそも,審決は,本願発明に係る容易想到性の判断に関しては,単に,「引用発明と引用文献2に記載された発明は,蛇口に連絡する切換弁において,水路切換機構を回動させる手段である点で共通するものであるから,引用発明において,回動伝達部にラチェット機構を用いることで相違点イに係る本願発明の構成とすることは,当業者に容易である」との説示をするのみであって,引用発明2に着目した実質的な検討及び判断を示していない。
特許法157条2項4号が,審決に理由を付することを規定した趣旨は,審決が慎重かつ公正妥当にされることを担保し,不服申立てをするか否かの判断に資するとの目的に由来するものである。特に,審決が,当該発明の構成に至ることが容易に想到し得たとの判断をする場合においては,そのような判断をするに至った論理過程の中に,無意識的に,事後分析的な判断,証拠や論理に基づかない判断等が入り込む危険性が有り得るため,そのような判断を回避することが必要となる(知財高等裁判所平成20年(行ケ)第10261号審決取消請求事件・平成21年3月25日判決参照)。
そのような点を総合考慮すると,被告が,本件訴訟において,引用発明と引用発明2を組み合わせて,本願発明の相違点イに係る構成に達したとの理由を示して本願発明が容易想到であるとの結論を導いた審決の判断が正当である理由について,主張した前記の内容は,審決のした結論に至る論理を差し替えるものであるか,又は,新たに論理構成を追加するものと評価できるから,採用することはできない。
以上のとおりであるから,レバーを回動させる操作力を,被回動部材に伝達する回動伝達部に,ラチェット歯を有するラチェット機構として備える構成が,本願出願前に公知又は周知であるか否か,引用発明に,ラチェットに係る公知又は周知の技術を適用することにより本願発明の構成に至ることが容易であるか否かの争点については,審判手続において,出願人である原告に対して,本願発明の容易想到性の有無に関する意見を述べる機会等を付与した上で,審決において,改めて判断するのが相当である。


5.執筆者のコメント
本判決では、まず、引用発明2と引用発明(及び本願発明)との技術的特徴の違いに基づいて、引用発明と引用発明2との組み合わせは容易ではないと判示し、この点に関する被告の周知技術を、「審決のした結論に至る論理を差し替えるものであるか,又は,新たに論理構成を追加するもの」であるとして、採用しなかった。すなわち、周知技術を根拠に進歩性無しするのであれば、その判断について「十分かつ合理的な説明」が必要であると判示した。


本件と関連する裁判例として、平成20年(行ケ)第10120号(請求棄却)がある。本件と併せて検討すべきである。










(執筆者 高橋 智洋 )


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