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平成21年3月25日判決 知的財産高等裁判所 平成21年(行ケ)第10153号
- 審決取消請求事件 -

事件名
:任意の側縁箇所から横裂き容易なエァセルラー緩衝シート
キーワード
:証拠に基づかない周知技術の認定
引用発明と本件発明との解決手段の相違
関連条文
:特許法第29条第2項
主文
:特許庁が無効2007-800074号事件について平成20年3月18日にした審決中,特許第3891876号の請求項3に係る発明についての特許を無効とした部分を取り消す。


1.事件の概要
被告が原告を特許権者とする本件特許について無効審判を請求したところ、特許庁は、請求項1乃至3についての各特許を無効とする旨の審決をした。原告は、審決の取消しを求めて、本訴を提起した。裁判所は、本件審決中、請求項3に係る発明についての特許を無効とした部分について、取り消すべきものと判断した。なお、請求項1,2に係る各発明についての特許を無効にした部分の取消しを求めた部分について、原告は訴えを取り下げた。


2.本願発明
【請求項3】
ベース側のフィルム1の片面に多数のエァセルラー21・21…を形成した状態のキャップフィルム2を熱融着して成るシート部材であって、前記ベース側のフィルム1に、ブロー比が4以上でインフレーション成形された高密度ポリエチレン樹脂フィルムを積層することを特徴とする任意の側縁箇所から横裂き容易なエァセルラー緩衝シート。


3.判決要旨
当裁判所は,原告主張の取消事由2には理由があるから,本件審決中,特許第3891876号の請求項3に係る発明についての特許を無効とした部分は,これを取り消すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

本件審決の事実認定の当否についての検討
(前略)
(エ)
上記検討したところによれば,本件審決の事実認定(エ)のうち,「エァセルラー緩衝シートのような積層構造体においても延伸された方向へ引き裂かれる特性があることがよく知られていた」との点は,証拠に基づかないものであって,誤りというべきである。
そして,本件審決は,本件審決の事実認定(ア)ないし(エ)に係る知見が,いずれも本件特許の出願当時,周知であったことを前提として,当業者が本件発明3におけるインフレーション成形された樹脂フィルムを積層するとの構成に容易に想到することができたと判断したのであるから,本件審決の上記事実認定の誤りは,同判断に影響するものというべきである。
容易想到性の判断に対する影響の検討
事案にかんがみ,本件審決の事実認定の誤りが,本件発明3におけるインフレーション成形された樹脂フィルムを積層するとの構成の容易想到性の判断に影響することについて,当裁判所の見解を詳述する。
(ア)
容易想到性の判断について
特許法29条2項が定める要件の充足性,すなわち,特許発明について,当業者(その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者)が同条1項各号に該当する発明(以下「引用発明」という。)に基づいて容易に発明をすることができたか否かは,通常,引用発明のうち,特許発明の構成とその骨格において共通するもの(以下「主たる引用発明」という。)から出発して,主たる引用発明以外の引用発明(以下「従たる引用発明」という。)及び技術常識ないし周知技術(その発明の属する技術分野における通常の知識)を考慮することにより,特許発明の主たる引用発明に対する特徴点(主たる引用発明と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として,判断されるべきものである。ところで,特許発明の特徴点(主たる引用発明と相違する構成)は,特許発明が目的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,特許発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,特許発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。そして,容易想到性の判断の過程においては,事後分析的な思考方法,主観的な思考方法及び論理的でない思考方法が排除されなければならないが,そのためには,特許発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。さらに,特許発明が容易想到であると判断するためには,主たる引用発明,従たる引用発明,技術常識ないし周知技術の各内容の検討に当たっても,特許発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,特許発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であると解するのが相当である(知的財産高等裁判所平成20年(行ケ)第10096号事件平成21年1月28日判決参照)。
(中略)
本件明細書の上記各記載によれば,本件発明3について次のとおりのものと理解することができる。
すなわち,[1]従来のエァセルラー緩衝シート(ベースとなるフィルムと,このベースのフィルムとの間に多数のエァセルラーを形成して互いに熱融着されたキャップフィルムとを基本構造として作製されているもの)では,幅方向へ引き裂こうとすると,左右いずれかの長手方向に曲がって切れる傾向が強いため,カッターや鋏などの切断道具を使用しなければ必要な寸法に切り裂くことができず,不便であったことなどから,ベースを形成しているフィルムに切裂きラインを一定の間隔ごとに設けるという手段が採用されたが,必ず引裂きラインに沿って引き裂くことが必要になるわけではないから,気密性や水密性,機械的強度との関係で,切裂きラインの裂孔が障害をもたらすという問題があった。[2]本件発明3は,従来のエァセルラー緩衝シートの上記問題点を解決しようとするものであって,「エァセルラー緩衝シートのような積層構造体においても延伸された方向へ引き裂かれる特性があること」に着目し,インフレーション成形された樹脂フィルムを積層することを含む,請求項3の規定する構成を備えることにより,任意の側縁箇所から手裂き動作によって簡単に,ほぼまっすぐに横裂きすることができるエァセルラー緩衝シートを提供することを目的とする発明である。
(中略)
刊行物1の上記各記載によれば,刊行物1発明の技術的意義は,カッターナイフなどを使用することなしに,所定間隔で設けられたミシン目の存在部分でシートを切断して所定の寸法(適切な寸法)のシートを取り出すことにあるといえる。
そうすると,刊行物1発明は,従来のエァセルラー緩衝シート(プラスチック気泡シート)は,カッターなどの切断道具を使用しなければ必要な寸法に切り裂くことができず,不便であったという課題を解決しようとするものであるという限りで,本件発明3と共通するところがある。
しかし,刊行物1発明は,解決手段として,所定間隔でシートを切断することを前提として,気泡シートを横断する切断用ミシン目を設けた構成を採用したものであり,刊行物1の記載を精査しても,「エァセルラー緩衝シートのような積層構造体においても延伸された方向へ引き裂かれる特性があること」に着目して,手裂き動作だけで簡単に真っ直ぐに任意の側縁箇所から横裂きできるようにするという発想についての示唆等があるとは認められない。また,前記イ(ウ)のとおり,刊行物1に,「エァセルラー緩衝シートのような積層構造体においても延伸された方向へ引き裂かれる特性があること」を前提とした発明の構成を記載したと推測できるような箇所もない。


4.執筆者のコメント
周知技術の認定は、証拠に基づかなければならない。
後知恵禁止の一般論を判示した「平成20年(行ケ)第10096号」の判決が引用されている。進歩性に関する主張を行なう際は、当面、この判示事項に留意する必要があると思われる。


参考
【本件特許の図4】
【図4】


【刊行物1の図1】
【図1】


(執筆者 高橋 智洋 )


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