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平成20年9月24日判決 知的財産高等裁判所 平成20年(行ケ)第10013号
- 審決取消請求事件 -

事件名
:引戸用空錠
キーワード
:本願発明の認定/一致点の認定
関連条文
:特許法第29条第2項
主文
:原告の請求を棄却する。


1.事件の概要
原告は、名称を「引戸用空錠」とする発明について特許出願をし、拒絶査定を受けたので、これを不服として審判請求をしたが、特許庁が請求不成立の審決をしたことから、原告がその取消しを求めた事案である。裁判所は、原告の請求を棄却した。


2.争点
(1)争点1: 本願発明を分割して認定したことは誤りか否か?[取消事由1]
(2)争点2:
特許請求の範囲において規定されていない事項が一致点の認定に影響を与えるか?[取消事由2]


3.判決要旨

(1) 争点1について
原告は,本願発明には「本件一体構成は一体的かつ有機的に結合されており,これを分割することはできない」という技術的思想が内在しており,これを分割す ると本願発明の本質が変わり,目的を達成することができなくなるから,本願発明の進歩性を判断するに当たっては,本件一体構成を一体的かつ有機的に結合し た発明が開示された引用例を用いるべきであり,これを用いずに進歩性を肯定した審決は違法である旨主張する。
しかし,特許法29条2項は「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすること ができたときは,その発明については,同項の規定にかかわらず,特許を受けることができない」として,ある発明が,一定の構成を組み合わせて特定の 技術的意義を獲得するに至る場合であると否とにかかわらず,既存の発明(特許法29条1項各号に定める発明)からみて容易想到であれば進歩性に欠けること になる旨を規定するのであって,その進歩性の判断において,進歩性が問題とされる発明の構成と既存発明の構成とが一致することは必須の前提とされるもので はない。
そうすると,前記2に認定したとおり,本願発明は本件一体構成が一体となっている点に特徴を有し,これにより前記認定の効果を奏するものであるとしても,本願発明の進歩性を判断するに当たっては,必ずしも常に本件一体構成を一体的かつ有機的に結合した発明が開示された引用例を用いるべきものでもない。
また,本願発明における構成(B)はラッチの形状・機構等の構成を規定し,構成(D)はラッチに一体形成された突部の形状・機構等の構成を規定し,構成 (G)はレバーハンドルを固設するためにラッチに設けられる構成を規定するとともに本願発明の機能上の特徴を述べたものであるが,これらは,いずれも一体 形成されたラッチに関するものである点で共通するものの,技術的思想としてはいずれも別個独立のものとして観念することが可能なものである以上,そのようにして切り離された一部の構成に相当する引用例(既存発明)を選択し,これとの組合せの関係で進歩性を論じることができないということはない。
もとより,ある発明の進歩性を検討するに当たり,当該発明における一部の構成のみが開示された引用例を用いた場合には,当該引用例に係る既存発明の構成と 残余の構成との組合せが容易想到であるか問題となるが,このような意味における審決の容易想到性の判断に誤りがないことは,後記イのとおりである。
したがって,原告の上記主張は失当といわざるを得ず,取消事由1に係る原告の主張は採用することができない。
(2)
争点2について
これに対し原告は,引用文献1における「錠ケース1」と本願発明の「錠箱3」を技術的思想として比較すると「錠ケース1」と「錠箱3」の構成及び大きさは 均等ではなく,置換可能性もないと主張する。しかし,上記(イ)に述べた「錠箱」ないし「錠ケース」の意義ないし機能に照らせば,両者は技術的思想として 同じものであると評価でき,また,原告が主張する大きさの点や扉への固定方法等については,本願の特許請求の範囲に規定されたものではなく,当業者 (その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)において適宜設計すべき事項にすぎないと認められるから,その差異が上記認定を左右するもの ではない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。



4.執筆者のコメント

(1)
争点1について、判決は、複数の構成が一体となっている点にある発明が特徴を有するとしても、進歩性 を判断するに当たって、必ずしも常に本件一体構成を一体的かつ有機的に結合した発明が開示された引用例を用いるべきものでもなく、本件においては、分割さ れた一部の構成に相当する引用例(既存発明)を選択し、これとの組合せの関係で進歩性を論じることができないということはないと判示した。この判示事項に 従えば、進歩性の議論において、『本願発明の構成は引用発明には示されていない』旨の主張や、『複数の引用発明の組合わせの困難性』の主張が重要となる。
なお、本件判決では、『原告の主張をみると、・・・・組み合わせることは困難であるから、容易想到性がない旨(すなわち、本願発明における相違点Cの判断 の誤り)をいうものと解する余地もあるので、念のため、この点について検討を加える。』として、引用文献1,2の組合わせの困難性を検討した上で、本願発 明の進歩性を否定している。
(2)
争点2については、最高裁第2小法廷平成3年3月8日判決(リパーゼ判決)の判示事項に沿った判断であると考える。


(執筆者 高橋 智洋 )


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