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平成19年10月10日判決 知的財産高等裁判所 平成18年(行ケ)10232号
- 審決取消請求事件 -

事件名
:低融点光学ガラス事件
キーワード
:組成物発明、実施困難
関連条文
:特許法36条4項1号
主文
:原告の請求を棄却する。


1.事件の概要
組成の割合と特性とで発明を特定した組成物発明において、組成割合内であっても特性が得られない場合があることが実施可能要件違反の記載不備でないと判断された。


2.本件発明、争点及び判決の要旨
(1)
本件発明
低融点光学ガラスの発明で、特許請求の範囲は、材料となる各種金属酸化物の割合を特定し、更に、目的とする特性(ガラスの屈伏点が570℃以下、液相温度が930℃以下)を特定して記載されていた。
(2)
争点
組成割合内であっても特性が得られない場合があることが実施可能要件違反の記載不備となるか。
(3)
判決要旨
原告提示の甲15資料(特許請求の範囲の割合の通りに各種金属酸化物を配合しても所望の特性が得られない場合を示した実験成績証明書)は,その組成が本件 発明1の組成の臨界値に近い数値に設定されていることからすれば,いまだ例外的な事例であって,本件発明1の組成内で「屈伏点570℃以下」及び「液相温 度930℃以下」という特性要件としたことの合理性を左右するに足りない。
そうすると,本件明細書には,本件発明1の組成要件及び特性要件が記載されているのであるから,この組成要件を満たすガラスを製造し,屈伏点と液相温度を 測定して特定要件を満たしているか否かを確認すればよいのであり,大半は特定要件を満たしたガラスとなるが、仮に特性要件を満たしていなかった場合には, 組成の割合を適宜調整するという作業をくり返せば容易に「屈伏点570℃以下」及び「液相温度930℃以下」のものを見いだすことが期待でき,このような 調整作業は,格別の工夫を要するものとはいえない。
したがって,「本件発明1に規定される光学ガラスの成分範囲内であっても『ガラスの屈伏点が570℃以下であり,液相温度が930℃以下であり』との要件 を満たさない場合があったとしても,このことをして,明細書の発明の詳細な説明の記載が,本件発明1の光学ガラスを得るためには著しい試行錯誤を強いると までは言うことはできない。」とした審決の認定判断に誤りはない。


3.執筆者のコメント
組成物発明の特許請求の範囲に記載する組成物の割合は、所望の特性が得られる範囲を示すものであることが望ましい。しかしながら、本件のようにガラスの組 成と特性について当業者に共通した知見がある訳でなく、組成から特性を予測することが困難である場合は、特性が得られる組成の割合を正確に確定するために は、無数の実験を行うことが必要となり、それは非常に困難である。
そこで、相当数の実施例により特性が得られる組成の割合の中心部分を確認したうえで、特許請求の範囲は、実施例で確認した組成の割合より広範囲な割合及び 所望の特性をAND条件で記載することが行われている。この場合、本件の甲15資料のように、特許請求の範囲に記載した組成の割合内の境界付近で実施して も特性が得られないことがあったとしても、その部分は元々特許請求の範囲から排除されているから、実施可能要件違反にはならない。ただし、特許請求の範囲 に記載した組成の割合の中心部分で実施しても特性が得られない場合は実施可能要件違反の可能性が高くなるであろう。
構成から効果を予測することが困難な技術分野では、特許請求の範囲に発明の効果を併せて記載することが有効である。


(執筆者 高瀬  彌平 )


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