HOME > 関西会について > 研究活動 > 知財高裁判決要約 > 平成19年1月30日判決 知的財産高等裁判所 平成18年(行ケ)第10266号

平成19年1月30日判決 知的財産高等裁判所 平成18年(行ケ)第10266号
- 審決取消請求事件 -

事件名
:気相重合法事件
キーワード
:新規性,実質的同一,発明の詳細な説明の記載の参酌
関連条文
:特許法第29条1項3号
主文
:特許庁が不服2002-1660号事件についてした審決を取り消す。


1.事件の経緯
原告は,平成3年8月28日,名称を「気相重合方法」とする発明について,優先権(フランス)を主張して特許出願をし,平成13年7月16日に明細書を補 正したが,平成13年10月30日,拒絶査定を受けた。そこで,原告は,平成14年2月4日に不服審判請求(不服2002-1660号事件)をした。特許 庁は,平成18年1月31日,請求棄却審決を行った。


2.本願発明
本願発明のうち請求項1に係る発明は,次のとおりである。
「2~12の炭素原子を有するα-オレフィンを連続重合するに際し,気相重合反応器中にて,重合に供するα-オレフィンを含有する気相反応混合物と,元素 の周期表のIV,VまたはVI族に属する遷移金属の少なくとも1つの化合物からなる固体触媒および周期表のIIまたはIII族に属する金属の少なくとも1 つの有機金属化合物からなる助触媒よりなるチーグラー・ナッタ型の触媒系とを接触させることによりこれを行い,重合反応器に前記重合の間一定速度でα-オ レフィンを供給することを特徴とする連続重合方法。」


3.原告の主張および被告の反論
請求項1中の「重合反応器に前記重合の間一定速度でα-オレフィンを供給する」の”一定速度”の意義が争点となった。
原告(特許出願人)は,「引例1の”ガス反応混合物中の前記オレフィンのモル%が時間に関して一定”とは,時間に対して常に一定に保持されなくてはならな い量が,ガス反応混合物中のオレフィンのモル%であることを意味している。ガス反応混合物中に存在するオレフィンの量は不純物や状態変化等が原因で変化に 富んだ速度で消費され得るので,このガス反応混合物中のオレフィンのモル%を一定に保つためには,供給するオレフィンの速度を完全なる一定ではなく変動さ せる必要がある。したがって,上記引例1の文言は,オレフィン供給速度は一定ではないということを意味している。よって,引例1には「炭素数3以上のα- オレフィンを循環ライン中に一定速度で供給すること」は何ら開示されていないので,審決の認定判断には誤りがある」と主張した。
一方,被告(特許庁)は,上記主張に対して,以下のとおり反論した。
原告は,引用方法において,「ガス反応混合物中に存在するオレフィンの量は不純物や状態変化等が原因で変化に富んだ速度で消費され得る」と主張するが,こ のようなことは,引例1には何ら記載されておらず,引用方法において,具体的にどの程度のオレフィン消費速度の変動が生じ得るのかについても,引例1に全 く記載がないのはもとより,それを推測し得る客観的根拠もない。
また,原告は,「ガス反応混合物中の前記オレフィンのモル%が時間に関して一定」という引例1の記載をことさら強調して,「このガス反応混合物中のオレ フィンのモル%を一定に保つためには,供給するオレフィンの速度を完全なる一定ではなく変動させる必要がある。」と主張しているが,通常の操業状態におい て,供給原料混合物の成分組成を一定に保ちつつ混合物を一定速度で反応器に供給すれば,混合物中の特定成分もまた一定速度で反応器に供給されることになる のは自明であるから,「ガス反応混合物中のオレフィンのモル%を一定に保つ」との引例1の記載は,ガス反応混合物の成分組成を一定に保つことにより反応器 へのオレフィン等の供給速度を一定に維持するという,ごく普通のことを述べたものにすぎず,供給するオレフィンの速度を変動させてもオレフィンのモル%を 一定に保持すべきことまで,意味するものではない。


4.判示事項
本願発明における「α-オレフィン」の「連続重合」をより具体的にすると,
①流動床を用いる気相重合反応器に,α-オレフィンを含有する気相反応混合物を導入し(導入流),
②チーグラー・ナッタ型の触媒を導入し,
③重合体を反応器から連続的又は断続的に抜き取り,
④気相反応混合物を反応器から離間し(排出流),これをリサイクル導管及びコンプレッサを介して反応器にリサイクルする(循環流)
ことによる連続重合の態様を包含している。そして,この態様では,気相重合反応器の中でα-オレフィンが重合体に変換されることにより消費され,重合体が 製品として反応器から抜き取られることに伴い,排出流では,導入流よりもα-オレフィンが少なくなっているので,この排出流を循環流として気相重合反応器 に導入するに当たり,連続重合を行うために,その少なくなった量に見合う量のα-オレフィンを加えて(補充流),導入流とする。
本願発明の「重合反応器に前記重合の間一定速度でα-オレフィンを供給する」の意義について検討すると,文言上,少なくとも次の二つの供給方法の意味に解釈することが可能であって,特許請求の範囲の記載からは一義的に明確に理解できない。
供給方法A:「導入流からのα-オレフィンの供給速度が一定になるように供給する」の意味。重合反応器に供給されるα-オレフィンは,導入流によりもたらされるものであるからである。
供給方法B:「補充流からのα-オレフィンの供給速度が一定になるように供給する」の意味。「α-オレフィンを供給する」を,操作を意味するものとみれば,その操作は,補充流を介してα-オレフィンを重合反応器に供給する操作であるからである。
なお,供給方法Aと供給方法Bは,一致するとは限らない。なぜならば,気相重合反応器中でα-オレフィンが常に一定速度で消費されるとは限らないから,排 出流のα-オレフィンの速度が一定であるとは限らず,そうすると,補充流からのα-オレフィンの供給速度が一定である場合には,導入流からのα-オレフィ ンの供給速度は一定にならないからである。
そこで,本願明細書の「発明の詳細な説明」の記載を参酌すると,本願発明の「重合反応器に前記重合の間一定速度でα-オレフィンを供給する」は,上記供給方法Bを意味しており,一方,上記供給方法Aは従来技術として位置づけられていることがわかる。
引例1では,いずれの実施例においても,流動床反応器に,ガス反応混合物が,その組成と圧力を一定に保持して供給される。そうすると,引用方法における α-オレフィンの供給方法は,「導入流からのα-オレフィンの供給速度が一定になるように供給する」もの(前記供給方法A)であるから,本願発明と異な る。


5.所 感
特許請求の範囲の記載からは一義的に明確に理解できないとして,明細書の「発明の詳細な説明」の記載を参酌して,特許請求の範囲の文言の意義を明らかにした事例であり,請求項に多義的に受け取れるような文言がある場合の権利解釈に際して,参考となる。


(執筆者 永井  豊 )


« 戻る