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平成19年1月25日 知的財産高等裁判所  平成18年(行ケ)第10070号
- 審決取消請求事件 -

事件名
:番組サーチ装置事件
キーワード
:訂正審判請求 実質上特許請求の範囲の変更
関連条文
:平成6年法律第116号による改正前の特許法126条2項
主文
:1特許庁が訂正2005-39065号事件について平成18年1月6日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。


1.事件の概要

(1) 本件は,番組サーチ装置等に関する特許権(特許番号第3130501号。以下「本件特許権」という。)の特許権者である原告が訂正審判請求をしたところ,請求が成り立たないとの審決がされたため,原告が同審決の取消しを求めた事案である。
(2) より具体的には,本件特許権の設定登録後になされた異議申立手続において,原告は明細書の訂正を請求したところ,特許庁は同訂正を認めたうえで特許取消決定をしたため,原告は同決定に対する取消訴訟を提起し,その係属中に,明細書の特許請求の範囲を訂正する旨の審判請求をしたところ,特許庁は,同訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものであるから,平成6年法律第116号による改正前の特許法126条2項の規定に適合しないとして,請求不成立の審決をした。
(3) 訂正審判請求における訂正箇所は,以下の請求項のうち下線部分である(なお,以下では,訂正後の請求項11のみを示す。)。
【請求項
少なくともテレビ放送の内容とチャンネルと放映開始時刻とを含む情報が電子化されて予め記憶された記憶手段と,
上記記憶手段に記憶されている情報に基づき,番組がチャンネルと時間とに対応した位置に配置された番組表であって,その日の番組表の一部を出力する番組表出力手段と,上記番組表出力手段によって出力された番組表上を上記チャンネルの方向及び上記時間の方向それぞれ独立にカーソルを移動させて所望の番組内容を指定するための指定手段と,
上記番組表出力手段が出力する番組表を,上記カーソルの移動に伴い移動後の上記カーソル位置に応じた上記番組表に更新させると共に,上記カーソルの移動に伴い上記カーソルの位置情報をRAMに記憶させてその情報を更新させる更新手段と,
毎週キーが操作された場合には,上記RAMに記憶された上記カーソルの位置情報に基づき,上記記憶手段に記憶されている翌週以降のテレビ放送の内容のなかから,上記指定手段により指定された内容と同一の番組を,異なる時間帯の番組よりサーチするサーチ手段と,
受信されたテレビの放送内容から,特定の放送内容を抽出するチューナと,
上記サーチ手段によってサーチされた番組の放映開始時刻になると,その放送内容を上記チューナに抽出させる放送内容出力手段とを備えたことを特徴とする番組サーチ装置。
以上のとおり,原告は,訂正審判請求において,当初明細書に記載されていなかった「番組表出力手段」及び「更新手段」たる構成を付加する訂正を行った。また,「指定手段」及び「サーチ手段」についても,上記付加に係る構成を踏まえてより具体的な内容に限定することを内容とする訂正を行った(以上の訂正内容をあわせて「訂正事項b」という。)。


訂正前に対応するのは,特許査定時の請求項3(以下「訂正前の請求項3」という。)である。


2.主な争点及び判示事項
(1) 主な争点
「番組表出力手段」及び「更新手段」の内容は,当初明細書に記載されているか
訂正事項bは,実質上特許請求の範囲を変更するものであるか
(2) 判示事項
争点アについて
裁判所は,「番組表出力手段」及び「更新手段」の内容に関し,当初明細書における発明の詳細な説明記載段落を引用して検討を加えたうえで,いずれの内容も当初明細書に記載されているということができると判断した。
争点イについて
[1] 裁判所は,訂正後の請求項1の技術的課題(目的)は,従来,新聞やテレビ 番組専門雑誌の番組欄で確認した番組をテレビに表示させるには,テレビの画面と番組欄を付き合わせなければならず,あるいは日を誤る等して所望の番組の放 映時刻等を確認するのに失敗するという不都合があったところ,このような不都合を解消し,所望の番組の放送チャンネル及び放映開始時刻を確実に知り,か つ,サーチした番組を自動的に受信することを可能にすることにあるとしたうえで,そのための構成が,訂正後の請求項1に規定した番組サーチ装置の構成であ ると判示した。
かかる判示を踏まえつつ,裁判所は,訂正事項bの「番組表出力手段」と「指定手段」は,訂正前の請求項3(訂正後の請求項1のうち下線部分を除いた請求 項。以下同じ。)における「記憶手段」と「指定手段」により実現される内容をより具体的に規定したものであり,「更新手段」と「サーチ手段」は,訂正前の 請求項3の「記憶手段に記憶されているテレビ放送の内容の中から,上記指定手段により指定された内容と同一の番組を,異なる時間帯の番組よりサーチする サーチ手段」により実現される内容をより具体的に規定したものであるから,訂正事項bの具体的内容は,いずれも訂正前の請求項3に係る発明の目的に含まれ るということができるとし,結論として,訂正事項bは,訂正前の請求項3に係る発明の目的を逸脱したということはできず,訂正事項bに係る訂正によって, 実質上特許請求の範囲を変更するものではないとした。
[2] 裁判所は,特許庁の反論について,以下のとおり排斥している。
ⅰ-ア 特許庁の反論その1
当初明細書記載の発明の目的は極めて一般的な目的に記載されており,かかる目的から,訂正後の請求項1における具体的な目的が直ちに導出されるということ はできないから,訂正事項bは,訂正前の請求項3に記載された発明の具体的な目的の範囲を逸脱する。
ⅰ-イ 裁判所の判断
発明の目的は特許請求の範囲の請求項において規定された構成によって達せられるものであり,新たに構成が付加されたり構成が限定されれば,目的も,それに 応じて,より具体的なものになることは当然であって,訂正後の発明の構成により達せられる目的が訂正前の発明の構成により達せされる上位の目的から直ちに 導かれるものでなければ,発明の目的の範囲を逸脱するというのであれば,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正は事実上不可能になってしまうから,相当で ない。そうであれば,訂正事項により付加,限定された構成により達成される内容が,訂正前の発明の目的に含まれるものであれば足りると解するのが相当であ る。
ⅱ-ア 特許庁の反論その2
原告の訂正は,訂正明細書の段落において,ステップ110から120に至る処理を「番組表出力手段」,上記ステップ120から150に至る処理を「更新手 段」として,それぞれ新たに定義し直し,明細書に初めて出現させたものであるところ,明細書に記載されているからといって,必ずしもその全てが訂正可能で あるとは限らない。
ⅱ-イ 裁判所の判断
特許請求の範囲を減縮する場合には,新たな構成要件を付加したり,構成を新たに具体的に限定するのが通常であるから,新たな構成要素を付加したり、構成要 素を新たに具体的に限定することが,直ちに,実質上特許請求の範囲を変更することに当たるものでないことは明らかである。
訂正事項bに関しては,明細書に接した第三者であれば,訂正が可能であることを予測することができるのであって,訂正が一般第三者の利益を損なうものとはいえない。


3.執筆者のコメント
平成6年法第116号による改正前の特許法126条2項所定の「実質上特許請求の範囲を変更する」訂正とは,当時の審判便覧によれば,「特許請求の範囲に 記載された発明の構成に欠くことができない事項について,その内容,殊に範囲,性質などを拡張し又は変更するもの,すなわち訂正前と訂正後で特許権の効力 の及ぶ限界に差異を発生させるものであって,当該発明の構成に欠くことができない事項についてその発明の具体的な目的の範囲内における技術的事項の減縮的 変更を除いたものをいう。」とされており,訂正の許否は,発明の具体的な目的の範囲内の減縮的変更であるか否かによって判断するものとされていた。
このような判断枠組みの下で,本判決は,訂正事項bが当初明細書に記載されていることを踏まえたうえで,同訂正事項bの具体的内容が発明の目的に含まれる として,訂正を認めたものである。また,本判決は,訂正により新たな構成が付加されることにより達せられる目的が,訂正前の発明の構成により達せられる上 位の目的から直ちに導かれるもものでなければならないわけではなく,訂正前の目的に含まれるものであれば足りるとして,訂正前の上位目的からの導出を厳格 に解する特許庁の判断を否定した点で注目に値する。


(執筆者 重冨 貴光 )


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