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平成17年7月27日 大阪地裁 平成17年(ワ)第11055号
- 不正競争行為差止請求事件 -

事件名
:不正競争行為差止請求事件
キーワード
:商品等表示、特別顕著性、周知性
関連条文
:不正競争防止法2条1項1号、同法3条1項
主文
:1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。


1.事案の概要
原告は、サンプリングチューブ(以下、原告商品と称する)を製造販売している。被告は、原告商品と寸法、形態がほぼ同一であるサンプリングチューブ(以下、被告商品と称する)を米国の他社より購入し、OEM商品として日本国内において販売している。
原告は、被告によるサンプリングチューブの輸入・販売行為が不正競争行為に該当するとして、同被告に対し製造、輸入及び販売行為の差止めを求めた。
なお、サンプリングチューブとは、主としてミリリットル単位の少量で検査をする試薬等の対象物を入れるプラスチック製のチューブ容器であり、DNA、血液 検査等の医療検査、商品検査等の検査用試験管として、あるいは検査等の対象物を簡易保存、分離攪拌するための容器として使用されるものである。


2.主な争点及び判決の要旨
(1)争点
原告商品の形態(外側底部がフラットゲートでゲートピン跡がないとういう形態)が「商品等表示」に該当するか。また、原告商品の「商品等表示」は需要者の間で周知になっていたか。
(2)判示事項
(ⅰ)
「商品等表示」としての商品の形態は、必ずしも出所を表示することを目的として選択されるものではないが、①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる 顕著な特徴を有しており、かつ②長時間継続的でかつ独占的に特定の営業主体の商品に使用されるか、又は短時間でも強力に宣伝されたような場合等には、商品 等表示として需要者の間に広く認識されることがある得るというべきである。
原告商品や被告商品のような容量1.5ミリリットルのサンプリングチューブは、基本的なサイズ、形状は世界で共通している。サンプリングチューブの製造方 法は、一般的に次のように行われる。まず、射出成形機から金型へ高温の樹脂がゲートを介して注入される。注入された樹脂が固体となった段階で、金型と射出 成形機とを反対方向に移動させることにより、ゲート部分が切断される。この場合、成形加工方式としては、ピンゲート方式(樹脂出口の直径が0.5ないし 0.7ミリメートル程度)と、バルブゲート方式(樹脂出口の直径が1ないし2ミリメートル程度)とがある。ピンゲート方式の場合は、ゲート部分が引きちぎ られるようにして切断されるが、バルブゲート方式では、ゲート部分がバルブ(棒)で蓋をするように切断される。いずれの方式も、チューブの外側底部には ゲート跡が残るが、その直径は樹脂出口の直径に対応したものとなる。また、ピンゲート方式によるものは、小さなゲートピン跡がごく僅かに出っ張るため、わ ざと外側底面の円周を高くしてゲートピン跡を保護することがある(つまり、底面に凹凸が形成される)。
1.5ミリリットルのサンプリングチューブの底面は、直径5ミリメートル前後のものであり、その外側底面がフラットゲートであるか否かは、更にそれより小 さい面積における相違である。また、一般にサンプリングチューブは透明であるため、ゲート跡の有無や、上記方式の相違によるゲート跡の識別はよく見なけれ ば出来ない製品もある。
また、原告は、需要者に原告商品のカタログを頒布し原告商品の販売をしており、そのカタログには「フラットチューブは底面の突起がなく肉厚も側面と同じに なっている為、レンズ効果が少なく」との記載とともに、「フラットゲート」と「従来品」とを対比した写真を掲載している。しかし、その「従来品」の写真か らは、外側底面にゲートピン跡があるかどうか、或いは円周が高くなっている等の凹凸があるかどうか等は確認できない。その他のリーフレットやチラシにおい ても同様である。
また被告による被告商品を紹介するリーフレットにおいても、商品を「ラベリングや書込み可能なフラットキャップ 目盛付 突起のないフラットな底」との説 明があり、「従来品」と「フラットゲート」とが図示されているが、「従来品」の外側底面にゲートピン跡、或いは円周が高くなっている等の凹凸があるかどう か等は確認できない。
他社の製品においても同様である。
したがって、「フラットゲート」で「ゲートピン跡がない」ことは、その物理的サイズ及び認識判別の難易に加えて、カタログ等における取り扱いにおいても注 目される程度はさほど高くないと推認される。したがって、需要者に対し、従来品と隔絶した顕著な印象を与えるものではない。
(ⅱ)
原告商品は平成13年から販売が開始されている。各年におけるその市場占有率は0.3~4パーセント前後であると推定する。原告商品の販売年数及び市場占 有率からすれば、原告商品の「フラットゲートで」「ゲートピン跡がない」という形態は、原告商品に使用されたのが長期間であったとも、強力に宣伝されたと も認めることができない。
また、展示会等への5度の出展もこれを認めるに足りるものではない。
(ⅲ)
(ⅰ)の通り、サンプリングチューブのフラットゲートでゲートピン跡がないという形態は、従来のものと隔絶した顕著な印象を与えるとはいえない商品形態で あって、これについて、(ⅱ)の程度の宣伝がされたとしても、原告商品の商品等表示として需要者の間に広く認識されるようになったと認めることができない し、他にこれを認めるに足りる証拠はない。


3.執筆者のコメント
裁判所は、「商品等表示」たる商品の形態の要件として、①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており、かつ②長時間継続的でかつ 独占的に特定の営業主体の商品に使用されるか、又は短時間でも強力に宣伝されたような場合などには、商品等表示として需要者の間に広く認識されることがあ る得るべきである、との一般的基準を挙げた上で、原告商品は、特に①の特別顕著性について認められないとしている。具体的には、サンプリングチューブ自体 の「フラットゲートでゲートピン跡がない形態」は、非常に小さいものであって(物理的サイズ)、形態が判別できない(認識判別の難易性)ことを理由とし て、原告商品の「商品等表示」の該当性を否定している。
不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」が自他識別機能又は出所識別機能を備えることが必要であることからすると、需要者をして認識判別できない商品形態について上記のような判断がなされたことは妥当と思われる。
だだし、肉眼で識別しにくいような商品形態の「商品等表示」の該当性について、どのような基準でどこまで認められるのか、本判決においては明らかにはなっていない。この点に関する今後の司法判断が待たれる。


(執筆者 原田    泉 )


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