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ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
DRYLAYER® 特許:第4384959号 商標:第4189433号
FINEPOLYGON® 特許:第5752775号 商標:第5579002号
権利者:株式会社finetrack 

「遊び手が創り手」。
そのポリシーから生まれる
創造性の高い自社製品を
模倣から守るために、
知的財産権を積極的に活用。

「険しい自然から私たちを守ってくれる、こんなウエアや寝袋をずっと探し求めていた」。1年を通じて山、海、川、陸、雪などのスポーツを楽しむコアユーザーの間で“本物の機能性”がクチコミで広がり、高い信頼と評価を集めているアウトドアメーカー、それが今回ご紹介するファイントラックです。熱烈ともいえる支持を得ている理由を探るため神戸にある同社を訪れ、起業のきっかけや製品開発における企業姿勢、さらには知的財産への取り組みなどについて、創業者である金山洋太郎社長とプロダクト事業部テキスタイル開発課の三宅毅課長にお話をお伺いしました。

製品開発の基本姿勢

「遊び手が創り手」という言葉に込めた想い

取材担当者
私は学生の頃から登山が趣味で、いろんな山を登ってきました。御社では、社員採用の際に、今までどんな山を登ってきたか?といったアウトドア履歴も考慮されると聞いて、非常に面白いと思いました。
金山社長
はい。我が社では「遊び手が創り手」という企業ポリシーを掲げ、実際にスタッフがアウトドアスポーツを楽しみ、その経験を製品開発に活かしています。私自身も、ライフスタイルとして四季折々の山と海の両方で様々なアウトドアスポーツを楽しむ「遊び手」です。
三宅課長
社員もみんなアウトドアを本気で楽しんでいて、1ヶ月休んで海外に行くこともできる会社です。K2に登りに行った社員は3ヶ月間の休暇を取りました。
取材担当者
それは羨ましいですね。
金山社長
そうした社員一人ひとりの経験があってこそ、アウトドアの厳しい環境で本当に必要とされるものを創ることができるわけです。斬新な発想というのは自分が本気で遊び、真剣にフィールドに向かわないと生まれてこないですから。
三宅課長
ユーザーの方々を危険にさらすわけにはいかないので、まず自分たちが機能を試さなければなりません。社員は開発途中の試作品を自分のアウトドア活動に持っていくわけですから、身体を張っているのです。
取材担当者
「遊び手が創り手」という言葉に込められた熱い想いが伝わってきます。金山社長が起業しようと考えられたきっかけをお聞かせいただけますか。
金山社長
もともと私は国内大手のアウトドアメーカーで開発部門のリーダーを任されていました。最初はハイレベルな登山者等のコアユーザー向けの製品を創っていたのですが、急成長を遂げる中で方針を転換しましてね。大衆向けにコストダウンして普及品を創るようになりました。本当に必要とされるものをカタチにできない状況になり、“それなら自分たちで創ろう”と同じ志を抱く仲間と起業したのがファイントラックです。2004年のことでした。

三宅課長
私が入社したのは創業5年目の頃です。ほかのアウトドア関連メーカーに勤めていたのですが、“遊び手が創り手”という開発姿勢に魅かれました。アウトドア用品の大手メーカーでは、流行のデザインをいち早く見定めて、既存のものと見た目が少し異なる新製品を売り出すといった開発形態が主流になっていると思います。実際にアウトドア活動をしながらの製品開発というのは意外と行われていません。
取材担当者
御社において、アウトドアの実践経験をあまり持たない方が、製品開発を担当することはあるのでしょうか。
金山社長
私どもの会社では、ほとんどありません。例えば登山が危険なスポーツであることを、我々は身を持って実感しています。過酷な自然環境において人の命を預かるウエアやギアを、経験もない者が創り出すのはおかしいと思うんですよね。
独自の製品開発①「フラットラッシュ®」「ドライレイヤー®」

「遊び手」の目線から誕生した2つの自社製品

取材担当者
創業後、最初に開発されたのはどのような製品だったのですか。
金山社長
「フラットラッシュ®」というウォータースポーツ用のラッシュガードです。一般的なラッシュガードは生地が薄く、水の中で着用していても体が冷えます。逆にウェットスーツだと水の中では保温効果がありますが、ゴムでできているので陸に上がった時に動きにくいし、蒸れます。「遊び手」としては、水濡れによる冷えから身体を守り、しかも、陸でも動きやすいウエアが欲しかった。「フラットラッシュ®」はあえて分厚く嵩(かさ)のある生地を使い、さらに優れた耐久撥水性を持たせました。これを着ていると肌との間に空気の層ができて保温性が生まれ、ずぶ濡れになっても体温の低下を抑えます。しかも水切れがよくて通気性にも優れているので、陸に上がった時に動きやすく快適なんです。
三宅課長
カヌーやカヤック、あとは冷たい川に飛び込んで沢登りをする時などにぴったりです。今発売されているのはモデルチェンジを重ねた4代目のタイプになります。
ドライレイヤー®
金山社長
「フラットラッシュ®」で培った撥水の加工技術を利用して、次に開発したのが「ドライレイヤー®」で、私たちの主力製品のひとつとなっています。これは、“アウトドアでは汗を吸って素早く乾くアンダーウエアを着用する”という常識を覆す製品です。
三宅課長
実際に登山を経験すればわかるのですが、アンダーウエアは、汗で濡れます。すると、濡れ冷えによって体温が奪われます。その体温を補うために多量のカロリーを使い、余計に疲れていきます。その状態で、吹雪や暴風雨の中に長時間いると、酷い場合は低体温症など生命に関わる危険な状況を招きます。
金山社長
“吸汗速乾”のアンダーウエアを着ても、行動中はずっと汗をかき続けているので、実際は乾くことはほぼありません。それなら、そもそも肌に接するアンダーウエアが濡れないようにすればいいという発想で製品開発に取り組みました。試行錯誤の末、汗をはじく撥水加工を施したウエアを肌に直接着て、その上から従来使用されてきた汗を吸う吸汗拡散性のアンダーウエアを重ね着するというまったく新しいアプローチに辿り着きました。これなら常に肌は乾いたままで、かいた汗はアンダーウエアのほうに吸い取られていきます。
三宅課長
こうして生まれた「ドライレイヤー®」に大きな可能性を見出し、さらに私どもは機能に特化したウエアを5枚重ねるという独自のレイヤリングシステムを開発しました。これにより多岐にわたる濡れによる体力消耗を減らし、安全性と快適性を高めています。
金山社長
それぞれのウエアが薄く、裁断にも工夫を凝らしているので、5枚重ねても1枚のウエアのような着心地です。さらに「リンクベント®」と名付けているのですが、3~5枚目の同じところにベンチレータを設けていますので、同時に開放すればウエア内の湿気を瞬時に放出でき、効率的に温度調節ができるようにもしています。
自由な換気コントロール
「リンクベント®」
特許:第5181142号
商標:第5385998号
独自の商品開発②「ファインポリゴン®」

ダウンを超える保温素材への挑戦

取材担当者
アウトドアフィールドにおける保温素材といえば、まず“ダウン”が思い浮かびます。御社ではそのダウンに代わるものを開発されたとお聞きしました。
金山社長
登山においては軽量コンパクトな保温素材としてダウンを用いたウエアや寝袋が常識という時代が50年近く続いています。しかしこれも実際に山で使ってみると、ダウンは濡れるとペシャンコになって保温性を失ってしまいます。しかも、なかなか乾かない。さらに、衣服内からダウンが飛び抜けないように生地の隙間を埋めなければならず、通気性を持たせることもできません。実はダウンって過酷なフィールドに物凄く不向きな素材なんですね。
三宅課長
ダウンは価格が高いということもあり、合繊メーカーがダウンに代わるものを作り始めたこともありました。ところが各社とも化繊を使ってダウンに近づけようとしたんですね。その結果、ダウンよりも重くて嵩張り、価格だけは安いものしか出来ませんでした。
金山社長
私たちはダウンとはまったく違う方向性で、ダウンの欠点を克服し、さらに機能性も凌駕しようという試みを始めました。開発に5年近くかけ、不織布をシワ加工することで嵩の高さを出すことに成功しました。こうして誕生したのがシート状立体保温素材「ファインポリゴン®」です。
ファインポリゴン®
三宅課長
最大の特長は濡れても温かいこと。ダウンと同等の保温力を持ちながらも、雨や汗に濡れても嵩(かさ)高性が失われず保温力を維持できます。通気性もいいので、ムレの心配もほとんどありません。ダウン並みの軽さで、コンパクトに収納することもできます。その特性を活かしてジャケットやフーディなどの保温着のほか、テントシューズ、ミトン、さらには寝袋にも採用しています。登山者にとってはずっと求めていた素材だと自負しています。
ファインポリゴン®シリーズ
「ドラウトポリゴン3」(左)/「ポリゴンネスト®」(右)
金山社長
私どもの製品は素材から加工、縫製に至るまですべて「MADE in JAPAN」です。世界最先端ともいえる技術と高い品質を活用しています。国内産業への貢献という意識も高く、今後も「MADE in JAPAN」にはこだわっていきたいですね。
三宅課長
国内生産のため、当社の製品の価格に占める生産コストの割合が高くなっています。これは、一部の海外有名ブランド品のように、生産コストが安い国で生産し、高いブランド料を価格に上乗せする形態とは対象的です。例えば、当社の防水機能を持ったウエアでは、一般的に使われているPTFEフィルムを採用せず、独自に開発した素材を使っています。これは、PTFEフィルムと同等に防水・透湿性を持ちながらも、伸縮性をより高めたものです。伸縮性が高いので、着た時に動きやすいですし、スリムなデザインにすることも可能になります。
知的財産戦略と弁理士の役割

日本国内はもちろん、海外での知的財産化も推進

取材担当者
最初にお話がありましたが、知的財産権についてどのような戦略を立てておられますか。
金山社長
この業界では、他のアパレル業界と同様、売れている製品や流行の製品を真似た製品が次々に市場に出回る傾向があります。そのため、少なくとも自社独自の主力製品については、特許、意匠、商標を総動員して、模倣品や類似品の追随を抑え、自社ビジネスを守る努力が不可欠です。例えば、「ドライレイヤー®」とそこから始まるレイヤリングにおいて機能を発揮する「リンクベント®」や、製品のファンクション、「ファインポリゴン®」は、特許権及び商標権で守っています。
取材担当者
御社を担当する弁理士はどのような役割を果たしていますか。
三宅課長
創業当時から長くお付き合いのある方で、製品の内容や設計思想を深く理解していただいています。弁理士の方と知恵を出し合って、例えば、一見すると簡単に思い付きそうなアイデアでも実は特許性があるんだという事をいかに説明するか、また、類似品を確実に抑えられるようにクレームをどうすればよいか、等について一緒に検討しています。また、開発の早い段階から弁理士に関わってもらうことで、自社ビジネスに本当に役に立つ特許、意匠、商標群を、効率良く構築できるようになっています。
取材担当者
これまで模倣品が市場に出たことはありましたか。
三宅課長
「ドライレイヤー®」についてはこの分野の代名詞になりつつあり、機能性は明らかに劣るものの見た目はよく似た製品に同じような名称を付けて販売しているメーカーがありました。そのときは弁理士さんと相談して警告書を送り、商標上の観点から名称の使用をやめていただきました。特許関係でも当社とそっくりの製品を販売していたメーカーがあり、その時も警告書を出したうえで話し合いを行い、すべて破棄していただいたことがあります。

取材担当者
今後、知的財産権に関して強化していきたいことはありますか。
金山社長
最近はいろいろな国でファイントラックの名が知られるようになり、その一方で海外ブランドにおいても私どもの類似製品を見かけるようになりました。海外における知的財産戦略は今後さらなる課題となってくるでしょうね。
取材担当者
本日はお忙しいところ、貴重なお話をありがとうございました。私もひとりのアウトドア愛好家として、御社のモノ創りの姿勢にたいへん感銘を受けました。御社の今後にますます期待しております。

株式会社finetrack
平成16年1月、兵庫県神戸市にて創業したアウトドアメーカー。兵庫県の経営革新計画にも認定された、「遊び手=創り手」のシーズとニーズをダイレクトに結びつけるビジネスモデルで、素材開発からこだわるモノ創りを展開。コアなアウトドアユーザーを中心に評価を集め、右肩上がりの成長を続けています。


2017年1月5日掲載