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ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
CW-X GENERATOR®MODEL レボリューション®タイプ 特許:第6065000号 意匠登録:第1455552号・第1492378号
商標登録:第4640681号・第4640682号・第5159344号
大きな胸を小さく見せるブラ 特許:第5807735号
フラワーマーク 商標登録:第5804316号(「動き商標」)ほか
権利者:株式会社ワコール 

新たな発想をもとに研究と実験を
積み重ね開発した商品を、
特許・意匠・商標を複合的に駆使して
模倣品から保護しています。

ブラジャー、ショーツ、ランジェリー、ガードル、インナーウェアなど多彩な商品ラインナップを揃え、女性の美を追求するワコール。近年ではレディースインナーウェアにとどまらず、メンズインナーやスポーツコンディショニングウェア、機能性サポーターなどを提供するなど事業領域をさらに広げています。今回、私たち日本弁理士会では、同社の数多い商品の中からメジャーリーガーのイチロー選手をはじめとするトップアスリートが愛用していることでも知られる「CW-X」、さらには発売時から話題を集めた「大きな胸を小さく見せるブラ」に注目。京都のワコール本社をお訪ねし、それぞれの商品の開発エピソード、そして知的財産への取り組みなどについてお伺いしました。

「CW-X」の開発と知的財産

女性用下着の技術をスポーツウェアへ展開

取材担当者
ワコールという社名からまず思い浮かぶのは、女性向けのランジェリーやボディメークのファンデーションです。しかし、市民マラソンなどに参加している男性の友人に聞くと「ワコールのCW-Xを着用している」と言っていました。
ワコール
CW-Xは運動時の筋肉疲労を軽減し、動きやすくすることを目的に開発されたブランドです。メジャーリーガーのイチロー選手にもご愛用いただいています。

取材担当者
特長をお聞かせいただけますか。
ワコール
衣類にテーピングの原理を組み込めないだろうか…、CW-Xの代表的なアイテムであるスポーツタイツはそんな発想から生まれました。ワコールの研究機関である人間科学研究所に所属する研究員の妹さんがスキーで膝をケガされたとき、スポーツテーピングの効果を実感されまして…。その意見を聞いた研究員による発案が商品化のきっかけとなりました。
取材担当者
しかし、ランジェリーとスポーツウェアでは、機能的にまったく違いますよね。
ワコール
テーピングの効果を生み出すため部分的に着圧を強めているのですが、実はこれって女性用下着であるガードルの技術を用いているんです。
取材担当者
なるほど、これまでの技術を応用することができたわけですね。でも、人体のどこにテーピングを施せばいいかなど、実現に至るまでには課題は多かったのではないですか。
ワコール
開発にあたっては整形外科と理学療法士の先生に技術指導をいただきました。1991年発売の商品ですが、開発には3年以上の月日を要しています。「CW-X」の商品はしっかりとエビデンスを取らないと発売できないので、現在でも大学の運動部やプロスポーツ選手、あとはスポーツをされていない層にも使っていただきたいので一般の方々にもご協力いただいて、さまざまなデータを取っています。
取材担当者
データで数値化できない部分もあると思います。例えば着用感などは個人の感想になってきますので、難しいところもあると思うのですが…。
ワコール
スポーツで激しい汗をかくと縫い目の部分が当たって痛くならないか、サポートラインがずれてこないかなど、いろいろな課題があります。私どもの商品は着用感を大切にしていますので、数値化できなくても、聞き取りをくり返し行うという作業は重視しています。
取材担当者
サンプルを作って試着していただく時点では出願されていないですよね。商品のノウハウが外部に流出する危険性が生まれると思うのですが、どのような対策を取られているのですか。
ワコール
秘密保持契約を結んでいるところにご協力いただいています。
取材担当者
しっかりと対策を取られているわけですね。CW-Xは特許・意匠・商標などで複合的に保護されていると思いますが、詳しくお聞かせいただけますか。
ワコール
スポーツタイツは、動きをサポートするラインについて特許を取得しています。意匠に関してはウエスト部分、サイド部分、ハムストリングス部分など10を超える出願を行っています。
取材担当者
ワコールといえば「胸もと年齢-5歳をめざすブラ」などわかりやすいネーミングの商品が多いですが、CW-Xは記号的なイメージですね。
ワコール
「CW」はコンディショニングウェアの略です。テーピングをウェアに組み込むことで身体のコンディションを整えるという商品コンセプトを表わしています。「X」には無限の可能性という意味を込めています。「X」と「CW-X」のロゴそれぞれと、さらに2つを組み合わせたもので商標権を取得しています。
取材担当者
いろんなご苦労を積み重ねて誕生したCW-Xですが、発売後すぐにヒットしたのですか。
ワコール
「ワコールがスポーツウェアに進出するの?」という冷めた目もあったと思います。当時はフィットネスブームでしたので、最初はレオタード売り場に置かれていました。ところが山岳の登山道などを走るトレイルランニングや100キロマラソンのランナーなど、そういうコアな方を対象とした専門店でCW-Xの機能性が評価され、取り扱ってくださるようになりました。その後、1995年位にプロ野球のトレーナー会議で取り上げていただき、トレーナーの方々の間で知られるようになりました。また、スキー市場では多くの愛好家に商品が知られていましたが、それでも大きく売り上げが伸びたわけではありません。
取材担当者
ヒットのきっかけは何でしたか。
ワコール
やはりイチロー選手と契約を結んだことですね。認知度が一気に高まりました。その後、東京マラソンがはじまって市民マラソンブームが到来したことも追い風となりました。また、山ガールなどによってトレッキングが人気になったことで一般の方々にも浸透し今に至っています。
「大きな胸を小さく見せるブラ」の開発と知的財産

ひとりの女性の提案から、今までになかったブラが誕生

取材担当者
私からはぜひともブラについてお聞きしたいと思います。「大きな胸を小さく見せるブラ」のことです。実は友人がこのブラが発売されてすぐに購入したんです。心から望んでいた商品だったので、涙が出るほどうれしかったと言っていました。
ワコール
そういうお声をいただくと、私どももとてもうれしいです。実はこの商品は社内の若手クリエイターの提案から開発がスタートしました。
取材担当者
おひとりの意見からはじまったということですか。
ワコール
そうなんです。彼女自身も結構バストが豊かで、いろんな悩みを抱えていたそうです。当時は“ゆるかわ”ファッションが流行っていたんですけど、彼女の場合はバストがアウターに影響して痩せているのに太って見えてしまう。仕事でブラウスを着ても、どうしても前のボタンの部分が胸のふくらみの影響で開いてしまう…。そこでリサーチをしてみると、同じような悩みを抱えている女性がいることがわかりました。
取材担当者
これまでのブラはバストを美しく豊かに見せる工夫がされていたと思いますが、この商品にはまったく逆の発想が必要だったと思います。開発にあたってはいろいろとご苦労があったのではないでしょうか。
ワコール
「大きな胸を小さく見せるブラ」は、その名の通りの機能性を追求しました。ここだけの話ですが、特殊な素材であるとか、難しい縫製であるとか、そういったものは一切採用していません。
取材担当者
えっ?そうなんですか。
ワコール
はい。一般的なブラはバストを寄せて上げてきれいな谷間を作る機能を持たせています。「大きな胸を小さく見せるブラ」は特許的な視点でいうと、寄せて上げるという機能とはまったく違った考え方で、バストを小さく見せるためのシルエットを作っているんですね。具体的にはバストトップ付近の構造を工夫しバストをコンパクトに整えながら、ほっそりと見せるためにサイドをすっきりと押さえる設計が特許のコアとなっています。さらに、バストの容量を変えずに高さを低くするパターンメイクを採用していますが、こちらに関しては特許で公開せずノウハウとして秘匿していますので、残念ながらお話しすることができません。
取材担当者
特許出願とノウハウの秘密管理を使い分けておられるわけですね。
ワコール
おっしゃる通りです。製造に関わる技術は、秘匿されているものの割合が高いです。
取材担当者
2010年に発売で、すぐに話題になっていましたよね。
ワコール
開発に2年位かけたものの、いざ発売するとなると「本当に売れるのだろうか」と不安でした。そこでマーティング的な意味も含めて、最初はWeb限定で販売しようということになりました。ところが予想以上の反響がありましてね。生産が追いつかなくなって、一時は販売停止したほどの人気商品となりました。
取材担当者
私の友人はプリント柄もカラーも豊富なのがうれしいと言っていました。
ワコール
通常のブラでは比較的大きなサイズはカラーが揃っていないことが多かったりします。この商品に関してはバストが大きい方のための企画なので、デザイン、カラー、サイズが豊富に揃っている点もヒットの要因のひとつではないかと思っています。
取材担当者
商品名がすごくわかりやすく、かつインパクトがありますね。
ワコール
ありがとうございます。お客様とネーミングでコミュニケーションが取れるように、というのが私どもの考え方です。
取材担当者
しかし、「大きな胸を小さく見せるブラ」のように一般名称が組み合わさったネーミングは、商標権を取りにくいのではないですか。
ワコール
商標権の取得は無理だとわかっていますので、出願もしていないです(笑)。わかりやすさを追求すれば、裏を返せば商標登録がしづらいということになってきますが、そういった中でもネーミングによる意味性を確保したいと考えています。 ただ、思ったほどこの分野への他社参入が少ないんですね。すごく意外ではあるんですけど。もしかしたら商品の独自性と特許戦略が上手くマッチしたのかも知れません。
企業戦略としての知的財産

企業価値を高めるうえで、知的財産が果たす役割は大きい

取材担当者
ネーミングのお話しになりましたが、ちなみに商標登録出願件数は全体でどれくらいですか。
ワコール
現在、商標権は国内約1,400件、海外約600件を取得しています。
取材担当者
すごい件数ですね。かといって商標権の件数を次々と増やしていくわけにもいかないでしょうから、どこかで維持の要否を決定しなければならないのではないですか。
ワコール
一定期間市場から消えたネーミングについては事業部などと相談しながら見切りをつけなければならないと思うのですが、なかなか簡単にはいきません。 10年、20年経って、もう一度昔のネーミングを用いて商品展開するようなケースもありますから。
取材担当者
それは非常に頭を悩ますところですね。商標をはじめ知的財産権の侵害についてはどのように対応されていますか。
ワコール
模倣品に関してはアジア、とくに中国を中心に多いですね。中国の場合は大陸が広いので実店舗では販売展開がしづらいということもあり、ネットを通して模倣品が流通しています。そこでECサイトをモニタリングして見つけ次第、出品削除要請を行っています。CW-Xに関しては日本国内でデッドコピー品が出まわり、京都府警に対応をお願いして販売業者を摘発していただいたケースもあります。知的財産の大切さを日々痛感しております。
取材担当者
アジアに関するお話しが出ましたが、海外における知的財産戦略はどのようにお考えですか。
ワコール
現在は本社の知的財産部が中心となって、海外での知的財産戦略を進めています。しかし、ワコールは海外にも法人が40社ほどあります。私どもが取り扱う商品の特性上、体型の違い、感覚の違い、文化の違いなどを鑑みて、ほとんどの商品を現地で企画しているんですね。今後は商品づくりと同じように、知的財産戦略にしても海外各地のさまざまな背景に基づき、本社と現地が共同で進めていく必要があると思っています。
取材担当者
「世界のワコール」としてのブランドを守るためには、いろいろな難しさがあるわけですね。ところでブランド商標といえば、新しい商標登録として話題となった「動き」の商標をいち早く取得されていましたね。
ワコール
花のつぼみが回転しながらゆっくりと開き、ワコールの“W”を表わすロゴになる「ワコールファッションフラワー」のことですね。
取材担当者
「動き」の商標の中でも代表的な例として、マスコミなどで取り上げられていたのを拝見しました。
ワコール
特許庁が「動き」の商標登録を発表したタイミングでテレビ局から問い合わせがあり、その日の夕方のニュースで紹介されました。知的財産としての役割はもちろんのこと、話題を集めることで認知度が高まり、結果として宣伝効果もありました。
取材担当者
広報としての観点からは、知的財産をどのように捉えられていますか。
ワコール
将来に向けて企業価値を高め、社会との信頼関係を築いていくうえで知的財産が果たす役割は大きいと考えています。
取材担当者
最後に、私ども弁理士に今後望むことをお聞かせいただけないでしょうか。
ワコール
そうですね。ワコールの知的財産部には現在10名のスタッフがいますが、自社で出願資料を作ってはいません。基本的には社内において開発者から相談があり、知的財産部のほうで検討して技術等調査を行ったうえで、特許性ありと判断すれば外部の弁理士の先生に依頼しています。商標の出願は自社で行っていますが、拒絶理由通知を受けましたら弁理士の先生にお願いしており、いろいろとお世話になっております。今後はさらにコミュニケーションを深め、私どもの商品や営業形態、企業理念をご理解いただいたうえで、さまざまなご提案やサポートをしていただければと思います。
取材担当者
本日は貴重なお話しをお聞かせいただきまして、ありがとうございました。



株式会社ワコール
1946年、婦人洋装身具の卸商「和江商事」として創業。以来、半世紀以上にわたり日本女性の思いとともに歩み続け、現在は「美」「快適」「健康」という三つの価値を提供しています。2005年からは持株会社制に移行し、株式会社ワコールが「株式会社ワコールホールディングス」へ商号変更。新たに「株式会社ワコール」を100%子会社として設立し、すべての事業を継承しています。


2017年5月29日掲載