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ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
月桂冠 商標:第23181号(明治期)、第0117684号、第0603988号
糖質ゼロ 特許:第4673155号、第5355128号ほか
権利者:月桂冠株式会社 

自社ブランドと技術の保護。
第三者の権利の尊重。社内への啓発。
これらを意識しながら
知的財産活動を行っています。

日本有数の酒どころ、京都・伏見で品質第一に日本酒を造り続ける月桂冠株式会社。今回は同社の「知的財産ミーティング」に同席し、業界に新風を吹き込み続けた革新と挑戦の歴史、日本初となる画期的な清酒「糖質ゼロ」誕生の経緯、そして知的財産への取り組みまで、幅広くお話を聞かせていただきました。

月桂冠の歴史

明治に入り、酒造りに科学を導入

取材担当者
御社は日本の大手酒造メーカーの中でもとりわけ長い歴史をお持ちと伺っていますが。
月桂冠
はい。創業が1637年、おかげさまで来年(2017年)には380年目を迎えます。当時の屋号は「笠置屋」といい、酒銘は「玉の泉」でした。今日みなさんにお越しいただいた、この京都伏見で、地元の人や旅人に飲んでいただくお酒を造っておりました。
取材担当者
「月桂冠」という名称はいつから使い始めたのですか。
月桂冠
1905年です。月桂冠とは月桂樹で作った冠(かんむり)で、古代ギリシアではこの冠を競技の勝者に授けました。その風習にちなんで勝利と栄光のシンボル「月桂冠」を酒銘にし、商標登録を受けたのです。清酒の王者を目指そう、という心意気が込められたネーミングだと先輩からは聞いております。
取材担当者
その頃は日本の知財制度も黎明期だったと思うのですが、早々と商標登録されたのですね。
月桂冠
月桂冠の他にも「明君」という酒銘があるのですが、こちらはさらに早く、1902年に商標登録を受けました。現存する日本の商標の中で5番目に古いのだそうです。また、1910年に発売した「コップ付き小瓶」という商品では、実用新案権を取っています。
取材担当者
100年以上も昔から、積極的に知財を取得した理由はなんだったのでしょうか。
月桂冠
明治へと時代が変わり、国の諸制度が整備されていったこと、そして、あくまでも推測ですが、明治に入って11代目当主に大倉恒吉が就任してから事業が急速に拡大、同時に月桂冠の知名度も全国に広がりましたので、権利やブランドを守るため、知財に取り組むようになったのかもしれません。
取材担当者
大倉恒吉氏はどんな方だったのですか?
月桂冠
職人の勘に頼っていた酒造りに科学を導入した人物です。当時の日本酒は醸造工程や貯蔵中に腐敗することが多く、酒造業者を悩ませていました。そこで恒吉は東京帝国大学出身の技師を採用し、清酒メーカーではじめて研究所を作りました。酒造りへの科学技術導入を進める中で、腐敗を防ぐ方法を研究し、防腐剤を一切使わない瓶詰めのお酒の開発に成功したのです。当時はお酒といえば樽詰めでしたから瓶に入ったお酒というのは極めて画期的な商品でした。
11代目当主 大倉恒吉
取材担当者
いまでは当たり前になった瓶入のお酒を御社は早い時期から実現されていたのですね。
月桂冠
その後も恒吉は新しいことにチャレンジし続けました。例えばさきほど少し触れた「コップ付き小瓶」。列車の中でお弁当と一緒に飲めるよう、小さな瓶入りのお酒にコップを付けたものを開発し駅で販売したところ大ヒットし、当時、鉄道網が全国に広がっていく中、月桂冠が全国に知られるきっかけになりました。ほかにも沢田宗山というデザイナーを採用し、容器のデザインに起用したり、新聞にも積極的に広告を出しました。
取材担当者
広告ではどんな点をPRしたのですか。
月桂冠
品質へのこだわりです。当社は恒吉が当主となった頃から、美味しくて質のいいお酒をお届けするブランドだということをアピールしています。
取材担当者
その姿勢は現在も変わらず続いているのですか。
月桂冠
はい。現社長が就任した1997年に、当社では基本理念を「クオリティー」「クリエイティビティー」「ヒューマニティー」という3つの言葉に集約しました。中でも一番目に挙げた「クオリティー」には、お客様に満足いただける、世界最高品質のお酒をお届けしよう、という、100年前からの変わらぬ想いが込められているのです。
糖質ゼロの誕生

糖質だけをカットし、美味しさは残す

取材担当者
御社はこれまでの日本酒にはなかった画期的な商品も開発されています。最近では「糖質ゼロ」がその代表ではないかと思うのですが、開発の経緯を教えていただけますか。
月桂冠
近年、健康志向の高まりで、糖質やカロリーを減らしたアルコール飲料がお客様に求められるようになりました。当社もそのような風潮をふまえ、2004年に糖質を30%減らした日本酒を、2008年3月には85%までカットした商品を発売しました。そしてさらに研究を重ねた結果、業界ではじめて糖質をゼロにした日本酒の開発に成功したのです。(2008年9月新発売)
取材担当者
糖質をゼロにするにあたって苦労はありましたか。
月桂冠
清酒というカテゴリーは原材料や製法が酒税法で細かく決められています。そのため使う素材や造り方を変えずに糖質をカットしなければならず、大変苦心しました。しかも、糖質は日本酒の旨みの素にもなっています。つまり糖質を単純に減らしてしまうと、いっしょに旨味も無くなってしまうのです。
取材担当者
糖質をゼロにしつつ、旨味は残さなければならないわけですね。
月桂冠
そうなんです。そこで生まれたのが当社独自の「スーパーダイジェスト(GSD)製法」です。
取材担当者
それはどういった技術なのでしょうか。
スーパーダイジェスト(GSD)製法
月桂冠
お酒造りでは、まずお米のでんぷんを糖に分解し、酵母の力で糖を醗酵させてアルコールに変えます。その際、糖が小さな分子だとよいのですが、大きいとアルコール化されずに糖のまま残るのです。そこで麹が米のデンプンを分解する力を強化し、糖をアルコール化できるグルコースにまで小さく分解したのです。さらに酵母についても、当社が保存しているものの中から最後まで元気のよい、アルコール化する力の強い酵母を研究し選抜しました。
取材担当者
糖を余さずアルコール化したわけですね。しかしさっきおっしゃったように、糖質が無くなると旨味も無くなってしまうのでは?
月桂冠
日本酒には500種類以上の成分が含まれており、それらの相乗効果で独特の風味が生まれます。そこで原料米や酵母選び、独自の発酵制御技術などによって他の成分を調整することで、糖質の旨味を補ったのです。
取材担当者
一般的な日本酒と比べて、味に違いはありますか?
月桂冠
軽やかでさっぱりした味わいになりました。そのことが、これまで日本酒を飲まなかった人たちに好評を持って迎えられ、新しいユーザーの開拓にもつながったのですよ。また料理との相性がいいのも特長です。ウォッシュ効果というのですが、食べた直後の後味を、さっぱり洗い流してくれるのです。和食だけでなく西洋料理や中華料理にも合いますので、様々な料理と組み合わせて楽しんでいただければと思います。
取材担当者
「スーパーダイジェスト(GSD)製法」では2011年に製法特許を取得されていますね。
月桂冠
はい、商品パッケージにも「特許取得」と印刷してアピールしています。
取材担当者
消費者への宣伝文としては「業界初」でもかまわなかったと思うのですが、特許取得というフレーズを選んだことには理由があるのでしょうか。
月桂冠
特許の場合は特許番号にしっかり紐づいています。アピールするなら、裏付けのある具体的な内容で効果的に訴求したいと考え、特許取得をパッケージに採用しました。
知的財産への取り組み

事業戦略と連携しながら知財の維持と発展を目指す

取材担当者
本日の取材は御社の「知的財産ミーティング」にお邪魔させていただいています。このような会合はいつ頃から開催されるようになったのですか。
月桂冠
2007年からです。商標部門であり、法務関連業務を統括する総務課、特許部門である研究所の技術情報課、著作権管理に関係の深い広報課、この3部門が定期的に集まる会を「知的財産ミーティング」と呼び、情報交換や知財の研修などを行っています。
取材担当者
知財の種類ごとに担当部署を分けているのですね。
月桂冠
そうです。特許技術は主に研究開発から生まれるので、研究所で手続きや管理を一括して行うほうが合理的です。また商標は営業サイドとのやり取りがありますから本社で管理したほうが都合がよい。このように、知財の性質や事業との関わり方に応じて専門部署を決め、そのうえで方向性がバラバラにならないよう定期的に集まる場を設けて意思統一を図る、というのがベストではないかと考えています。
取材担当者
会社全体として、知財に関する方針はあるのでしょうか。
月桂冠
当社は事業戦略として、『清酒事業の深耕・拡大』『清酒以外のアルコール事業の強化・拡大』『海外事業の推進』『アルコールにとらわれない新規事業の開拓・展開』という4つのテーマを掲げています。この事業戦略と連携しながら、知的財産権の維持管理と拡大発展を目指す、というのが大きな方針です。
取材担当者
もう少し具体的に教えていただけますか。
月桂冠
方針は大きく3つに別れます。自社のブランドと技術の保護のために、商品戦略に沿った形で、本当に必要な特許や商標を出願しよう、というのが1つ。2つ目が、他社の知的財産や機密情報の尊重です。商標や特許の調査をしっかり行い、第三者の権利を侵害しないように気をつけましょう、ということですね。3つ目は、知的財産保護の意識を、我々だけではなく、全従業員に浸透させることです。
取材担当者
1つめの「自社ブランドと技術の保護」ですが、御社の商品が模倣されることはあるのですか。
月桂冠
国内では殆どありませんが、国外の一部地域で当社のラベルを貼ったデッドコピー商品が多く出回っています。言うまでもなく瓶の中身は当社とは関係のないお酒でして、担当者が試しに飲んでみたところ「当社の品質基準からはかけ離れたもので、美味しいと言えるものではなかった」とのことでした。
取材担当者
粗悪なお酒が月桂冠ブランドとして出回ると、品質第一を掲げている御社にとっては大きなダメージですね。模倣品にはどのように対応していますか。
月桂冠
弁護士事務所と協力し、見つけた場合は法的処置を取ります。また現地の販売会社を通して販売代理店に模倣品の見分け方を伝えたりもしています。けれどコピー商品をすべて把握するのはやはり難しい…。
取材担当者
いたちごっこになってしまいますからね。
取材担当者
模倣品はどれくらい出回っているのですか。
月桂冠
数年前に、国外のウエブサイトで販売されている月桂冠の一升瓶入り商品について調査したことがあるのですが、地域によっては半分以上がニセモノで驚きました。
取材担当者
模倣品は確かに悩ましい問題ですが、コピーされるということは、それだけ海の向こうで月桂冠ブランドが高く評価されていることの証明でもありますね。
月桂冠
当社の商標を冒認登録(抜け駆け登録)されてしまうケースもあります。見つけた場合は無効審判をはじめ様々な手法で対抗しますし、商標を取り返すために再度登録申請も行います。時間はかかりますが、ブランドを守るために、やるべきことはしっかりやっていきます。
取材担当者
類似商標についてはいかがですか。
月桂冠
以前、当社の商標「美山」と紛らわしい「ベイザン」という商標が出願されていることが分り、異議申立をして対処したことがあります。紛らわしい商標についてもワールドワイドに調査をかけ、見つかったら対応するようにしています。

取材担当者
御社がいま、力を入れている商品があれば教えていただけますか。
月桂冠
清酒事業で培った技術を、清酒以外のアルコールにも拡大し、商品ラインナップのさらなる充実を図っています。例を挙げると清酒をベースにした発泡性のリキュールや、お米を使った焼酎などですね。また日本酒テイストのノンアルコール飲料も作っております。アルコールフリーでカロリーも糖質もゼロ、なおかつ日本酒の風味を再現したもので、開発には大変苦労しました。
取材担当者
「月桂冠NEWフリー」という商品ですね。やはり日本酒好きの方が、休肝日に飲まれるようなイメージでしょうか。
月桂冠
そうですね。日本酒の割り材に使っていただくのもいいですし、製氷器で凍らせたものを日本酒に浮かべてオンザロックで、という飲み方もおすすめです。
取材担当者
なるほど、水で作った氷と違って溶けてもお酒の味が薄まらないのですね。
月桂冠
最近は商品の開発と合わせて、新しい飲み方の提案なども行っています。また、若い方が日本酒と出会うきっかけになるようなイベントも積極的に開催しています。今は家庭での晩酌など身近で飲酒シーンに触れることが少ないまま成人に達する方も多いと聞きます。私たちが楽しくお酒を飲む機会を提供することで、日本酒の魅力に気づいてもらえたら……そんな想いで実施しています。
取材担当者
月桂冠というブランドを越えて、日本酒全体の繁栄を考えておられるのですね。最後になりましたが、弁理士に対して要望はありますでしょうか。
月桂冠
要望ではないのですが、せっかく製法特許を確立しても、後発の製品により権利が侵害されているのではないかというケースも生じかねません。その場合、どのような戦略で対処するのがベストなのか、よい知恵があればアドバイスをお願いしたいのですが。
取材担当者
製法特許の侵害の場合でしたら、やはりどれだけ証拠を押えられるかが大事だと思います。また警告する場合も、製造自体を止めてもらいたいのか、違う製法を選択してもらえればOKなのか、というように、落としどころを明確にされると具体的な方策が出しやすいのではないでしょうか。個別のケースについて詳しくお話いただければきっとお力になれると思います。ぜひお気軽に、弁理士にご相談ください。

月桂冠株式会社
1637年(寛永14年)創業。酒造りにいち早く科学を導入し、日本で初めて年間を通じた酒造りを行なう「四季醸造システム」の酒蔵を稼働。現在は、その後開発した新規技術も活用しながら高品質な日本酒を醸造し続けており、全国新酒鑑評会での金賞受賞数も業界で群を抜いています。また「糖質ゼロ」やノンアルコールの日本酒テイスト飲料「月桂冠NEWフリー」など時代のニーズに応えた商品を開発。米国で酒造りを行うなど海外にも積極的に進出、日本からの輸出との両輪で、日本酒の魅力を世界に拡げています。


2016年5月13日掲載