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ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
iPS細胞 特許:第4183742号ほか
権利者:国立大学法人京都大学 

ライセンス事業を通して
iPS細胞技術の発展と
医療・産業界への普及に
貢献します。

再生医療を初め多くの分野で注目される「iPS細胞」。 しかし医療現場で実際に活用されるためには、たくさんの企業や機関がiPS細胞のさらなる研究に取り組む必要があります。 今回は、特許ライセンス活動を通じて、iPS細胞技術の発展及び産業界への普及に積極的に取り組まれているiPSアカデミアジャパンの皆さんに取材し、 知的財産とiPS細胞技術の普及・発展との関わりをお聞きしました。

iPS細胞とは

様々な組織や臓器に分化する「万能細胞」

取材担当者
2012年に発明者の山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞したことで、iPS細胞は広く一般にも知られるようになりました。 そもそもiPS細胞と普通の細胞はどう違うのでしょうか。
iPSアカデミアジャパン
私たちの体はたった一つの受精卵が分裂を繰り返し、皮膚や血液や内臓などに枝分かれすることで出来ています。 そして一旦異なる体のパーツに分化した細胞が、元の受精卵に戻ることは通常ありません。 ところがこの分化した細胞に、4つの遺伝子を加えると、まるで時計が逆回転するように、受精卵のような状態に戻るのです。 この未分化な状態の細胞は、再びどんな体の組織や臓器にも分化させることができます。
取材担当者
山中教授は、分化した細胞を未分化状態に戻す遺伝子を見つけ出したのですね。
iPSアカデミアジャパン
そうです。それらの遺伝子は「山中因子」と呼ばれています。 そして山中因子によって人工的に作られた、どのような細胞にもなれる“万能細胞”が「iPS細胞」です。 このネーミングも、山中教授が考案されました。

取材担当者
山中教授が万能細胞の研究に取り組んだ理由はなんだったのでしょうか?
iPSアカデミアジャパン
教授は元々医師として医療の現場に立たれていました。 そして現在の技術では治せない病気や怪我に向き合ううちに、“今の医療で治すことが出来ないの患者さんを救う研究をしたい”という気持ちが芽生えたそうです。
取材担当者
そういえば最近新聞で、目の難病治療にiPS細胞が使われたという記事を見ました。
iPSアカデミアジャパン
いま神戸ではiPS細胞を利用した「加齢黄斑変性症」治療の臨床研究が行われています。 加齢黄斑変性症は網膜が傷んで視力が急激に落ちる病気で、これまで根本的な治療法がありませんでした。 そこで患者さん自身の細胞からiPS細胞を作り、さらにそのiPS細胞から健康な網膜組織を作って移植する世界初の手術が昨年2014年の9月に行われたのです。

取材担当者
自分自身の一部から網膜組織を作って自分に移植する……いわゆる「再生医療」ですね。iPS細胞は体のどんな細胞からも作れるのでしょうか。
iPSアカデミアジャパン
原理的には、核を持っていればどの細胞からも作れます。 実はこれまでにも「ES細胞」という万能細胞があったのですが、ES細胞は受精卵を利用する問題がありました。 しかしiPS細胞は皮膚や血液から比較的簡単に作ることができます。 今回の網膜組織移植のように、患者さん本人の細胞を使えば拒絶反応のリスクもありません。
取材担当者
iPS細胞の活用は再生医療が中心になるのですか。
iPSアカデミアジャパン
新しい薬を開発する「創薬」や、病気の原因究明などでも活発に研究が進んでいます。 iPS細胞の技術を使えば、患者さんの皮膚や血液などから疾患のある細胞を作ることができます。 人工的に再現した病理細胞で、薬の効果や副作用を調べたり、病気のメカニズムを研究できるのです。
特許・ライセンスの意義

守るためではなく広げるための知財活用

取材担当者
iPS細胞の基本特許については京都大学がいち早く取得されていますね。 これはやはり他の機関や企業からiPS細胞に関する研究を守るためだったのでしょうか。
iPSアカデミアジャパン
その反対で、国内外のできるだけ多くの研究機関や企業にiPS細胞を広く活用していただくためにこそ、いち早く取得したのです。
取材担当者
もう少し詳しく説明していただけますか。
iPSアカデミアジャパン
山中教授の願いは、iPS細胞の研究が一刻も早く発展し、難病の治療法や画期的な治療薬が生まれ、世界中の患者さんが恩恵を受けることです。 そのためにはiPS細胞技術をできるだけたくさんの機関や企業が研究し、競い合って成果を出すような状況が望ましいのです。 しかし万が一、ある企業がiPS細胞技術に関する特許を独占してしまうと、どんなことが起こるでしょう。 他の企業や研究機関がiPS細胞技術を利用できなくなるかもしれません。 またできたとしても、高額なライセンス料が必要になり、利用研究の敷居が高くなるでしょう。 つまり、山中教授が描いておられるビジョンと、かけ離れてしまうのです。
取材担当者
なるほど、iPS細胞技術に対していち早く特許権を取得し、この特許技術のライセンスを通じて門戸を開くことで、 一社独占のような状況を防ぎ、幅広い企業や研究機関が利用出来る環境を作るということですね。
iPSアカデミアジャパン
そうです。正確には京都大学内にある「iPS細胞研究所」の知財部門が、特許の取得と管理を受け持っています。 そしてiPS細胞技術の普及・発展のためには、取得した特許を持っているだけではだめで、幅広い機関や企業に利用してもらうようコーディネートしなければなりません。 特許技術と企業・研究機関との橋渡しをすることで、iPS細胞技術の普及を促しているのが、私たちiPSアカデミアジャパンなのです。
iPS細胞の知財戦略

iPS細胞技術利用の総合窓口を目指す

取材担当者
貴社のライセンス事業を詳しく教えていただけますか。
iPSアカデミアジャパン
私たちは京都大学が保有するiPS細胞の基本特許権をはじめ、関連技術を含めると約75ファミリーの特許ポートフォリオを保有しています。 これらを国内外の企業へライセンスしており、現在、大手製薬企業をはじめ、国内では約100社、海外では35社の企業との間でライセンス契約を結んでいます。 ただし、当社のポリシーとして、プラットフォーム技術につきましては、どの企業とも非独占的な契約に限らせていただいてます。
取材担当者
一社が独占すると幅広い企業に使ってもらえなくなるからですね。大学や研究機関がiPS細胞を研究したいと考えた場合もライセンス契約が必要なのですか。

iPSアカデミアジャパン
非営利機関が学術研究などのためにiPS細胞を使う場合は無償で利用できます。 また、できるだけたくさんの企業に活用していただけるよう、 ライセンス料については適正な価格設定を心がけています。 我々が目指しているのは収益ではなく、あくまでもiPS細胞技術の普及だからです。 得られたライセンス料についても多くの部分を大学にお返ししています。 この収益が、再びiPS細胞の研究に活かされるのです。
取材担当者
保有するポートフォリオの中には、京都大学以外の大学や、企業が保有しているiPS細胞関連特許も含まれていますね。 他大学や企業がライセンス業務を貴社に委託するメリットは何なのでしょうか。
iPSアカデミアジャパン
京都大学が基本特許を保有している関係で、他の大学や企業からiPS関連特許のライセンスを受ける場合、併せて当社ともライセンス契約を結ばなければならないことが多くあります。 契約の窓口が複数にまたがったり手続きが複雑になると、ライセンスを与える側も受ける側も非常に手間がかかり非効率的です。 我々が一括管理すれば、双方の負担を緩和することができるのです。

取材担当者
ライセンスのほかに、iPS細胞技術の普及で貢献していることはありますか?
iPSアカデミアジャパン
国内や海外で開催されるバイオ技術の主要なイベントに、ブースを出すようにしています。 目的は商談と広報活動です。いまでは考えられませんが、 4年くらい前には「iPS細胞ってなんですか?」と尋ねられることも少なくなかったのです。 そんな方に、iPS細胞の基本から丁寧に説明してきました。
取材担当者
山中先生のノーベル賞受賞もさることながら、そうした地道な啓発活動も、iPS細胞の認知度アップに貢献しているのでしょうね。
iPSアカデミアジャパン
設立2年目は2件しかなかったライセンス契約数を、現在は140件にまで増やすことができました。 内容も、当初は基礎研究に関わるものが多かったのですが、創薬や再生医療など、より具体的な目的に変わってきています。 iPS細胞が、産業として世の中に還元できる技術だということが浸透してきた現れだと、我々も嬉しく思っています。
取材担当者
昨年2014年に、御社は事業内容を見直されました。ライセンス契約の増加と関係があるのでしょうか。
iPSアカデミアジャパン
当社はライセンス部門の他に、研究部門と事業開発部門を持っておりました。 おっしゃるようにライセンス事業が順調に伸び、また他の2事業も成長していますので、経営効率の面からも、 当社はライセンス事業に特化し、他の2部門は新会社を作って譲渡することにしたのです。

取材担当者
ライセンス事業に注力できるようになったわけですね。新体制になった貴社の今後の目標を教えていただけますか。
iPSアカデミアジャパン
体制が変わっても、「iPS細胞に関する研究成果を、迅速に、着実に人類のために社会に還元することにより、人類の健康と福祉に貢献する」という当社のミッションは変わりません。 そのために、まずは特許ポートフォリオをさらに充実させたいと考えています。 iPS細胞を活用した事業を考える企業に「iPSアカデミアジャパンに相談すれば、上流の基本特許から下流の応用特許まで、 自社に必要な技術のライセンスをトータルコーディネートしてもらえる」と思っていただけるような総合窓口が、我々の目標です。
取材担当者
日本が技術立国を果たし、発展してゆくためには、アイデアを生む大学と、それを実用化する企業、という役割分担が欠かせません。 その橋渡しをする御社のような「技術移転機関」の存在は、今後ますますクローズアップされるのではないでしょうか。
iPSアカデミアジャパン
商談で欧米を訪れた際、海外の技術移転機関の方とお話ししたりプレゼンテーションを見る機会があります。 彼等も、我々と同様大学の特許を企業などにライセンスするのですが、その発明の価値をとてもよく理解しており、 企業に対しても、その技術がどう役立つかを、マーケットのことまで視野に入れて的確に説明しているのには感心します。 ひるがえって日本はどうか。これは我々も含めてなのですが、まだまだアピールする力が足りないように思います。 我々ももっと研鑽を積む必要がありますし、同時に、知財の価値や重要性が、社会的に認知されることも大事だと感じます。
取材担当者
知財の啓発は、私ども日本弁理士会近畿支部の使命でもあります。 各種の講演や、企業との個別のお話し合いなどを通して、知的財産の重要性がさらに理解される社会作りに貢献できるよう、我々も頑張ります。 本日はお忙しい中、ありがとうございました。


※建屋の写真は取材当時のもの


iPSアカデミアジャパン株式会社
2008年6月、京都大学の持株会社である一般社団法人iPSホールディングスの子会社として設立。 山中伸弥教授が発明したiPS細胞の特許技術について、実施許諾事業を実施するほか、 京都大学が作製したiPS細胞の企業への提供などを行います。 ミッションは「iPS細胞に関する研究成果を、迅速に、着実に人類のために社会に還元することにより、人類の健康と福祉に貢献する」