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ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
ミリオンガイド 特許第3913325号、意匠第1471524号、商標第3324038号ほか
権利者:アイセル株式会社 
摩擦攪拌接合装置 特許第5371139号、第5463476号、第5819084号ほか
権利者:アイセル株式会社 
エレメント積層型ミキサー 特許第5500575号、第5463475号、第5263877号ほか
権利者:アイセル株式会社 

「アイデアをセールする」
社名通りの発想力で
斬新な製品を開発し、
積極的な知財活動で
アイデアを保護しています

カード類を打ち抜くプレス装置で70%以上の国内シェアを誇る機械・部品メーカーのアイセル株式会社(以下、アイセル)。他にも半導体製造用機器などで使用される精密ガイド部品をはじめ、独自のアイデアに裏打ちされた製品を、幅広い分野に提供しています。今回は知的財産権の取得にも積極的に取り組む同社に、特許や意匠の有効な利用方法、知財に関する支援制度の活用などについてお聞きしました。

開発の姿勢

弛まぬ製品の改良

取材担当者
御社のホームページを拝見しましたが、とても幅広い産業機械や部品類を手がけていますね。どのように製品ラインナップを拡大していったのでしょうか。
アイセル
当社は金型メーカーとして創業しました。やがて自社の金型を搭載すれば優れたプレス装置が作れるのではないかと考え、カードなどを打ち抜くプレス装置を手がけるようになりました。さらに、自社のプレス技術を活かして素材を円筒状に加工するベンディングロール装置を開発したり、装置の部品を独立させて製品化し、さまざまな分野に提供するようになりました。当社の製品の中にはシャッター関連の機器がありますが、これは当社の装置に使われていた安全用のカバーを改良し、独立した製品としたものです。

取材担当者
自社の製品や技術を、枝分かれさせるように広げていったのですね。
アイセル
そうです。当社は自社製品のスペック向上や新たな付加価値作りに研究開発のリソースの大半を割いています。そして自社製品の性能を向上させる技術というのは、往々にして他の分野でもニーズがあることが多いのです。
取材担当者
アイセルの社名は「アイデアをセールする」という意味を込めた造語だと伺いました。そのアイデアというのは、自社製品の絶え間ない改善・改良の中で培われているというわけですね。
アイセル
はい。常にたくさんのアイデアや研究開発中の技術ストックがあるので、お客さまから相談を受けた時に「実はこんなものがあるんです」と先回りして提案できることが当社の強みです。例えば当社のヒット製品のひとつである「ミリオンガイド」も、先行して開発していた技術からお客さまの要望に応えて製品化されたものなのです。
取材担当者
ミリオンガイドについて詳しく教えていただけますか。

アイセル
ミリオンガイドは当社のプレス装置に用いる金型を開発する段階で生まれました。 金型の上下動がずれないように支えるガイドポストという部品があるのですが、それまではガイドポストを構成するポストとブッシュをリテーナに保持されるボールの回転によって上下に摺動させるものが主流でした。
当社はこのボールをローラ(ニードルローラ)に変えることにより耐久性があり、なおかつ誤差も少ないガイドポストを開発したのです。これにより、まず自社のプレス装置の性能が上がり、カードを打ち抜くプレス分野で高いシェアを獲得できました。また、この優れたガイドポストであれば、他の分野でもニーズに応えられるのではないかと考え、ガイドポスト自体をミリオンガイドという商品名で製品化しました。
取材担当者
どんな用途に使われているのでしょうか。
アイセル
プレス装置やFA関連機器などで使われています。またミリオンガイドをさらに発展させて、「ミリオンアクチュエーター」という製品も開発しました。これはミクロン単位の微細な動きができるガイドで、半導体関連装置や液晶製造装置、天体望遠鏡など、高い精度を要求される装置のガイド部品として使われています。
取材担当者
なるほど、ミリオンガイドにおいても、一つの製品からバリエーション製品へと、有機的に発展させているのですね。
アイセル
当社には「従来のアイセルの製品が不要になるような製品を作ろう」というちょっと変わった開発コンセプトがあります。自社の製品を超える優れた新製品を作り続けることで、他社が付け入る隙をなくし、お客さまに当社の製品を使い続けて頂こうと考えているのです。こうした開発姿勢が現在のシェアに繋がっているのではないかと思っています。
知財戦略

一商品一特許のスローガンの下、特許以外も組み合わせたミックス戦略

取材担当者
御社は「一商品一特許」というスローガンを掲げておられます。いくつぐらい特許を持っているのですか。
アイセル
これまでに登録になった国内特許が135件、出願中の国内特許が30件です(いずれも、2016年1月時点)。海外のものや実用新案、意匠、商標もいれると登録は400件を超えています。先ほど紹介したミリオンガイドだけでも8件ほど特許を取得しています。
取材担当者
特許を重視するようになったのはいつごろからなのでしょうか。
アイセル
創業時からです。初代の社長が新しいものを開発するのが好きで、思いついたら特許出願をしていました。その頃から特許による優位性を意識していたようです。
取材担当者
では特許取得の主たる目的というのは……
アイセル
やはり事業を進めていく上での優位性です。同じようなスペックの他社製品と競合になったとき、特許を取得していると当社の製品を選んでもらえることが多々あります。加えて模倣を防ぐ意味合いも大きいです。

取材担当者
機械部品の場合、輸入品とも競合しますよね。
アイセル
当社は特許だけでなくできるだけ意匠権も取得するようにしていますが、それは輸入品の模倣対策でもあるのです。
取材担当者
特許ではなく意匠で守るのですか。
アイセル
はい。当社は輸入品の模倣対策として税関での水際取締りを利用しています。税関で自社の権利内容を説明する際、特許だと説明が複雑になり、なかなか理解してもらえないことがあるのですが、意匠だと一目瞭然なので、比較的簡単に理解してもらえます。
取材担当者
それは有効な方法ですね。他にも知財の活用例があれば教えていただけますか。
アイセル
非常に面白いアイデアがあり、研究も進めているけれど、すぐには製品化できない…。そういった場合、特許出願を行うのではなく、公証制度を利用して先使用権を確保することがあります。
取材担当者
先使用権というのは、他人が特許権を取得したとしてもその出願前から独自に製品を開発・製造している場合には製造等を続けることができるという権利ですね。自社製品の開発等が出願前から行われていたことを立証するために公証人役場で登録するのですか。この方法だと特許出願を行う場合と違って技術内容をオープンにしなくてよいので、一般的には秘密にしておきたい独自ノウハウなどで利用されるのですが。
アイセル
そういったケースももちろんありますし、コスト対策という側面もあります。特許取得にはお金がかかりますし、製品化の目処が立ったときには特許が切れていた、などということになると、費用が無駄になってしまいますから。
取材担当者
なるほど、コスト対策というのは面白い活用の仕方だと思います。
アイセル
当社は海外にも事業展開していますので、外国出願も多数行っています。現在の主要な対象国はアメリカ、欧州、中国、韓国、台湾などですが、権利を取得する製品や国が増えればそれだけ費用がかかります。そこで特許庁の「中小企業等外国出願支援事業」をはじめ、出願費用を補助してもらえる制度も活用しています。さらに最近は先願権の確保のために、米国の仮出願制度を利用することもあります。
取材担当者
公的な補助制度を積極的に利用することで、知財にかかるコストをカバーしているのですね。
新分野への挑戦

次のステップへ向けて、産官学連携にも積極的に参加

アイセル
これまでにないものを生み出そうと思えば、開発段階でもコストがかかります。そこで近年注目しているのが産官学連携の研究開発事業です。補助金で研究開発費をカバーできるだけでなく、大学の優れた専門知識や研究成果、設備を活用することもできるので、当社の製品や事業の方向性とマッチする場合には積極的に活用しています。
取材担当者
御社の「摩擦攪拌接合装置」も、産官学連携のプロジェクトから生まれたと聞いていますが、これはどのような製品なのでしょうか。
アイセル
摩擦熱を利用して金属同士を接合する装置です。特殊なツールを回転させながら金属に接触させ、発生する摩擦熱で金属同士を軟化させて攪拌することで接合するのです。アーク溶接などの溶融溶接ですと熱影響が大きく、歪みが生じたり、組織の粗大化により材質が劣化したりしますが、この方法だと歪みが小さく、材質の劣化も小さいなど、さまざまなメリットがあります。
取材担当者
金属の接合技術を大学と共同で開発したのですか。
アイセル
いいえ、基礎技術はイギリスの溶接研究所(TWI)が開発したもので、特許もTWIが取得しています。この技術は、新幹線の床材や船、自動車部品の製造などに使用されていますが、ツールに大きな負担がかかるためアルミなどの融点が低い金属への適用が主流で、鉄系の高融点材料にはほとんど適用されていませんでした。そのような状況でしたが、弊社はあえて鉄系高融点材料の摩擦攪拌接合に取り組みました。
取材担当者
なぜ鉄系高融点材料の摩擦攪拌接合に取り組もうとされたのですか。
アイセル
当社のベンディング装置により、自動車の触媒コンバーターのケースを曲げと溶融溶接の組み合わせで生産していたのですが、触媒コンバーターのケースが鉄系高融点材料製だったのです。溶融溶接を摩擦攪拌による接合に置き換えれば、これまでの装置より優れた装置にできるのではないかと考えたわけです。
取材担当者
製品化の道筋が、御社の事業分野の中で見つかったのですね。
アイセル
大阪府立大学や近畿大学等との経済産業省の補助事業による3年間の共同研究を終えて、最終的には触媒コンバーターのケースの接合機ではなく、摩擦攪拌接合技術の実験機として製品化しました。産官学のプロジェクトというのは新しい技術が生まれて特許を取るところまでは進むのですが、製品化や事業化の段階で壁にぶつかることが多いのだそうです。当社が事業化したことで、プロジェクトを支援してくれていた大阪府も大変喜んでくれました。
取材担当者
市場での感触はどうですか。
アイセル
昨年2015年1月に、TWIが持っていた特許が切れたこともあって、いま非常に多くの引き合いがあり、既に受注して追加の案件も数件あります。
取材担当者
それはおめでとうございます。大学との連携で新たに生まれた特許技術はありますか。
アイセル
この技術に関する弊社の目玉は大阪府立大学等と共同開発した「Ni基超々合金製ツール」で、これを使用して鉄などの高融点の金属を比較的安価なツールで接合することができます。特許は大阪府立大学等との共同出願で、海外を含め8件出願しました。
取材担当者
社内だけだと研究開発にも特許にも莫大な費用がかかりますが、公的な事業をうまく活用して製品化に至ったのですね。
アイセル
他の製品化例としては、エレメント積層型ミキサーという技術があります。当社としては例外的に、既存の製品や技術とは関係のないアイデアに基づいた製品で、社内には研究や開発に使える装置がないし、新規分野なので人材もいない。そこで補助事業や大学との共同研究を活用して予算や研究環境を補ったのです。特許は海外も含めて取得済みのものが数件あり、改良発明についても出願中です。これに関する山口大学との共同研究成果は国内外で発表しており、海外の学会発表では表彰もされました。さらに本件に関する混合性能の測定方法については経済産業省が進める「新市場創造型標準化制度」に申請予定です。採択されれば、エレメント積層型ミキサーの優れた混合性能を標準規格により定量的に示すことが可能になります。開発を始めてから数年が経過して問い合わせも増加しつつあり、これからが大いに期待される技術です。(注:上記「新市場創造型標準化制度」については2016年3月29日に採択が決定し、プレス・リリースされました。)
取材担当者
限られたリソースを外部の制度で補い製品化する御社の戦略は、中小規模の開発型メーカーにも参考になりそうですね。最後に、弁理士に対してご意見はありますでしょうか。
アイセル
当社のようなアイデアを売る企業にとって、一番悩ましいのはやはり製品や技術の模倣です。特許や意匠で個別に守ってはいますが、弁理士会には、我々にはできないようなレベルで模倣品への対策を強化してもらえたら、と思います。
取材担当者
我々も知財の啓発を通して、アイデアや技術が重んじられる風土を作ったり、知財の活用による模倣対策などをセミナーなどでお伝えするようにしていますが、まだまだやらなければならないことがあるのかもしれません。弁理士会へご要望があれば、今後も、どんどんおっしゃっていただければと思います。本日はお忙しい中ありがとうございました。

アイセル株式会社
1968年、大阪府八尾市に金型メーカーの望月製作所として発足。1975年に社名を「アイデアを売る=アイセル」に変更し、アイデアでお客様のニーズに応える企業として、プレスマシン、ベンディングマシン、カップリング、メカロック、直動ガイド、マシンシャッターをはじめ幅広いジャンルの製品を開発。2010年からは韓国、中国、タイ、台湾など、アジアを中心に海外にも積極的に進出しています。


2016年3月31日掲載