HOME > 近畿支部について > 事例紹介 > 近大マグロ®
ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
近 大 マ グ ロ®  特許:第4005993号 ほか 商標登録:第4933272号 権利者:近畿大学

本学の研究成果を
産業界に役立てるため
積極的に知的財産を取得しています。

2002年、近畿大学は世界ではじめてクロマグロの完全養殖化に成功しました。 その後も安定供給ができるように研究を続けつつ、事業化にも着手。 最近では梅田の商業施設グランフロント大阪に完全養殖クロマグロが食べられる飲食店を出店し話題になるなど、 「近大マグロ」の知名度はうなぎ上りです。 今回は、クロマグロ完全養殖成功までの道のりと、知的財産権に対する取り組みについて、 同大学の水産研究所長・宮下盛様と、リエゾンセンター主任コーディネーター・根津俊一様にお話をお聞きしました。

クロマグロ完全養殖化への道のり

他の研究機関が撤退する中、海洋資源保護への揺るがぬ想いで研究を継続

取材担当者
乱獲によって「日本の食卓からクロマグロが消えるのでは?」と懸念される昨今、 近畿大学・水産研究所が実現した完全養殖クロマグロが大きく注目されています。 まずは一般的な養殖マグロと完全養殖のマグロの違いから教えていただけますか。
近畿大学
通常の養殖マグロというのは、海で泳いでいるマグロの稚魚を穫ってきて、成魚まで飼育したものです。 したがって養殖といっても、天然資源を利用することに変わりはありません。 しかし完全養殖マグロは、卵から人工ふ化させた稚魚を成魚に育て、 その成魚に卵を産ませて再びふ化させまた育てる、というサイクルを繰り返します。 つまり天然資源に頼らずに、養殖場だけでマグロを育てて出荷しているのです。

取材担当者
稚魚を穫らないから海洋資源の保護になるわけですね。いつ頃からクロマグロの研究に挑まれたのでしょうか。
近畿大学
本格的な研究は1970年からです。 水産庁の要請を受け、他大学も含めた8つの機関でスタートしました。 3年間のプロジェクトでしたがほとんど成果が出ず、期間終了とともに皆さん撤退しました。 しかし近畿大学だけが研究を続け、2002年、完全養殖までたどりつくことができました。
取材担当者
なぜ貴校だけが研究を続けることができたのでしょうか。
近畿大学
理由は二つあります。一つは近畿大学の初代総長、世耕弘一氏の先見性です。 戦後間もない昭和20年代、氏は「日本の復興には食料増産が必要だ」と考え、養殖技術の研究のために水産研究所を設立しました。 しかし当時は資金がありません。そこで世耕先生は養殖に成功した魚を販売し、その利益で研究所を運営する仕組みを作ったのです。
取材担当者
大学の研究費だけに頼らず独立採算で運営したのですね。
近畿大学
そうです。だからこそ他の機関が予算切れで撤退しても、研究を続けることができたのです。 もう一つは水産研究所の2代目所長・原田輝雄氏の理念です。 原田先生は海洋資源の保護のために、「すべての魚の養殖は“完全養殖”でなければいけない」という考えを持っていました。 私たちは先生の考えに基づき研究を進め、ブリ、マダイ、ヒラメなどで次々に成果を挙げていました。 そのような成果を一つ一つ積み上げることにより養殖に関する研究を継続し、マグロにおいても完全養殖を実現しました。
知的財産への取り組み

研究成果を企業へアプローチするために、積極的に特許を取得

取材担当者
マグロの養殖に関して、どんな特許を取得しているのですか。
近畿大学
一例を挙げるとマグロの共食いを防ぐ養殖装置の開発があります。 マグロの幼魚は放っておくと共食いでどんどん減ってしまいます。 そこでマグロの幼魚が水の流れに沿って泳ぐという習性を利用し、円形の養殖槽に水流をつくり、 その水流と逆方向から給餌することで、仲間ではなく餌だけを食べるようにしました。 また少し成長した幼魚は、今度は生け簀に激突して大量死します。 そこでマグロの衝突死の原因をつきとめ、照度制御による異常行動の防止法を開発しました。
取材担当者
いくつかの特許技術が組み合わさっているのですね。
近畿大学
そうなんです。他にも配合飼料や水温制御システムなどで特許を取っています。 一口にマグロの完全養殖といっても、多種多様な技術や30年以上に渡るノウハウの複合的な成果なのです。
取材担当者
特許の他に商標も取得されていますが。

近畿大学
はい。2006年に「近大マグロ」で商標を取りました。
取材担当者
特許や商標の取得は水産研究所で行うのですか。
近畿大学
知財については「近畿大学リエゾンセンター」が一括で管理しています。 リエゾンは産学連携の窓口として設置した機関で、企業との共同研究のほか、知財管理も主要な業務と位置づけ、 特許・商標の出願、権利化、活用まで、一括して行います。
取材担当者
どのような手続きを踏むのでしょうか。
近畿大学
特許の場合は、まず学内での出願申請が必要になります。 発明者の教員からまずリエゾンセンターに申請してもらい、特許として出願する価値があるかどうか、 外部機関にも協力いただきながら、審査します。 特許化する価値があると判断した技術は、特許事務所に依頼し、正式に出願手続きに入ります。

取材担当者
今年で近畿大学の知財の学内届出件数が1000件に達した、というニュースを拝見しました。 これは関西の私立大学の中ではトップなのだそうですね。
近畿大学
本学は研究のための研究だけではなく、産業界や社会に具体的に役立つ研究をやっていく、という「実学の精神」を掲げています。 そのためには企業に本学の研究成果の価値や実用性を認めてもらい、実際に使用していただかなければなりません。 知財取得について積極的なのは、特許などによりしっかり権利化した方が、企業に対してアプローチしやすく、 また企業側も安心して研究成果を採用できるからです。
知的財産権の効果

大学の知名度アップや商品の品質保証に効果を発揮した「近大マグロ」

取材担当者
なるほど。研究成果を実用化し社会で役立てるために、特許取得は不可欠なのですね。
近畿大学
もちろん知的財産権の保護やライセンスも意識はしています。 ただ、マグロの完全養殖についていえば、多種多様な技術とノウハウの複合体なので、特許のみを他の企業や他国に提供しても、 絶対に同じ事はできないのです。研究員が出向いて何年もかけて指導してようやく実現可能になる… もしビジネス化するならそのような事業になるだろうと思います。
取材担当者
商標登録「近大マグロ」の効果はいかがですか。
近畿大学
本学の知名度アップに大きく貢献しています。いまでは学生募集のシンボルにもなっていて、「近大マグロ」をきっかけに、 養殖にチャレンジしたい、といって入学する学生もいるほどです。また商標は品質保証の役割も担っています。 「近大マグロ」は、ふ化→稚魚→成魚までのトータルの生育過程を水産研究所で管理した、 マグロのことです。これにより、安全で安心して食べられる美味しいマグロを提供しています。 私たちは人工ふ化した稚魚も販売していますが、買い受けた業者さんが育てたマグロは「近大マグロ」を名乗ることはできません。
取材担当者
商標登録により品質やブランドイメージを守っているわけですね。

近畿大学
梅田のグランフロント大阪に出店した「近大卒の魚と紀州の恵み 近畿大学水産研究所」では、「近大マグロ」の他に、 養殖のタイやヒラメなどのメニューも揃えております。昔と違い、今の養殖魚は「安全・安心・美味しい」と胸を張って言えるところまでレベルが上がりました。 「近大マグロ」だけでなく、他の養殖魚も食べてもらうことで、養殖ものに対する誤解を解き、日本の養殖業界全体をバックアップしたい…それが私たちの願いなのです。

「近畿大学水産研究所」店舗外観

取材担当者
では私たちもグランフロント大阪に行った際、「近大マグロ」はもちろんですが、他の魚もぜひ食べたいと思います。最後に知的財産について、弁理士への要望はありますか。
近畿大学
本学にとって特許取得の目的の一つは産業界への貢献です。 弁理士の方には一企業単位ではなく、日本の産業全体を見渡して、本当に特許化するべき技術は何か、広い視点からのアドバイスがいただけることを期待しています。



近畿大学
大正14年(1925)創立の大阪専門学校と昭和18年創立の大阪理工科大学を母体として昭和24年に設立された、88年の歴史をもつ私立総合大学。 学部・学科数、在学生・卒業生数では全国でも有数の規模を誇ります。建学の精神「実学教育」と「人格の陶冶(とうや)」。


2013年12月12日掲載