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ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
血小板測定用試薬、血小板測定用試薬キット及び血小板測定方法 特許:第4659122号
sysmex 商標登録:第5301282号
検体分析装置 意匠登録:第1419306号
権利者:シスメックス株式会社 

フロントランナーとして
ヘルスケアの進化を
デザインするために
知的財産を活用しています。

血液検査や尿検査などの検体検査に欠かせない高精度な機器と試薬を開発し、世界190以上の国や地域の医療機関に提供している医療機器メーカーがシスメックスです。今回の取材では、検体検査分野でグローバルに成長を続けるシスメックスのビジネスモデルや、事業での躍進を支える知財戦略について、同社知的財産本部の皆さんにお話を伺いました。

独自のビジネスモデル

検査機器・試薬・サービス&サポートを三位一体で提供

取材担当者
御社は『検体検査』と呼ばれる領域で事業を展開し、中でも「血球計数検査(ヘマトロジー)」、「血液凝固検査」、「尿検査(沈渣)」の3分野では世界市場でシェアN0.1という輝かしい業績をあげています。今日はその躍進の秘密をお聞きしたいのですが、その前に、『検体検査』とはどういったものか、教えていただけますか。
シスメックス
健康状態や病気の状態を知るための検査は大きく2つに別れます。ひとつはレントゲンや心電図などで体を直接調べる『生体検査』。もうひとつは体から血液や尿などの「検体」を採取して調べるもので、これが『検体検査』です。当社は、この『検体検査』に使われる機器や試薬などを開発し、世界中の医療機関や検査機関にお届けしています。
取材担当者
私どもが健康診断で受ける血液検査や尿検査は『検体検査』にあたるのですね。創業時から検体検査用の製品を作っていたのですか。
シスメックス
実は私どもの母体は拡声器のトップメーカーである「東亞特殊電機株式会社」(現在はTOA株式会社)なのです。
取材担当者
拡声器と検査機器…まったく畑違いの製品のように思えますが。
シスメックス
いまから58年前の1959年、創業者の中谷太郎は第2の事業の柱を作ろうと、拡声器の技術が応用できる分野を探していました。その候補のひとつが医用電子機器分野だったのです。中谷は視察のために医用電子機器の先進国アメリカに渡り、当時まだ日本では普及していなかった人間ドックを見て "アメリカでは病人だけでなく健康な人も検査のために医療機関へ行くのか"と驚いたそうです。しかも、健康診断のマーケットは非常に大きい。そこで検査分野への進出を決意した、と聞いております。
取材担当者
拡声器のどういった技術が、検査機器に結びついたのでしょうか。
シスメックス
拡声器は声を電気信号に変換し、微弱な信号を増幅させます。その原理を応用して、ミクロな血球を電気信号の変化で捉える技術を開発したのです。そして1963年、この技術を使った日本初の「自動血球計数装置」の開発に成功しました。これは血液中の赤血球や白血球の数、種類、大きさを測定・分析する機器で、分析結果をもとに、貧血や白血病、血小板減少症などの可能性がないか、調べることができます。
拡声器の原理を応用した独自の検出方式(静電容量方式)による国産初の血球計数装置 CC1001
取材担当者
御社の現在の主力製品である「血球計数検査(ヘマトロジー)」用の機器のルーツでしょうか。
シスメックス
はい。「自動血球計数装置」の事業化の目処が立ったため、1968年、「東亞特殊電機株式会社」は検査機器の部門を独立させ、シスメックスの前身である「東亞医用電子株式会社」を設立しました。はじめは「血球計数検査(ヘマトロジー)」のみでしたが、血液の固まりやすさを調べる血液凝固検査、尿の中の有形成分を調べる尿(沈渣)検査、さらに血液の上澄みである血清からHIVウィルスの有無や癌の罹患などを調べる免疫検査と、その領域を『検体検査』全体へ拡げていきました。
取材担当者
そして販売先も、海外へと拡大していったのですね。
シスメックス
現在、世界190以上の国や地域でビジネスを展開しております。日本でも順調に成長していますが、海外はそれ以上です。現在、当社の売上のうち、82.6%は海外が占めています。
取材担当者
海外での躍進を支える御社の強みはどこにあるのでしょうか。
シスメックス
当社は機器に加え、検査に不可欠な試薬を自社で開発し、セットでお客様に販売しています。また製品だけでなくサービス&サポートも自社で責任を持って行います。機器だけ、あるいは試薬だけというメーカーはたくさんありますが、こうしたトータルソリューションを提供できる企業は世界でも限られているのです。このようなビジネスモデルを通してお客様に高いレベルの「安心」や「満足」をお届けできることが、評価いただけているのではないでしょうか。
取材担当者
シスメックスさんなら検査に必要なものを、サポートも含め安心して任せられるというわけですね。
シスメックス
加えて、当社のもう一つの強みが直販体制です。事業を展開する各国、各地域に拠点を設立し、販売からサポートまでを直接行える体制を築いています。これにより、お客様の要望にスピーディーに応えることができるのです。
取材担当者
海外でシェアを伸ばすにあたって、苦労したところはありますか。
シスメックス
中国をはじめとする新興国では、経済成長のおかげで、病院に"最新鋭の機器を導入しよう"という機運が高まっています。一方、北米の場合は事情が異なり、稼動している既存の製品を、当社の製品に置き換えてもらわなければなりません。そこは大変苦労しました。
取材担当者
どうやって切り崩していったのか大変興味をかき立てられます。置き換えの決め手は製品の優劣でしょうか。
シスメックス
やはり重視されるのは機器の「品質」です。機器には非常に高い品質が要求されますが、私どもの機器は世界最高レベルだと自負しています。その高いクオリティーを保障するため、機器はメイド・イン・ジャパンにこだわり、すべて国内で生産しています。
XNシリーズの代表機種 XN-9000。統一感とユーザビリティーを重視した「サイレントデザイン®」は
2011年にグッドデザイン賞も受賞しています
取材担当者
では機器の圧倒的な優位性でどんどん置き換えていった、と。
シスメックス
そう簡単には進みませんでした。医療現場には、使い慣れた機器を置き換えることに抵抗を感じたり、これまで蓄積された検査結果と新しい装置から出力される検査結果との関係性を心配されたりする検査技師の方や医師もいらっしゃるからです。"操作性が変わって使いにくくなるのではないか" "これまでと異なる測定結果が出てしまうのではないか"そういった不安を解消する必要がありました。
取材担当者
その壁をどう乗り越えていったのですか。
シスメックス
当社の機器のクオリティーや使いやすさなどを粘り強く伝えました。それから、地道な学術活動を行い、既存の製品と検査結果が変わらないこともしっかりアピールしました。また、当社のサポートはたいへん充実しています。例えばシスメックスにはSNCS®という、当社が業界に先駆けていちはやく開発したネットワークサポートサービスがあり、機器の状態をリアルタイムで監視することができます。エラーが起こる前に異常を察知し、遠隔操作で機器を診断したり、メンテナンスすることが可能なのです。こうした、当社ならではの付加価値を、時間をかけて説明し、納得して機器を置き換えてもらっていったのです。
取材担当者
機器やシステムに優位性があり、導入後のサポートも優れている。そのメリットを理解してもらえれば、やはり御社に…となるわけですね。
シスメックス
機器、試薬からサービス&サポートまで一貫してご提供するトータルソリューションは、当社の売上や利益にも大きく寄与しています。機器を販売したら終わり、ではなく、購入後も専用試薬とサービス&サポートの売上が、継続的に発生するからです。この収益を、研究活動や新分野への進出に投資することで、当社は事業を拡大していくことができるのです。
知的財産活動の役割

継続的に営業利益を産み出す事業環境を整備するために知的財産を活用

取材担当者
グローバルな競争の中で勝ち残るためには知的財産活動も重要ではないかと思います。御社において、知的財産はどのような役割を果たしているのでしょうか。
シスメックス
当社が健全な事業を行い、継続的な営業利益を産み出せるように支援することが知的財産活動の大きな方針です。私どもの利益の源泉は機器・試薬・サービス&サポートが三位一体となったビジネスモデルですから、このビジネスモデルがうまく回るように、知的財産を活用しています。
取材担当者
具体的にはどのように活用しているのでしょうか。
シスメックス
機器、試薬やサービス&サポートなど、当社のビジネスモデルを構成する主要な要素について、参入障壁形成のため、また国際競争力強化のために、日本・米国・欧州・中国を基本出願国としてグローバルに特許出願を推進しています。
取材担当者
商標についてはどうですか。
シスメックス
当社は、世界190以上の国や地域の医療機関に提供していますが、試薬や容器などの消耗品について、残念ながら模倣品が流通してしまうことがあります。お客様は当社の純正品だと信じて使っているのですが、実は商品名やパッケージを真似た偽物を購入させられていた、というようなケースが新興国で増えているのです。そこで、当社がビジネスを展開するほぼ全ての国で試薬の商品名やブランドロゴなどを商標登録し、模倣品を見つけた場合は訴訟を含め、毅然とした態度で対応し、模倣品を速やかに排除しています。
取材担当者
御社の場合、取引先が190以上の国や地域に及んでいます。模倣品を見つけるのは大変なのではないですか。
シスメックス
そうですね。ただ、先ほど申上げたように、当社は取引のある国に拠点を置いています。そのため、お客様と当社営業スタッフやサポートスタッフとの距離が近く、お客様側の異変にも気付きやすいのです。
取材担当者
消耗品の模倣品が機器に影響を及ぼすようなこともあるのでしょうか。
シスメックス
お客様から「機器の調子がいつもと違う」と連絡を受け、サポートスタッフが駆け付けてみると消耗品の模倣品を使われていた、と判明することもあります。
取材担当者
試薬が粗悪だと大変なことになりますね。
シスメックス
おっしゃる通り、試薬の模倣品は我々の事業の死活問題です。万が一間違った検査データが出た場合、正しい診断ができなくなり、検査を受けた方の健康被害につながる可能性もあるからです。したがって、模倣品は市場から徹底的・速やかに排除します。一度ボスニア・ヘルツェゴビナでデッドコピー品が発見されたことがありますが、そのときは私が直接現地に飛び、内戦間もない中を、確認に行きました。
取材担当者
まさに命がけですね。知財について、各国の特許事務所とはどのようにやり取りしているのですか。
シスメックス
原則として、私ども知的財産部が全世界の特許事務所に直接指示を出しています。各国の特許事務所への直接取引は、世界中の知財プロフェッショナルとの迅速なコミュニケーションを維持することを目的としています。これにより、海外で知財に関するトラブルなど急を要する案件が発生した場合、現地の代理人とすぐに連絡をとり、迅速に対応することができるようになりました。
取材担当者
世界各国の特許事務所と直接やりとりするとなると、知的財産部門の方にも高い能力が要求されるのではないかと思うのですが。
シスメックス
そのために、当社では「知的財産教育大綱」という人材育成のための大きな方針を立てています。その方針に基づき、資格の等級ごとに、獲得するべき知的財産の専門知識、各国の法律、TOEICの点数等を提示し、そこを目標として、上司からの啓発、自己啓発、OJTを三本柱として知財部員の教育に努めています。
取材担当者
グローバルな案件が多い御社の場合、やはり英語力は必須なのですね。
シスメックス
そうですね、できればTOEIC900点は身に付けてほしいところです(笑)

取材担当者
今日は御社の研究開発の中核施設である「テクノパーク」にお邪魔しています。知的財産部さんもこのテクノパークに入っていて、研究開発部門と非常に近い距離にありますね。
シスメックス
知的財産本部は、研究開発、事業企画、商品開発を担当する各部門と密に連携し、将来のマーケットシフトを考慮して出願戦略を立案し、関連部門と連携して必須特許(ある技術を実施する際に必ず使用しなければならない特許)を戦略的に取得するように努めています。
取材担当者
知的財産で各部門に横串を通すような役割を担っているのですね。
シスメックス
先ほども申しあげましたが、当社における知的財産活動の目的は、継続的な利益を産み出せるように事業を支援することです。そのためには特許についても、当社の技術的な優位がしっかり保てるよう、関係部門と連携して事業にとって意義のある発明を見出し、全ての発明を基本特許や必須特許につなげていく、というスタンスで考えています。
取材担当者
年間どれくらい出願されているのですか。
シスメックス
基本特許や必須特許を取得しようと思えばとにかく情報が必要です。そのためマーケット調査、先行技術調査などを徹底して行いますから、年間100件ほどが限界になってきます。
取材担当者
事業にとって重要な発明に絞って、そこに全力投球しているのですね。
シスメックス
重要な発明が継続的に生まれるためには、発明者のモチベーションを高めるような積極的なインセンティブ制度が大切です。当社では、金銭と名誉の2本立ての施策を積極的に展開しています。後者の名誉による表彰の例として、例えば「パテントマイスター」という制度では、研究者の特許の取得件数が一定数に達したらパテントマイスターとして名誉ある称号を付与していますが、若い研究開発者はパテントマイスターを目標として知財活動に努めています。
取材担当者
そのようなしくみがあると、研究者の方のモチベーションも上がりますね。
シスメックス
また、名誉による表彰の他の例として、初めて出願した若い研究者を表彰する制度もあります。名前入りのボールペンを所属先の本部長から直接渡してもらうのですが、これも若い研究者には大きな励みになっているようです。
取材担当者
御社が研究開発スタッフを大事にされていることがよく分りました。ところで今は、どんな研究テーマに取り組んでいるのでしょうか。
シスメックス
現在、私どもが力を入れているのが個別化医療の分野です。これまでの医療では、疾患ごとに、どの患者さんに対しても標準的な診断や治療が行われてきました。ところが近年、遺伝子やタンパクなどを解析することで、患者さんひとりひとりの特性に合わせた治療が可能になってきたのです。シスメックスでは、この個別化医療に貢献する技術として、「リキッドバイオプシー」の実現を、研究開発の柱の一つに据えています。
注力する研究テーマ

「リキッドバイオプシー」の研究で個別化医療に貢献

取材担当者
「リキッドバイオプシー」とはどんな技術なのですか。
シスメックス
血液の中にある微量な遺伝子、タンパク、細胞などを測定する技術です。例えば、がんを検査する場合、これまでは患部組織を採取して直接分析しなければならず、患者さんの身体に大きな負担がかかってしまいました。しかしリキッドバイオプシーなら、血液中に存在する疾患由来の成分を分析することで、がん等の疾病の検査を行うことができるのです。
取材担当者
血液を採るだけだから、患者さんにもそれほど負担がかからないのですね。
シスメックス
はい。身体的負担はもちろん経済的な負担も軽減されるので、繰り返し検査を行うことができ、治療効果のモニタリング、がんの再発予測への活用なども期待されています。手術後に抗がん剤を投与するかどうか、投与するならどの程度の量を、どのタイミングで投与するか…そういった判断基準を提供することで、患者さんごとの、きめ細やかな治療が可能になるのです。
取材担当者
開発にあたり、どういった点が難しいのでしょうか。
シスメックス
測定するものが極めて微量であるため、非常に高感度な測定技術が要求されます。またがんに関していうと、研究にあたっては、実際にがんの検体が必要になるため、当社単独では研究開発を進めることができません。そこで、医療機関や大学などとも積極的に連携して、研究開発をすすめています。
取材担当者
そうなると、そこで生まれた技術に関する特許というのは、共同出願になるのでしょうか。
シスメックス
そうですね。共同出願が多いのも、当社の研究開発の特徴です。私どもの目指しているものは、噛み砕いて言うと、あらゆる疾患が血液を分析するだけで分るようになる技術です。その実現のために、オープンイノベーションにも積極的に取り組んでいます。日本だけではなく、海外の研究機関や大学、医療機関、企業などと積極的にコラボレーションを図り、価値のある診断技術を実現することで、医療の進歩や世界中の人々の健康に貢献したいと考えています。
取材担当者
血液からすべてが分る…非常に夢がありますね。御社の取り組みが少しでも早く実現することを、私どもも願っています。本日は貴重なお話をありがとうございました。

シスメックス株式会社
1968年、東亞特殊電機株式会社が製造する医用電子機器の販売会社「東亞医用電子株式会社」として創業。以来、血球計数装置を中心に検体検査の分野で高品質な検査機器を開発・販売してきました。1998年に社名を「シスメックス株式会社」へと変更。『ヘルスケアの進化をデザインする。』をMissionに掲げ、高品質な臨床検査機器、試薬、ソフトウェアを世界190以上の国や地域へお届けしています。


2017年7月5日掲載