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ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
衣料用生地「ドライエアロフロー」「ドライエアロフローラピッド」
特許:第7307289号  商標:第6110777号
アイアンゴルフクラブヘッドの製造方法「グレインフローフォージド」
特許:第6391871号  商標:第4253298号、第4258624号
権利者:ミズノ株式会社

高い技術力を誇る、総合スポーツ用品メーカー。独自の技術を知的財産権でしっかりと守ることで、自社製品を安心してユーザーの手に届けられるように製品販売の道を作っています。

独自の技術により、多岐にわたるスポーツ用品を生み出しているミズノ。 今回は、パリ五輪で14競技の日本代表のユニホームや練習着として提供されたことで話題となった盗撮防止ウエアの素材「ドライエアロフローラピッド」、および、独自の鍛造技術が凝縮されたアイアンゴルフクラブヘッドの製造方法を中心に、ミズノの歴史や知財戦略などについて、お話を伺いました。

創業からの歩み

ミズノの原点である野球からの出発

取材担当者
「ミズノ」といえば、日本のスポーツ用品を語る上で欠かせない存在ですね。2025(令和7)年は、創業から119年だそうですね。
ミズノ
はい、創業が1906(明治39)年ですので、2025(令和7)年4月で119年を迎えます。 創業者、水野利八が大阪に構えた小さな商店、水野兄弟商会が私たちの起源です。洋品雑貨と野球ボールの販売から始まり、運動ウエア・野球グラブの製造販売など、創業当時からスポーツの事業を営んできました。
取材担当者
創業者は、春の選抜や夏の甲子園といった高校野球大会の生みの親だそうですね。前身である1913(大正2)年の「第1回関西学生連合野球大会」を、どこのサポートも受けずに開催したと伺いました。
ミズノ
はい。野球は、当社の原点です。その後、徐々に対象競技の幅を広げ、1927年にスキー用品の販売を開始し、1933年にゴルフクラブの販売を、1947年にはテニスラケットの販売を開始しました。1942年に美津濃株式会社へ社名変更し、翌年には岐阜県に養老工場を開設するなど事業を拡大していきました。シューズの分野へ本格参入したのは、1973年頃です。
取材担当者
2006(平成18)年に創立100周年を迎えたそうですね。
ミズノ
はい。そのときに「明日は、きっと、できる」というブランドスローガンを打ち出しました。2018(平成30)年には、より高みを目指し、「REACH BEYOND」というブランドスローガンに進化させました。「いつも、その先に向かっていく」という企業姿勢を表します。つまりスポーツの価値を信じる人の、先へ進もうとするプロセスをサポートするブランドであること。そしてミズノがスポーツ分野やスポーツの枠を超えた分野でも、より高みを追求していくブランドであることを表現しました。
取材担当者
だからでしょうか、創業100年を超える老舗企業でありながら、大変若々しい印象が強いです。 ミズノを象徴する「ランバード」のロゴは、いつ頃デザインされたものですか。
ミズノ
1982(昭和57)年頃です。先に米国でデビューし、翌年に日本でデビューしました。最初はシューズ専用のロゴでしたが、今では全てのスポーツアイテムに展開しています。ランバードのロゴが入ったランニングシューズの「ウエーブライダー」は今も愛用者が多いですし、飛距離の伸びる軟式バッド「ビヨンドマックス」は、あまりにボールがよく飛ぶので、打者がランバードのロゴが入ったバッドを持つと外野手が一斉に下がって対応したほどです。
取材担当者
ランバードのロゴが入ったアイテム一つ一つに貴社の知見と技術が凝縮されていることがよくわかります。
アスリートのプライバシーを守る衣料用生地の開発

速乾性と赤外線防透け性を両立する「ドライエアロフローラピッド」

取材担当者
昨年(2024年)のパリ五輪でバレーボール女子日本代表などの公式ユニホームにミズノの盗撮防止ウエアが採用されたことが話題となっていました。このウエアの素材「ドライエアロフローラピッド」はどのような特長があるのですか。
ミズノ
2019(平成31)年から当社が開発していた「ドライエアロフロー」は汗処理性能とクーリング性能を有する通気性の良い素材です。この素材に対して蒸散性と赤外線防透け性能を向上させたものが、「ドライエアロフローラピッド」です。
取材担当者
赤外線防透け性とは、どういった機能なのでしょうか。
ミズノ
近年、アスリートが赤外線カメラで盗撮される被害が増えています。赤外線防透け性とは、人体から出る赤外線を吸収する特殊な繊維により、赤外線カメラで撮影しても下着や体が透けにくくなるようにした性能のことです。
取材担当者
通気性が良いまま、赤外線防透け性を高めるのは難しそうですね。
ミズノ
そこが大変でした。厚い生地や金属コーティングで防透け性を高めると、通気性、風合いや汗処理性などが低下します。ドライエアロフローの素材に、蒸散性を向上させるため赤外線を吸収しやすい「特殊繊維」を使ってみたところ、通気性や速乾性などを維持しながら、蒸散性の向上だけでなく赤外線防透け性の向上にも効果的であることに気付きました。
取材担当者
生地を試作する際には、実際の着用感などもヒアリングされたのですか?
ミズノ
はい。アスリートから着用感をヒアリングした上で、特殊繊維の編み方はもちろん、特殊繊維の糸設計なども工夫しました。このような過程を経ることで、薄くて軽い生地で汗処理性を高めながらもしっかり赤外線の透過を抑制できる新しい素材を作ることができました。これが、ドライエアロフローラピッドの特長です。
取材担当者
特殊繊維の開発は、住友金属鉱山さん、共同印刷さんと3社での共創という形で行われたそうですが、特許に関してはどのように分担されたのですか。
ミズノ
3社それぞれが強みとしている技術領域が異なっており、各社がそれぞれ強みとしている技術領域に対する技術を特許権で保護しています。
取材担当者
自社独自の技術を特許権で保護しながら、アスリートが安心して競技に打ち込める環境を提供されていることがよく分かりました。
アイアンゴルフクラブヘッドの鍛流線技術

強度と打感を高める「グレインフローフォージド製法」

取材担当者
アイアンゴルフクラブの製造方法として用いられている「グレインフローフォージド製法」とは、どのような製法でしょうか。
ミズノ
グレインフローフォージド製法とは、加熱した1本の丸棒からフェース部とネック部を一体的に鍛造成型する製法のことです。これによって、繊維状の金属組織の流れである「鍛流線」を、フェース部のトゥ側からネック部に向かう方向に途切れず延在させるようにしています。
取材担当者
グレインフローフォージド製法で製造されたアイアンゴルフクラブは、どのような点で他社製品と異なるのでしょうか。
ミズノ
多くのメーカーは、板材をプレスするプレス成型や、型に溶かした金属材料を流し込む鋳造成型で、ヘッド部を製造します。これに対し、当社のこの製法では、まず、1本の丸棒のネック側を絞り、それを曲げることでおおよそのネックからフェースの形状を成型します。その後、曲げられた丸棒を金型に置き、約1トンのハンマープレスで何度か叩くことでヘッド部を粗鍛造します。これにより、クラブヘッドの重量や厚みがコントロールされます。粗鍛造したヘッド部をトリミングし、精密鍛造、研磨工程を経ることで、鍛流線が途切れにくくしたアイアンゴルフヘッドを作り上げることができます。
取材担当者
鍛流線がヘッドの先端まで途切れることなく続くことで、強度が高められるのですか。
ミズノ
一般的に強度が高くなります。また、実際に打ったときの音や感触も特別なんですよ。鋳造により製造したクラブや一般的な鍛造製法で作られたものよりも叩いたときの音が心地よく響きます。
取材担当者
高品質ゆえに、見た目だけそっくりで性能の劣る模倣品が、安価で販売されることもあるのでは?
ミズノ
そこは正直、知財面で大変です。ただ、当社のグレインフローフォージド製法はハンマープレスを使った熟練の技が必要であるため、技術的には簡単に真似できないと自負しています。ハンマープレスの作業員は全員、最低3年のトレーニングを経ています。監督者なしに一人で操作を任されるには、さらにもう2年のトレーニングが必要なんです。
取材担当者
日本刀も刀鍛冶の技で鍛流線が生まれることで、強度のある刀ができ上がると聞きました。素材の加工に対するこだわりは、日本独特かもしれませんし、他社が真似しようとしても真似できない、貴社の最大の強みでしょうね。ただそのレベルの高さゆえ、なかなか手を出しづらいゴルフ初心者もいると聞きましたが、その辺りはいかがですか。
ミズノ
そういう声があることは知っています。初心者向けのクラブも販売しているのですが、日本ではどうしても「上級者向け」のイメージが強くて、なかなか伝わりにくいのが課題ですね。アメリカやヨーロッパ、韓国などでは高いシェアを獲得しており、アベレージゴルファーの方々にも幅広くお使い頂いております。
取材担当者
実際には、初心者から上級者まで対応できるように様々な種類のクラブが用意されているのですね。
ミズノ
はい。ですが、スポーツ用品の企業としては、まず皆さんにスポーツを楽しんでいただきたいと思っています。ゴルフというスポーツを楽しめるよう、道具もまず使いやすい物から入っていただき、やがてゴルフが楽しくなれば、道具も自然にこだわるようになります。その時に、当社のゴルフクラブの感触を楽しんでいただければ、と思っています。
知財部の取り組み

ミズノの知財戦略

取材担当者
知財部門は何名くらいで運営されているのですか。
ミズノ
弁理士1名を含む10名の少数精鋭です。 特許・意匠担当と商標担当とに分かれて業務を行っており、各担当者は出願から、争いが起きた時の対応まで一貫して業務を担っています。
取材担当者
少人数で大きな企業を支えているのですね。海外展開も多いと思いますが、特許等の出願方針はどうされていますか。
ミズノ
「どの国でも取る」というわけではなく、競技によって需要が大きい国に合わせています。
野球はアメリカ、バドミントンは東南アジア、ゴルフやシューズは世界的に盛んなので広く取る、といった感じです。
取材担当者
国内外を問わず、さまざまな模倣品が出てきたと思います。どのように対策しておられたのですか。
ミズノ
ランバードのコピー商品については、商標チームが対策を行っているのですが、最近は実に精巧に模倣されますね。当社と全く関係のない女性用下着にロゴが使われた事例もありました。
取材担当者
少人数で知財全般を取り扱うなかで、外部の弁理士に期待することはありますか。
ミズノ
我々知財部は、開発や企画などの部署と緊密に連携しており、社内の風通しは非常によいと思っています。そうした場に、外部の弁理士の専門的なアドバイスが加わると、さらに効率的にアイデアの発掘などが行えるのではないかと思います。
ミズノのこれから
取材担当者
今後、スポーツ以外の分野にも力を入れる予定があるのでしょうか。
ミズノ
少子化が進むと、スポーツ人口が減少することは目に見えています。そのため、スポーツそのものからスポーツ関連、またはそれ以外の分野へも積極的に展開を考えています。既に、スキー板やゴルフシャフトなどのカーボン製品に対する知見を活かして、カーボンを用いた自動車の水素タンクの部品や、時計のベルトなどについても特許を取得しています。
取材担当者
2022(令和4)年に本社のすぐ隣に、イノベーションセンター「ミズノエンジン」を建設されましたね。
ミズノ
開発の効率とスピードを向上させていこうという狙いで、研究開発の基本となる「はかる」「つくる」「ためす」ための特殊設備を1カ所にまとめました。今後も、ユーザーを第一に考えながら世の中の素早い変化に対応し、果敢に挑戦していきたいと考えています。
取材担当者
本日は本当にありがとうござました。


ミズノ株式会社
ミズノ株式会社は1906年創業以来、「より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」を経営理念に、スポーツ品の製造及び販売、スポーツ施設の運営、各種スクール事業を展開。 近年は日常生活にもスポーツの価値を活用した商品やサービスの開発を積極的に進めている総合スポーツ用品メーカーです。


2025年3月28日掲載

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