商標登録:第5976329号
商標登録:第6014149号
アイデアと技術で『私らしい暮らし』を世界へ

大阪市西区にある平安伸銅工業は、「私らしい暮らし」を実現するために様々な商品を展開しています。その中でも、物を掛けたり吊るしたりするため、設置するスペースに合わせて自在に伸縮可能な「突っ張り棒」は、従来の突っ張り棒としての機能だけではなく、DIYパーツとしても使用され、使用する人の暮らしをよりよいものへと導いています。同社の製品開発に対する知的財産の役割や、中小企業ならではのフレキシブルな会社運営について伺いました。
アルミサッシから突っ張り棒まで
海外製品を日本文化にフィットさせてきた平安伸銅工業

- 取材担当者
- 「平安伸銅工業といえば突っ張り棒」と、今や世間に広く認知されていると思います。あらためて御社のあゆみについて教えてください。
- 平安伸銅工業
- 現社長・竹内 香予子の祖父である、笹井 達二が大阪の十三で1952(昭和27)年に創業して以来、現在親子で3代目になります。当初は銅の加工業でしたがその後業態が変わりアルミサッシの普及に尽力しました。日本で最初に米国からアルミサッシを輸入したのが初代です。米国で製造技術を習得して工作機械を導入し、アルミサッシのお風呂の折れ戸を考案したそうです。それまでの木のサッシに代わるものとして精力的に営業展開し、工務店や内装業者に対して、アルミサッシの取り付け方の指導も行っていたと聞いています。

- 取材担当者
- 先進的な方ですね。
- 平安伸銅工業
- 初代はプロダクトデザインを学んだ、ものづくりが大好きな人でした。また新しいものを見つけては日本の文化にフィットするよう変えていきました。発明にもどんどん取り組んでいたようで、多くの特許も取得していたようです。
- 取材担当者
- 2代目も、新製品で特許を取得しておられたのですか?
- 平安伸銅工業
- 2代目は特許取得よりも、大きく変化する社会に合わせてローコストオペレーションの体制を確立した人でした。大量生産、大量消費時代に社長に就任した2代目・笹井 康雄は、弊社の製品を市場に必要とされているものとそうでないものとに整理しました。また弊社の工場を中国に作ったのも2代目です。競合他社が中国の工場で大量生産し、安価で販売する動きに対抗するためのことでした。
- 取材担当者
- 新たな製品を次々に生み出す時代から大量生産の時代に移り、成熟したホームセンター市場に挑んでいったのですね。
- 平安伸銅工業
- 知財を取るより、いかにローコストで市場にフィットしたものを出していくかに集中していた時代でした。そうやって生き残りを図ったのです。

知的財産はお客様へ暮らしの価値を届けるための手段
- 取材担当者
- 現在は御社を代表する製品として、「突っ張り棒」が知られていますね。様々な製品を手がけられている中で「突っ張り棒」にフォーカスされたのはいつ頃からですか。
- 平安伸銅工業
- 1975(昭和50)年です。初代が、米国のシャワーカーテンを日本に紹介したのですが、その際、シャワーカーテンを吊り下げていた「テンションポール」という棒をヒントに、2代目がネジやクギを使わず収納空間を増やすことが出来る収納用品として、用途提案をしたのです。

- 取材担当者
- シャワーカーテンを吊り下げる棒をヒントに、突っ張り棒を考案したのですか。すごいアイデアですね。この商品はどれくらい売れましたか?
- 平安伸銅工業
- かなり売れました。特にトイレ内にタオルがかけられるタイプのものが人気だったと聞いています。日本家屋の間取りの寸法はだいたい決まっていますから、その間取りにうまくフィットさせたことが、広くユーザーに受け入れられたのだと思います。

- 取材担当者
- 現在、他社からもさまざまな突っ張り棒が販売されています。そのような状況で、どういうところで他社との差別化を図ってこられたのですか?
- 平安伸銅工業
- 「LABRICO(ラブリコ)」は、まさに弊社のターニングポイントでした。「LABRICO」とは、突っ張り棒の機構を生かしたDIYパーツです。具体的に突っ張り棒は、棒部分と、棒部分の両端に設置されるアジャスター部分とに分かれていますが、「LABRICO」は、このアジャスター部分のみで構成されています。そのため、例えば地面と天井とをつなぐ柱をDIYで作成したいときに、柱部分をホームセンター等で購入し、この柱部分の両端に「LABRICO」(アジャスター)を設置して、地面と天井とを突っ張るように配置すると、誰でも簡単に柱を作ることができます。

- 取材担当者
- パンフレットを見ていると、これまでの突っ張り棒の概念が変わりますね。とても突っ張り棒の機構を応用したとは思えないオシャレな棚や、テレビスタンドが紹介されています。自転車までかかっている写真もありますね。
- 平安伸銅工業
- 「LABRICO」には、棚受けやジョイントもありますので、これらを組み合わせて頂ければ収納ができるインテリアが既製品を買うよりも安価で、しかも自分の好みに仕上げることができます。
- また、「LABRICO」は、ネジや釘を使わずに柱を突っ張らせることができるので、賃貸住宅でも安心して利用できます。「LABRICO」の色や、使用する柱の色や材質等を自分好みに選んでいただければ、その人らしい空間作りができるものと考えています。
- 取材担当者
- 強度があるのに壁や床を傷つけず設置できるのは大変魅力ですし、暮らしが楽しくなりそうです。御社にとっても思い入れのある商品ですね。この商品は、どのような知的財産権で保護されているのでしょうか。
- 平安伸銅工業
- 「LABRICO」は、8件ほど意匠登録をしています。この意匠登録には関連意匠制度を使用しているのですが、関連意匠制度についてアドバイスして下さったのはお世話になっている弁理士の先生です。

- 取材担当者
- どのようなアドバイスがありましたか?
- 平安伸銅工業
- 意匠権というと、登録された意匠とほぼ同じ形状のものしか保護が及ばないものと思っておりました。しかし、関連意匠制度を使用して保護を行うことで、1つのデザインコンセプトから生まれたバリエーションの意匠についても保護することができ、意匠権の権利範囲を広げることができるというアドバイスを受け、関連意匠制度を利用して、模倣品に対応できる意匠権を取得することができました。また、弁理士の先生と相談しながらデザインとして保護すべき部分を抽出していくことで、戦略的に必要な知的財産権を取得していくことができるようになりました。
重視するのは情緒的価値 「暮らすがえの文化」を守り育てるために知財を使う

- 取材担当者
- 「LABRICO」と同様に、他の商品も知的財産権で保護されているのですか?
- 平安伸銅工業
- 製品を開発したからすぐに知的財産権を取るということではなく、そこには総合的な判断が必要だと考えています。製品のマーケット規模や競合他社の動向を調査したうえで、その製品が「お客様に価値を届けられるものかどうか」を重視しています。
- そのため、知的財産権が必要だと判断したらしっかりと権利を取りにいくようにしています。そうしておかないと多数の競合他社にすぐに模倣され、市場が縮んでしまいます。そのため、特に私たちの強みに関係すると判断できるものは重点的に権利を押さえています。
- 取材担当者
- 機構を真似られないように特許を取る、という観点ではないのですね。
- 平安伸銅工業
- ホームセンター市場は今やコモディティ化していて、売り上げ規模もほぼ横ばいです。その中で幅広く特許を取得したとしても意味がないと考えています。それより、私たちが大切にしている価値を製品に込め、その価値を守るための特許や意匠を取る方が、広い意味で自分たちの製品を守れると考えています。

- 取材担当者
- 御社にとって、重視される製品の価値を詳しく教えてください。
- 平安伸銅工業
- 一般的に製品にまつわる価値は、機能的価値や情緒的価値、社会的価値などさまざまあります。その中で、ここ10年ほどでかなり重要視されるようになってきたと考えているのが情緒的価値です。テレビコマーシャルでも、物そのものより物を手に入れてどんな暮らしが実現するかという物語を訴求することが増えています。弊社のパンフレットも、製品そのものより、まず「こういう暮らしをしてみたい」という暮らしのシーンをイメージしていただくことに重点を置いています。製品ではなく暮らし方の提案、「暮らすがえ」の発想から製品開発する企業でありたいと考えています。

- 取材担当者
- たしかに、御社のパンフレットを見ていると、自分だったらこの棚に何を置こうとかとイメージを膨らませてしまいますよね。
- 平安伸銅工業
- さらに情緒的価値は自己実現価値にも繋がっていきます。「LABRICO」のキャッチコピーは「メイク ユア カラーズ」です。その人の色を実現できるブランドであることを目指しています。
- 私たちは、大量生産大量消費ではなく、自分らしさを実現するための情緒的価値や自己実現価値のある製品を重視し、これらの製品を守るために知的財産権を取得していきたいと考えています。
- 取材担当者
- 確かにひと昔前のとにかく安ければ良いという、大量生産大量消費の時代なら情緒的価値は不要でしたし、必要最低限の特許だけを取得しておけば機能的価値も守れました。
- 平安伸銅工業
- そうなんです。私たちがなぜ意匠を大切にしているかというと、たとえばラブリコの場合、もしもローコスト大量生産の戦略を取るとすれば、カラーはよく売れる白と黒の2色しか作らなかったでしょう。しかし弊社は情緒的価値戦略である「メイク ユア カラーズ」というコンセプトを打ち出していますので、あまり売れないヴィンテージグリーンも用意しています。いろいろな色から自分好みの色を選ぶというお客様の楽しみを提供できますし、何より「こういう暮らしをしたいな」という情緒的価値を提供することができます。この情緒的価値の提供方法を模倣されては困るので私たちは意匠をとても大切に考えています。
- 取材担当者
- 正直いって、インテリアとしてヴィンテージグリーンは個性的すぎてあまり売れないのではないかと思うのですが、在庫のためコストがかかって販売価格も上がってしまうのではないでしょうか?
- 平安伸銅工業
- おっしゃる通りです。しかし例えそうであったとしても、弊社のビジョンである「アイデアと技術で『私らしい暮らし』を世界へ」を実現するためには、コストがかかっても「意匠」という知的財産をしっかりと守ることのほうが大切だと考えています。そうすることで、お客様が「自分のカラーで暮らしを彩る」という自己実現が叶うのなら、それはブランドにとってかけがえのない付加価値だと考えています。

ビジョンを明確化すれば、目指す方向はブレない

- 取材担当者
- 御社のキャッチコピーで印象的なのが「さあ、暮らすがえ」です。これも商標登録されていますか?
- 平安伸銅工業
- はい。商標登録をしています。
- 取材担当者
- 普通なら「暮らしがえ」となりそうですが。
- 平安伸銅工業
- 実は当初「暮らしがえ」を考えていましたが、弁理士の先生に「すでに他社が商標権を取得している」と指摘されました。そのため、別のネーミングを考えるため、さらにブラッシュアップを行い、この「さあ、暮らすがえ」が生まれました。このネーミングには、コピーライターの方にもご協力いただきました。
- 取材担当者
- さすがのセンスですね。
- 平安伸銅工業
- 弊社は、私たちのビジョンに共感してくださる外部のプロフェッショナルの方々に協力をいただいています。共感があれば目指す方向がブレることなく定まりますし、一つの目標に向かって一緒に歩んでいただく中では、外部も内部も関係ないと考えています。

- 実は、さきほどからお話に出ている当社ブランド「LABRICO」の命名にも弁理士の方のアドバイスがありました。当初、仏語でDIYという意味のブリコラージュから「ブリコラ」というネームを考えていたのですが、すでにブリコラは商標登録が存在しているから権利取得が難しいかもと指摘されたのです。その時、「例えば、文字を逆にするのも一案ではないか」と提案していただき生まれたのが、「ラブリコ」です。

- 取材担当者
- そのような場面にも弁理士が関わっていたとは驚きですね。
- 平安伸銅工業
- 今思えば、当時の一連のやり取りや、意匠権や商標権の取得方法のアドバイスがなければ、現在の「LABRICO」は無かったかもしれません。弁理士の方がラブリコ躍進の立役者になってくださったのは、間違いのない事実です。
中小企業の知財部であってほしい
- 取材担当者
- 弁理士に対して、こうあってほしいという要望があればお聞かせください。
- 平安伸銅工業
- 大企業のように、社内の知財部のような存在であり続けてくださるとうれしいですね。例えば、「過去に似たプロダクトでこういうことがあったから、商標を取っておいた方が良い」とか、「業界の傾向を見て、この範囲まで押さえておいた方が良い」など、会社の歴史や業界の動向を踏まえたアドバイスがあるととても助かります。

- 取材担当者
- なるほど。たとえ弁理士側の担当者が変わったとしても、そうした知識はきちんと引き継ぐ必要がありますね。
- 平安伸銅工業
- 知的財産権の権利取得や維持にはコストもかかりますから、必要がないものについては率直に言ってくださるとありがたいです。会社全体を俯瞰してみて頂いて、その会社に本当に必要な知的財産を見極めてアドバイス頂ければと思います。まさに、中小企業の知財部としての役割ですね。そのためには、会社のことを知ってもらったり、また、会社の理念に共感して頂いて、一つの目標に向かって一緒に伴走してくれる存在であってほしいです。
- 取材担当者
- 本日はお忙しいところありがとうござました。

平安伸銅工業株式会社
1952(昭和27)年創業で、アルミサッシや突っ張り棒を世に広めた平安伸銅工業。特に突っ張り棒は1975(昭和50)年発売以来、機能性やデザイン性において改良を重ね、今や業界トップシェアを誇る。さらにDIYパーツのブランド「ラブリコ」や「ドローアライン」などを生み出し、一人ひとりの暮らしに合った「私らしい暮らし」が実践できる未来を目指して躍進し続けている。
2025年3月14日掲載