活動紹介

HOME > 関西会について > 知財歴史探訪 > 近江度量衡株式会社
知財歴史探訪 関西の企業の知的財産の創出や利活用の歴史を紹介します。
穀物の含水率測定装置
特許:第1472836号 権利者:近江度量衡株式会社
任意形状青果物の内部品質選別方法
特許:第2108480号 権利者:近江度量衡株式会社・ヤンマー農機株式会社・加藤宏郎
果実計測装置
特許:第3100686号 権利者:近江度量衡株式会社・ヤンマー農機株式会社・加藤宏郎
探訪先: 近江度量衡株式会社 

はかり続けて100年以上!
秤の技術をコアに、ニーズに応え進化し続けてきた
「近江度量衡」

滋賀県草津市にある近江度量衡株式会社は、大津市で1900(明治33)年に創業した老舗の計量装置の総合メーカーです。時代のニーズに応えながら、あらゆるモノをはかる器具や装置の設計、製造に挑み続けてきました。そのチャレンジによって、取得した特許も100件以上。「人類の文明が発展する過程で、“はかる”は欠かせない」という近江度量衡の9代目社長、小谷俊彦様と社員の皆様にお話を伺いました。

日本の「はかる」の変遷を見てきた
取材担当者
御社の歴史を教えてください。
近江度量衡
弊社は、1893(明治26)年に施行された「度量衡法」に基づき、1900(明治33)年3月3日に滋賀県大津市で設立されました。7名の資本家らによって、民間人だけで作られた滋賀県初の株式会社です。以来明治、大正、昭和、平成、そして令和と1世紀以上にわたり、その時代ごとのニーズに合わせて、さまざまなモノを計量する器具や機械、装置を開発し製造してまいりました。
取材担当者
今年で創業126年ですね。当然その間には戦争もありましたし、激動の時代をくぐり抜けて来られましたが、戦時中や戦後はどのような状況でしたか?
近江度量衡
第二次世界大戦中は、国内唯一の指定工場として大型計量器や精密計量器などを製作し、戦後もしばらくは米軍の指定工場として稼働していました。その後は経済発展と共に、各産業界の計量機器の需要も増大し、さらに電子技術の発展と相まって、高まる高精度化とシステム化の要望に応えています。
取材担当者
「はかる」と聞くと、最初に「重さをはかる」が思い浮かぶのですが、御社もそうだったのでしょうか?
近江度量衡
もちろんです。創業当時は質量や体積を正確に測るための計量器具を製造していました。「天秤」にはじまり、「棒はかり」や「バネはかり」、「ダイヤル式はかり」、「槓桿(こうかん)式さおはかり」、さらに「ロードセル」へ変遷していきました。
やがて産業や流通の基盤が整備されると、秤(はかり)も高度化しました。また農産物や工業製品の多様化で、はかる対象が重さや量だけでなく、形状やばらつき、品質、処理速度などに広がりました。重量値以外の「はかる」技術を確立したことで、「誰が測っても同じ結果になる」、「公正で信頼できる計量を社会に届ける」を使命に、社会に貢献してきました。
取材担当者
まさに、日本の「はかる」の変遷に携わってこられたのですね。


3度の転機で「はかる」の概念が変遷
取材担当者
長い歴史の中で技術を磨いてきた御社から見た、「はかる」の転機を教えてください。
近江度量衡
転機は3つあったと見ています。 第一の転機は、1965(昭和40)年頃に登場した荷重変換機、ロードセルです。ロードセルと表示器を使用することで、デジタルによるデータ出力が可能になりました。自動制御やコンピュータによるデータ処理で、重さが電気信号で読み取れるようになったのです。何度はかっても同じ数値が取れるようになった、つまり再現性が向上したのです。さらに自動計量や連続計量が高速化したので、生産ラインに「はかる」が組み込まれて生産プロセスの一部になりました。
取材担当者
デジタル化で高速性と確実性が増し、「はかる」を利活用できる場が増えたのですね。第二の転機はいつですか?
近江度量衡
1990年代です。それまで、例えば農産物の選別の場面で「はかる」と「重さ」は同義でした。ところがその頃から、形や色彩、傷、内部品質までもが「はかる」対象になっていったのです。見た目が悪いとか、食べてみてすっぱいとか、中身がスカスカとか、目に見えない状態まで「はかる」ようになりました。 それによって農産物の価値最適化のための的確な判断が可能となり、賢い運用を行うための仕組みが整っていきました。「はかる」の意味合いが変化したわけです。
取材担当者
最後に、第三の転機はいつでしょうか?
近江度量衡
それは「今」ではないでしょうか。AI(人工知能)の登場によって、「はかる」ことで農産物の品質を予測することを可能にするデータ技術へと進化しています。
取材担当者
農業にもAIが本格進出していますね。
近江度量衡
これまでは、選別機によって収穫した農産物の重さ、大きさ、形、あるいはキズの大きさをはかってきました。つまり、農家の方々の1年間の頑張りをはかってきたのです。 私たちは、それ以前の過程に注目しています。土壌をはかり、果樹の生育に適しているかを調査する。同じエリアでも大玉の実る畑の土壌との違いは何か。それらを農家へフィードバックして活かしてもらう試みを行っています。一定レベルの品質の農産物が採れるようになれば、それが将来、産地全体のブランド力向上につながると考えるからです。
取材担当者
まさに地域貢献ですね。
近江度量衡
今後はAIによってこうした取り組みがさらに加速するでしょう。毎年何万、何億玉という個体データが蓄積されていくからです。それがビッグデータとなり、未来予測までできるようになるのです。それは、私たちができる産地へのお手伝いであり地域貢献です。そのためには、正確な計測が必要不可欠だと考えています。


知財のヒントは「こうだったらいいのに」の中に
取材担当者
第二の転機といわれる1990年代頃から、御社は多くの特許を取得されています。1988(昭和63)年には、「穀物の含水率測定装置」の特許を取得されました。これで重量値以外の「はかる」技術を確立されましたし、水分計の技術を応用してスイカの空洞化を計測する「果実計測装置」も開発し、特許を取得されています。
近江度量衡
スイカやメロンは中の密度も測れますが、弊社がすでに開発していた別の農産物の計測方法を応用しました。密度がわかれば中の空洞具合もわかりますから、「はかる」は、さまざまな方向から品質を測定する方向へシフトしていきました。
取材担当者
御社が持っている特許権は、何件ですか?
近江度量衡
100件以上です。「水分計」や「メロン箱詰めロボット」、「ゴルフクラブバランサ」、「ゴルフボール用コンプレッションテスタ」などに関する様々な特許を有しています。
取材担当者
ゴルフに関する特許ですか?
近江度量衡
ゴムメーカー様との共同開発で取得した共有特許です。ゴルフボール用コンプレッションテスタや、ゴルフクラブのバランス測定器をゴムメーカー様と開発しました。
弊社は、一般産業と農業や畜産分野が二本柱で、自分たちの技術が活躍できるフィールドでしっかりと事業を進めていきたいという思いがあります。ゴルフボールは、ゴムを作る過程でさまざまな薬品の計量が必要なため、従来から弊社のシステムを使っていただいていたのですが、そのご縁で共同開発させて頂きました。
取材担当者
なるほど。ちなみに畜産業界ではどのような分野に力を入れておられますか?
近江度量衡
例えば牛の場合、昔は体重を測るだけでも大仕事でした。そこで、機械の上を歩かせるだけで瞬時に体重測定が可能な装置が誕生しました。IDタグを付けるので、個体識別も容易です。
また現在、牛の肥育成績を左右する指標として、1日あたりの平均体重増加量(デイリーゲイン)が重要視されていますが、そこに大きく関わる飼料について、以前は人が手ではかっていました。一頭ごとに適した配合をはかり、記録を付ける作業はベテランの経験と人手が必要でしたが、今は自動化されています。
こうした進化は、「こうだったらいいのに」という声が端を発し、そこからさまざまな知的財産が生まれてきていると感じます。
取材担当者
お話を伺っていると、明治時代の単純な「重さを正確にはかる」から、令和の「価値を見極め、社会を最適化するためにはかる」まで、世間の価値観の変化と、それに合わせた「はかる技術」の変化のスピードを実感します。
近江度量衡
そうですね。しかしその変化こそが、弊社の1世紀以上にわたる技術の変遷です。
取材担当者
また、特に第一次産業では後継者不足が深刻な問題となっているのではないでしょうか。
近江度量衡
そのために力を入れているのが、自動化です。AIでも、例えば画像処理の技術を用いて果実の選別を機械がやれるよう注力しています。やはり地方にいくほど、現場の人手不足は深刻で、それにまつわるご要望も多いです。省人化に対応する機械をどんどん開発していきたいですね。


社員一人一人が知財担当者だからスピーディ
取材担当者
「こうだったらいいのに」という相談や悩みは、どのようにして拾っているのですか?
近江度量衡
主に営業担当です。お客様の「こうだったらいいのに」「あれば便利なのに」という声を社に持ち帰ります。
取材担当者
現場の声を大事にされているのですね。特許権者として御社と他企業名とが併記された発明が多いようです。共同開発されるケースが多いのですか?
近江度量衡
多いです。弊社は計量器のサプライヤーであった時期が長く、秤だけではできないことも多かったので周辺機器メーカー様などとアイデアを出し合い、発明したものが多くあります。
取材担当者
御社から相手企業様に、新規提案として持ちかける、あるいは先方から「一緒に開発しましょう」などと持ちかけられる、どちらが多いですか?
近江度量衡
両方ですね。寄せていただいた課題に対して解決方法を共に探したり、「こんなモノができましたが、こういう展開はできないでしょうか」と相手企業様に持ちかけたりもします。いずれにしても、共同開発する相手企業様とは強い信頼関係を築くことになります。知的財産は、私たちにとって有益な経営資源と言えるでしょう。
取材担当者
特許関連の部署はありますか?
近江度量衡
ありません。なぜなら弊社では、社員誰もが顧問弁理士に相談できる体制を整えているからです。それによって素早い相談、検討、出願が可能です。また、新技術に関する検討会を定期的に開催し、技術部門と開発部門、営業部門の3部門で情報共有を行っています。先行技術の調査も行い、その部分に抵触しない技術開発を可能にしています。
取材担当者
知財に関する社内教育や、若い社員向けに知財意識の醸成など、どのような取り組みを行っていますか。
近江度量衡
今のところ、具体的な取り組みはありません。ただ今後は取り組んでいく必要があると感じています。


伝統を守りつつ、革新を恐れない
取材担当者
この計量装置業界における知的財産の重要性や課題については、どのようにお考えですか?
近江度量衡
計量装置は、用途も見た目も製造会社による違いはほぼありません。しかし、技術の差が見えにくいからこそ、例えば温度補償回路とか振動吸収構造など、知的財産で差を作る必要があると考えています。さらにデジタル化が進んだ現代において、測定技術における知的財産の重要性はいっそう増していると考えます。
取材担当者
知財活動を通じて得られた企業価値やブランド価値について、具体的な事例があれば教えてください。
近江度量衡
「穀物水分測定器」の開発で、全国にある穀物乾燥施設の80%以上で使用されています。「スイカの空洞果測定の技術」や、「つる付きメロンの全自動箱詰め装置」は、他社にない独自技術で営業面の優位性を誇っています。
今後は、現在開発中のAI画像処理を使った農産物の選別設備の省人化、無人化システムの開発を加速させていきたいですね。
取材担当者
今後の知財活動を含め、注力したい分野や技術はありますか?
近江度量衡
やはり、AI関連技術です。現在最も力を入れて取り組んでいます。具体的には椎茸や玉ねぎ、トマトなどの画像処理です。またAI画像判定アルゴリズムや遠隔監視、予兆保全、IoTなどの知財化によって、生産ラインが止まらないことそのものが価値になる時代だと考えていますので、そこにも注力していきたいと思います。
取材担当者
100年企業でありながら、さらなる進化を目指す御社の姿勢は素晴らしいと思います。御社が大切にしていることを教えてください。
近江度量衡
「不易流行」です。「不易」はいつまでも変わらないもの。「流行」は変化し続けるものという意味で、一見、相反する意味にみえます。しかし、古くからの技術の積み重ねがあるからこそ利活用でき、そこから新しいものを生み出すことができます。この精神で、100年以上やってきました。これからも伝統は守りつつ革新を恐れない。そんな経営体制でやっていきたいと思います。
取材担当者
ありがとうございました。

近江度量衡株式会社
近江度量衡株式会社 (滋賀県草津市)は、1900(明治33)年創業の計量装置の総合メーカー。果実の選別機からトラックスケールまで、農業や産業を支える様々な製品やシステム開発を行っている。AIを活用した最新技術で「はかる」領域を広げ、127年にわたり挑戦を続けている。


2026年3月11日掲載

  • キャラバン無料 交通費も完済会負担 知財訪問コンサル
  • 無料相談会のご予約 大阪 京都 奈良