



アスリートの活躍を支える
アシックスブランドを、
我々は知的財産の視点から
世界的に保護しています。

トップアスリートから一般の方まで幅広く支持される、業界屈指の総合スポーツ用品メーカー「アシックス」。いよいよ間近に迫った東京2020 オリンピック・パラリンピックでは「東京2020 ゴールドパートナー(スポーツ用品)」として、日本選手団のウエアや競技ボランティアのユニフォームなどを提供します。今回は神戸ポートアイランドの本社を訪ね、アスリートの活躍を支えるアシックスブランドの商品、さらには知的財産にまつわる取り組みについてお伺いしました。
アシックス、オニツカタイガーはどう違う?
- 取材担当者
- “アシックス”といえば、私が小学生の頃からすでに、トップアスリートが履いているシューズのイメージがあります。本気で競技に取り組んでいる人も“アシックス”を選んでいた気がします。
- アシックス
- ありがとうございます。弊社は1949 年9 月に創業者・鬼塚喜八郎が鬼塚株式会社を創業してバスケットシューズを製造・販売したことに始まります。その後、「オニツカタイガー」ブランドを立ち上げ、スポーツシューズの開発・製造をスタートし、その品質により世界で認められるブランドになりました。
- 取材担当者
- 知的財産権との関わりはいつ頃からですか。

- アシックス
- 創業者の鬼塚喜八郎がいわゆるアイデアマンで、シューズに関する新しい機能などを次々と考え出す方でした。さらに知的財産を重要視し、当時から特許、実用新案、商標、意匠など権利の取得にも積極的に取り組んでいました。

- 取材担当者
- 創業時から知的財産を大切にする風土があり、それが今まで受け継がれてきたのですね。現在、御社の知的財産部門が担う役割についてお聞かせください。
- アシックス
- 弊社の知的財産部には4つのチームがあります。知的財産の権利化及びそれらの管理を行う「特許チーム」と「商標・意匠チーム」、アシックスブランドを知的財産面から守る「ブランド保護チーム」、そして、知的財産をベースとした調査・分析を行い、戦略的な企画・立案を手がける「知的財産戦略チーム」で編成されており、各チームが相互に協力し合って活動しています。
- 取材担当者
- 商標について気になっていたのですが、御社には基幹ブランドとして“アシックス”“オニツカタイガー”の2つがありますが、どのように使い分けられているのでしょうか。

- アシックス
- “アシックス”は、スポーツに取り組む方々に向けたスポーツパフォーマンスブランドです。一方、オニツカタイガーはスポーツファッションブランドになります。実は、創業時に立ち上げた“オニツカタイガー”ブランドは一時期消滅していましたが、2000 年代に入ってヨーロッパのファッション市場でクラシックタイプのシューズが再評価される流れをキャッチし、レジェンドブランドとして復刻させることになりました。
- 取材担当者
- 海外のファッション市場を狙っての復刻だったのですか。

- アシックス
- はい。発売と同時にヨーロッパを中心に高い評価を獲得し、日本でも注目を集めるようになりました。その後、映画「キル・ビル」で主人公が着用した“オニツカタイガー”のスニーカー「TAI-CHI(タイチ)」が爆発的な人気を呼んだことがあります。最近でも人気映画の中で特に折々の時代背景を演出するときに、“オニツカタイガー”のシューズがたびたび登場しているようです。もちろん、この2つのブランド名、ロゴマークともに商標権を取得しています。

スパイラル
- 取材担当者
-
先ほどお伺いした“アシックス”ブランドには、ロゴの冒頭に印象的な「
」マークが付いていますね。
- アシックス
-
この「
」を我々は“アシックススパイラル”と呼んでいて、誕生したのは1992年です。アシックスのイニシャルである「a」をモチーフに、スポーツが持つ限りないスピード感や躍動感、無限の可能性を、なめらかな曲線を用い、シンプルかつ個性的に視覚化しています。
- 取材担当者
- このアシックススパイラルを制作することになったきっかけは?
- アシックス
- アパレル事業において、以前は競技ごとにブランド的な名称が付いていました。それを整理・統一しようということでワンブランド化の話があがり、そのプロモーションマークとしてアシックススパイラルが誕生しました。当初は、“asics”の文字と一緒に使用していましたが、最近ではアシックススパイラルの認知度が高まってきたため、単体で使用する機会も多くなってきています。
- 取材担当者
- アシックスといえばアシックススパイラルとともに、特徴的な4 本ラインを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
- アシックス
- そちらはアシックスストライプと呼んでいて、特にシューズの側面に用いています。昔はオリンピックごとに、側面に位置するラインのデザインを変更していました。そこで、1968 年のメキシコオリンピックに向けて新しいラインを作ることになり、社内公募によっておよそ200 ものアイデアが集まりました。その中からひとつに絞り込み、テレビやフィールドで見て一瞬で視認・判別できるように改良を重ねた末、1966 年に誕生したのがアシックスストライプです。当時は「メキシコライン」という名称で国際デビューしています。

(現アシックスストライプ)
- 取材担当者
- アシックスストライプは御社のブランドを象徴するマークになっていますが、メキシコオリンピック後も変更を行わずに使い続けたのはなぜですか。
- アシックス
- デザイン的に優れていたことが一番の理由です。また、この頃からアメリカを中心に「ブランディング」という学問が確立されてきました。そこで、オリンピックごとにデザインを変えるのではなく、恒久的に使用していこうという意見があったのだと思います。ちなみにこのアシックスストライプは我々にとって最も大事な知的財産のひとつということもあり、およそ190 ヶ国で商標権を取得しています。

一足のシューズに、数々の知的財産権
- 取材担当者
- 御社のスポーツシューズには独自の機能が搭載され、数々の知的財産権を取得されていますね。
- アシックス
- 例えば、スポーツシューズのミッドソールと呼ばれる部分には、クッション性や軽量性などが求められます。弊社では、このような要求に応えるミッドソール素材としてスポンジ材「FLYTEFOAM(フライトフォーム)」を採用しています。このミッドソール素材には繊維を内在させた気泡と、非内在の気泡があり、繊維の長さや材料を工夫して繊維内在気泡のほうが大きくなるように設計しています。これにより、高いクッション性を持ちながら軽量化を実現しました。実は弊社では、こうした部材は素材から開発しています。

(特許第 5756893 号)
- 取材担当者
- 既存のものを採用するのではなく、素材そのものを一から作り出しているのですか。
- アシックス
- はい、それがアシックスの強みです。そのため、素材に関連する特許権を数多く取得しています。もちろん素材だけでなく、屈曲溝を設けた靴底「FLEXGROOVE(フレックスグルーヴ)」や、靴底に縦長の溝を設けることでスムーズな体重移動と安定性をもたらす「GUIDANCE LINE(ガイダンスライン)」をはじめ、機能においても積極的に特許権を取得しています。


- 取材担当者
- 素材や技術に関しては特許権だけでなく商標権も取得されていますが、その理由をお聞かせください。
- アシックス
- シューズをよく見るとお分かりいただけますが、素材や機能を搭載している部分に名称を記載しているんですね。例えば踵の側面には「FLYTEFOAM(フライトフォーム)」と刻まれています。


- 取材担当者
- 本当ですね。シューズの裏を見てみると、こちらにもそれぞれの名称が記載されています。
- アシックス
- このように弊社では複数の商品にまたがって使われる素材や機能については名称を付けて搭載箇所に記載するとともに、商標権を取得して保護に努めています。
- 取材担当者
- スポーツシューズ以外の知的財産にはどのようなものがありますか。

- アシックス
- アシックスは野球用品においても高い評価をいただいています。今、メジャーリーグのロサンゼルス・エンゼルスで活躍している大谷翔平選手をはじめ、アドバイザリースタッフとして多くのプロ野球選手と契約を交わしています。これらを含む多くの開発過程で生まれた技術・デザインについては必要に応じて特許権や意匠権などを取得しています。例えば、写真のバッティンググローブは、独自の逆巻きベルト構造と伸縮素材を合わせることで、グリップ時の甲部小指側のフィット性を向上させています。また、立体的なパターン設計・縫製を採用した構造により、バットを握った際に手のひらにしわが寄りにくくなっています。そのほかにも水着やゴルフのクラブヘッドをはじめ、さまざまな競技の商品において特許権、商標権、意匠権などの知的財産を取得してきています。
- 取材担当者
- 技術開発を進めていく中で、知的財産部の方々はどの段階から関わっておられますか。
- アシックス
- 以前は技術者側から、「こんなものができたけど、知財として権利化できないだろうか」という相談を受けてから動き出すことが多かったです。現在は、弊社の研究機関であるスポーツ工学研究所に知財部員が入り込んで、企画段階から参加し、知的財産の視点でアドバイスやコンサルティングを行っています。これにより、早期に発明を発掘でき、将来の事業を見据えた知財戦略を立てて、権利化を進めることができます。例えば、知財の権利範囲を広げて他の事業にも展開できないかということも検討するようになりました。まだまだ改善途上ですが。

ブランド保護チームは、戦略的な模倣品対策を展開

- 取材担当者
- アシックスのスポーツ用品は世界中で愛用されていますが、海外の売り上げ比率はどれ位ですか。
- アシックス
- およそ売り上げ全体の75%から80%を占めています。
- 取材担当者
- 国内よりも売り上げ比率が高いのですね。海外市場に向けて、知的財産部としてはどのような活動を行われていますか。
- アシックス
- 特許チーム、商標・意匠チームでは、日本、アメリカをはじめ、ヨーロッパ、オーストラリア、中国など主要国で特許権、商標権、意匠権を取得し、事業を保護しています。ブランド保護チームでは模倣品対策などの権利行使を担っています。

- 取材担当者
- 模倣品対策は、いわゆるいたちごっこやモグラたたきと言われていて、1つの模倣品をつぶしても、他の業者が別の模倣品を売り始めるという状況で、各社対策に苦慮していると伺っています。
- アシックス
- はい。我々は、従前のモグラたたき的対策から脱却し、もっと根本的で効果のある対策を目指しています。そのためには、社内の経営層や他部門の理解、及び、社外との連携が重要となります。これらを実現するため、我々はまず、模倣品の定義をすることから始めました。模倣品といっても時代を追うごとに進化しているし、営業の社員、開発・生産の社員、あるいは、経営幹部にとっても模倣品の定義が異なります。我々は模倣品を世代ごとに分類し、それぞれの世代に見合った施策を講じています。
- 第一世代は「部分模倣」で、第二世代は「全体模倣」です。これらは、アシックスストライプなどの弊社の商標を無断で使用した商品であり、粗悪な品質の商品も見受けられます。第三世代は「改変模倣」であり、一見、弊社の商品のように見えますが、弊社の商標によく似た改造マークを用いています。厄介なことに第三世代のマークの中には商標出願、登録されたものもあり、いわば商標武装された模倣品とも言えます。第一世代、第二世代の模倣品に対しては我々の商標権をもって権利行使ができますが、第三世代の場合はそれが容易ではありません。第三世代の模倣品に対しては、我々は問題視し、特に予算と時間をかけて取り組んできました。

- 取材担当者
- 模倣品であるにも関わらず、商標の審査に通ることがあるのですね。
- アシックス
- 近年、商標出願が激増している国があり、そのような国では、十分な審査ができず、本来拒絶されるべき類似の商標出願が登録されることがあるようです。我々はこの商標を使用した模倣品を第三世代と定義しています。第三世代の模倣品を商材に堂々と用い、アシックスを装って公然と大手ショッピングモールで店舗展開を企む業者まで出現しています。ブランドハイジャックのような行為です。
- 取材担当者
- そのような第三世代の模倣品に向けて、具体的にはどのような対策を行われているのですか。
- アシックス
- まず、悪意のある商標出願の監視を強化し、商標公告に対して異議を行っています。しかし、出てきたものに対応するモグラたたき的対策には限界があります。そこで、同様の被害に遭っている企業と我々が行ってきた戦略的な活動内容を共有するようにしています。我々だけの力ではなく、多くのブランドオーナーとともに模倣品に対する活動を行うことで、当局を動かしたいという狙いがあります。実際、我々の活動により当局が模倣品業者の摘発に乗り出した例もあります。また、中国では、悪意のある商標出願やそれをサポートした代理人、さらに悪意のある商標を用いたビジネスを厳しく規制する法改正が行われ、2019 年11 月から施行されました。我々の取り組みや事例が参酌されているのかなと感じています。
- 取材担当者
- 今後に向けた知的財産部の活動についてお聞かせください。
- アシックス
- 現在は、東京2020 オリンピック・パラリンピックに向けた取り組みに力を注いでいます。トップアスリートに最高のパフォーマンスを発揮して頂くために、さまざまな技術開発が進められています。それをいかに権利化していくかということに注力しています。また、東京2020 ゴールドパートナーの立場から、無断でオリンピックロゴなどを使用して宣伝活動を行うアンブッシュ・マーケティングに対して、知的財産部が法務部と協力してイニシアティブを取って対策を行っています。「スポーツでつちかった知的技術により、質の高いライフスタイルを創造する」というアシックスのビジョンを、今後とも知的財産の側面から支え、推進していきたいと考えています。

- 取材担当者
- 今後に向けて、私ども弁理士にもいろいろとご相談いただければと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

(画像は本社ビル)
株式会社アシックス
1949 年9 月、創業者・鬼塚喜八郎により鬼塚株式会社を設立し、バスケットシューズほかスポーツシューズの開発・生産・販売を開始。1963 年、商号をオニツカ株式会社に改称。1977 年、オニツカ株式会社、株式会社ジィティオ、ジェレンク株式会社の3社が合併し、株式会社アシックスが誕生。社名の由来は、「もし神に祈るならば、健全な身体に健全な精神があれかしと祈るべきだ」というラテン語“Anima Sana in Corpore Sano”の頭文字「ASICS」から。現在ではトップアスリートから一般ユーザーまで独自の商品とサービスを提供し、世界中で愛されるグローバル企業として成長を続けています。
2020年1月27日掲載