世界初となる
魚群探知機の実用化以来、
古野電気の成長は
知的財産権と
ともにあります。

1948年、世界ではじめて魚群探知機の実用化に成功して以来、数々の世界初・日本初の製品を提供し続ける古野電気。 今日では総合舶用電子機器メーカーとして世界シェアトップ(自社推定)を誇る同社を訪ね、魚群探知機誕生のエピソードや海外戦略、 そして企業の躍進を支えてきた知的財産への取り組みなどについてお聞きしました。
運と勘に頼らず、科学の力で魚を探すという試み
- 取材担当者
- 私は釣りが趣味なのですが、狙ったポイントでアタリがこない時は「魚群探知機があれば」といつも思います(笑)。 御社が魚群探知機を世界ではじめて実用化されたとお伺いしましたが、当時のことを詳しくお聞かせいただけますか。
- 古野電気
- 弊社の創業者である古野清孝、清賢兄弟は、もともと長崎県でラジオの修理と漁船の電気工事を営んでいました。 戦後、漁業者さんとの関わりの中で水中の魚の姿を探す方法を模索することに兄の清孝が興味を持ちまして、 運と勘に頼る漁業の世界を科学の力で何とかしたいと考え、魚群探知機の開発を志すことになったと聞いています。

技術管理室・谷澤室長
- 取材担当者
- 開発にあたり、具体的なアイデアをお持ちだったのですか。
- 古野電気
- 終戦後、海軍の放出物資の中に超音波を使って水深を測る音響測深機を見つけ、これをもとにして開発に取り掛かりました。 超音波を海の中に送信して、魚群からの反射エコーを受信することで魚群を映像化しようという試みです。 魚群からの微弱なエコーを受信するために改造を重ねたそうです。
- 取材担当者
- 魚群探知機として実用化されたのは、いつ頃のことですか。
- 古野電気
- 1948年です。実験機を装備した漁船が魚群を見つけ、実際に漁獲をあげることに成功しました。

初期の記録式魚群探知機
- 取材担当者
- 創業者であるご兄弟以外に、魚群探知機の開発に取り組んでいたライバルのような方はいらっしゃらなかったのですか。
- 古野電気
- 当時、海外の研究家も含めて同じように魚を探す仕組みを研究されていた方が複数名いらっしゃって、 結果的にはタッチの差で弊社が世界初という栄誉に授かりました。
- 取材担当者
- 科学の力で魚を探すということは、世界中の夢だったわけですね。知的財産権も出願されましたか。
- 古野電気
- 実は、魚群探知機の基本的な原理となる磁歪振動子に関しては、東北大学と大阪大学の教授が共同で特許権を保有されていました。 弊社ではお二人にこの特許の実施許諾を申し入れ、快諾されたと聞いています。
- 取材担当者
- その原理を魚群探知機に応用されたわけですね。
- 古野電気
- はい、そうです。両教授から許諾を得たことで魚群探知機を完全に自社生産することができるようになりました。 知的財産権として弊社が出願したのは、魚群探知機の映像表示に関する開発です。
- 取材担当者
- 現在は魚群の映像をカラーで表示されていますね。
- 古野電気
-
はい。初期の頃は魚群の映像を記録紙に出力していたのですが、この記録機構には大変なコストがかかっていました。
そこで弊社では、記録ペンを付けたループ状のベルトが回る「ベルト式ペンドライブ」と呼ばれる機構を開発し、
実用新案を取得しています。
これはシンプルな仕組みでありながら信頼性が高く、その後の記録式表示機の主流となりました。
さらに、当初は主にまき網漁に使われていた魚群探知機を底引き網漁に使えるようにした、 「ホワイトライン」と呼ばれる海底識別処理技術で特許を取得しています。

- 取材担当者
- 戦後すぐの時代、世間的にはまだまだ知的財産権に対する意識が低い中、御社ではその重要性をいち早く感じられていたわけですね。

初期の記録式魚群探知機による魚群の映像
- 古野電気
- 創業当初から知的財産権に対する意識は高くそのDNAは今も受け継がれています。 創業者の一人である故古野清孝が直々に部署を訪ね、 「知的財産権は大切だから、ぜひ頑張ってほしい」とよく励ましてくださったことを懐かしく思います。
知的財産権を積極的に活用した海外戦略を展開
- 取材担当者
- 日本で成功を収めると同時に、海外展開にも積極的だったとお伺いしています。
- 古野電気
- 海があるところには漁業者さんがいて、魚群探知機を必要とされています。 今では世界中の主要港に関係会社・代理店も含めた販売・サービス網を築いており、海外売上比率は約6割を占めています。
- 取材担当者
- 海外展開において、知的財産戦略はどのように実践されていますか。

技術管理室・大洞担当課長
- 古野電気
- 特許に関しては制度がある程度整っている国を選んで出願することになります。 そうなると、アメリカやヨーロッパが中心となりますが、 近年はアジア各国も特許制度が整備されてきているので強化していかなければならないと考えています。 ただ、新興国となると特許の実効性があるのかどうか様子見の段階です。
- 取材担当者
- 特許に関する権利の主張が難しい国に対しては、製品を守るためにブランド戦略が重要になってくると思います。 海外における商標登録の現状をお聞かせいただけますか。
- 古野電気
- 弊社では1960年代から商標にも力を注いできました。 海外に代理店を展開する際には、それこそ特許制度が整備されていない国でも必ず商標は出願・権利化してブランドを守り、 安心して販売できるようにしています。

マルチタッチ操作と独自の信号処理技術によるシャープな魚探映像が特徴
マルチファンクションディスプレイの最新型ネットワーク対応航海機器「NavNet TZtouch2」
- 取材担当者
- これまでに類似品や模倣品に関するトラブルはありましたか。
- 古野電気
- 中国ではいろいろとあり、上海の展示会では「FURUNO」のロゴをそのまま使っていたケースまでありました。その時は展示会に参加していた弊社の社員がすぐに指摘して、展示から撤去させ使用をやめさせました。
- 取材担当者
- そんなことまであるんですね。

- 古野電気
- 模倣品対策として商標だけでなく意匠の出願も行っているのですが、中国の企業も抜け穴を探しているようでして、 出願をしていないと真似をされてしまいます。
- 取材担当者
- そういう意味では商標・意匠をきっちりと登録しておくと、製品を守る効果は果たしているわけですね。ところで、商標は「FURUNO」ブランドが中心ですか。

技術管理室・清水氏(知財管理・商標担当)
- 古野電気
- 商船・漁船用製品は法人顧客向けのため、長年信頼を得ている「FURUNO」ブランドがメインです。 プレジャーボート関連製品は個人顧客向けということもあり、よりブランド力を強化しようということで「FURUNO」だけではなく、 「NAVnet」などの製品ブランドも登録し、ユーザへの訴求力を高めています。
- 取材担当者
- 市場にあわせた商標戦略を行われているわけですね。

船上に取り付けられる「FURUNO」ロゴが付されたレーダ用アンテナ
知的財産を生み出すのは“人”
- 取材担当者
- 御社では知的財産活動の促進を目的に、職務発明制度を設けられているそうですね。
- 古野電気
- はい。知的財産を生み出すのは“人”であり、“人”こそが原点であるという考え方のもと、 「出願等奨励金制度」「実績褒賞金制度」「発明表彰制度」の3つの制度を設けています。
- 取材担当者
- それぞれの制度の内容を詳しくお聞かせいただけますか。
- 古野電気
- 「出願等奨励金制度」はその名の通り、特許出願時とその登録時に一定額の奨励金を支給する制度です。 「実績褒賞金制度」は、発明者の事業貢献に応じて褒賞金が支給されます。 「発明表彰制度」は最も優れた発明をした発明者や出願件数の多い発明者などを表彰します。
- 取材担当者
- 「実績褒賞金制度」と「発明表彰制度」の違いは何ですか。


経営企画部・山田担当課長
- 古野電気
- 「実績褒賞金制度」は、社員や上司が推薦した案件について、役員や技術・知財関係者による評価会議で審査し、 事業への貢献に応じた褒賞金を支給しています。「発明表彰制度」は、年間出願件数で上位3位までに入る「発明最多賞」、 30歳以下の若手技術者で年間出願件数が最も多い発明者を表彰する「ジュニアトップ賞」など4種類の表彰を行っています。
- 取材担当者
- いつごろから導入された制度ですか。
- 古野電気
- 最初に社内規程として規程化されたのは、今から約50年前の1966年です。 その後、 知的財産創作活動の向上を目的に改訂を重ね、現在に至っています。
- 取材担当者
- 本日お話しをお伺いして、御社が知的財産を重要な経営資源と考えられていることがよくわかりました。最後に知的財産への今後の取り組みをお聞かせいただけますか。
- 古野電気
- 近年、水産資源の保護のために魚種ごとの漁獲割当が決められる「資源管理型漁業」が進められています。そこで、魚種・魚体長まで把握できる機能を搭載した魚群探知機も開発しています。もちろん、これに関連した技術に関して数々の特許も取得しています。また、舶用電子機器で培った技術をコアにして、医療や情報通信分野などへ事業領域の拡大も図っております。
- 取材担当者
- 「海」以外にも、事業フィールドを広げられているわけですね。

単体魚のサイズや海の底質の判別などができる
最新のカラー液晶魚群探知機「型式:FCV-587」
- 古野電気
- はい。こうした新しい製品の創造に挑み続ける弊社にとって、知的財産が果たす役割はますます重要になってきます。先進国だけではなく新興国まで視野に入れて、これまで以上にグローバルに対応していかなければならないですし、すべての国々で知的財産を押さえることは費用管理的に無理があるため、出願すべきものと控えておいたほうがいいものをしっかりと見極めていく必要もあります。とくに海外の知的財産権についてはわからないことが多いため、ぜひとも弁理士の先生方にサポートしていただきたいと思います。

超音波を利用した骨粗しょう症のスクリーニングを主目的とする医療機器
超音波骨密度測定装置「型式:CM-300」
- 取材担当者
- 本日はお忙しいところ、貴重なお話しをありがとうございました。

古野電気所有の実験艇「ペガサス」を背景に撮影。舶用電子機器の開発にあたり、実験時のデータ収集や解析ほか多目的に活用されています。

古野電気株式会社
1938年、長崎県口之津町(現在の南島原市)にて創業した古野電気商会が前身。1948年、世界ではじめて魚群探知機の実用化に成功(第7回電気技術顕彰「でんきの礎」╱一般社団法人 電気学会、「戦後日本のイノベーション100選」╱公益社団法人 発明協会 選定)。1955年、古野電気株式会社を設立し、1964年には本社を兵庫県西宮市に移転。現在は総合舶用電子機器メーカーとして確固たる地位を築く一方で、通信機器や医療機器などの開発・販売を行うなど他分野へも事業を広げています。
2008年から2011年にかけて、タレントの間寛平さんが挑戦した「KANPEIアースマラソン」。古野電気はオフィシャルサプライヤーとして協賛を務め、航海用電子機器・無線装置の提供などを通じて世界一周達成を支援しました。
(写真右)太平洋と大西洋の横断に使用されたヨット「AEOLUS」(エオラス)号に搭載されていたインマルサット衛星通信装置のアンテナ(本社展示室)
