ちざい げんき きんき 事例紹介
知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
『グリコ®』 『ポッキー®』
商標登録:(グリコ)第307367号ほか (ポッキー)第3103630号 ほか
権利者:江崎グリコ株式会社
海外進出にともない、
弁理士さんのバックアップがますます必要になると感じています。

創業者譲りのアイデア精神で次々にヒット商品を生み出してきたお菓子業界の雄、江崎グリコ。 今回の取材では、同社の原点でもあるキャラメル「グリコ」と、現在も高い人気を誇るロングセラー商品「ポッキー」を取り上げ、 開発の背景やそこに込められた創意工夫、知的財産権への取り組みについてお話を伺いました。
「グリコ」が生まれるまで
原点は、創意工夫と子供たちへの愛情
- 取材担当者
- 御社を代表する商品といえば、企業名にもなっているキャラメル「グリコ」がまず思い浮かびます。 長く愛され続ける理由はどこにあるとお考えですか。
- 江崎グリコ
- お客様に喜んでもらえるための創意工夫を重ねてきたからではないかと思います。 創業者の江崎利一がグリコの開発を思い立った1920年代、市場には既に数多くのキャラメルが出回っていました。 「後発の商品がヒットするには、他の商品と徹底的に差別化しなければならない」。 そう考えた利一は、成分、付加価値、ネーミング、パッケージなど、あらゆる面で、独自の工夫を施したのです。
- 取材担当者
- 具体的にはどのような工夫がなされたのでしょうか。

- 江崎グリコ
- 利一は、1919年頃、牡蠣から抽出した栄養成分「グリコーゲン」に着目し、キャラメルに加えることを思いつきました。 キャラメルを単なる砂糖菓子ではなく、子供達の健康作りにも役立つ「栄養菓子」にしようと考えたのです。 形状にもこだわり、独自の機械を考案してハート形に成形しました。 また利一は他のキャラメルにない付加価値として「おもちゃ」も付けました。 グリコーゲン入りのキャラメルで子供の体を元気にし、「おもちゃ」で遊んでもらうことで子供の心を育てたい…。 一粒のキャラメルの中には、工夫はもちろん子供たちへの愛情も込められているのです。
- 取材担当者
- ネーミングやパッケージにもこだわったとのことですが。
- 江崎グリコ
- ネーミングは、グリコーゲン入りということがしっかり伝わり、しかも短くて覚えやすい名前を、と考え「グリコ」にしました。 また黄色が主流だった他社のパッケージと差別化を図りつつ、食欲を刺激する独特の赤色にし、さらにひとめ見ただけでグリコキャラメルだと分るよう、トレードマークを考案しました。 「1粒300メートル」というキャッチフレーズも、当時利一が考えたものです。
- 取材担当者
- トレードマークというのは、ランナーが両手を上げてゴールインしているイラストのことですね。こちらは商標登録していますか。
- 江崎グリコ
- ネーミングとトレードマークは1938年に出願・商標登録しました。
- 取材担当者
- 「1粒300メートル」はどうですか?

- 江崎グリコ
- 近年まで商標登録されていませんでした。スローガンやキャッチフレーズは他の商品やサービスとの識別力が無い、とされていて、基本的には認められないので。しかし例外があったのです。

- 取材担当者
- 商標法の3条2項ですね。
- 江崎グリコ
- そうです。キャッチフレーズと商品とが全国的に、有名になった場合は、識別力を獲得したとみなされ例外的に登録できるのです。 当初は識別性が無いという事で拒絶されましたが、粘り強く取り組み、出願から10年後の1991年、3条2項に該当すると認めていただけ、商標登録できました。
- 取材担当者
- 3条2項が適用されたのは、オリジナリテイーのある商品を大切に育て、全国区のブランドに成長させたからこそですね。
- 江崎グリコ
- はい。利一は商品作りだけでなくブランド作りも大切だと考え、広告宣伝にも工夫を凝らしました。 「1粒300メートル」をキャラメルの商標として登録できたのは、創業当初から続く企業精神が認められた結果であり、感無量でした。
「ポッキー」の独自性
ポッキーを守った実用新案権
- 取材担当者
- キャラメルと並ぶロングセラー商品に、ポッキーがありますね。ポッキーにも江崎グリコさんならではの創意工夫があるのでしょうか。
- 江崎グリコ
- はい。ポッキーは、当社のスティック菓子「プリッツ」に、チョコレートをコーティングする、という発想から生まれました。 しかしスティック全体にコーティングしてしまうと、持った時指が汚れてしまいます。 そこでつまむ部分だけチョコを塗らないことで、手を汚さず気軽に食べていただけるお菓子が出来たのです。
- 取材担当者
- 紙などを巻き付ける、という単純な発想でないところが面白いですね。他にも工夫はありますか。
- 江崎グリコ
- 軸になる焼き菓子に凹みを作ることで、コーティングしたチョコレートが垂れるのを防いでいます。この軸の形状では、当時実用新案権を取りました。
- 取材担当者
- 実用新案権が存続している間他社から類似品は出ましたか。
- 江崎グリコ
- 今でこそ同様の焼き菓子を出すメーカーさんはたくさんありますが、発売後、実用新案権が存続している間は当社の独占状態でした。


- 取材担当者
- 知的財産権がポッキーを守ったわけですね。御社では、商標や特許を出願する場合、どのような過程を踏むのでしょうか。
- 江崎グリコ
- 現在は法務部の中に弁理士の資格取得者がおり、外部の弁理士さんと連携して出願の準備に当たります。
- 取材担当者
- 弁理士の有資格者がおられるということは、自社で出願されることもあるのですか。
- 江崎グリコ
- 社内の弁理士はあくまでも当社の各事業部と弁理士さんの橋渡し役です。 事業担当者は商品や技術の知識はあっても、知財の知識はありません。 そこで社内弁理士が間に入り、技術のセールスポイントなどを踏まえたうえで、弁理士さんに知的財産権取得の目的や要望を正しく伝えます。 こちらに知財の知識があれば弁理士さんとも専門的な話ができるので、当社の意向に沿った精度の高い出願書類を作成して頂けます。
事業戦略と知財
海外進出に伴い、商標や意匠はますます重要に
- 取材担当者
- 少子化が進み、お菓子を買う子供たちの数は減っています。そんな中で、御社はどのような事業戦略をとっていますか。
- 江崎グリコ
- 国内では大人向け商品の開発や、大人に手に取ってもらうための新しい販路作りに力を入れています。 例えば最近、バトンドールというブランドで、材料にも製法にもこだわった高級バージョンのポッキーを発売しました。 流通は百貨店のみ、値段も20本入りで500円近くしますが、おかげさまで行列ができるほど人気です。 また2002年から「オフィスグリコ」というサービスも展開しています。 販売員が企業のオフィスを訪問し、お菓子などを詰め合わせた専用ボックスを置いて、仕事の合間に食べてもらうというものです。
- 取材担当者
- オフィスグリコでは「ビジネス特許」を取得していますね。
- 江崎グリコ
- はい。当社にとっては新しいビジネスモデルだったので、他社の模倣を防ぐため特許権の取得に取り組みました。 当初の権利範囲では拒絶されましたが、最終的には新鮮なお菓子を常に補充するための仕組みに特許性が認められ、ビジネス特許を取得することができました。

- 取材担当者
- ビジネスを新たに立ち上げるとなれば、知財戦略だけでなく法律なども絡んでくるのではないですか。

- 江崎グリコ
- その意味では当社は法務部の中に知財部門を置いていますので、一括してコーディネートできる強みがあります。 事業戦略に基づいて、法的な手続きや知的財産権の取得は必要か、必要だとすればどの部分か、などを総合的に判断できます。 その上で知財担当者は適切なストーリーを描き、明細書などの作成や出願手続きは外部の弁理士さんにお任せします。 やはり明細書の書き方や拒絶理由への対応は外部の弁理士さんのほうがスキルも経験もあります。 社内弁理士はコーディネーターに徹した方がうまくいくと私は考えます。
- 取材担当者
- なるほど。今は国内のお話でしたが、海外展開はいかがですか?
- 江崎グリコ
- 東南アジアを中心に、中国、ヨーロッパ、アメリカなどでポッキーやプリッツを販売しています。 海外展開は新規開拓も含めて今後さらに加速していくと思います。
- 取材担当者
- そうなると外国での商標登録や意匠登録も増えますね。

- 江崎グリコ
- はい。海外での権利取得が難しいのは、国ごとに制度が異なることです。 日本で権利化できても外国で取得できるとは限りません。 ブランドの確立や知名度の向上、また模倣から守るためにもいち早く出願していかなければならないのですが、私たちだけでは限界があります。 海外進出と共に、弁理士さんのバックアップは、ますます欠かせないものになってくると思います。


江崎グリコ株式会社
1922年、キャラメルにグリコーゲンを加えた栄養菓子「グリコ」と共に創業。
「おいしさと健康」を企業理念に掲げ、創意と挑戦に満ちたモノづくりとマーケティングによって、
日本だけでなく世界のお客様にココロとカラダがいきいきするお菓子を提供し、豊かな食文化の創造・発展に貢献しています。
2014年3月26日掲載