HOME > 関西会について > 事例紹介 > 株式会社 GSユアサ (アイドリングストップ車用)鉛蓄電池
ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
(アイドリングストップ車用)鉛蓄電池  特許:第5522444号
権利者:株式会社 GSユアサ 

日本ではじめての
鉛蓄電池を製造した
100年以上前から
積極的に知的財産権を
取得してきました。

自動車用電池、産業用電池、特殊電池など、エネルギーを効率よく充放電させる技術を根幹とした製品を中心に開発・製造・販売を展開する「GSユアサ」。自動車・オートバイ用の鉛蓄電池、さらにはバックアップ電源システム、無停電電源システムにおいては、国内シェアトップを誇っています。今回は京都市南区の本社を訪問し、企業の歴史をはじめ、製品開発、さらには知的財産に対する考え方や取り組みなどについてお聞きしました。

GSユアサと鉛蓄電池のあゆみ

日露戦争時、海軍からの要請で鉛蓄電池を製造

取材担当者
日本の蓄電池の礎を築き上げてきた2つの企業がひとつになって誕生した御社ですが、まずそのあゆみをお聞かせいただけますか。
GSユアサ
1895年、弊社の創業者のひとりである二代目島津源蔵が日本ではじめての鉛蓄電池を製造しました。当時、蓄電池は技術的な問題があって外国から輸入していましたが、なかなか手に入らない状況にありました。そんな中、日露戦争が勃発し、巡洋戦艦の無線を動かす蓄電池を製造・納入してほしいと海軍から要請があったそうです。
取材担当者
日露戦争の時代にまで歴史が遡るとは驚きました。
GSユアサ
島津源蔵は島津製作所の2代目社長で、当時、「十大発明家」に選ばれるほど様々な発明を行っていました。1917年には島津製作所から電池部門を独立させ、日本電池株式会社を設立しています。株式会社 GSユアサのGSは「GENZO SHIMAZU」、つまり創業者のイニシャルを社名に用いています。時を同じくして、1918年に湯淺七左衛門が湯淺蓄電池製造株式会社、のちの株式会社ユアサ コーポレーションを設立しました。以来、100年近くにわたり、鉛蓄電池を中心とした事業を続けてきた両社が2004年に経営統合し、持ち株会社である株式会社 ジーエス・ユアサ コーポレーションが誕生しました。私ども株式会社 GSユアサは、その事業会社の中心を担っています。
取材担当者
知的財産に対する意識は、100年前から高かったのですか。
GSユアサ
はい。当時から積極的に特許・商標を取得してきました。「GSユアサ」にも名を残す「GS」は、2018年に商標登録から110年を迎えました。古い特許では、1920年の「易反応性鉛粉製造法」の発明が有名です。島津源蔵が開発の指揮を執り、蓄電池のもっとも重要な材料である鉛粉の画期的な製造法を開発し、特許を取得しています。
取材担当者
他社製品と比べて、国内シェアNo.1を誇る御社の鉛蓄電池の特長をお教えください。
GSユアサ
基本的な性能面で比較するとあまり変わりません。例えば自動車用鉛蓄電池の場合、メーカーの要求仕様があり、各社ともにそれを満たすように製造・納品するからです。ただ、業界のニーズをいち早く掴む努力と創業以来積み重ねてきた技術力により、開発競争に先んずることができるのが私どもの強みです。それがシェアの高さにも繋がっています。
取材担当者
創業から100年以上が経ち、事業はどのような広がりを見せていますか。
GSユアサ
深海から宇宙までをテーマに、様々なフィールドで使われる特殊な電池を手がけています。100年前から改良を重ねてきた鉛蓄電池とともに、近年はハイブリッド車や電気自動車などに載せるリチウムイオン電池も主力になりつつあります。時代の流れにあわせて、電池の形態やビジネスも徐々に変化してきているというところです。

鉛蓄電池の技術蓄積と新たな挑戦

アイドリングストップ車用鉛蓄電池のトップランナーへ

取材担当者
時代の流れという話が出ましたが、世界100カ国以上が締結したパリ協定発効などを背景に自動車のCO排出量や燃費の規制が世界的に厳しくなる中、アイドリングストップ車が急速に普及しています。御社ではこのアイドリングストップ車用鉛蓄電池も、いち早く開発されていますね。
GSユアサ
私どもでは2000年前後からアイドリングストップ車用鉛蓄電池の開発に取り組んできました。試行錯誤を重ねた開発の結果、「エコ.アール」というブランド名で製造・販売を行っています。
アイドリングストップ車用鉛蓄電池「エコ.アール レボリューション」
取材担当者
一般車用とアイドリングストップ車用の鉛蓄電池はどこが違うのですか。
GSユアサ
一般車用の場合、エンジンの始動時に鉛蓄電池から大量の電力が使用されますが、その後はほとんど使われることがありません。そのため、走行中にエンジンの回転を利用してダイナモ発電機でゆっくり時間をかけて充電できるようになっています。
取材担当者
なるほど。では、アイドリングストップ車用の場合は?
GSユアサ
アイドリングストップ車の場合、信号待ちなどの停車時にエンジンが止まるのでエンジンの始動回数が増えます。加えて、エンジン停止中は電装品への電力供給を鉛蓄電池が担うこととなります。そのような使われ方ですと、ダイナモの発電機による充電が追い付かなかったり、電力供給の頻度が増えることで鉛蓄電池がすぐに傷んでしまったりすることとなります。
取材担当者
つまり、従来の鉛蓄電池ではアイドリングストップ車に対応できないわけですね。
GSユアサ
おっしゃる通りです。アイドリング車用鉛蓄電池に求められたのは、負荷増大に対する「耐久性能の向上」と、放電した電力を10秒以下の短時間で回復させる「充電受入性能の大幅な向上」でした。言葉にするのは簡単ですが、開発に当たっては従来製品のほぼすべての部材の見直しから始めなくてはならず、困難を極めました。それでも他社に先駆けて開発できたのは、100年以上に及ぶ技術と経験の積み重ねがあったからだといえます。
取材担当者
開発に向けて、印象に残っているエピソードはありますか。
GSユアサ
アイドリングストップ車用鉛蓄電池の開発の過程で、負極格子の「耳部」と呼ばれる箇所が痩せるという現象が発生することを、この用途特有の劣化モードの一つとして見つけることができました。充電量が不足した状態で電力の使用をくり返すと、この耳部の腐食が進行することが理由です。そこで鉛‐錫合金層を負極耳部の表面に被覆することで、耳痩せ速度を減少させることを可能にしました。この技術課題を事前にクリアしておくことにより、他社に先駆けて自動車メーカーへの納品を実現できました。現在は国内のアイドリングストップ車用鉛蓄電池は50車種以上の新車に採用されており、新車用・補修用とも非常に高いシェアを占めています。
取材担当者
アイドリングストップ車用鉛蓄電池についても、知的財産権を取得されていますか。
GSユアサ
実は毎年たくさんの発明が生まれており、そのうちおよそ10件~20件前後を特許として出願しています。
取材担当者
アイドリングストップ車用鉛蓄電池に関する特許ですか。
GSユアサ
はい、そうです。新しい技術だけでなく、昔からある技術でもそれぞれを組み合わせることで特許になる可能性があるので、そこを見つけ出して特許化しています。研究者の立場からすると一つひとつは既出の技術なのでスルーしがちなだけに、そこをいかに特許化していくかが私たち知的財産部の役割だと思っています。
取材担当者
アイドリングストップ車用鉛蓄電池の開発・実用化が高く評価され、権威ある賞を授与されたそうですね。
GSユアサ
第46回市村産業賞において、「アイドリングストップ車用の高効率・高耐久鉛電池の開発と実用化」に関する功績が認められ、「貢献賞」を受賞しました。この「市村産業賞」は、優れた国産技術を開発することで、産業分野の発展に貢献・功績のあった技術開発者・グループに対し、公益財団法人 新技術開発財団(現 公益財団法人市村清新技術財団)より贈られる賞で、大変嬉しい知らせでした。さらに、京都発明協会会長賞も受賞しています。今後も積み重ねてきた高い電池技術を活かし、人と社会と地球環境に貢献していきたいと考えています。

海外市場と知的財産の保護

中国・ASEANにおいて徹底した模倣品対策を展開

取材担当者
知的財産について、海外市場での方針をお聞かせください。
GSユアサ
海外市場においては、鉛蓄電池とリチウムイオン電池で方針が少し違います。鉛蓄電池は中国、ASEAN、リチウムイオン電池は中国、アメリカ、ヨーロッパが大きな市場ですので、そこに注力していく考えです。年々、海外出願の比率が上がってきていまして、今後は私どものビジネスの主戦場が海外ということもあり、その比率をさらに上げていく考えです。
取材担当者
海外市場では、模倣品対策も大きな課題ではないですか。
GSユアサ
そうですね。商標に関する模倣品対策についてお話させていただくと、中国・ASEANにおいて大きく2つの方法を取っています。1つ目は現地の拠点から模倣品の販売・流通の報告を得て、個別に対応していく方法。2つ目は定期的にeコマースサイトで模倣品が出回っていないかを調査する方法です。
取材担当者
具体的な事例をお聞かせいただけますか。
GSユアサ
中国において「GGS」という商標をつけた模倣品の鉛蓄電池が販売されていました。私どもの商標が「GS」ですので、「GGS」となると商標自体は同一ではないため、警告や摘発による解決は難しく、民事訴訟での差し止めと損害賠償請求を行う手段を取りました。裁判に約1年半かかりましたが、無事に侵害品に対しての生産・販売の停止と損害賠償が認められました。また、「G・S」という商標をつけた模倣品に関しても同じような対応を取り、こちらは中国・福建省で裁判を行って勝訴し、323万元、日本円で約4,850万円の損害賠償金を得ました。
取材担当者
ASEANにおける模倣品事情は、中国とは異なりますか。
GSユアサ
インドネシアにおいては、模倣品の製造・販売のみならず、無断で類似商標の登録を繰り返すものまであります。
取材担当者
その場合、どのような対応を取られるのですか。
GSユアサ
異議申立や取消訴訟をくり返さざるを得ないのが現状です。インドネシアの会社との間では私どもの登録商標「GS」に類似する商標の取消訴訟に勝訴し、解決に至りました。現在は知的財産権の行使だけでなく、営業活動において模倣品対策を進めています。例えば正規品の販売推奨活動や認証マークの採用など、現地法人と連携しながら、今できることを進めていくつもりです。
取材担当者
海外で訴訟に勝つコツなどはありますか。
GSユアサ
中国の場合はどこで裁判を行うかが非常に大事だと考えています。近年、知的財産に関する裁判が多くなり、都市部では知的財産の取り扱いに慣れてきているのですが、田舎のほうはまだまだ不慣れです。先ほどの「G・S」に関しては中国において約20カ所のエリアで販売していましたが、私どもが一番有利に裁判を進められるところはどこだろうと調べました。つまり、公平な裁判ができるところ、判決が早く出るところ、知的財産に対して良い傾向の判決を出してくれるところを選んで裁判を行ったことが、勝訴に繋がった一因だと思います。
取材担当者
各国の事情を見極めて、行動に移す必要があるのですね。それでは最後に知的財産部の今後の活動目標についてお聞かせください。
GSユアサ
私どもでは社長、役員、開発・製造部門のマネージャーを交えて話をする機会を積極的に設けています。知的財産戦略だけで動くのではなく、経営戦略と事業戦略を一体化させた活動をこれまで以上に推進していきたいですね。
取材担当者
私ども弁理士にもいろいろとご協力させていただければと思います。 本日は貴重なお話をありがとうございました。


株式会社 GSユアサ
日本電池株式会社と株式会社ユアサ コーポレーション、100年を超える歴史を誇る両社の技術を併せ持つGSユアサ。国内No.1シェアを誇る自動車用鉛蓄電池をはじめ、産業用各種電池、電源システムや受変電設備など、多岐にわたる研究・開発・設計・製造・販売を展開しています。その事業フィールドは、自動車、航空機、人工衛星及びその打ち上げ用ロケット、国際宇宙ステーション、有人潜水調査船など幅広く、人類の進歩、社会の営みを革新的な製品で支えています。


2022年3月28日掲載