ちざい げんき きんき 事例紹介
知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
ひ こ に ゃ ん® (商標)
商標登録:第5104692号・第5104693号 ほか
権利者:彦根市
一定期間、
ひこにゃんの無償使用を
承認することで
イベントの活性化に成功しました
ひこにゃん
彦根市許諾(無償)No.C1320012
地域PRの切り札として次々に誕生する「ご当地ゆるキャラ」。
その先駆けとなったのが、滋賀県彦根市のマスコット「ひこにゃん」です。
今回は、ひこにゃんの知的財産権を管理している彦根市役所・総務課の皆さんを取材。
デビューの舞台裏から商標登録の経緯と取得後の利用法など、自治体でのキャラクター活用について、
参考になる貴重なお話をお聞きできました。
ひこにゃんの生い立ち
着ぐるみのかわいらしさやブログの情報発信で人気者に
- 取材担当者
- ご当地キャラクターのパイオニアとして今も全国的な人気を誇るひこにゃんですがいつ、 どのような目的で誕生したのでしょうか。
- 彦根市役所
- ひこにゃんは2007年、当市で開催した「国宝・彦根城築城400年祭」のマスコットキャラクターとしてデビューしました。 開催2年前にあたる2005年にロゴマーク・シンボルマークと合わせて複数の企業からデザインを募集。 審査の結果採用となったのが、猫をモチーフにしたゆるくてかわいらしいキャラクターでした。 続いてキャラクターの名前を広報誌などで募り、たくさんの応募の中から親しみやすく覚えやすい「ひこにゃん」が選ばれたのです。
- 取材担当者
- 最初は特定のイベントのためのキャラクターだったのですね。
- 彦根市役所
- そうです。正直に言って私たちも、当初はひこにゃんにそれほど期待はしていなかったのです。 ところが、ひこにゃんの着ぐるみを作って全国を回るPRキャンペーンを実施したところ、 着ぐるみの出来がよかったこともあり、「かわいい!」といった反響がみるみる増えてゆきました。 決定的だったのが、2006年末、彦根城の“すす払い”へのひこにゃんの参加です。 その愛くるしい姿がテレビや新聞に取り上げられ、知名度が一気に全国へ広がったのです。
- 取材担当者
- ひこにゃんの活用は、着ぐるみだけだったのですか?
- 彦根市役所
- 同じ時期に、ブログを使ってひこにゃん情報を発信しました。 このような手法は当時はまだ目新しく、インターネット上でも大きな反響を得ることができました。 それから、後ほど詳しくお話しますが、多数作られたひこにゃんのキャラクター商品も、 知名度アップに大きく貢献したと思います。
- 取材担当者
- なるほど。愛嬌たっぷりの着ぐるみ、マスコミによるパブリシティー効果、ネットでの情報発信、そしてキャララクター商品。 これらが相乗効果を生んで、予想を超える人気者になっていったのですね。400年祭開催中はどうだったのですか。
- 彦根市役所
- やはりひこにゃん目当てで来場する方が大変多く、抜群の集客効果を発揮してくれました。 400年祭の延べ来場者が約80万人。これは例年彦根城を訪れる観光客数の2倍で、当初の予想を大幅に上まわる数字です。 こうなると、ひこにゃんを400年祭で引退させるのは惜しい、という話になりまして…。 引き続き開催された「井伊直弼と開国150年祭」のキャラクターにも抜擢され、やはり多大な集客効果を発揮してくれました。 その後もひこにゃん人気はとどまることを知らず、現在は彦根市のキャラクターとして、PRに欠かせない存在です。
●ひこにゃん
彦根藩二代目藩主・井伊直孝公ゆかりの招き猫をモチーフにしたキャラクター。
性別は不明。趣味は彦根城周辺の散歩。お仕事は彦根市のPR。彦根城の天守前広場や彦根城博物館に定期的に登場します。
商標登録の理由と経緯
ひこにゃんの類似品を防ぐために、商標登録を実施
- 取材担当者
- ひこにゃんは彦根市が商標を管理していますよね。キャラクターができた時点ですぐに登録されたのですか。
- 彦根市役所
- 2006年の時点では、まだ商標権は取得していませんでした。 当初は著作権のみ持っており、これでひこにゃんを管理できるだろう、と考えていたからです。 ところがひこにゃん人気が広がる中、よく似たキャラクターを使用した商品が現れたのですね。 その時になってようやく、著作権だけでは類似品を法的に防げないことが分かりました。 そこで彦根市で商標登録し、知的財産として改めて管理することになったのです。 「ひこにゃん」の文字の商標と、イメージの商標登録をしました。 また、最近、写真イメージでも商標登録しています。
- 取材担当者
- 手続きは弁理士に依頼したのですか?
- 彦根市役所
- はい。法律問題については市の顧問弁護士に相談するのですが、今回は知的財産権ということで、 法律事務所を通じて弁理士さんを紹介していただきました。 我々には知的財産の知識やノウハウがありませんでしたので、まず何を取得すればどういったことが可能になるのか相談しました。 また具体的な申請手続きもお願いしました。2007年の3月に出願登録の申請を行い、2008年1月に特許庁から登録証が発行されました。
- 取材担当者
- 2007年に出願されたあと、2010年にももう一度出願されていますよね。
- 彦根市役所
- そうなんです。商標では商品ジャンルが細かく分類されていて、どのジャンルで権利を取得するか選択しなければなりません。 はじめは玩具や文房具、装飾品などで取得していたのですが、ひこにゃん人気の拡大とともにキャラクターグッズの範囲も広り、 特に食品類が増えてきました。そこで改めて、食品関係でも商標登録したのです。 どの分類を選べば良いのか、という判断はなかなか難しく、弁理士さんのアドバイスを受けながら、 絞りこんでゆきました。登録後も「キャラクターのこういった使い方はできますか?」というような相談を何度もさせていただき、 有益な助言をたくさんいただきました。
商標登録の効果
キャラクター商品の高品質化や許諾料収入など多彩な効果を発揮
- 取材担当者
- 商標登録したことで、どんな効果がありましたか。
- 彦根市役所
- まず第一に、類似品が市場に出なくなりました。第二に、流通するひこひゃん商品を質を向上させることができます。 当初は、しっぽの生えたひこにゃんや、兜の色が違うひこにゃんを付した商品が流通することもありましたが、 商品化の許諾のときに審査を行うことにより、商品に付されて流通するひこにゃんの質を安定させることができるようになりました。 審査には本日同席いただいている弁護士の多賀先生にも加わっていただき、ひこにゃんの再現性や商品の品質を、 きめこまかくチェックしています。そして不備があれば企業さんに伝え、手直ししてもらいます。 こうしたキャッチボールを繰り返すことで、イメージにふさわしい商品だけが残ることになります。
- 取材担当者
- ブランドイメージを守るためには、商標登録に加えて、キャラクター商品もしっかりチェックする必要があるのですね。 年間どれくらい申請が来るのですか?
- 彦根市役所
- 数でいえば500から700点ほどですね。
- 取材担当者
- それを一つ一つ審査するのですか!?相当な労力ですよね。
- 彦根市役所
- 確かに大変ですが、商品が沢山売れれば地域経済の活性化につながります。 むしろしっかりやっていかなければと思いますね。 それからひこにゃんは、市の財源としても貢献してくれています。 商品化によって使用許諾料が入るからです。
- 取材担当者
- 使用許諾料の話がでましたが、「彦根城400年祭」では、あえて許諾料を取らず、 無償での商品化を許可したことが当時話題になりましたよね。
- 彦根市役所
- そうなんでです。キャラクター商品が増えればひこにゃんの露出も増え、イベントの活性化につながる、という発想から、あえて無償にしました。 この試みは功を奏し、多くのひこにゃんグッズが生れ、「彦根城400年祭」を大いに盛り上げてくれました。 現在はイベントも終了し、当時の役割は終えたという判断で、有償化に移行しました。 ただし公共団体や自治体などによる公益的な使用であれば、今も無償で使用していただけます。
- 取材担当者
- なるほど。キャラクターの無償化と有償化の切り替えのお話は、これからご当地キャラクターを作ろうとしている自治体さんにも、 大変参考になると思います。他にアドバイスはありますか?
- 彦根市役所
- 当初は私たちもキャラクターに不慣れで、ひこにゃんのイメージ統一に不十分なところがあったり、 権利関係の知識不足から類似品の問題が発生したりもしました。 これからキャラクターで地域活性化を、と考えておられる方は、知的財産権をはじめとする権利関係について、 最初にしっかり契約や手続きをされることを強くおすすめします。 例えば、著作物を、変形したり、アニメ化したりする権利(翻案権)の所在を明確にしておくことや、 商標登録をしておくことは、後の事業展開のために重要であると思います。
2013年7月12日掲載