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ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
移載装置
特許6650086号
コンベヤ装置、コンベヤシステム、ゾーンコントローラ並びにコンベヤ装置の製造方法
特許6804979号
POWER MOLLER
商標1744412号
権利者:伊東電機株式会社 

0からのものづくりを極める伊東電機。
高い技術力と信頼性で世界から評価される『パワーモーラ』の特許権は、開発までの大きな苦労が取得のきっかけでした。

生産者と消費者をつなぐ物流に欠かせない、コンベヤ。その駆動源『パワーモーラ(モータ内蔵ローラ)』は、あらゆる搬送の現場で活躍しています。長い時間と大きな苦労を乗り越えて、このパワーモーラを開発したのが、今回取り上げる伊東電機株式会社です。「グッドカンパニー大賞」「グローバルニッチトップ企業100選」「地域未来牽引企業」などの受賞に加え、マスメディアからも注目されている同社に訪問し、パワーモーラの開発までのあゆみをはじめ、知的財産への取り組みについてお伺いしました。

『パワーモーラ』が伊東電機の象徴になるまで
取材担当者
パワーモーラの開発経緯について教えて下さい。
伊東電機
1975年に自社ブランドのモータローラ「パワーモーラ」の販売を開始しました。 当時のモータローラはAC(交流)で、誘導電動機がローラの中に入っていました。 その頃は、工場の生産ラインに使われているコンベヤや自動機械にモータローラが搭載されました。とくに、1980年過ぎは、日本メーカーのビデオデッキが世界市場を席巻していた時代で、その工場にモータローラが使われていました。
パワーモーラ(MDR)とコントローラ
伊東電機
「パワーモーラ」を商標出願して、生産・販売を開始していましたが、その後に特許でトラブルがありました。
取材担当者
どういったトラブルだったんですか?
伊東電機
1970年代中頃にモータローラに関する特許を別の企業から引継いだのですが、その権利が他社特許を侵害した内容であった為、係争となりました。 その時の経験から、現会長が、「特許に対しては自社で積極的に取得していこう」という方針を示めされました。 そこから当社の積極的な知財活動がスタートしています。
取材担当者
先ほどのお話では、パワーモーラは生産ラインのコンベヤに搭載されることが多かったとのことですが、どのようにパワーモーラの市場を拡げていったのですか?
伊東電機
その頃はFA※1(ファクトリーオートメーション)工場の中でものを動かすために使われるモータとしてパワーモーラが使われるくらいで、コンベヤの駆動源としてメインに使用されるという状況ではありませんでした。現会長が1983年頃にDC(直流)ブラシレスモータを搭載したパワーモーラの開発に着手され、1988年にMDR※2(モータ・ドリブン・ローラ)の販売を開始しました。しかし、当時はAC電源のパワーモーラが主流であり、MDRは先取りしすぎて、その良さが理解されませんでした。 そんな時、米国郵政公社がパワーモーラに目をつけ、郵政公社での搬送・仕分ラインでのMDR使用の話が飛び込んできました。

※1 FA…コンピュータ制御技術を用いて、生産工程の自動化を図るシステムの総称

※2 MDR…Motor‐Driven Rollerの略号(DCブラシレスモータを搭載したコンベヤ駆動用モータローラ)

取材担当者
そこからどのように話が進んでいったのですか?
伊東電機
米国郵政公社の要望は「搬送速度は45m/分」「1時間あたり1800ケースを処理」とのことでした。これは、今までFAで使っていたパワーモーラとは全く違う仕様でした。
現在とは違いインターネットも普及していない時代ですので、FAXや電話を使ったり、定期的にアメリカへ行って情報を集めたりして、米国郵政公社と密にコミュニケーションをとりながら、仕様決め・製品開発を進めました。
米国郵政公社が要求する高いレベルの要求を満たす為に幾度の改良とテストを重ねました。 1年程の期間を要しましたが、米国郵政公社が満足するレベルのMDRが完成しました。
MDRの機能を活かした画期的な直角分岐モジュール
モジュールをつなぎ合わせることで最適な搬送ラインを構築できるMDR式コンベヤ
取材担当者
米国郵政公社の要望に応える形で、パワーモーラの開発が進んでいったのですね。
伊東電機
はい。一般に、FAのラインでは、各工程へコンベヤで搬送しますが、速い速度は必要とされませんでした。
一方、郵便局は「物流」です。物流センターでは1日に何万個の搬送物を処理しないといけません。そうなると、速度が重要になります。
米国郵政公社も、ダイレクトメールなどの仕分けがたくさんあり、搬送にスピードが求められました。そうなると今まで扱っていたパワーモーラの性能、耐久性が変わってきます。MDRの性能や耐久性を向上させるには、かなり苦労しました。現在はEC※3企業の物流センターが世界各国で多く存在しています。その中でも、米国郵政公社はECの先駆けといえます。
※3 EC・・・「Electronic Commerce」の略号。電子商取引とことで ネット通販、ネットショップなどが該当。
取材担当者
1988年に『パワーモーラ24』(MDR)の開発をされてから、製品化されるまで10年程間が空いているのですが、その間はそれほどニーズが広まっていなかったのでしょうか?
伊東電機
日本ではニーズがない時代にアメリカでDCモータのニーズがあるとの情報がありそれがアメリカ郵政公社だったのです。
取材担当者
10年間くらいはMDRが主力になっていなかったということですか?
伊東電機
MDRの場合、DC電源器が必要になります。また、ACのパワーモーラの場合は、それほど複雑な制御は求められません。しかし、物流センターが増えることで、高度な搬送制御が求められることから、DCパワーモーラへのニーズも高まりました。
取材担当者
ということは、国内では、MDRのニーズがまだ広まっていなかったということでしょうか?米国での採用をきっかけに、国内でのニーズが広がっていったということですか?
伊東電機
そうです。
取材担当者
日本よりも先にアメリカで広まり、認知されていたパワーモーラですが、それはアメリカでの物流の方式が日本とかなり異なっていたからでしょうか?
伊東電機
1999年頃は、まだネット通販が現在のように普及していませんでした。その頃の物流の主流は、郵便です。それはアメリカだけではなく、日本や韓国、ヨーロッパ、中国どこでも同じでした。その搬送設備としてのパワーモーラに、最初に目につけたのが米国郵政公社でした。アメリカの次にパワーモーラに注目したのは、ヨーロッパです。その後中国、日本は最後でした。
アメリカでは、当時採用されていた搬送装置の騒音問題で、郵便局で働く人からの訴訟問題もあり、郵政公社が静かなMDR方式を採用しました。また、高い電圧を使っていたモータは感電事故の恐れも多かったため、低電圧で危険性が低いMDR方式が良いということで、アメリカから広まりました。

モノづくりの原点と海外への取り組み
取材担当者
御社の創業の方針かと思いますが、ものづくりに物凄く誇りをもってらっしゃると感じます。その方針が会社、社員のみなさんに根付いていかれたのですね。
伊東電機
そうですね、現会長自身が技術者ですので。現会長が生まれてまだ4歳くらいのとき、自分のおもちゃがベアリングだったそうです。その当時、現会長のお父さまはこの地で創業していた経緯もあり、モータのベアリングなどそういったものをおもちゃに与えていたそうです。中学生の時にはご自身で遊ぶものを作ったりされていたそうです。失敗しながらも色々とされてきたそうで、そういったところがきっかけだったのではないでしょうか。現会長の発想は独創性がありますし、実際いろんなものを発案されています。

取材担当者
現会長ご自身が知財に対して積極的に取得していこうという意識を強くもっていらっしゃったのでしょうか?
伊東電機
そうです。パワーモーラ開発当初に知財でかなり苦労されていましたので、その経験から、「知的財産に強くなろう」と考えを持たれています。
取材担当者
日本では、とくに新規事業を行う際、海外進出に対して躊躇してしまう場合があると思います。御社のように、日本国内よりも先に米国の郵政公社でパワーモーラが採用されたという経緯は、珍しいパターンではないでしょうか。
伊東電機
そうですね。当時の日本はどちらかというと、保守的でした。安全性を確保してれば、新しい物じゃなくてもよいとの考え方があって、日本は遅れている状態でした。
取材担当者
特許出願に関して、海外出願の現状を教えていただけますか?
伊東電機
アメリカ、ヨーロッパ、中国を基本として出願しています。ヨーロッパは、市場が大きいドイツ、フランス、イギリスに出願することが多いです。
取材担当者
知的財産を活用していく観点で、意識されていることはありますか?
伊東電機
一つは防衛目的で権利を取得することが多いですね。製品の市場を確保するためという観点も重要視しています。競合相手と争いになった場合、権利が無いと戦えませんので、そのあたりを重視しています。
取材担当者
モータローラの市場はどうなっているのでしょうか?
伊東電機
コンベヤ用モータローラは実はニッチなんです。世界でモータローラをメインで作って販売しているのは3社ほどです。 
取材担当者
競合会社の知財動向は普段から注視されていますか?
伊東電機
はい。モーターローラだけでなく、弊社の事業分野全体を監視しています。

知財に対する社内での取り組み
取材担当者
開発の方がアイデアを出しやすくするために何かされているようなことはありますか?他の企業様では、なかなかアイデアが出てこないというような話も伺います。そういった工夫があればぜひ教えていただきたいです。
伊東電機
現会長が技術者ということもあり、若手育成の意義を込めて、毎週現会長と打ち合わせをしています。そのときに担当者達が思いつかないこと、極端に言えば突拍子のないことでも会長は思いつかれます。こういうアイデアがきっかけとなって、止まりかけていた開発が進むことがあります。こうやって、ベテランと若手とが互いのアイデアを出し合い、いいものを作ろうと日々取り組んでいます。その中で、生まれたアイデアから積極的に特許出願を行っています。
取材担当者
そうなんですね。開発者の皆さんが特許に関心が高いのは素晴らしいと思います。開発者の方と一緒に特許の勉強をする機会はありますか?
伊東電機
はい、社内でやる勉強会のほか、お世話になっている弁理士さんによる社内セミナーを開催しています。
また、発明の内容を一番知っているのは発明者です。そのため、「こういうモノができたので出願お願いします」と任せっぱなしにするのではなく、発明者自身が特許について考えることをベースに取り組んでいます。目標として、発明者自身が特許出願の書類を書けるようにしたいと思っています。そのため、社内教育の充実や、専門家である弁理士さんに協力してもらっています。
取材担当者
すごいですね。教育意識も高まりますし、自分で出願書類を書ければ、他社の特許公報なども読むことができますね。
伊東電機
社内では、クレーム検討会という会議を行っています。ワイヤーフレームから確認して、そのクレームの草案が上がってきた段階で担当と発明者で読合せを行い、修正点や追加事項を確認しています。
取材担当者
開発の方が、知財に関する知識を身につけて、特許公報を読むことができたり、特許出願の書類を作成できたりすると、より強い特許権が取得できそうですね。また、開発の皆さんに良い影響を与えそうですね。
伊東電機
そうです。
取材担当者
開発や知財と営業との協力関係はどうなっていますか?
伊東電機
営業の方にも知財の勉強会に参加してもらっています。開発事項をインターネットにアップしたりSNSに載せるときの注意事項を伝えています。あとは、展示会に出す前に特許出願を完了させておき、「新規性の喪失」に関して意識を高めてもらうための勉強会もしています。
伊東電機が目指すエネルギー社会と今後の開発方針
取材担当者
商品展開や、知財への取り組みの観点など、今後意識されていることを教えていただけますか?
伊東電機
当社の根本は、「エネルギーを一番最小限に抑えてものを動かす」です。これは『コロの原理』といいます。古代エジプトのピラミッドを築き上げるために丸太を転がしながら巨大な石を運んだのと同じ様に「コロの原理」を応用して 小さいパワーで重量物を効率的に搬送します。
また、台車やフォークリフトでモノを運ぶ場合、運んだ後に台車等を戻すことが必要ですがパワーモーラであればモノを置けば、運んでくれて、戻す作業も不要です。
伊東電機は、『コロの原理』を活用した、モノづくりの開発に携わっていきます。
また、デジタルツイン※4により、バーチャルとリアルを結合させることで、「ラインの立上げスピードアップ」、「変化を監視して問題を未然に防ぐことでラインを止めない」を実現する為のソフト、アプリケーションの開発を今後は進めていきます。
ソフトのような見えないものを出願する事は、どうなんだろうと考えることもあります。秘匿にする方がいいのか、それとも出願したほうがいいのか、これは弁理士の先生とも相談して決めていきたいと思っています。出願すると公開されますので、見えないもの=真似をされても見えなければ証明するのも難しいとなるでしょうし、アイデアを出すだけ、もったいなのではないかなと思うこともあります。そのあたりを考えながら知財の取り組みをやっていきたいと思っています。
※4 デジタルツイン・・・現実の世界から収集した、さまざまなデータを、まるで双子であるかのように、コンピュータ上で再現する技術。
取材担当者
その通りだと思います。
伊東電機
その他では、SDGsの伊東電機として目標を掲げています。その一環が植物工場事業です。植物工場研究センターでは、クリーンルームにセル式モジュールの自動モデルならびに手動モデルを使って野菜の栽培を行い、野菜に最適な栽培空間・栽培条件の研究や設備改良に取り組んでいます。
伊東電機
私たち弁理士会もいろんな企業様の役に立てるよう頑張っていきます。本日はありがとうございました。

伊東電機株式会社

伊東電機株式会社
1946年創業以来、小型モータ技術を核とした革新的なオリジナル製品を作り続けている。同社の主力製品であるMDR(モータ・ドリブン・ローラ)は、マテリアルハンドリング(マテハン)システムの万能細胞として、さらなる進化を続けている。


2023年2月13日掲載