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ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
低糖質の清酒テイスト飲料
特許:第7210632号 権利者:菊正宗酒造株式会社
カプロン酸エチルの産生能が高い酵母、及び当該酵母を利用した発酵物の製造方法
特許:第6119881号 権利者:菊正宗酒造株式会社
百黙
商標:第5885858号、第5843884号 権利者:菊正宗酒造株式会社

360年を超える歴史を持つ老舗清酒メーカー
菊正宗の知的財産戦略

現在の兵庫県神戸市東部から西宮市今津にかけたエリアは「灘五郷」と呼ばれ、西から「西郷」「御影郷」「魚崎郷」「西宮郷」「今津郷」という5つの地域の酒蔵が、昔から清酒造りに励んできました。全国的に知られる灘の銘酒「菊正宗」は、もともと御影郷の酒蔵で、万治2(1659)年の創業です。
商標条例が発布された際、清酒を意味する「正宗」で出願したところ受理されず、それが「菊正宗」の名前のきっかけになったなど、昔から知財とは深い関係がありました。今回は菊正宗の心臓部ともいえる嘉宝蔵を訪問し、お話を伺ってきました。

菊正宗の今昔物語

~菊正宗はなぜ菊正宗になったのか~

取材担当者
創業が1659(万治2)年と言いますから、もう370年になろうとする長い歴史をお持ちです。灘五郷には数々の酒造会社がありますが、その中での御社の特徴を教えてください。
菊正宗酒造
菊正宗といえば辛口。そして江戸時代から続く酒造りの手法、「生酛(きもと)造り」を守り続けていることです。ここ「嘉宝蔵」で造るお酒の大半が生酛造りですが、これほどの量の生酛を造る蔵は、現在ほとんど残っていません。非常に手間暇かかりますが、雑味のない、きれいでコクのある味わいが楽しめます。
取材担当者
貴重な味を守り継いでおられるのですね。菊正宗は当主である嘉納家が代々継いでおられますね。
菊正宗酒造
現在12代目です。一族からは「日本オリンピックの父」で「柔道の父」である嘉納治五郎も輩出していますし、進学校で有名な灘中学校、高等学校の設立にもかかわっているのですよ。
取材担当者
歴史があるだけでなく地域やスポーツ界にも多大な貢献をされてきたのですね。ところで「菊正宗」の商標も、ずいぶん早くに取得しておられます。
菊正宗酒造
商標条例が発令された明治17(1884)年、当社ではすでに使用していた「角本(かくほん)マーク」などの商標を出願、登録しました。ところが、清酒を意味する「正宗」は、競願者がいたために受理されませんでした。天保時代の頃から江戸の販売市場で、「酒は正宗」と言われてきた「正宗」。最初は「セイシュウ」と言っていたが、何時の頃からか、「マサムネ」となって一般に称せられるようになった、と言われています。当主はその名前が使えず、思案に暮れていましたが、ある日、庭に咲く一輪の白菊にヒントを得て、「菊」を頭に「菊正宗」で出願し、無事に商標登録できたと聞いています。
取材担当者
「菊正宗」は、「正宗」が商標登録できなかったことによって誕生した名だったのですね。
知財活動について

~新商品や海外展開のたびに商標登録で権利を押さえる~

取材担当者
現在の出願件数を教えてください。
菊正宗酒造
国内商標で249件。海外は209件です。
取材担当者
御社の社員数は300名ほどの規模と伺っています。そのわりには多いです。
菊正宗酒造
将来使う予定の商標をあらかじめ登録しておく、ストック商標もかなりあります。弊社の名誉会長は知財に関して熱心で、特に思い入れのある商標は積極的に取得しておこうという考え方です。特許にかかるコストと売り上げ、両方のバランスを見ながら取得しています。
取材担当者
海外だと、どの地域で取得されていますか。
菊正宗酒造
EUや英国、アジアなら中国をはじめ香港、韓国、台湾、あとベトナムや米国など、弊社の商品を販売する国では積極的に取得しています。出願内容は漢字とアルファベット、菊をデザインしたコーポレートマークなどですね。
取材担当者
想像以上に出願国が広範囲で驚きました。トラブルの発生はありませんか。
菊正宗酒造
やはり中国は、市場が大きいために一番の取引国です。「正宗」という言葉のイメージも良いようで、そのため模倣品なども現れています。そこは、本物の証明であるシールを貼るなどして対応しています。
取材担当者
毎年、新たな商標の出願件数はどのくらいあるのですか。
菊正宗酒造
昨年は10件未満でした。ただし新商品の発売が重なると、出願件数も増えます。ネーミングからラベル、パッケージ、キャッチコピーまで押さえます。
取材担当者
御社はメインである「菊正宗」以外にも、多数のブランドをお持ちですね。
菊正宗酒造
現在スーパーマーケットなどに並ぶ主力商品が、華やかなピンクのパッケージの「キクマサピン」と、シルバーの「しぼりたてギンパック」があります。値段も手ごろなので、ご自宅やホームパーティーなどで気軽に飲んでいただけます。杉の木目をデザインしたパッケージの「樽酒」も人気ですね。
そして、菊正宗とは別ブランドとしてリリースしている「百黙(ひゃくもく)」があります。歴史ある「菊正宗」ブランドの固定概念から脱却した新しいブランドとして2016年に兵庫県限定でスタートし、海外ではニューヨーク、パリでローンチパーティーを開催しました。
取材担当者
すでに確固たるブランドを持ちつつ、攻めの姿勢を崩していませんね。最近はお酒以外に、化粧品や食品も販売しておられますが、そちらも商標で出願しておられますね。
菊正宗酒造
近年、この化粧品や食品類に力を入れていて、国内外ともに商標出願数も増えています。これらの商品のパッケージには、必ず「菊正宗」の3文字を入れるようにし、その商標も取得しています。
同業他社にはない権利取得方法を目指して

~菊正宗ならではのユニークな知財戦略~

取材担当者
御社では低糖質清酒テイスト飲料の開発において、製造方法ではなく「清酒テイスト飲料」という「もの」での権利化に成功しておられます。これにはどのような経緯があったでしょうか。また、これは御社の考えによるものですか。それとも他からの助言があったのでしょうか。
菊正宗酒造
最初から「もの」での権利化を念頭においていた、弊社の考えです。というのも、独自の製造方法の開発は酒造会社ならどこでも行っていることで、立証が困難という側面があります。
健康面から人気の低糖質ですが、そもそも日本酒は、米の糖質によって味が大きく左右されます。ゆえに糖質を除去すると、非常に味気なくなります。そこで清酒に含まれる一部のアミノ酸が清酒らしい甘味を発揮することがわかり、そこから本来の清酒の味に近い「清酒テイスト飲料」の開発、実現に成功しました。
取材担当者
目の付け所と、その後の研究・開発で生まれたものなのですね。しかし清酒メーカーが清酒テイスト飲料という、いわば清酒のカテゴリから外れる商品を出すことについて、社内では賛否両論あったのではありませんか。
菊正宗酒造
そうですね。でもあくまで私たちの目標はおいしい商品の実現。そこは柔軟に考えました。
取材担当者
もう一つ目を引いたのが、「カプロン酸エチル高産生酵母、および当該酵母を利用した発酵物の製造方法」という特許です。御社を含めた酒造メーカーでは新しい酵母について出願、さらに権利化にまで至るケースは多くありませんが、なぜ挑戦されたのですか。
菊正宗酒造
おっしゃる通り、新たな酵母の特許取得は少ないです。新しい酵母を作っての日本酒造りは珍しくないですし、通常は権利化の必要性は高くないと考えています。ただしこの酵母はかなり特殊で、他社ではなかなか作れないため権利化することにしました。
取材担当者
そんなに特別な酵母なのですか。
菊正宗酒造
この酵母を使った商品が、先ほどご紹介したシルバーの「しぼりたてギンパック」です。普通酒にもかかわらず、大吟醸と同等の芳醇な香りが楽しめると評価されていますが、その秘密が、この特別な酵母です。世界最大規模のワイン品評会IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)のSAKE部門において、パック酒で初の最高位である賞「トロフィー」と「グレートバリュー・サケ」をいただきました。しかも史上初の2度受賞していますから、業界内外で高い評価をいただいております。おかげさまでお客様のリピーターも多く主力商品に成長しました。パックの正面にはオーセンティックな「正宗」の文字をデザインしており、伝統と革新を表現した近年のヒット商品となりました。
現在、同じ酵母を使用した純米キンパックや、数種類の原酒をアッサンブラージュしたギンルビィなど、ラインナップを拡充しています。
取材担当者

さすが、権利化に動いたほどのすごい酵母ですね。御社は味だけでなく五感(感覚)で捉えられる特徴を持つ感覚・触感商標も取得されていますね。2017年頃から米国へ輸出を開始する前に、米国出願されています。これにはどのような狙いがあったでしょうか。

(注)感覚・触感商標とは嗅覚(香り)や聴覚(音)、触覚(手触り)など五感で感じる要素についての商標で、米国では登録対象となっている。

菊正宗酒造
樽酒
カップ酒の「樽酒」ですね。この商品は、すでに終売しているのですが、カップ表面のシュリンクに竹と木目をデザインし、さらに包装で竹のツルツル感と木のザラザラ感を出しました。カップそのものも18面体で、これはあの大きな酒樽をイメージしています。弊社は樽を自社制作するほど樽には非常にこだわっていて、この「樽酒」は吉野杉の香りがうつった清酒を味覚だけでなく、嗅覚、触覚、そして視覚でも楽しめるように工夫しています。そしてこの感覚・触感商標は、実は現在の名誉会長の発案なのです。
取材担当者
この名誉会長のアイデアは、どのような経緯で生まれたのでしょうか。
菊正宗酒造
自ら「米国で触感に関する商標を登録できるそうだから、うちも新商品にどうだろうか」と提案されてこられました。現在、当該商品は終売しておりますが、「樽酒」はいまも「樽酒ネオカップ」としてエコに対応した仕様に変更し販売しています。
取材担当者
「触感」もユニークですが、なんといっても御社は「紫色の風呂敷が開く一升瓶」で、動きや音についても商標登録されています。これもかなりユニークですが、御社のブランド価値の向上にどうつながっていますか。
菊正宗酒造

昭和の頃からあったTVCMです。このCMは「旨いものシリーズ」の象徴として当時のCMソングと連動して当社の認知が広がりました。大阪や東京などの都市部を中心に「辛口=菊正宗」というイメージとともに飲食店様のお取扱いも多くいただき、売上にも大きく寄与しました。しかし、当時はこの風呂敷がふんわりと広がる様子を撮影するのに14時間もかかり、苦労したようです。
その結果、動き商標としての商標の登録査定を最初に受けることができました。

風呂敷

(注)動き商標とは、文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標で、平成27年より登録対象となった。

これからの菊正宗酒造の展開

~攻めと守りで、清酒の発展に努める~

取材担当者
御社が加盟されている灘五郷酒造組合は、2018年に灘五郷で造られた日本酒を保護する地理的表示制度であるGI「灘五郷」の指定を受けています。この指定を受けた理由や経緯を教えてください。
菊正宗酒造
菊正宗は灘五郷(西郷・御影郷・魚崎郷・西宮郷・今津郷)のうち御影郷の酒造会社です。取水から製造、貯蔵、容器詰めまで灘五郷内でのみ行われた清酒についてGI「灘五郷」を付けることができます。これにより、灘のお酒共通の特徴である味わいの要素の調和がとれ、後味の切れ味の良いお酒であることが一目で分かるようになりました。灘五郷酒造組合の幹事会社として、灘五郷のブランドをもっと有効活用していかなければという課題感を持って様々な取り組みを行っており、地域団体商標「灘の酒」の登録も受けました。全国各地の酒造会社様とどう差別化し、自分たちを打ち出していくか灘五郷酒蔵組合の他の会社様と共に考えているところです。
取材担当者
今後の御社の知財戦略を伺いたいと思います。 新規商品開発の計画はおありでしょうか。
菊正宗酒造
海外で注目の日本酒ですが、日本人にももっと目を向けていただきたいですね。そのため力をいれている一つが、コラボレーションです。「菊正宗」というブランドを拡散するためにも他業界とも積極的に手を結び日本酒の認知を図っていきたいと考えております。結果的には化粧品の開発・販売もその一環です。実際、化粧品を通じて初めて菊正宗を知った若い世代も大勢おられます。
あとは、菊正宗に次ぐブランドとして打ち出している「百黙」の展開です。「菊正宗」はある程度の認知されたブランドですが、それゆえイメージが固定化します。それを打ち破るような新しい価値をご提案できるように「百黙」ブランドは、2016年に兵庫県限定で販売をスタートし、2019年に東京に進出しました。今や国内外に展開中で、ネット販売も行っています。新しいブランドとして、走りつつあるところです。
取材担当者
フルーティな飲み口などバリエーションに富んだラインナップの展開に積極的ですね。
菊正宗酒造
攻めと守り、両方を意識しています。時代も人々の嗜好もすごいスピードで変化していますから、私たちも立ち止まっていられません。常に挑戦です。
取材担当者
知財についても常にアンテナを張り巡らして、押さえるべきものは押さえる姿勢と戦略は、本当に素晴らしいです。ますますのご活躍に期待しています。本日は貴重なお話をありがとうございました。


菊正宗酒造株式会社
万治2(1659)年の創業の酒造メーカー。伝統的な「生酛造り」による、キレのある辛口の清酒を特徴とする。「良い酒を造る」という信念のもと、明治時代に最新鋭設備投資を行うなど、攻めと守りの両輪で業界に先駆けた数々の挑戦を続けている。


2026年2月20日掲載

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