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ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
かるしお®
商標:第6291003号、第6333757号、第5624174号 権利者:国立循環器病研究センター
健康生活認証®
商標:第5807367号 権利者:国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(ロゴマーク)
商標:第5807367号 権利者:国立循環器病研究センター

日本に減塩の新しい考え方を広める!
認定制度を使った国立循環器病研究センターの
知財ライセンスビジネスの仕組み

国立循環器病研究センターは、循環器疾患の究明と制圧のために設立された大阪府吹田市にある国立研究開発法人です。主に脳卒中や心筋梗塞といった循環器系疾患の予防、診断、治療、それらに係る最先端の研究開発、並びにそこから得られる成果の社会実装を進めています。
そんな国立循環器病研究センターが、2010年以来取り組んでいるのが美味しい減塩食の普及活動です。循環器病予防のための食生活改善を目的に「塩をかるく使って美味しさを引き出す減塩の新しい考え方」を一般に広めるための取り組みとして、その後「かるしおプロジェクト」と称しています。今回はこのかるしおプロジェクトを指揮する先生方にお話をお聞きしました。

「かるしお」プロジェクトの背景

~すべては病院食から始まった~~

取材担当者
よく減塩、減塩と言われますが、そもそもなぜ塩を摂り過ぎるとよくないのか、あらためてご説明いただけますか。
国立循環器病研究センター(以下、国循)
塩分の摂り過ぎは、高血圧や動脈硬化の原因になります。高血圧や動脈硬化が進行すると、脳卒中や心臓病、腎臓病など命にかかわる重大な病気になる可能性が高まります。だからこそ、日頃からなるべく塩を減らしましょうと言われています。
取材担当者
それで国立循環器病研究センター(以下、「国循」といいます。)様は「かるしおプロジェクト」で減塩の啓発活動に取り組まれているわけですね。このかるしおプロジェクトを始められたきっかけは何だったんですか?
国循
2010年4月に「国立循環器病研究センター」は独立行政法人としてスタートを切ることになりました。このとき、現在の「オープンイノベーションセンター」の前身である「研究開発基盤センター」が設立され、初代センター長に就任したのが人工心臓の研究者である妙中義之先生でした。この妙中先生が、医療と産業とを結びつけることに尽力されている方で、注目したのが病院で提供する「病院食」でした。
取材担当者
失礼ながら、一般的に病院食は「おいしくない」と言われますね。
国循
理由は簡単です。病院食は塩分量を控えているからです。しかし病院としては、患者様にきちんと食べて栄養をつけてもらわなければなりません。そこで、国循では塩の代わりに出汁を効かせたり、色とりどりの食材で鮮やかに見せたり、野菜を飾り切りして華やかにするなど、味と見た目に工夫を凝らしてきました。そのような工夫により国循の病院食は「減塩しているのにおいしい」と、患者様にはとても好評でした。
取材担当者
減塩なのにおいしいのなら、退院したくなくなりますね(笑)。
国循
そうなんです(笑)。そこで、おいしいと言われるレベルまで高めた病院食を、減塩食として世の中に紹介しようと考えました。減塩食をメニューに取り入れた「国循弁当」も販売しましたが、その中で世の中に広く知られるきっかけになったのが、減塩に特化したレシピ本でした。これが一躍大人気となり、初版本は日本の大手ネット通販会社の売り上げランキングで、書籍部門2週間連続売り上げ1位を記録したほどでした。
取材担当者
それはすごいですね。
国循
「かるしお」というネーミングは、「減塩」よりも気持ちが明るく、前向きになるキャッチーな感じと、「塩を軽く使っておいしさを引き出す」というレシピのコンセプトから生まれました。だからレシピ本のタイトルは、ずばり『かるしおレシピ』。付録には小さじより小さな、「かるしお」スプーンも付け、少量の食塩でも適切に測れるようにしました。
取材担当者
レシピ本をきっかけに「かるしお」の認知が広まり、「かるしお」のブランドがスタートしたわけですね。
国循
はい。しかし習慣的に減塩メニューを取り入れてもらうには、レシピ本だけならまだまだです。もしも、お買い物に行くスーパーの棚に「かるしお」のための商品があれば、日常的に減塩食を口にできるのではないかと考えました。そして、「かるしお」のための商品を手に取ってもらうためには、まず「これは国立循環器病研究センター認定の、減塩なのにおいしい食品だ」といった認知をさらに広める必要がありました。そのため計量スプーンをモチーフにした「かるしおマーク」のデザインを考案し、商標登録を済ませ、認定制度としてスタートさせることにしました。この認定制度が運用されたのが、2013年頃だったと思います。


「かるしお」プロジェクトの認定制度

~「減塩」と「おいしい」の両立を!「かるしお」認定制度のスタート~

取材担当者
認定制度について教えてください。現在認定した企業はどのくらいありますか?
国循
現時点で45社、112種類の食品を認定しています。基本的に年2回、企業様から申請のあった食品について、成分や味などを総合的に見て認定しています。
取材担当者
認定制度をつくるにあたって、苦労したことはありますか?
国循
最初は、研究者が経済活動に対してどこまで介入していいものかわかりませんでした。担当省庁や広告代理店に協力を仰ぎながら進めていったのですが、なにぶんこの分野は未経験だったので、特に苦労したのが認定の「基準づくり」でした。
当初は、「あまりきっちり決め過ぎない方がよいのでは?」というスタンスだったのですが、いざ認定制度がスタートすると、そのスタンスでは曖昧な部分に考え方の幅ができてしまって、判断にブレが生じることがわかってきました。それでは制度の信頼に関わってきますので、この曖昧な部分を明確に標準化していく作業を進めていきました。今も必要に応じて、見直しを行っていて、改定した内容はその過程も含めホームページで公開するようにしています。
取材担当者
その基準というのは、やっぱり減塩に関することですか。
国循
そうです。かるしおプロジェクトでは、塩分の摂取量を1食2g未満に抑えることを目標にしています。そのために、その数値をわかりやすく設定し直しました。さらに、おいしさについても、国立循環器病研究センターの医師や看護師、栄養士など、必ず30名以上の人間が実際に試食して評価しています。
取材担当者
減塩の基準は数値で測れますから明確ですね。一方でおいしさも、それだけの人数の舌で測るなら確実性があります。なぜそこまで「おいしさ」にこだわるのですか。
国循
「減塩しているのにおいしい」というのが、かるしおプロジェクトの出発点だからです。おいしければ、減塩食でも食べ続けられます。循環器疾患は毎日の生活習慣の改善がポイントです。おいしい減塩食なら無理なく続けられ、習慣化できます。しかし、そのための減塩基準をクリアしても、味がおいしくなければ認定することはできません。国循は「減塩食はおいしくない」というイメージを払拭したいのです。 「かるしお」プロジェクトの核心は、「減塩」と「おいしい」の両立です。そこをご理解いただいた企業様に、ご協力いただいています。
取材担当者
商品を拝見すると、同じ商品に通常の商品と「減塩」版の「かるしお」認定商品も並行して販売されているようですね。お互い、遜色なくおいしいというわけですね。
国循
「減塩」という健康に特化した付加価値は高いと思います。そのため多少価格が上がっても、消費者は健康でおいしいならと納得してくださるようです。減塩への取り組みは、企業のブランドづくりにもお役に立てていると考えています。


優れた知財ライセンスビジネスの仕組み

~国立循環器病研究センターも企業も消費者もウィンウィンの関係性~

取材担当者
「かるしお」商品に認定された企業には、登録商標である「かるしおマーク」の使用ライセンスが付与されて、消費者に対しても「健康食品にも力を入れる企業」という企業のブランドイメージを広報することもできるわけですね。一方で、国立循環器病研究センター様も、企業からライセンス料を受け取り、さらにかるしおプロジェクトの活動ができます。国民の年間食塩摂取量が抑えられて、疾患予防につながる。知財ライセンスの仕組みをうまくビジネスモデルに乗せ、一般消費者と企業、国立循環器病研究センター様の3者がウィンウィンになる関係をつくっておられる。これは本当に理想的な、知財ライセンスビジネスの事例だと思います。
国循
ありがとうございます。例えば医療機器の開発など、企業様との共同研究で知財が絡むケースはよくあるのですが、「かるしおプロジェクト」はそれらとは仕組みが全く異なります。医療機器の開発のような共同研究と大きく異なる点は、国循は企業様に「減塩なのにおいしい」というコンセプトだけを提示していること。開発はすべて、企業様にお任せして国循はそれを認定するかしないかの判断だけを行います。おかげで開発スピードは、ほかの共同研究に比べて早く、知財に詳しい方からも「公的機関で、このような形で登録商標を利用している事例は珍しい」とご指摘いただいたこともあります。
取材担当者
そうだと思います。自社のブランドを守るために商標登録を受ける事例はよくあります。しかし登録商標を用いてライセンスビジネスに活用する例は、実はあまり見ません。
お金を払う側のライセンシーが、良かったと思えるブランドイメージの維持と、商品がさらに売れるよう、知名度と品質維持の確保にも努めておられます。ライセンシーのメリットと、消費者のメリットを一番に考えておられますね。ライセンシーである企業様には、安心してこの認定制度を使い続けてほしいと思います。ちなみに、この知財ライセンスビジネスの起案に、弁理士は関係していますか。
国循
当時は知財担当だった職員がいて、主にその職員が国循内で行っていました。別途、弁理士さんにも相談したかもしれません。


「かるしお」プロジェクトの今後の取り組み

~「広めたい」「守りたい」ブランドを維持する難しさ~

取材担当者
素晴らしい取り組みですが、課題があるとすれば何でしょうか。
国循
知名度のさらなる向上です。大手スーパーに特設売り場を設けていただき世間一般へのアピールに努めるなど試行錯誤していますが、まだまだです。
取材担当者
国立循環器病研究センター様のある大阪をはじめ、関西エリアだと「かるしお」認定企業は多そうです。そのほかのエリアはいかがですか。
国循
特に大阪府は12社、兵庫県も5社あります。しかしそれ以外だと東京都は7社、福岡県は1社。塩分摂取量が多いとされる東北地方の岩手、宮城、秋田、山形の各県で1社ずつと少なめです。生活習慣の改善が必要と思われる地域への展開が課題です。
取材担当者
ところで、これまでに「かるしおマーク」などの模倣などはありましたか。
国循
ないことはありませんが、まだ警告などという事態にまで至ったケースはありません。ただ、ブランドを守るための話し合いは事あるごとに行っています。例えば国循では「S-1g大会(エス・ワン・グランプリ大会)」(注釈「S-1g」とは、塩(Salt)を1g減らそう(-1g)という意味をこめたもの)という、全国各地の食材を使って考案された減塩メニューのコンテストを行っているのですが、他にも1回の給食の食塩摂取量を2g未満に抑える吹田市内の小学校との3年間の共同研究といった活動にも、「かるしお」の使用権を付与してよいかどうか、といった場面もありました。給食については、「かるしおアレンジメニュー」というネーミングに落ち着きました。
取材担当者
それは「かるしお」という名前が、企業の方々が一生懸命開発した食品に対して使用できるものだから、というわけですね。
国循
はい。やはり「認定」、「付与」、「ロイヤリティ」というプロセスを踏んだものでなければ、その価値が薄まると考えています。そこを薄めないからこそ、「かるしお」のブランド価値があると考えています。ただ、一方で「かるしお」は「おいしい減塩食を広めたい」というスタンスから始まったプロジェクトもありますので、プロセスを経ずとも、世間一般に「おいしい減塩食」が広まるなら「かるしお」とネーミングしてもよいのでは、という声もあります。ブランドの維持、管理の難しさを感じています。
取材担当者
最近は海外での模倣も多いですが、これらの対策は取られていますか。
国循
中国では、日本と同様に「かるしおマーク」と「国立循環器病研究センター」のマークを商標登録しています。
他にもアジアを中心に登録を済ませています。


「かるしお」プロジェクトのミッション

~「食べる」以外のさまざまな取り組みで日本の健康を支える~

取材担当者
かるしおプロジェクトの今後の展望をお聞かせいただけますか?
国循
かるしおプロジェクトは「減塩食」という切り口で進めていますが、循環器疾患の原因は塩分の他にも喫煙や運動、生活習慣病など、さまざまなものがあります。最近では「エレキソルト」といって電気の力で減塩食品の塩味やうま味を増強する、新たな食器が開発されています。また運動や、禁煙や生活習慣病にならない取り組み、健康寿命を伸ばす取り組みといった視点で、より広い概念で、同じような形で国立循環器病研究センター発の認定プログラムを他にも作っていきたいと計画中です。大切なのは、日々の生活を満たしながら行えるということです。
取材担当者
そうすれば長続きするし、習慣化されますね。
取材担当者
はい。そして、何より生活習慣病の抑制につながります。実は「かるしお」の他に「健康生活認証」という商標登録も「かるしお」と同時期に受けていました。ただ、これも「なにをもってこのマークを付与するか」といった基準づくりが大変困難でなかなか進められなかったのですが、最近になって、この分野でやれそうだといった方向性が見えてきました。2026年度に、なんらかの形で発表できればと思っています。
取材担当者
お医者様だと、「塩は1日〇グラムまで」などと医療の視点で物事を考えるのが自然です。国立循環器病研究センター様は、退院した元患者さんや患者予備軍と思われる一般の人にダイレクトに届けるために、経済の視点へ転換させたのが素晴らしいです。
国立循環器病研究センター様は、すでに関西圏の食品メーカーには大きく貢献できていると思います。次は全国レベルの知名度獲得と、ブランドイメージの向上ですね。これからの活動に期待しています。
本日は貴重なお話をありがとうございました。


国立循環器病研究センター
国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)は、国民の健康と幸福のために日々循環器病克服を目指した予防、治療、研究などに取り組む日本のナショナルセンターです。


2026年3月3日掲載

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