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ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
コトブキ浣腸ひとおし40 PREMIUM
特許第5891271号、意匠登録第1545783号、商標登録第4109414号
権利者:ムネ製薬株式会社 

お客様の声から創りだした、業界初の製品。知的財産権で守りながら、ユニークな広告展開で知名度を高めています。

「真心と思いやり」を念頭に、医薬品の製造・販売を通じて多くの人の健康をサポートしている、ムネ製薬株式会社。浣腸薬という脚光を浴びにくい製品で、知的財産権を獲得した業界初の容器を完成させたことで、国内外より注目されるようになりました。
今回は淡路島にある本社をお訪ねし、貴重なプロトタイプやユニークな広告を見せていただきながら、会社の歩みや広報活動、知的財産権への考えについてお伺いしました。

浣腸薬産業への参入背景

変化を恐れず、時代を見据えた方向転換

取材担当者
まずは、現在までの御社の歩みをお聞かせください。
ムネ製薬
現副会長の祖父が、1910(明治43)年に薬売りを始めたことが当社のスタートです。傷や肩凝りなどあらゆるものに効く「万金膏(まんきんこう)」という黒い貼り薬を作り、販売していました。どこの家庭にもある常備薬でしたが、貼ると肌や服に色移りすることがありました。そのため、戦後まもなくハッカ入りの白い貼り薬が登場すると、黒い万金膏の需要が激減してしまったのです。その動向を見て当社でも同様のハッカ入りの白い貼り薬を開発して販売しましたが、ラジオやテレビが普及していくと、そこで広告展開をする大手が売上を伸ばしていき、淡路島の小さな会社である当社は宣伝力が及びませんでした。また、薬の購入方法も変わり、各家庭の置き薬から薬局薬店で購入されるようになっていきました。今後生き残るためにはと考えいくつかの薬にチャレンジした中で、生産が比較的簡単で初期投資も少なくてすむ浣腸薬に社運をかけようと決断しました。
取材担当者
なるほど。そのような事情や時代背景もあって、浣腸薬に特化した製薬会社へと舵を切られたのですね。
ムネ製薬
1980年代後半のことでしたが、すでに浣腸薬では日本断トツの他社ブランドがあったので、当初は売上を伸ばすのに苦戦しました。競合他社が多数あったので、売上を伸ばすには他社と違うものを作る必要がある、との結論に至りました。
取材担当者
そのような状況の中で、御社はどのような特色をお持ちだったのでしょうか?
ムネ製薬
競争の中でブランド力のない当社が加わるとなると、勝負どころは価格になってしまいます。それだけでは生き残れないので、差別化を図るためにパッケージや売り方を工夫しました。当時は2個入りが主流で、常備薬として買う人はそれを2、3箱まとめ買いする人が多かったのですが、それなら1箱に入れる個数を多くすればいいのではと、5個入りにトライしてみたのです。すると「買いやすくて便利」というお声をいただき、東京へ進出する際には10個入りも作りました。
取材担当者
入り数が多くなると、少しお安くなったりするのですか?
ムネ製薬
はい。まとめ売りだと若干安く販売することができるので、需要も伸びていきました。同時にパッケージも変更しました。それまではパッケージにお金をかける発想がありませんでしたが、東京進出するには見た目も重要だと考え、大手広告会社に依頼をして紙質も良くしたものを作りました。卸会社から「売りやすいし見た目もいい」と言っていただいたことから、その後も見た目には注意しています。パッケージ(意匠)を変え、入り数を変える(商品の差別化をする)。その結果、田舎の「無名製薬」が「ムネ製薬」と認知していただけるようになりました。

知的財産権を活かした、知名度と売上の向上

10万人の声から生まれた、業界初のプレミアムな革命

取材担当者
今回の取材対象商品『コトブキ浣腸ひとおし40  PREMIUM』は、先行商品『コトブキ浣腸ひとおし』と同様にジャバラ型の容器を採用しています。浣腸薬の容器は丸型(卵型)という固定概念を覆す、ジャバラ型の画期的な容器形状が、どのようにして誕生したのかについてお聞かせ下さい。
ムネ製薬
10個入りの商品を作った時、ハガキが入るサイズの箱なので、中にお客様アンケートのハガキを同梱しました。返送されてくるハガキのアンケート結果やご意見からデータをとることもできましたし、商品づくりのアイデアにも活用させていただきました。その中で、液残りに関するご意見が圧倒的に多かったのです。主流の丸い容器だと完全に押し潰すことができず、容器の中にはどうしても液が少し残ってしまいます。昔からそれが当たり前と思っていましたが、お客様がご不満に感じておられるのであればこれは改良点だと思い、試行錯誤して2006年に誕生したのが、業界初となるジャバラ型の容器でした。まさに、皆さまからいただいた10万通ものお声から生まれたものです。
取材担当者
お客様からの声をヒントに具体的な商品開発を提案する部署があるのですか?
ムネ製薬
専門部が特にあるわけではありませんが、月1回の部長会で話をしたり、社員からの自由な意見や提案を元にアイデアを練ったりしています。社内に意見箱があり、社員の声がすぐに社長にも届くので、自由で柔軟なアイデアが集まります。
取材担当者
社長と社員の距離が近いのですね。商品のネーミングも斬新で、とても覚えやすいです。
ムネ製薬
これも社員から案を募集しました。その中から社員投票をした結果、断トツだったのがこの「ひとおし」でした。最初は浣腸薬や医薬品のイメージと合うか心配でしたが、イメージもしやすく、覚えやすいとご好評いただいています。やはり名前は大切だと実感しました。
取材担当者
業界初のこの容器は押しつぶしやすく、高齢者の方もより使いやすくなったようですね。
ムネ製薬
指の力が弱くなったシニア世代の方々にも容易に使っていただきやすい容器を考えると、横潰し式のジャバラ型に辿り着きました。容器の大きさや強度などさまざまな問題があったのですが、たくさんの金型を作って手の動きまで分析して、容器メーカーと共に試行錯誤を繰り返した結果です。ジャバラ部分のおかげでスタンドタイプにもなるので、使用前後にどこかへ置いても倒れにくく、衛生的に使えると評価していただいています。徐々に売れ行きが伸びていき、今では浣腸薬全体で国内シェアの30%を占めるまでになりました。
取材担当者
この先行商品のジャバラ型容器に関して実用新案権(登録第3121983号、権利満了)および意匠権(登録第1282601号、権利満了)を取られていましたが、これらの権利で模倣を防げましたか?
ムネ製薬
業界初のカタチでしたし、商品が商品なのでニュースバリューがある画期的なものだと数々のメディアで取り上げられて、テレビでも何度も紹介されました。すると、権利に抵触しないギリギリのところで真似する競合他社が出てきました。この頃から、権利をとることにすごく注意するようになりました。弁理士さんに相談すると、思ってもみなかったパッケージのマークなどで権利が取れることを教えていただきました。その他にもいろいろとアドバイスをいただいているのでとても助かっています。権利を上手に活かすことは、会社の利益と繁栄にもつながること。知的財産権は、広報をする時などにインパクトが出ますし、言葉の響きがお客さんからの信用にもつながり強みになるのでありがたいです。弁理士さんのアドバイスのおかげと実感しています。

取材担当者
ありがとうございます。それで、このジャバラ型以外でもさらに進化させたのが、『コトブキ浣腸ひとおし40 PREMIUM』なのでしょうか?
ムネ製薬
はい。もうこのジャバラ型という特徴だけではシェアの拡大が難しくなったので、お客様アンケートで液残りの他でご意見の多かった、「ノズルの長さ」と「容量」で勝負しようとなりました。まずは容量を通常の30gから40gへ増量しました。また、ノズルの長さを通常の30~35mmから45mmにして、業界最長のロングノズルを採用しました。ノズルのことを検討するうち、浣腸薬の使用時にノズルにワセリンなどの潤滑剤を塗るのが面倒というお客様からの声も多かったため、そこも何かひと工夫できたらと考えるようになったのです。試行錯誤を重ねるうちに、ノズルに波のような山をつけることで、乾燥状態でも抵抗が少なく挿入しやすくなることに気付き、新商品が完成しました。
取材担当者
このノズルの波形状についても、やはり試行錯誤されましたか?
ムネ製薬
ノズルに設ける山を3つにするか、5つにするかなど、何度も検討しました。ウェーブ具合もどのくらいの深さにするかなど、実験や試作をかなり行っています。おかげさまでジャバラ型に加えてこの「スルッとウェーブノズル」で特許権および意匠権を取得することができ、日本初の新機能を持つプレミアムな浣腸薬として、2017年に発売を開始しました。

知的財産が強みとなるメディア展開

世界が認めたデザインとユニークな広告で、多数の受賞歴

取材担当者
『コトブキ浣腸ひとおし40 PREMIUM』の容器デザインについては、国内外の様々な賞を受賞されていますよね?
ムネ製薬
はい。2019年に「グッドデザイン賞」(日本デザイン振興会主催)、2020年にも「IAUD国際デザイン賞」(国際ユニヴァーサルデザイン協議会主催)の医療福祉部門で銅賞、さらに2021年にはドイツの「Universal Design Competition 2021」(Institute for Universal Design主催)でエクスパート賞とコンシューマー賞をいただきました。他にも国内でいくつか受賞しています。

取材担当者
海を越えて、世界の舞台でも評価されたのですね。
ムネ製薬
とても嬉しいことです。ドイツのデザイン賞は、応募から結果が出るまで本当に大変だったので、感動もひとしおでした。新型コロナウイルスの影響で展示審査が中止となり、書類とオンラインでのインタビュー審査のみの実施でしたが、オンライン審査の前に英語とドイツ語での説明資料が必要だったので四苦八苦しました。ドイツ語の資料は英語の資料を機械翻訳しましたが、そのままでは字数オーバーとして受理してもらえなかったため、適当に後ろの段落を削除したものを提出しました。社員や家族に協力してもらいながら、真夜中になんとかオンライン審査も終えることができたのですが、最後に審査員から日本時間を質問され、「日付が変わっている」と答えると「ワインを飲んで寝ろよ」と言われたことが合格のサインではないかと思いました。後で分かったことなのですが、ドイツ語の資料の編集も絶妙だったようで、運が良かったように思います。特許を取得していたのも、大きな強みになりました。やはり当社は浣腸薬で「ウン」がついていると感じます(笑)。
取材担当者
医薬品としてはとても珍しい受賞ですよね?
ムネ製薬
そうですね。浣腸薬としては、初の快挙だと思います。正直、『コトブキ浣腸ひとおし40 PREMIUM』を単に発売しただけでは、ジャバラ型の『コトブキ浣腸ひとおし』が登場した時のような強烈なインパクトはありません。この商品を新聞やメディアで取り上げていただけるよう話題性を持たせるには、何か箔を付けるといいのではと、国内外の賞に応募してみました。
取材担当者
メディアで取り上げられるようになりましたか?
ムネ製薬
特許も取得していたので話題性もありましたし、多数のメディアが紹介してくださいました。『日経トレンディネット』でも取り上げていただいたのですが、紹介された画面で横に並んでいたのがiPhone(*Apple社の登録商標)でした。世界的に有名なスマートフォンの横に当社の浣腸薬が並んだのは、驚きです。おかげさまで徐々に知名度があがり、お客様が増えているように感じます。発信していくことの大切さを実感しました。
取材担当者
発信と言えば、ユニークな宣伝や活動もされていますよね。行動指針に掲げられている「今日も楽しく、お客様に喜んでいただく、良い仕事をしよう。キラリと光る、気になる会社を目指そう」という言葉が、まさにそのまま御社を表しているように思います。
ムネ製薬
とにかく無名の会社でしたから、一度見聞きしたら覚えてもらいたいと、常に思っていました。そこで記憶に残る、自由な広告展開を心がけています。
取材担当者
ポスターのインパクトのあるキャッチコピーやユニークなイラストなど、とても印象的です。ここへ到着する直前に、道路脇にある御社の「看板息子」の看板を見て、面白いなと、今日お話を伺うのがとても楽しみになりました。
ムネ製薬
『コトブキ浣腸ひとおし』の発売に合わせて、ジャバラ型ヘアスタイルのヒーローキャラ『ひとおし君』を登場させたので、看板息子としてお客様をお迎えしています。生みの親は、有名なイラストレーターさんです。ポスターなどの広告や販促物関係も、東京進出時にパッケージデザインをお願いした時からずっと同じ大手広告会社に依頼して展開しています。
取材担当者
「自分より美人な子が便秘だと、コンパで勝てる気がする」「自分のウンチから、家賃をとりたい」など、クスッと笑えてすごく面白いですよね。
ムネ製薬
「ウンコスメ」「ウンチ、当たります」など、奇抜なコピーも人前で口に出すのははばかられる言葉も、うちでは大歓迎ですから。遊び心のある広告を自由に制作していただいているので、業界内だけでなく、制作担当の方から国内外のメディアや広告デザイン賞やコピー賞によく出していただけて、受賞もしています。「食べ物を、出し物に!」というキャッチコピーに、お尻から様々な食べものが落ちているビジュアルのインパクトあるポスターがあるのですが。これが世界中の優秀な広告を紹介する『ARCHIVE』という雑誌にセレクトされ、それがきっかけとなってアメリカ・マンハッタンにある「Poster House」という美術館で永久保存されることにもなりました。
取材担当者
日本語がなくても世界で通用するポスター、すばらしいですね。
ムネ製薬
「大腸、丸出し」というキャッチコピーの広告では、販促物として大腸マフラーも作ったのですが、これは当時のドイツで発行されたデザインの本にも掲載されました。浣腸薬の広告自体珍しいうえに、インパクトもあるのでしょうね。
取材担当者
会社や商品の知名度向上のためにも、広告戦略は大切なのですね。最後に、今後期待されることはありますか?
ムネ製薬
今では浣腸薬を知らない世代が増える一方で、便秘などのトラブルを抱える人が増えているのも現状です。健康のためにも腸の重要さが認識されてきている一方で、学校で恥ずかしくてトイレに行けない子どもたちが便秘になる率も増えているようですし、女性の便秘の悩みも多い。浣腸薬を使い始めると、浣腸薬を使用しないと便が出なくなるのでは、という誤解もあるので、安全で便利な便秘治療薬だと再認識してもらえるよう広めていきたいですね。そのためにも弁理士さんに随所でアドバイスをいただいて権利を取得し、情報発信できることがありがたいですから、今後もぜひお願いします。
取材担当者
こちらもぜひお力になれたらと思いますので、ご不明なことやご相談があれば、いつでもお声がけください。本日は貴重で楽しいお話をありがとうございました。


ムネ製薬株式会社

ムネ製薬株式会社
1910(明治43)年7月創業、1947(昭和22)年7月会社設立。浣腸薬に特化して開発・販売を続け、2020年に兵庫県より「ひょうごオンリーワン企業」に認定される。2017年に発売した『コトブキ浣腸ひとおし40  PREMIUM』の容器デザインは、2020年、2021年に国際的なデザイン賞を受賞するなど、国内外で評価されている。特徴ある容器の開発、斬新な商品ネーミングとユニークな広報活動を通じて、業界で独自の地位を築く。
ハードとソフト両面から「より安全・より安心」な薬づくりを目指しています。


2023年2月20日掲載