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ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
卵のひび割れ程度検出装置及びこの検出装置を具備した卵選別装置
特許:第3749961号
鶏卵の選別包装装置(自動倉庫関連発明)
特許:第4470027号
権利者:株式会社ナベル

世界で通用する
自動鶏卵選別包装装置を開発。
係争も辞さない攻めの知財戦略で
しっかりと守っています。

鶏卵の自動選別包装装置で国内ナンバーワンのシェアを誇るナベル。大手スーパーをはじめ小売店に並ぶ卵のほとんどが、ナベルの先進技術で洗浄~検査~選別~パッキングされています。今回は京都市にあるナベル本社を訪れ、日本初となる自動包装装置や検査装置の開発経緯と知的財産への取り組み、そして海外展開まで、幅広くお話をお聞きしました。

ナベルの事業と製品

制御盤の生産から、鶏卵関連製品の開発へ

取材担当者
御社は「自動鶏卵選別包装装置」を日本ではじめて開発されたそうですね。まずはどのような製品なのか教えていただけますか。
ナベル
養鶏場で産まれた卵はそのままスーパーなどに並べられるわけではありません。まず卵の表面を洗い、乾燥させ、ひびや汚れを検査し、重さを量ります。さらに血卵がないかチェックして、重さごとに選別し、パックに入れてシーリングします。「自動鶏卵選別包装装置」はこの一連の作業をすべて自動で行えるシステムです。
自動鶏卵選別包装装置「CANOPUS」シリーズ。
卵への衝撃を抑える独自技術を搭載し、1時間に最大24万個の処理が可能。
取材担当者
開発にはどのようなご苦労があったのでしょうか。
ナベル
最も苦労したのは形状や殻の強度が一つ一つ微妙に異なる卵を割れないようにハンドリングすることでした。はじめは失敗の連続で、開発者である南部邦男(現・ナベル会長)の衣服からは、毎日試作機で割ってしまった卵の匂いが漂っていたそうです。
取材担当者
御社の創業は1967年ですが、その頃から鶏卵の機械を作っていたのでしょうか。
ナベル
いえ、初めは大手電機メーカーの依頼を受けて制御盤などを生産していました。しかし南部邦男は下請け仕事に飽き足らず、自社開発の製品を作りたいと密かに考えていたそうです。そこへあるメーカーさんから「南部君、鶏卵業界に卵のパックの蓋の開閉で困っている人がいる。君の会社で何か開発できないか」という願ってもない相談が舞い込んできたのです。
取材担当者
当時の卵パックは現在のものと異なっていたのでしょうか。
ナベル
蓋をホッチキスで閉じていました。大量の卵パックを手作業でホッチキス留めするのは重労働です。そこで当社が苦労の末に独自開発したのが、1975年に発売した超音波振動を利用して蓋を接着する「超音波シール機」です。
卵パック用の超音波シール機
取材担当者
お客様の評価はいかがでしたか?
ナベル
おかげさまで好評でした。またこの機械を発売したことで鶏卵業界との接点が生まれ、何かと相談を受けるようになりました。そんなおり、岩手の鶏卵農場さんから「外国製の鶏卵選別包装機は高額でなかなか手が出せない。ぜひ国産の機械を作って欲しい」とお願いされ、1979年に日本で初めて洗卵・選別・包装が自動でできる「AX-80」を開発・販売しました。
取材担当者
現在の「自動鶏卵選別包装装置」のルーツですね。
ナベル
そうです。外国製の機械と遜色ない機能を持ち、しかも半分以下の価格で販売したため業界の皆さんに大変喜んでいただけました。また値段だけではなくメンテナンス面でも外国製品を大きくリードすることができました。
取材担当者
輸入品は十分なアフターフォローを受けることができなかったのですか。
ナベル
部品交換するだけでも日本に届くまで4ヶ月かかるような時代でした。鶏は休みなく卵を産み続けます。機械が1日止まるだけで莫大な損失が出るのです。従ってメンテナンスにも迅速に対応できる当社の選別包装装置は大変よく売れました。
取材担当者
そこから順調に機械をバージョンアップしていったのですね。
ナベル
ところが思わぬ落とし穴がありました。数年後、アメリカのメーカーから突然訴状が届いたのです。内容は「貴社の選別包装装置の機構の一部が当社の特許に抵触しているため、直ちに販売を停止して損害賠償金を支払うように」というものでした。
取材担当者
請求金額はいかほどだったのですか。
ナベル
6億円です。その頃の年商が約6億円でしたから、まさに当社の存続に関わる大事件でした。4年にわたる係争を経て和解金を支払うことで決着したものの、これまでの包装装置はもう販売できません。急いで代替機を作りましたが、従来機より性能が劣るものだったため売上は落ちました。
取材担当者
その危機をどうやって脱したのでしょうか。
ナベル
鶏卵業界のお客様のニーズに応えるオリジナルの技術を開発することに活路を見出しました。その結果生まれた製品の一つが1998年に販売開始した画期的な「ひび卵検査装置」です。鶏卵業界に好評を持って受け入れられ、当社が息を吹き返すきっかけを作ってくれました。
取材担当者
「ひび卵検査装置」はどのような点が画期的だったのですか。
ナベル
それまで、ひびの有無は卵に下から光を当て、目視で行われていました。人間が検査しますからどうしても個人差が出ます。そこでひびの発見率が並外れて高いあるパート職員の方に話を聞いてみたところ、目視ではなく、卵を弾いて音で確認していたことがわかったのです。この発想を活かし開発したのがひび卵検査装置です。
世界初の原理による「ひび卵検査装置」。多角的連続ハンマーで1個の卵を瞬時に16回触診、発生した音響を分析することで目視ではわからない微細なひびも発見できます。
取材担当者
なるほど。職人技を機械に置き換えたというわけですか。
ナベル
そうです。食の安全基準がより厳しい方向に進む社会の流れにも乗って、ひび卵検査装置は鶏卵業界に定着してゆきました。この装置の販売後、卵のサルモネラ菌による食中毒は激減し、ほぼゼロになっています。
取材担当者
私たちの食の安全にも大きく貢献してくれているのですね。
ナベル
ひび卵検査装置の開発後、弊社の製品は「選別包装装置」と卵に対するセンシング技術を利用した「検査装置」という2本立てになりました。その後は選別包装装置に「自動倉庫」を導入して工場の稼働率を上げる工夫をしたり、人手不足の対策にロボットを開発したり、機械の稼働や生産情報をクラウド上で一元管理できるシステムをご提供するなど、鶏卵業界の課題に応えるための新しい技術や製品を生み出し続けています。
取材担当者
アメリカのメーカーからの訴訟は、今思えば御社の開発姿勢を促し、その後の発展を後押ししてくれたのではないですか。
ナベル
そうかもしれません。何にも増して訴訟の経験は、知的財産権の重要性を認識する契機になりました。
知的財産への取り組み

訴訟を契機に知的財産権の重要性を痛感

取材担当者
特許侵害で訴えられたことは、御社の知的財産権への姿勢にどのような影響を与えたのでしょうか。
ナベル
知的財産権を所有した企業の強さを思い知ったことで、知財は経営の武器になるということを学びました。以来当社は積極的に特許出願をするようになったのです。
取材担当者
ひび卵検査装置も訴訟以降の開発品ですから、当然特許権を取得しているわけですね。
ナベル
はい。ただ、出願から20年以上経過していて権利が終了しています。
取材担当者
そうなると同じ原理の機械を製造するメーカーが出てくるのではありませんか。
ナベル
おそらく模倣はできないと思います。メカだけでしたら可能かもしれません。しかし機械を動かすソフトウェアは改変やバージョンアップを重ねたことで非常に複雑なアルゴリズムになっており、容易に分析できないからです。 反対に、当社が開発した「自動倉庫型選別システム」も今年9月に基幹特許が切れたのですが、こちらは機械の高速化など、複数の改良特許で保護しています。
取材担当者
お話をお聞きしていると、御社の特許出願の目的は、権利侵害から技術を守ることにあるのでしょうか。
ナベル
そうです。防衛することで初めて市場での優位性も担保されます。そのために特許は非常に重要な役割を果たしてくれていると思います。しかし権利は持っているだけではだめで、行使することが必要です。南部邦男も「鞘に入れたままの刀では周囲も怖がってくれない。時には抜いて切りつけなければいけない」とよく言っておりました。
取材担当者
つまり訴訟ということですね。
ナベル
はい。係争も辞さない、というのが当社の知財戦略のスタンスです。実際に訴訟を起こすようなケースは十数年に一回程度ですが、それでも非常に大きな牽制効果を発揮しますね。
取材担当者
知的財産に関する活動は現在どういった体制で取り組まれているのですか。
ナベル
専門部門として知財部を設けており、ここが中心となって取り組んでいます。総責任者は経営陣の一人である副社長、その下に弁理士資格を持つ者を含むスタッフ数名、それから開発本部長にも入ってもらっています。
取材担当者
知財部さんの具体的な活動を教えていただけますか。
ナベル
月に1回「特許検討会」を実施しています。知財・開発・営業・メンテナンスの各部門長が集まり、主に出願済みの特許に関し審査請求の要否、外国出願の要否などを検討しています。幹部社員に当社の出願内容や状況、今後のアクションを把握してもらうためにも、欠かすことなく開催しています。
取材担当者
何年くらい実施しているのですか。
ナベル
次の開催でちょうど400回ですね。33年以上継続しています。
取材担当者
毎回幹部社員を集め、33年以上も続けているのですか。御社にとって知財と経営がいかに深く結びついているかが窺えます。
ナベル
報奨金制度も設けています。発明ごとに仮想ライセンス料を計算し、その数パーセントを発明者に特許報奨金として支払うのです。他社にはない新しい技術や製品を開発することが当社のバリューに繋がりますので、社員の発明意欲を高める報奨金制度は今後も続けていきたいと考えています。
取材担当者
御社は「京都府発明等功労者表彰」、「知財功労賞」など知財に関わる表彰を多数授与されていますね。
ナベル
表彰いただくことで、開発型企業というブランドイメージが醸成できます。最近は商標も積極的に出願するようにしており、もちろん侵害を防ぐ意味もあるのですが、自社ブランドを育てていきたい、という思いも込めて出願しています。知財を意識したブランディングは当社のイメージ向上、ひいてはリクルート活動にも好影響を与えてくれると考えています。
海外展開と知的財産

アジア、中国、そしてアメリカへ

取材担当者
御社は海外にも積極的に製品を輸出していますね。
ナベル
1992年に洗卵選別包装システムをマレーシアと台湾に出荷したのが始まりです。2003年にはマレーシアに現地法人を設立し、アジアを中心に営業活動を展開しました。2014年には中国にナベル上海を設立し、中国にも積極的に営業展開しています。
マレーシアに設立された現地法人
取材担当者
どの国に製品を販売するか、判断の決め手はやはり鶏卵の生産量でしょうか。
ナベル
もちろんそれも重要ですが、当社の包装装置や検査装置のニーズがあるかどうかがポイントです。例えばインドは鶏卵の生産量が世界2位です。しかし大半の卵は、まだ市場などで新聞紙に包んで販売されているのです。スーパーなどでの取り扱いがもっと増え、規格化された商品として流通しないと、当社の装置への需要はなかなか生まれません。
取材担当者
なるほど。では今後力を入れたいと考えている国はどちらでしょうか。
ナベル
アメリカです。現地の代理店と契約するなど、今まさに積極的に動きはじめているところです。
取材担当者
その場合はアメリカのメーカーと競合することになるのでしょうか。
ナベル
アメリカには今、当社と競合するメーカーはないのです。ヨーロッパのメーカーに買収されてしまったからです。
取材担当者
海外での特許出願など、知財に関する取り組みはいかがですか。
ナベル
費用対効果の見地から、外国出願は競合メーカーのある国に限定しています。当社の場合は中国とヨーロッパですね。また、海外では知財に関する係争は今のところはありませんが、新たな試みとして共同出願を行なっています。日本での発明を現地のパートナー企業と現地国で共同出願するもので、出願の費用や権利侵害があった場合の権利行使はパートナー企業が請け負います。
取材担当者
知財に関する御社の負担はかなり軽減されますね。
ナベル
はい。当社の製品の独自性が現地国で評価され、パートナー企業に利益をもたらすことができればwin-winの関係になるはずです。
取材担当者
国内から海外へ、御社が大きく躍進できた理由はどのような点にあると思われますか。
ナベル
日本の鶏卵の品質基準は世界一厳しいものです。それは世界の中で日本人だけが生で卵を食べるからなのです。卵の生食を可能にする品質基準、そしてそれを支える生産者の皆様の要求に応えることで、我々は鍛えられ、世界で戦える力を身につけることができました。その意味で、当社が躍進できた最大の理由は、鶏卵業界のお客様によるバックアップだと思っています。
取材担当者
ありがとうございます。せっかくの機会ですので、最後に我々弁理士になにか要望があればお聞かせいただけますか。
ナベル
当社では発明の発掘は基本的に自社で行っています。どの技術やアイデアを出願するか、しないかの判断は、経営戦略も関わってくるため内部の人間でなければ難しいからです。従って外部の弁理士さんに依頼するのは主に出願の手続きから権利化までです。とはいえ、鶏卵業界の装置やシステムというのはニッチな分野ですから、しっかりうちの製品のことを知った上で、出願・権利化で協力いただける弁理士さんや弁理士事務所さんと、パートナーのような関係でお付き合いしたいと考えています。
取材担当者
わかりました。本日は製品と知財だけでなく、卵や鶏卵業界に関する貴重なお話も聞かせていただきありがとうございました。


株式会社ナベル
1964年、南部電機として創業。1977年に株式会社化し、1987年南部電機から「ナベル」に社名変更しました。洗卵選別包装装置のトップメーカーとして国内でのシェアは80%以上。1992年から海外にもビジネスを拡大し、「世界の鶏卵業界の工務部門として、お客様の発展に貢献すること」を使命に掲げ、76カ国以上で製品を販売しています。


2024年2月29日掲載