独自の商品ヒット理論に
欠かせない要素として、
知的財産を
経営に活用しています。

開発機能を持ったファブレス企業として、弱電機器製造企業向けにおよそ1,000種類もの工具を製造販売する株式会社エンジニア。 同社が開発したプライヤー「ネジザウルス®」シリーズは、一般的に5万本も売れれば大ヒットといわれる工具業界において、 累計180万本という驚くべき販売数を記録し、さらに売れ続けています。 また、この「ネジザウルス®」の成功から髙崎充弘社長が導き出した商品ヒット理論も注目を集め、 近年はテレビのドキュメンタリー番組や情報番組、新聞、雑誌などにも数多く取り上げられています。 そこで今回は、今まさに勢いに乗っている同社を訪ね、独自の企業戦略と知的財産権に対する取り組みについて迫りました。
ごく少数派の声が、ヒット商品開発のきっかけに
- 取材担当者
- 御社は工具メーカーとして、数々のヒット商品を生み出されていますね。 中でも「ネジザウルスGT」や「鉄腕ハサミGT」「ムッシュ・マグニ」はテレビ番組や雑誌媒体などで話題となっていますが、 商品の大きな特長をお聞かせいただけますか。
- 髙崎社長
- 「ネジザウルスGT」は頭部がつぶれたネジをはさんで回し、簡単に外すことができる工具です。 「鉄腕ハサミGT」は小さなサイズと鋭い切れ味という矛盾する機能を両立させたハサミ。 新商品の「ムッシュ・マグニ」は精密工具に磁石で装着し、両手で作業ができるようにした携帯用ルーペです。
- 取材担当者
- ヒット商品を生み出す秘訣は何ですか。
- 髙崎社長
- この中で最初に大ヒットしたのは「ネジザウルスGT」ですが、実はシリーズ4代目なんです。 3代目まではそれほど売れ行きがよいとはいえない状況でした。



写真上から、「ネジザウルスGT」「鉄腕ハサミGT」「ムッシュ・マグニ」
- 取材担当者
- 急に売れ出したきっかけは?
- 髙崎社長
- 従来のネジザウルスを改良するにあたり、購入者の感想が書き込まれた「愛用者カード」を分析しました。 1,000枚ほどのカードを見ていって、グリップの改良やバネの追加、カッターの装着などの要望の中に、 わずか7枚だけですが、「頭部の低いトランスネジも回せるようにしてほしい」という声があったのです。


- 取材担当者
- わずか7枚ですか。
- 髙崎社長
- そうなんです。そんな少数意見はネグってもいいのでは?という声も一部にありました。 しかし開発会議で社員の一人が「当社の技術なら、その要望を実現できますよ」と言ったので、試作品を作ってみました。 すると、確かに頭が低いトラスネジにもガッチリ喰いつきました。 商品化して発売すると、「これを待っていたんだ!」という声があちらこちらから聞かれ、 売り上げがぐんぐんと伸びました。正直、予想外でしたけどね(笑)。 結局は誰もが思いつくアイデアでは、感動を与えられないんです。 顕在化されていない声をカタチにしたからこそ、成功につながりました。
- 取材担当者
- 「ネジザウルスGT」の人気を受けて、独自の商品ヒット理論を確立されたそうですね。
- 髙崎社長
- はい。それが「MPDP理論」です。 実は、ネジザウルスGTがヒットする前には、一年当たり約40アイテムもの新製品を開発していた時期がありましたが、GTほど売れたものはありませんでした。 その理由を私なりに探ってみたところ、「MPDP」、つまり、マーケティング、パテント(特許)、デザイン、プロモーションのすべてがGTには揃っていたことに気付いたのです。 「MPDP」のいずれか1つでも欠けていたら、戦略として不十分だったんですね。
独自の「MPDP理論」展開とともに、「知的財産管理技能士」資格取得を推奨
- 取材担当者
- 「MPDP」は4つの要素がすべて揃わないと、ヒットにつながらないというのが「MPDP理論」ですね。具体例を、教えていただけますか。
- 髙崎社長
- 例えば、GTは、マーケティングによってお客様の潜在的なニーズを拾い上げることができたことが成功の一因になっていますが、デザインも、 シリーズ1代目から4代目にかけてブラッシュアップし、GTでは、グッドデザイン賞やiFデザイン賞を頂いています。 さらに、キャラクター「ウルス」くんの導入や動画の作成など、プロモーションも積極的に行っています。 また、ネジザウルスシリーズについては、国内外で、特許権、意匠権及び商標権を取得しています。 知的財産で製品を守らなければ、コスト競争に巻き込まれ、市場における優位性を持続させることが難しいです。 このように、「MPDP」の4つの要素をすべて満たすよう、次に開発を進めたのが「鉄腕ハサミGT」と「ムッシュ・マグニ」です。 おかげさまで売上げも好調で、「MPDP理論」を実証することができたかなと思っています。

- 取材担当者
- なるほど。しかし、実際に「MPDP」全てを揃えるのはそう簡単ではないと思うのですが。
- 髙崎社長
- そうです。とくに、中小企業にとって最大のネックとなるのが、パテントです。 大企業のように社内で弁理士を雇用することもできないし、知財部も設置できません。 そこで、特許等については弁理士さんに相談に行くことになります。 弁理士さんは非常に丁寧に説明をしてくださるんですよ。 だけど、私のほうが一部しか理解できない。例えるなら、弁理士さんに2階からビールを注いでもらい、 1階で待ち構える私のグラスにはビールがほとんど入らないイメージです。
- 取材担当者
- 弁理士の説明が、グラスの外にこぼれてしまうということですね。
- 髙崎社長
- そんな中、私は2005年に「知的財産管理技能検定」の存在を知り、3級、そして2級に合格しました。 すると、弁理士さんがいる2階の途中まで階段を上ることができ、グラスにきっちりとビールが注がれるようになりました。 つまり、弁理士さんとの距離が縮まり、とにかく話がよく理解できるようになったのです。 今までは何を尋ねればいいかさえ分からなかったのが、経営判断に基づいて特許のこと、 意匠のことなどをピンポイントに相談できるようになりました。


- 取材担当者
- 私たち弁理士にとっても、企業の経営戦略に沿って、より踏み込んだアドバイスを行いやすくなりますね。結果として、ビジネスに役に立つ特許を効率よく取得することに繋がると思います。
- 髙崎社長
- そうですね。企業側に知的財産の仕組みや効果についての理解が不足していると、「特許を取ってもあまり意味がなかった」なんてことになりやすいですし、結局、知的財産の有用性に気づかないままになることが多いのではないでしょうか。 今は私のほか、開発部門を中心に資材部、営業部など30名の社員の内9名が知的財産管理技能士の資格を取得しています。
模倣防止に知的財産権が効果を発揮 今後は海外での権利確保が課題に
- 取材担当者
- 知的財産管理技能士の資格取得は、弁理士とのコミュニケーション以外に、御社にどのような効果をもたらしましたか。
- 髙崎社長
- 例えば新商品を開発する際、他社の権利侵害にならないかどうか、第一段階の調査スクーリングを社内でできるようになりました。 さらに開発が進む中で、特許、商標、意匠などどの部分を出願するかといったことも、社内会議で決めることができています。
- 取材担当者
- 現在までに取得されている知的財産権の一例を教えていただけますか。
- 髙崎社長
- 「ネジザウルス」シリーズを例にとると、国内外で特許権・意匠権・商標権など合計18件を取得しています。 模倣品を防ぐうえで、これらの取得は非常に大切。目に余る模倣品に対しては、知的財産権に基づいて警告書を送ったこともあります。

- 取材担当者
- 御社のように「知的財産管理技能士」資格を取得された方が多くいる企業として、今後弁理士に期待することをお聞かせいただけますか。

[知的財産管理技能士とは]
企業・団体などにいながら知的財産を適切に管理・活用して、その企業・団体に貢献できる能力を有することを証明する国家資格です。
主に社外で活躍する弁理士に対して、技能士は企業・団体の内部で能力を発揮します。
- 髙崎社長
- 「ネジザウルスGT」も「鉄腕ハサミGT」「ムッシュ・マグニ」もそうですが、これからの商品はすべて最初から海外展開をねらっています。 その際、課題となるのが海外での知的財産権です。そこで弁理士さんには、海外の特許事務所との連携を強化していただきたいですね。 アメリカはもちろん、中国、韓国、タイ、インドなどアジア地域、ブラジルなど中南米地域、エチオピア、ザンビアなどアフリカ地域、 どこもかしこも知的財産権を押さえるとなると桁違いのお金がかかるので、適切なアドバイスがいただければと思います。
- 取材担当者
- わかりました。日本弁理士会近畿支部には海外事情に精通した弁理士が数多く在籍しています。 「MPDP理論」をもとに躍進を続ける御社の今後に向けて、これからもぜひ弁理士をお役立てください。 本日はありがとうございました。


株式会社 エンジニア
昭和23年、大阪にて創業。以来65年間にわたり、電気・電子機器業界のプロフェッショナル向け作業工具を製造販売。平成21年に発売した「ネジザウルスGT」が、ユーザーの心を掴みTV番組などで紹介される大ヒット商品に。平成25年春には「ネジザウルス」の発明とその貢献などの功績が認められ、髙崎社長が黄綬褒章を受章されました。
2014年2月27日掲載