ちざい げんき きんき 事例紹介
知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
カップヌードル
位置商標登録:第6034112 立体商標登録:第4997908 ほか
権利者:日清食品ホールディングス株式会社
知的財産権でさまざまな
施策をバックアップし
それによって育った
商品・ブランドの価値を
再び知的財産権で守り、
高めていきます

誰もが一度は食べたことがあるであろう「カップヌードル」。発売から50年近く経った今も、日本はもちろん海外でも多くの人に親しまれている世界初のカップ麺は、複数の知的財産権を有している商品でもあります。今回はそのうち、近年新しく導入された「位置商標」を登録するまでの経緯と、その後の効果などについてお伺いしました。
カップヌードルというブランド
発売48年目、世界累計400億食
- 取材担当者
- 本日は「カップヌードルミュージアム 大阪池田」を案内していただきありがとうございました。平日でも大勢の人で賑わっていますね。

- 日清食品HD
- 当館だけで年間約90万人、「カップヌードルミュージアム 横浜」と合わせると約200万人を超える方にご来館いただいています。

展示が楽しめる

- 取材担当者
- 館内では、外国人観光客の方もたくさん見かけました。
- 日清食品HD
- 近年では、特にアジア圏からのお客様の割合が増えています。2017年9月に「インスタントラーメン発明記念館」から「カップヌードルミュージアム 大阪池田」に名称変更したのも、世界的に知られた弊社の主力商品の名前を冠することで、よりグローバルに当館の魅力を発信していきたいと考えたためです。
- 取材担当者
- その狙いは当たっているようですね。
- 日清食品HD
- おかげさまで、海外への浸透も進んでいると実感しています。ただ、当社としては、まだお届けできていない国と地域の皆様にも親しんでいただけるように、カップヌードルのさらなるグローバルブランディングを進めております。
- 取材担当者
- ちなみに、カップヌードルはこれまでにどれくらい食べられてきたのでしょうか。
- 日清食品HD
- 1971年の発売から今年で48年となりますが、現在世界80以上の国と地域で販売され、世界累計400億食を記録しています。

- 取材担当者
- 国内では何種類のカップヌードルが販売されているのでしょうか。
- 日清食品HD
- 毎週のように新製品が発売され、逆に数量限定のものは終売されているので、はっきりとした数字は申し上げにくいのですが、国内では常時、約40種類のカップヌードルが販売されているとお考えください。
- 取材担当者
- その中で、売り上げが高いのはどの種類ですか。
- 日清食品HD
- 国内では、発売以来1位を守り続けているのが「レギュラー」です。次いでシーフード、カレー、この3種類が不動のトップ3です。

「S」がついた複数形になっている
- 取材担当者
- 確かにその3つは定番という印象がありますね。海外でもその人気は変わらないのでしょうか。
- 日清食品HD
- 海外では、醤油味をベースとした「レギュラー」の人気が国内ほど高くはありません。代わりに、特にアジア圏ではシーフードの人気が高いようです。そのため、今後はシーフードを主力商品にして海外展開を図ろうと考えています。
これまでに登録した知財
「カップヌードル」を知財ミックスで保護
- 取材担当者
- では本日は、カップヌードルに関する複数の知財のうち、「位置商標」について詳しくお聞きしたいと思います。その前におさらいをすると、カップヌードルはこれまでに特許と実用新案を1つずつ、そして商標を3種類登録されていますね。

- 日清食品HD
- はい。まず、上部が密で下部が疎である麺塊の製造法である「容器付きスナック麺の製造方法」の特許と、カップの底より麺塊を大きくしてカップの中間に固定する<中間保持法>に関する「熱湯注加により復元するカップ入りスナック麺」の実用新案を取得しました。
- 取材担当者
- それらは、発売の半年前にすでに出願されていたと伺いました。

- 日清食品HD
- 当社の創業者で、チキンラーメンとカップヌードルの開発者である安藤百福は、1958年にチキンラーメンを発売した後、多くの類似品との係争に巻き込まれました。その経験を踏まえ、カップヌードルでは発売前に特許出願をすませていたのです。
- 取材担当者
- では、その次に登録されたのは?
- 日清食品HD
- 英字の商品名ロゴを商標登録しました。こちらは発売の翌年に、海外進出を見据えて行なったものです。
- 取材担当者
- そして最後に、立体商標と位置商標を登録されたのですね。
- 日清食品HD
- 2006年にカップヌードルの容器を「立体商標」として登録しました。カップヌードルの容器は片手で持ちやすく、さらに麺塊を容器内で宙吊り状態にすることでお湯だけの調理をしやすくしているなど、様々なメリットを備えています。そして包装材料、調理器具、食器の3役をこなす重要な構成要素でもあります。その容器を立体商標登録したことで、すでに登録していた知財との相乗効果が生まれ、より競合商品との差別化を図れるようになりました。

位置商標のデザイン
ほとんど変わっていないパッケージデザイン
- 取材担当者
- 容器を「立体商標」として登録されたのち、2018年に、パッケージの上部と下部に施している帯状のデザインを「位置商標」として登録されました。まずはこのデザインについて教えてください。
- 日清食品HD
- 帯状のデザインは通称「キャタピラ」と呼んでおり、発売当初から同じ位置にあります。キャタピラに限らず、カップヌードルのパッケージデザインは発売当初のままでほぼ変わっていません。
- 取材担当者
- ほぼ変わっていないということは、若干は変わっているのでしょうか。

- 日清食品HD
- ほんの少しだけ変更しています。ロゴに関しては、「NOODLE」の「L」の文字が、発売当初は隣の「E」の文字とつながっていたため、「L」を「I」と見間違い、識別しにくいとの声がありました。そこで、視認性を高めるために「L」と「E」の接点に2mmほどの横線を1本入れて、「L」が前に出ているように見せています。

- 取材担当者
- これは非常に細かい変更点ですね。ほぼ変わっていないとおっしゃった意味がよくわかりました。キャタピラのデザインも安藤百福氏によるものなのでしょうか。
- 日清食品HD
- いえ、このデザインは1970年の大阪万博のシンボルマークをデザインされた大高猛さんに制作していただきました。ただ、デザインイメージは安藤百福の発案で、阪急百貨店で金色の縁取りのある洋皿を見つけて、それを渡してデザインを依頼したそうです。

- 取材担当者
- デザイン自体はすぐに決まったのでしょうか。
- 日清食品HD
- 大高さんによるこのデザインは一発採用だったそうです。とはいえ、そこにいたるまでに色々なデザインを集めたもののなかなか決まらず、結局決定まで1年ほどを要したそうです。

- 取材担当者
- 安藤百福氏はデザインにも非常にこだわられていたのですね。
- 日清食品HD
- カップヌードルは、チキンラーメンに親しんでこられた世代よりも若い方々をターゲットに発売されました。そのため「ラーメン」ではなく「ヌードル」という当時は新鮮だった単語を商品名にしたり、CMでは片手で持ってフォークで食べてもらったり、「新しいスタイル」の食べ物であることを訴求していました。安藤百福はそうした商品にフィットする斬新なデザインを探していたのだと思います。
- 取材担当者
- カップヌードルのコンセプトも興味深いですが、その要望に一発回答をされた大高さんもさすがですね。
- 日清食品HD
- キャタピラのデザインは50年近く経った今も劣化していない、古さを感じさせないデザインだと、毎日、目にしている我々社員も思っています。
登録の経緯
苦労したのはデザインの認知度証明

- 取材担当者
- 位置商標は2014年に新しく導入された商標の一つで、文字や図形、記号などがその位置にあるだけで特定の商品やサービスだと識別できる標章が対象となります。貴社では、2014年の導入当初から位置商標の登録を積極的に考えられていたのでしょうか。
- 日清食品HD
- もちろんです。カップヌードルは当社の最も重要な商品かつ知的財産の一つです。そのため、新たな商標権の取得については常に考えていました。
- 取材担当者
- 位置商標の登録はスムーズに進んだのでしょうか。
- 日清食品HD
- なかなか苦労しました。出願から約1年後に特許庁から商標登録できないとの通知を受けました。その理由は、「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない」(商標法第3条第1項第6号)というものです。この通知を受けてからが長い道のりでした。
- 取材担当者
- 詳しくお聞かせください。
- 日清食品HD
- 要するに、「キャタピラだけでカップヌードルだと一般消費者から識別されていることを証明せよ」といわれたわけですが、その立証のためにあらゆる策を講じたのです。
- 取材担当者
- 具体的にどんな方法をとられたのでしょうか。
- 日清食品HD
- まずはアンケートです。キャタピラだけが描かれている容器を見て、商品名かメーカー名を答える調査を実施しました。その結果は、選択式ではなく自由回答方式だったにもかかわらず83%以上が識別できるという回答でした。
- 取材担当者
- それは非常に提示しやすい結果が得られましたね。それで、登録の許可が出たのですか。
- 日清食品HD
- いえ、この結果の有効性は認められたものの、さらに証拠を求められました。そこで、ツイッターやブログを検索したり、当社のお客様相談室に寄せられたキャタピラについての声をとり上げたり、あとは、雑誌などでカップヌードルの特集が組まれると、誌面にキャタピラを模したデザインが施されることが非常に多かったため、そうした誌面も証拠として特許庁に提出しました。

- 取材担当者
- 大変なご苦労であったことが推察されますが、そうした過程で弁理士はどのような関わり方をしていましたか。
- 日清食品HD
- 特許庁に提出する書面作成にご尽力いただいたのはもちろんで、そもそも、こうした新しい権利を取得する取り組みにおいて先導役として我々を引っ張っていただきました。

- 取材担当者
- そうして2018年に位置商標の登録を果たされるわけですが、一番の決め手はどこにあったと思われますか。
- 日清食品HD
- 弁理士の先生方のサポートもさることながら、やはりカップヌードルという商品が、発売以来ほとんどデザイン変更をしていなかったことが大きかったと思います。実は、他の主力商品でも位置商標の登録を考えましたが、それらはカップヌードルに比べるとデザインの変更をしていたため諦めたほどですから。
- 取材担当者
- では、位置商標の登録によって、具体的にどんな効果が得られましたか。
- 日清食品HD
- 位置商標の場合でも、他の複数の商標をはじめとする知的財産権とあいまって競合商品との差別化が一層顕著になりました。それに加え、特に模倣商品に対する抑止力が向上しました。
- 取材担当者
- 位置商標によって抑止ができるカップヌードルの模倣商品とは、例えばどんなものでしょうか。
- 日清食品HD
- 色々なアイテムに不正使用されていますが、カップやTシャツなど、意外と食品以外のものに使われている例が多い印象です。いずれにせよ、今後も不適正な使用例への対応を強化していきたいと考えています。

知財への意識
特許を独占せず、業界の発展に寄与
- 取材担当者
- では、知財活動についての貴社の考え方をお聞かせください。
- 日清食品HD
- 知的財産権によって営業、マーケティングなどの分野におけるさまざまな施策をバックアップしつつ、そうして育った商品・ブランドの価値を再び知的財産で守り、さらに高めていけるような活動を心がけています。
- 取材担当者
- 貴社の積極的な知財活動は、安藤百福氏の知財に対する考えを受け継いだものなのでしょうか。
- 日清食品HD
- 先ほどもお話ししたように、カップヌードルに関しては発売半年前に特許と実用新案を出願するなど、知財の大切さを認識した行動をとっておりました。しかし、それ以前は、知り合いに「工場を見せて」と頼まれたらすぐに見せ、周りに止められるということもあったようです。
- 取材担当者
- その懐の深さが、チキンラーメンの類似品との係争につながってしまったのかもしれませんね。

- 日清食品HD
- ただ、それらの係争は、粗悪な類似品が出回り食中毒被害まで出てしまったという状況を改善するべく行ったという側面がありました。
- 取材担当者
- つまり、自社の利益のためではなく、消費者の安全と業界のことを考えた上での行動だったのですね。
- 日清食品HD
- その通りです。実際、安藤百福は、「野中の一本杉としてではなく、森として産業として発展させたい」という考えから、社団法人日本ラーメン工業協会(現・一般社団法人日本即席食品工業協会)を設立し、当社の独占的技術だったチキンラーメンの特許を27社とライセンス契約しておりました。
- 取材担当者
- まさに「標準化」ですね。
- 日清食品HD
- 安藤百福は「工業化できない特許には価値がない」と考えていたようで、「異議申し立ての多い特許ほど実力がある」、そして「異議を退けて成立した特許は強力である」とも語っています。
- 取材担当者
- 今は、知的財産の世界でも「オープン&クローズ」、つまり自社で保護したい技術や情報はきちんと保護しつつ、同時にオープンにできる部分は公開して業界の発展や社会貢献につなげるという、守る部分と公開する部分を意図的にわける考え方が注目されています。今から約50年も前に、オープン&クローズの考えを実践されていた安藤百福氏の先見の明には驚かされますね。
- 日清食品HD
- 当時の特許庁長官にも「世の中に特許を出願する人はたくさんいるが、それを企業化できる人はまれである。ましてその知的所有権を独占せずに公開して、世界的な産業にまで発展させた人は安藤さんをおいてほかにない」とご評価いただき、安藤百福も非常に喜んだそうです。
- 取材担当者
- 本日は、カップヌードルのお話を伺えただけでなく、安藤百福氏の知財意識や経営者としての視点もうかがい知ることができました。ありがとうございました。

- ※本記事は、口頭での取材と文書での取材に基づいて作成しました。

日清食品ホールディングス株式会社
インスタントラーメンの生みの親・安藤百福氏が創業した「日清食品」を中心とするグループの持株会社として2008年(平成20年)に設立。「日清」の由来は、「日々清らかに豊かな味をつくる」という安藤百福氏の言葉であり、「EARTH FOOD CREATOR」(「食」の可能性を追求し、社会や地球に貢献する)というグループの理念の下、インスタントラーメンや冷凍食品などの製造・開発を行っている。
(※写真はカップヌードルミュージアム 大阪池田)
2019年8月6日掲載