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ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
脱げないココピタ
特許第6449036号、意匠登録第1617134号、商標登録第6047709号、第6118957号、第6154125号 他

靴下サプリ
特許第6043982号、第5721972号、第6010790号、第6605264号、商標登録第5783016号、第5790453号、
第6298501号、意匠登録第1650021号 他
権利者:岡本株式会社 

『足もとから、ひとりひとりの幸せを共に創る』をミッションに、
全社員が同じ目的を持って創りあげたブランド価値を知財戦略で支え、
大切に育てています。

お客様のお悩みに寄り添い、それを解決できるようお客様目線で商品開発を行っている、レッグウェアメーカー「岡本株式会社」。その商品は多くの方に愛され、国内レッグウェア業界において10年以上売上No.1(※1)を誇っています。
今回は同社に訪問し、会社の歴史をはじめ販売数が急上昇したマーケティングのヒミツや、知的財産権への取り組みについてお伺いしました。

※1…2022年8月3日付 繊研新聞による

レッグウェアのトップランナーとなるまで
取材担当者
まずは御社のあゆみについて、教えていただけますか。
岡本
1934年に現社長の祖父にあたる岡本久太郎が、奈良の自宅裏の納屋を加工場に改造して創業しました。1948年には株式会社を設立し、今年で75年になります。レッグウェア全般の製造販売をしていまして、老若男女、あらゆる用途での製品を取り揃えております。
取材担当者
数多くの製品を開発・製造するとなると、ご苦労もたくさんあるのではないですか?
岡本
苦労と言いますか、研究開発には力をいれています。私たちは『足もとから、ひとりひとりの幸せを共に創る』ことをミッションとしているのですが、お客様の気持ちになって求められるものをベストソリューションとして提供できるよう、日々足について研究しています。足のムレ・臭いなどお客様のお困りごとの原因究明を行い、それを靴下の設計に反映しています。製品にするにはデザインも重要ですが、100年以上の長い歴史がある靴下ではすでに多くのデザインがある上に、競合他社も新たなデザインを日々提案されています。それらにはない独自のデザインを開発し、それを私たち知財グループが支えるという形で製品づくりをしています。
岡本
靴下は機械で糸を編んで作るのですが、既存の機械と糸を使って編むと、どこでも同じようなものができてしまいがちです。そうならないよう、有力な糸のメーカーさんや編み機のメーカーさんなどと一緒に糸や機械の研究もしています。
取材担当者
糸や機械から共同開発されていらっしゃるのですね。
岡本
当社の『SUPER SOX』というムレや臭いを対策した靴下は、開発当初、世の中にある素材では私たちが創ろうとしている機能と品質を両立したお悩み解決の靴下が創れないということで、糸から開発しました。糸のメーカーさんにもご協力をいただきながら細かい調整を重ね試行錯誤しました。
取材担当者
そうすることで、フットカバー「脱げないココピタ」など、お客様が求めているオリジナルの製品が生まれるのですね。
岡本
ニーズにしっかりフィットできる製品は、やはり出荷数もどんどん伸びていきます。「脱げないココピタ」は2018年に全国発売をして、2019年に累計2000万足、2021年は累計5000万足を突破しました。靴下業界で、いちオリジナルブランドがここまで売れたのは前例がないのではと思います。

常識を覆した製品の快進撃と、自社製品を守ることの大切さ
取材担当者
その「脱げないココピタ」が大ヒットしたことについて、詳しくお聞かせください。
岡本
初めに沖縄と福岡でテレビCMを放送したのですが、期待を上回る反響がありまして、一時期売り切れになるほどでした。これは当社の予想通り、お客様が求めている商品だ!と確信が持てましたので、そこからテレビCMを全国的に展開していきました。
取材担当者
実は私、今日履いてきました。私のまわりでもファンは多いです。

岡本
ありがとうございます。嬉しいですね。社外でお会いする方で「ココピタを履いています」と言ってくださる方が本当に多くて、それだけお悩みを抱えている方が多く、求められている商品だったのだと実感しています。
取材担当者
「ココピタ」という名前がとてもユニークだと感じたのですが、このネーミングにされた経緯を教えていただけますか。
岡本
「フットカバーと言えば〇〇」のように、フットカバーを代表するネーミングにしたいという強い思いから、商品企画部門の女性メンバーを中心に検討を重ねました。その結果「フットカバーは脱げるもの」という固定概念を持っている方にも自信をもってお届けできるよう、そして“ココに「ピタッ」”というフィット感が表れていて、覚えやすくキャッチーさを兼ね備えたネーミングということで「脱げないココピタ」になりました。抽象的な名前だと何のことかよく分からないし、具体的な名前だと説明になるので、バランスの良いネーミングになったと思っています。名前を覚えて頂いている靴下は少ないと思うのですが、「ココピタ」は購入された方のSNS投稿などにも記載されていて、覚えやすくリピートしていただきやすいのではと感じています。
取材担当者
踵の内側のストッパーを独自開発した「コの字型」にしたのが特長だと伺ったのですが、コの字じゃないものはすでにあったのですか?
岡本
1本線や波線などいろいろな形状のストッパーを備えたフットカバーがありました。でも靴との摩擦で履いているうちに、どうしても脱げてしまっていたのです。どうすれば靴下を足にピタッとフィットさせ、”脱げない”状態を実現することができるかと試行錯誤した結果、縦と横、どちらの方向もズレを防止する必要があることが分かり、「コの字型」に辿り着きました。
岡本
発売までの試作品は1000足を超えていました。社内外で着用試験を重ね、R&D部門で評価リサーチをしていきました。
岡本
製品が完成したら終わり、ではありません。ここ3年くらいで「コの字型ストッパー」を真似た模倣品もどんどん出てきているので、「ココピタ」を守れるよう知的財産グループも日々がんばっています。
取材担当者
そういったものに対しては、何かアプローチをするのですか?
岡本
まずその商品を購入して、弊社の知的財産権を侵害しているかどうかを社外の弁理士さんや弁護士さんと確認しています。侵害していると判断した場合は、警告し、販売等を止めていただくようお伝えしております。
取材担当者
商標はどのように押さえられているのですか?
岡本
「脱げないココピタ」の文字だけでなく、図形、つまり、「コの字型ストッパー」と、足にフットカバーを履かせて引っ張っている写真でも商標登録をしています。「この写真でも商標登録できるのか」は社内で議論になりました。その結果、かなり特徴的でこれまで見たことがないユニークさを持っているので、記憶に残ってブランドマークになるだろうとの結論に至り、商標登録の出願をしました。特許庁とも何度もやり取りをして、社外の弁理士さんにも何度も相談をして、必要書類のアドバイスもいただいてから登録になりました。
取材担当者
ネーミングを考えられた時点で、ヒットの予感から、商標や特許、意匠も多面的に取るよう考えられたのですね。
岡本
そうですね。商品そのものの意匠権を取っても、他社はデザインを変えて意匠権を回避しつつ模倣するので、「他社はここを変えるのでは」などと何度も検討を重ね、侵害されたくないものは出願しました。
取材担当者
商標については、扇状に配置された3つの直線だけでも権利を取得されており、知的財産権の取得に関していろいろ工夫されているように思われます。権利の取得に際して苦労されたことはありますでしょうか。
岡本
特許の明細書では、滑り止めの位置と足の骨との関係で脱げにくくなることを説明し、実際の製品では限りなく脱げないように近づける努力をして設計をしています。ですが、足の骨の形は個人差があるので、中にはどうしても脱げてしまう方もいらっしゃいます。だからといって踵を締め付け過ぎると足が痛くなったりかゆくなったりする可能性もあるので、程よいバランスをとるのが難しいところですし、そこが特許をとるのも難しいところでした。
取材担当者
人が身に着けるものなので、個人差も感想もそれぞれあるし、効果の測定も難しいですよね。奥が深いですね。
岡本
そういう意味でも、皆さんが求めていらっしゃる「脱げない」大切さがよくわかります。
取材担当者
「脱げない」とネーミングについていると、インパクトがありますね。

ネーミングを変えたことで、売上17倍以上の大ヒット
取材担当者
御社の「靴下サプリ」シリーズも、販売数が右肩上がりだと伺いました。ネーミングを変えるなどのブランディングによりヒットに至ったそうですが、これついて詳しく教えてください。
岡本
「靴下サプリ」シリーズの中に「まるでこたつソックス」という商品があるのですが、実は全く同じ機能性でありながら違う商品名で販売していました。以前のネーミングは、「三陰交を温めるソックス 」でした。発売当初はシニア層をターゲットとしており、足首の「三陰交」という部分に発熱素材を使用し、温熱刺激によって温めるという商品の特徴をダイレクトに表現していました。パッケージに「三陰交」と表記していましたが「三陰交」を知らない方が多く、温かい効果が分かりやすく伝わらず、売り上げも想定していたようには伸びませんでした。「靴下サプリ」ブランドを立ち上げる際に、この製品をリブランドすることになり、消費者へのリサーチも重ねた結果、現在のパッケージとネーミングに至っています。
取材担当者
今のサプリメントのようなパッケージデザインと「まるでこたつ」というネーミングは、温かそうなイメージもあってストレートに分かりやすいですよね。思い切ってネーミングを変えられる時、候補はたくさんあったのですか?

岡本
ありました。複数のネーミング候補が出てきました。お客様に機能性や効果が分かりやすく伝わることは大前提に、商標登録されていないか、商標が取れそうか、なども踏まえていろいろな角度から検討しました。その当時は、知的財産グループへ「靴下サプリ」の商品ごとにたくさんメールが届き、商品名だけではなく、機能の名前、ブランドの名前、デザインもそれぞれにあって…もうその時は大変でした(笑)。
取材担当者
ブランディングの効果は大きかったですか?
岡本
「靴下サプリ」シリーズは右肩上がりで成長しています。その筆頭が「まるでこたつソックス」です。
岡本
「まるでこたつソックス」は、会社にとって大切なブランドの一つです。それが流行ってくると、真似するところが出てきます。その類似品を勘違いして買われてしまうお客様もいらっしゃって…。効果を期待されているお客様が類似品を買ってがっかりされることは、私たちの想いとも異なりますので、知財で守らないといけないと考えています。
取材担当者
パッケージもかわいいですよね。見た目で手に取ることもあるので、女性受けするだろうなと思います。
岡本
靴下は、一般的には商品そのものが外に出ているような包装が多いのですが、「靴下サプリ」シリーズはサプリメントをイメージした袋入りを採用しました。靴下が完全にパッケージの中に隠れているので、新鮮さがあってお客様にも喜んでいただけているようです。店頭では普通のサプリメントのようにシリーズでパッケージを並べて靴下の“サプリ感”を出していただいています。
岡本
普段、3足1000円の靴下を購入されている方からすると少し高く感じられるかもしれないですが、効果を感じていただいた方が、リピーターでずっと買ってくださっていたり、プレゼントに使ってくださる方もいらっしゃいます。真冬のシーズンになると売り切れの状況も出てきます。
岡本
ありがたいことにたくさん売れて行くのですけど、専用の編み機で作るので製造が追いつかないこともあり…大変なんです(笑)。
取材担当者
かわいいパッケージとキャッチーなネーミングだと覚えやすいし、紹介もしやすいのでしょうね。商品の効果もちゃんと感じられたから、ヒットにつながったのでしょう。
岡本
去年の秋冬に初めてSNSでPR活動などもしたのですが、以前は購入されたお客様がパッケージ写真を載せて紹介してくださったものが、自然発生的にSNS上に広がっていました。美容系YouTuberの方やモデルの方、メディアで活躍されている著名な方々が愛用アイテムとしてご紹介してくださったりすることもあり、そこからじわじわ認知が広がっていました。
岡本
ネーミングやパッケージを考えて効果を打ち出しても、履いて実感できる商品ではなかったら、人気商品にはならないですからね。また、いいものを作ってもお客様にそれが分かりやすく伝わらないと、私たちが意図しているものはご理解いただけないですし、手にも取っていただけません。皆さんのお悩みを解決できる商品づくりをして、分かりやすくお伝えすることが大切だと実感しました。おかげさまで、リブランディング後の「まるでこたつソックス」の売上は17倍※2を記録し、「まるでこたつ」シリーズの累計販売足数は70万足※3を突破しています。

※2 2013年と2016年比較、数量ベース

※3 2015年〜2020年出荷ベース シリーズ商品「ソックス」「レッグウォーマー」「足首ウォーマー」「MENソックス」全て含む


自社ブランドを守る、知的財産の取り組み
取材担当者
知的財産グループでは特許も意匠も商標も担当されていらっしゃるのですか?
岡本
はい、すべてしています。5~6割が商標のことに時間を割いていますが、年間1万点以上のデザインの提出があるので、それを分担しながら対応しています。
取材担当者
商品名の商標登録をすることは一般的なのですが、それに付随する特徴的な図形の商標も取られているのが面白いなと思うのですが、その理由などをお聞かせいただけますか。
岡本
テレビCMを打つと認知度が上がると同時に、他社に模倣されてしまうリスクも上がってきます。でもすでに販売しているし、印象的なパッケージなので変えたくないという企画担当の想いもあったので、このブランドを守ることを考えた結果、図形も商標で出願してはどうかという話が出てきました。日々商標調査をしている中で、他社が結構パッケージそのままを出していらっしゃることも分かっていました。販売開始から時間が経過しており意匠は出せないので、じゃあ商標で権利化していこう!という結論になり出願しました。
取材担当者
商品のパッケージを丸ごと商標登録されるのではなく、要る部分、要らない部分を選択するなどいろいろと試行錯誤されたと思うのですが、そのあたりはどうやって決められたのですか?
岡本
例えば「まるでこたつ」では、一番守りたいのはやはりこのカプセルの図形だと確認し合い、それから他はどこを残すかと何パターンか考えました。商品企画側の想いを大切にしたいので、企画担当と相談を重ね、最終的には弁理士さんなどの社外の専門家に助言を求めたりして検討しました。
取材担当者
商標登録だけでなく、特許や意匠登録もされていらっしゃいますよね。
岡本
靴下というのは、基本的な形は同じで、カラーが自由自在なので、なかなか意匠で保護しにくいと思っていたのですが、商標や特許だけでは守り切れないことが過去にありました。何でも意匠登録をするとお金がかかりますし、どこをどう保護したいのか、どこまでお金をかけるのか、とある程度見極めながらできるものはしています。
取材担当者
社外の弁理士や弁護士からのアドバイスもあると思いますが、何をどういう形で守りたいかを社内で詳細に決められているのは、素晴らしいことだと思います。
岡本
保護したいところや真似されるとお客様が困ってしまわれるところを一番知っているのは、やはり社内の人間なんですよね。そこから保護するために最適なものは特許なのか意匠なのかなどは専門家と相談しながら進めています。
取材担当者
特許も意匠も、非常に知財へ力をいれていらっしゃる印象を受けたのですが、このような知財の取り組みはいつ頃からされておられるのですか?
岡本
R&D部門では20年前くらいから取り組んでいました。10年前くらいからは法務部で知財機能を組織化し、力を入れるようになりました。業界として権利意識が強くなっていった傾向がありますし、法務部が組織化される以前から弊社が開発した機械について実用新案を取るなど、知財活動はしていました。
取材担当者
社内への知財に対する浸透というか意識向上など、何か心がけていらっしゃることはありますか?
岡本
勉強会を定期的に行い、私たちがコンテンツを作って社内向けにeラーニングも実施しています。商品の企画会議にも参加して、「ここは権利化した方がいいですよ。」、「ここは新しいものを設計したら情報共有してくださいね。」、などと社内アピールして、アドバイスや情報をもらう動きを積極的にしています。
取材担当者
御社ならではの、知財について難しさや逆にやりがいを感じられることなどはありますか?
岡本
難しさというか、社内で足を引っ張り合うのではなく協力しないといけないと思いますので、開発・設計の段階で他社の権利の侵害につながりそうなところが見つかった時は、「やめましょう」と一方的に言うのではなく「やりたいことはこういうことですよね?それなら、こうすれば他社の権利を回避しながら目的を達成できるので、こういう風にしてはどうですか?」と提案するよう心がけています。
岡本
靴下は商品点数が多いので、一つひとつ見ていくのがまず大変ですね。靴下は技術者がその靴下を見たらどうやって編んでいるのかなどはすぐ分かるそうです。特許を出すときにもその辺を慎重に考えると、結構大変です。逆に多くの方に弊社の製品を履いていただけて、知名度も上がっているとやりがいを感じますし、とても嬉しいですね。
取材担当者
特許や意匠や商標という権利があってよかったという場面はありましたか?
岡本
やはり模倣品を見つけて警告や権利行使をする時ですかね。権利がないと何もできないですし、何もできなくて知財グループは頼りにならないと社内で思われてしまうと、その後進めたい企画の話もスムーズにいかなくなると思いますので。
取材担当者
営業面でブランドマークや意匠や特許がプラスになることはありますか?
岡本
商談の時など、独自性を伝えやすくてプラスになることがあります。
取材担当者
最後の質問になりますが、弁理士などの社外の専門家について思うことがございましたら教えてください。
岡本
専門家の方の高度な知識や特許庁とのつながりなどを持っていらっしゃることは、私たちにとって助かります。もちろん、私たちも勉強をしてそこになるべく近づくよう努力をしていますが、私たちグループの中でも意見が分かれる時があるので、そこで専門家からアドバイスをいただけるのはありがたいですね。
岡本
それに、法改正などを教えていただけるのも、とても助かります。日常業務をしていると、なかなかそこまでキャッチアップや理解をしきれないところがあるので、詳細を教えていただけるのは心強いです。
取材担当者
そのような点でも、またお力になれるようなお手伝いができたらと思います。本日はありがとうございました。

岡本株式会社

岡本株式会社
1934年(昭和9年)創業、日本のレッグウェア専業メーカーとして、「足もとから、ひとりひとりの幸せを共に創る」をミッションに、「まるでこたつソックス」、「脱げないココピタ」などを開発・販売。「世界から必要とされるマーケティング力の優れたレッグウェアメーカーとなる」というビジョン実現のために、日々挑戦を続けてまいります。


2022年9月20日掲載