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ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
パナソニックグループと知的財産
技術インデックス
商標登録:第6706290号
知財起点のオープンイノベーション
商標登録:第6736536号
パナソニック ホールディングス株式会社

現在10万件以上の
知的財産を保有。
パナソニックグループ
知財部門では、
世界を幸せにするために
様々な活動を推進しています。

1916年に創業者・松下幸之助氏が改良ソケットの実用新案を出願して以来、国内外で知財活動を積極的に推進するパナソニック ホールディングス株式会社。現在(取材時。以下同様)、国内外で10万件以上もの知的財産を保有し、日本・外国特許保有件数ランキングでは常にトップクラスを誇っています。今回は大阪府門真市に誕生した新しい自社オフィス拠点「Panasonic XC KADOMA」を訪問し、パナソニックグループ 知財部門の組織体制や活動内容などについてお伺いしました。

パナソニックグループ 知財部門の組織体制

戦略機能とオペレーション機能

取材担当者
パナソニックグループでは2022年4月に持株会社制に移行され、経営体制が大きく変わったとお伺いしています。そこでまず、グループにおける知財部門の組織体制と役割分担についてお聞かせいただけますか。
パナソニックホールディングス
現在は持株会社であるパナソニック ホールディングス株式会社の技術部門に属する知的財産部のほか、幅広い分野の専門人材が集うパナソニックオペレーショナルエクセレンス株式会社にある知的財産センター、さらには7つの事業会社にもそれぞれ知財部門があり、いずれも知財戦略の立案をメインに行っています。また、知的財産専門会社として設立されたパナソニックIPマネジメント株式会社があり、各事業会社の知財部門と連携しながら各社の知的財産に関する出願、権利化、活用戦略などに基づくオペレーションを担当しています。
知財部門の組織体制
取材担当者
お二方はどちらに所属されているのですか。主な担当業務についてもお教えください。
パナソニックホールディングス
パナソニック ホールディングス株式会社 技術部門の中の知的財産部と、パナソニックオペレーショナルエクセレンス株式会社にある知的財産センターの戦略部にそれぞれ所属しており、担当業務は主に3つの軸にわかれます。1つ目は「戦略」で、将来を見据えて知財部門のあるべき姿を描き、そこに行きつく為に必要な各種の仕掛けを行っています。2つ目は「制度基盤」で、その戦略に対する社内の仕組み作りを行っています。3つ目は「政策企画」で、戦略を実現する為の環境を整えるべく、対官庁など社外に向けた様々なルール形成や発信などを行っています。
取材担当者
お二方が知財部門に所属されることになった経緯を教えていただけますか。
パナソニックホールディングス
私は技術者として入社しまして、AV機器やカメラの開発を担当していました。その頃から特許出願にも携わっていて、知財部門の方とやりとりをしていく中で知財戦略に関する仕事に興味を持ちました。その後、知財部門へ異動し、私自身が出願したものを含めて権利化活動などを行ってきました。
取材担当者
自ら発明して、それを権利化してきたわけですね。
パナソニックホールディングス
私はもともと営業職でした。ところが事業改編の話が出てきまして、そのタイミングで知財部門への異動を希望しました。当時の小泉首相が「知財立国」を打ち出し、知的財産の創出や保護、活用に関して国を挙げて取り組んでおり、「今、一番熱いこの領域にチャレンジしたい」と思ったことが異動を希望した理由です。商標・意匠での実務が長かったのですが、3年ほど前にご縁をいただき、内閣府に出向する機会がありまして、そこで知的財産関連の政策に携わり、こちらに戻ってきてからはパナソニックグループの政策企画、渉外的役割を任せていただいています。
パナソニックグループ 知財部門のパーパス

社会の中での知財部門の存在意義を明文化

取材担当者
パナソニックグループの知財部門では2022年に「無形資産を巡らし、価値に変えて、世界を幸せにする」というパーパス、つまり、目的を掲げられました。どのような背景をもとに策定されたのでしょうか。
知財部門として掲げたパーパス

パナソニックホールディングス
世の中一般に知財活動は、権利を用いて、事業の優位性と安全を確保するという意味合いが基本的には強いと思います。もちろん、こういう側面もあるのですが、一方で今いろんな会社が社会課題との対峙を求められています。しかし、脱炭素をはじめとする巨大な社会課題の解決に向けて個社の技術や特許で何かできるかというと、我々も含めて難しいと言わざるを得ません。
取材担当者
なるほど。自社の事業展開だけでなく、社会課題の解決にまで目を向けられたわけですね。
パナソニックホールディングス
はい。先ほど申し上げましたように個社では限界がありますが、イノベーションの種になるような世の中の無数の無形資産がそれを必要としている人たちに適切に届くような仕組みができれば、社会課題を解決するようなイノベーションが継続的に生まれるのではないか、そのキッカケに無形資産はなり得るのではないかと考えました。「知的財産」だけでなく、アイデア、デザイン、ブランド、ノウハウ、データなど、を含めた「無形資産」を巡らせ、ネットワークを形成するという点を打ち出したことも拘ったポイントです。これらの無形資産の循環によって社会課題が解決されるような動きを作りたい、そして世の中を幸せにしたい。知財部門として掲げたパーパスには、そんな想いが込められています。現在、このパーパスを実現すべく、無形資産を社内外の立場が異なる人たちが活用できるようにする「共有知」、様々な無形資産を社会に巡らせていく「知の循環」、多様な無形資産同士をつなげていく「ネットワーク創造」という3つ観点から様々な取組みを取り組みを進めています。
「共有知」「知の循環」「ネットワーク創造」の3つの取り組み

取材担当者
社内外に巡らせた無形資産をどのようにすれば社会的な価値に変えていくことができるのか、詳しくお聞かせいただけますか。
パナソニックホールディングス
「無形資産を巡らし、価値に変えて」というのは、無形資産を保有していても使われなければ価値に変わらない、ということを意味します。そこで我々が特に取り組んでいるのが、「知財起点のオープンイノベーション活動Ⓡ」です。例えばこんな事例がありました。我々は人の血液を採取してDNAを解析し病気を診断するセンサー技術を保有していましたが、事業展開には到っていませんでした。そんな時、食糧自給率という社会課題を抱えていたシンガポールから水産養殖において魚の健康状態を把握するためにその技術を使いたいというお話をいただき、現地のテマセク工科大学に提供いたしました。
取材担当者
自社では辿り着かないような活用を彼らは思い付いたわけですね。
パナソニックホールディングス
我々は技術を持っていますが、世の中の社会課題を全て捕捉できるわけではありません。今回のケースでは無形資産を社内外へ巡らせることでシンガポールとつながって、経済的な価値だけでなく、食糧自給率の向上など社会的な価値に変えようとする試みに拡がりました。
取材担当者
この知財部門のパーパスは、30・40代のメンバーを中心とするグループが発案されたそうですね。
パナソニックホールディングス
今、国内外に溢れる社会課題の終着点は、ひとまず2030年または2050年を目標とするものが多いと思います。そこで、2030年に会社の中核を担う30・40代を中心とした新中期計画の検討メンバーによってこのパーパスは生まれました。
取材担当者
パーパスが制定される過程において、どのような議論がありましたか。
パナソニックホールディングス
もともとは「事業の優位性と安全の確保」という王道のミッションがありました。これはこれで大事なのですが、これからのパナソニックグループを取り巻く環境の変化や、知的財産に対する時代の位置づけの変化などを考えると、狭く限定し過ぎているのではないかという意見が出ました。先ほどのシンガポールの事例のように、数年前から知的財産を起点としたオープンイノベーションを進めており、自社に閉じない活用が生まれはじめていました。また、企業に対して社会課題解決が求められる中、それに取り組みたいという社員も増えてくると考えました。そこでミッションを広げ、かつ、社会の中での存在意義を明文化しようという想いでパーパスを定めました。
取材担当者
このパーパスについて、グループ内ではどのような反応がありましたか。
パナソニックホールディングス
最初に検討メンバー内で、「世界を幸せにする」というのは壮大過ぎないかという意見がありました。しかし、我々の知財活動はどのような目的で行うのかというと、やはり最後は「世界を幸せにしたい」という気持ちがあります。創業者である松下幸之助が“水道の水のように低価格で良質なものを大量供給し、物心両面の豊かさの実現を目指す”という「水道哲学」を説きましたが、我々のパーパスは世界中どこにいても無形資産が巡り、手に入れられるという点において通ずる考え方であり、「知の水道哲学」といった表現での発信の仕方も行っています。まずは社内に対してこのパーパスを発信しましたが、多くの社員から賛同を得ることができました。
創業者・松下幸之助氏

グループ内外とつながるプラットフォームづくり

「技術インデックスⓇ」の公開

取材担当者
パナソニックグループ内で「無形資産のインデックス化」にも取り組まれているそうですね。
パナソニックホールディングス
はい。この取り組みの1つとして、グループ内のニーズとシーズをつなぐことを目的とした検索システムを構築しました。我々の技術部門は人数も海外拠点も多く、異なる事業会社を横断して技術を活用することが難しい環境にあります。マーケットインで新商品を開発する場合、商品企画や事業企画からも、自社にどのような技術があるか見えづらいことが課題として挙がっていました。技術者自身も自分の取り組みが社会のニーズにマッチしているかわからない不安があります。それらを解決するため、知的財産の調査スキルを用いて営業や企画担当者など技術部門以外の人にもわかりやすい言葉で無形資産である技術情報をインデックス化し、社内のエキスパートや担当履歴、技術資料などを検索できるシステムを作りました。2022年4月から社員が利用できるようになっています。
取材担当者
さらに、2023年9月には「技術インデックスⓇ」という名称で外部向けの検索サイトを公開されています。この外部向け「技術インデックスⓇ」とはどのようなものか、またそれを公開された理由についてもお聞かせいただけますか。
パナソニックホールディングス
先ほどお話しましたシンガポールの水産養殖のように、世の中に役に立つかも知れない技術を眠らせてしまうのではなく、必要とするところに活用することこそ我々の願いです。そこで、パナソニックの技術を必要とするすべての人に届けるために、そして無形資産をオープンイノベーションの源泉にするために公開したのが「技術インデックスⓇ」です。これはパナソニックグループが持つ2万件以上の技術の中から目的に合った技術をどなたでも検索できるプラットフォームになっています。
取材担当者
外部向けに公開するには検索性が重要になってくると思いますが、どのような工夫をされていますか。
パナソニックホールディングス
まず、できるだけわかりやすく説明するよう心掛けています。「技術インデックスⓇ」では、人の暮らしの幸せを支える「ウェルビーイング技術」と、地球に優しい社会を作るための「環境技術」に分類しています。そこからさらに目的別、フリーワードなどを使って検索ができます。
「技術インデックスⓇ<環境技術>」検索画面の一例

取材担当者
知的財産の専門家でなくても、容易に技術を探すことができるわけですね。
パナソニックホールディングス
ベンチャー企業やスタートアップ企業とつながっていくことも大きな目的ですので、どなたでもわかりやすい言葉で簡単に検索できるようにこだわっています。
取材担当者
ほかにも工夫されていることはありますか。
パナソニックホールディングス
気になる技術が見つかったら、パナソニックの知財部門に具体的な質問や内容について相談できるようにしています。今後は掲載件数や分類をさらに増やしていかなければならないと考えているところです。将来的にはこのプラットフォームで他社の技術も公開できればと考えています。また、現在は最後に表示するものが特許ということになっていますが、技術をご理解いただくためのレポートと紐づけるなど、さらに充実させていきたいと思っています。
取材担当者
「技術インデックスⓇ」はリリースされたばかりですが、問い合わせ状況はいかがですか。
パナソニックホールディングス
すでに何件か問い合わせが届きはじめているようです。
特許の開放

「Low-Carbon Patent Pledge」に日本企業で初参画

取材担当者
オープンイノベーション活動の観点から、グループが保有する特許などを他社に無償開放されることもあるとお聞きしました。
パナソニックホールディングス
はい。ただ、必ずしも無償開放が適切でない場合もありますので、そこはケースbyケースで考えております。 創業当初の例で言いますと、ラジオを製造するための特許を発明家から買い取って公開し、メーカー各社が自由に作れるようにするなどの事例があります。
取材担当者
会社として利益を追求するだけでなく、昔から社会課題と向き合い、お客様の利便性を第一に考えられてきたわけですね。
パナソニックホールディングス
最近ですと例えば、2022年にLow-Carbon Patent Pledge(LCPP)に人工光合成の技術を無償開放した例もあります。LCPPは低炭素技術の社会実装の加速と社会全体での共同イノベーション促進を目的に、ヒューレット・パッカード、メタ、マイクロソフトなどが2021年4月に発足した枠組みです。パナソニックグループは2022年8月に日本企業として初めて参画しました。
取材担当者
先ほど創業当初のお話がありましたが、100年以上の歴史を誇り、国内外で広く知財活動を推進し、現在10万件以上もの知的財産を保有するパナソニック ホールディングスならはでの知的財産・無形資産に関する業務について、その難しさややりがいをお聞かせください。
パナソニックホールディングス
コングロマリット、つまり、複合企業に特有の悩みといいますか、事業会社それぞれ沿革も違い、立場も違うため、一枚岩になるのが難しい場面もあります。だからこそ、その中で統合してシナジーを生み出せた時のインパクトは非常に大きく、知財部門としても喜びとともにやりがいを感じるところです。
取材担当者
本日はパナソニックグループの知財部門について、役割分担や実際の活動、パーパスなどを知ることができました。お忙しい中、誠にありがとうございました。

取材後に創業者・松下幸之助氏の言葉や歴代の製品などが並ぶ「パナソニックミュージアム」をご案内いただきました。


※パナソニックホールディングス 知財部門のパーパスについて、詳細は下記リンク先をご参照ください。

https://holdings.panasonic/jp/corporate/about/intellectual-property.html


パナソニック ホールディングス株式会社
1918(大正7)年、松下幸之助氏が松下電気器具製作所を設立・創業。以来、松下電器産業株式会社、パナソニック株式会社など社名を変えながら、総合エレクトロニクスメーカーとして家庭用電化製品のほか、住宅設備分野、自動車関連分野、BtoB向けソリューションなど、多岐にわたる事業を展開。2022年4月より持株会社制に移行するとともにパナソニック ホールディングス株式会社へ社名変更。傘下の事業会社と国内外の関係会社を通して、社会生活の改善と向上、世界文化の進展に寄与しています。


2024年2月21日掲載