HOME > 関西会について > 事例紹介 > (株)竹中工務店 既存構造物の免震化方法(通天閣)・屋根免震構造(吹田スタジアム)・QTB(深江竹友寮)
ちざい げんき きんき 事例紹介 知的財産の活用で、元気な関西の企業/団体を紹介します
既存構造物の免震化方法(通天閣) 特許:第6383532号
屋根免震構造(パナソニックスタジアム吹田) 特許:第6420586号
QTB(深江竹友寮) 特許:第05638762号
権利者:株式会社竹中工務店 

社員全員が
「発明者」となるよう、
知的財産の芽を
積極的に発掘しています。

棟梁精神・作品主義・設計施工一貫方式など、独自のこだわりと高い技術力で時代を代表する建築物を作り続ける竹中工務店。今回は、同社が世界に誇る「免震技術」を取材しました。通天閣やパナソニックスタジアム吹田をはじめとする免震工事の事例とともに、知的財産へのスタンスや取り組みについてお話を伺います。

竹中工務店と免震技術

阪神・淡路大震災を契機に免震技術へ注力

取材担当者
御社は国内トップレベルの免震技術と実績をお持ちだと聞いています。免震に力を入れるようになった経緯を教えていただけますか。
竹中工務店
みなさんご存知のように、我が国は世界有数の地震国です。地震の脅威を免れる建物を作ることは、昔から私たちの夢でした。ある時、先輩研究員の耳に、海外から「免震」という新しい地震対策技術の情報が入ってきたのです。
取材担当者
それはいつ頃ですか。
竹中工務店
1980年代の初めです。70年代中頃に、免震技術の核となる積層ゴムがフランスで発明され、以後、アメリカを中心に技術開発が盛んになりました。当時はインターネットがまだ普及しておらず、入手できる情報も限られています。そんな中、先輩たちは雑誌の記事や論文などを取り寄せ、見よう見まねで研究を進めたそうです。そして試行錯誤の末、1987年、当社初の免震建物「船橋竹友寮」の竣工にこぎつけました。
取材担当者
まずは自社の社員寮に適用したのですね。
竹中工務店
はい。その後10年間は、年に1棟~2棟の細々したペースで免震の建物を設計しました。ところが1995年の阪神・淡路大震災を契機に状況が一変します。神戸市の北区にあった郵政省のコンピューターセンターのビルが免震構造で、地震に対する有効性が実証されたためです。そのビルは、残念ながら当社の設計ではありませんでした。しかしこの後、関西のお客様から「免震構造でお願いしたい」という依頼が急増したのです。当社は大阪に本社を置いていましたから、必然的に受注が増え、低層から高層まで様々なタイプの建物に対応できるよう技術開発にも力を入れました。気がつけば、免震建物の実績が国内ナンバーワンになっていたのです。
取材担当者
なるほど。それにしてもなぜ免震は地震に対し有効なのでしょうか。
竹中工務店
地震対策には他にも「耐震」「制震」という技術があるのですが、どちらも倒壊や大きな損傷を防ぐことが目的で、建物自体は大きく揺れます。対して「免震」は、建物と基礎の間に積層ゴムなどの免震部材を設置し、建物自体に揺れを伝えにくくする技術なのです。
取材担当者
阪神大震災の時、知人の住む高層住宅は、倒壊の被害は免れたものの、揺れのために部屋の中はミキサーのようだったと言っていました。
竹中工務店
もしもその建物が免震構造であれば、揺れも大きく軽減されたはずです。その後、免震技術の一般化と共にお客様の多様なニーズに応えるべく技術を細分化。一般的な免震部材では対応が困難な超高層ビル、半導体工場、スタジアムなど、建物に応じた免震技術を開発していきました。
免震工事の事例と知的財産

タワーの脚を切断し免震部材を挿入

取材担当者
御社の免震技術は「通天閣」にも活用されているそうですね。そのお話を聞かせていただけますか。
竹中工務店
現在の通天閣は2代目で、1956年に建てられたものです。2014年、この免震化工事を当社が請け負いました。
取材担当者
免震化にあたり、どのようなところを工夫されたのでしょうか。
竹中工務店
プランでは、登録有形文化財でもある外観をできる限り変えないこと、また営業を中断させないことをお客様に提案しました。
取材担当者
そんなことが可能なのですか。
竹中工務店
はい。そのためにはタワーのどの部位で免震化するか、がポイントになります。計画段階では「低層階の上部」「低層階の下部」「タワーの基礎」など様々な案が出ましたが、最終的には「低層階の下部」、つまり通天閣の四つの脚の付け根に積層ゴムの支承とダンパーからなる免震部材を設置することにしました。まずコンプレッションガータという梁を巡らせて下部を安定化させ、先に積層ゴムを配置してからタワーの脚を切断し、ダンパーを差し込みます。最後に初代通天閣にもあった天井画を、脚の下に復刻・設置しました。実はこの天井画、免震部分を隠す役割も果たしているのですよ。
取材担当者
下部だけの工事で済むため上部タワーの外観には影響しないのですね。それにしても脚を切断するとは斬新な発想です。
竹中工務店
工事用のステージも、通天閣が営業を継続できるよう地上から8メートルの場所に組みました。このプロジェクトでは、「既存構造物の免震化方法」として特許を取得しています。
取材担当者
他にはどのような実績があるのでしょうか。
竹中工務店
最近のものではOBP(大阪ビジネスパーク)にある読売テレビ新社屋の設計施工をやらせていただきました。テレビ局は大地震が起きても放送を継続しなければなりません。そこでより地震に強い免震構造が求められました。
取材担当者
そのような要望にどう対応したのでしょうか。
竹中工務店
新社屋は、面積の広い低層部から細長い高層部が伸びています。高層部分が揺れると低層部分にも大きな影響が出るため、初めは低層部と高層部それぞれに基礎免震と中間階免震を施す「ダブル免震」というプランを立てました。しかし免震部材が増え工費が嵩むこと、またエレベーターの構造上工事が難しいことを鑑み、低層部と高層部の間に免震部材ではなく制震部材を使う「基礎免震+中間階集中制震」を採用しました。
取材担当者
免震と制振を組み合わせたのですね。どれくらいの地震に耐えることができるのでしょうか。
竹中工務店
熊本地震レベルの地震に対しても200ガル以下、つまり家具が倒れない揺れに抑えることができます。
取材担当者
南海トラフ地震への備えを始め、大地震に対応した技術というのはますます求められるのではないですか。
竹中工務店
そうですね。例えば当社では阪神・淡路大震災や東日本大震災レベルの巨大地震でも揺れを最小限に抑えることができる免震部材「QTB」を2年前に開発し、まずは試験的に、神戸にある当社の社員寮「深江竹友寮」に採用しています。
取材担当者
「QTB」は通常の免震とどこが違うのでしょうか。
竹中工務店
積層ゴムの下に、さらにすべり機構を配置している点です。通常レベルの地震時には、積層ゴムが揺れを吸収するのですが、ゴムの変形能力を超えるような巨大地震が起こった場合、積層ゴムごとスライドし、揺れの伝達を防ぐのです。
取材担当者
建物自体がスライドするのですね。この技術について、知的財産権は取得されているのでしょうか。
竹中工務店
はい、特許を取得しています。先ほどのテレビ局もそうですが、今後は病院や学校、庁舎など、巨大地震直後も機能を維持する必要がある建物に活用できれば、と考えています。
取材担当者
それにしてもこの「深江竹友寮」、デザインも大変洗練されていますね。
竹中工務店
ありがとうございます。共有部分だけでなく、寮室にもこだわっておりまして、居住空間を機能的に利用できるよう、ベッド、階段、デスクなどをパイプで一体化するユニークなデザインを採用しております。ちなみにベッドについては意匠登録も行なっております。
取材担当者
そういえば令和元年に意匠法が改正され、建築物の外観やレイアウトを含めた内装も意匠権で保護できるようになりました。
竹中工務店
意匠権については制度ができたばかりなので、設計部とともに検討しながら、対応力を強化して行きたいと考えています。
取材担当者
ガンバ大阪の本拠地であるパナソニックスタジアム吹田も免震化が施されているとか。
竹中工務店
はい。パナソニックスタジアム吹田は4万人の観客の頭上に屋根があり、照明施設やキャットウォークなどが吊られています。地震の揺れでこれらの吊り物が観客に落下することが最も危険だと考え、屋根を免震構造にしました。屋根の免震化によって、構造体の揺れも小さくなります。
取材担当者
パナソニックスタジアム吹田はどのような知財で保護されているのでしょうか。
竹中工務店
屋根の免震化の他に、工法で特許を取得しています。本工事では、予算の関係で現場のスタッフを最小限に抑える必要がありました。そのため、ほとんどの部材を工場で作り、工事現場では組み立てる作業だけで済むような工法を考案したのです。他にも、巨大な部材をクレーンで吊る時、落下を防ぐため水平に保つ技術で特許を取得しています。
知的財産部の取り組み

積極的に現場へ出向くことで発明を発掘

取材担当者
免震技術だけでなく、工法や建築デザインなど幅広い分野で権利化を行っている御社ですが、知財の管理や戦略はどのような体制で取り組んでいるのでしょうか。
竹中工務店
技術本部の下に知的財産部を置き、そこで統括しています。メンバーは現在26名。「権利化グループ」と「活用展開グループ」の2グループで構成され、権利化グループでは強い特許群の構築と獲得、事業リスク低減のための他社権利侵害対応、社内の教育活動などを行っています。活用展開グループは昨年3月に生まれた新しい部門です。開発した技術の社内外での活用展開を大きなミッションとしており、本日ご紹介をした免震技術などの開発・権利化した技術をプロジェクトへ適用促進したり、ライセンス活動・事業化に取り組んでいます。
取材担当者
知財活動全体の目的を教えていただけますか。
竹中工務店
社員全員が発明者となるように、発明発掘や知的財産権取得を積極的に行い、当社の技術力向上を促すことです。そのためにもここ1~2年は年間300件前後の出願を目指しています。実は以前、150件まで落としたことがありまして。同業他社さんと比較した時に、もちろん技術分野によって強い・弱いはあるわけですが、競争力維持のためにもトータルで300件はしっかりキープしていかなければと考えています。
取材担当者
御社の得意分野だけでなく、技術全般について知財化をテコ入れしていかないといけない、ということですね。
竹中工務店
はい、そのために、当社では知的財産部のスタッフが技術者のもとへ積極的に出向くようにしています。実は以前は、設計者や技術者が来てくれれば話を聞く、というスタンスでした。しかしみなさん多忙ですから、なかなか扉を叩いてはくれません。これではせっかく有望な技術があっても、知財化されることなく埋もれてしまいます。
取材担当者
それで待ちの知的財産部から攻めの知的財産部に転換されたのですね。効果はありましたか?
竹中工務店
現場の方自身が気付いていなかった、知財化するにふさわしい知恵や工夫を数多く発掘できるようになりました。またそういった技術を特許として出願すると、発明者の方のモチベーションが大きくアップすることもわかりました。「こんなことが知財になるのか」と驚かれ、次回から積極的にアイデアを持ってきてくれるようになった技術者もいます。
取材担当者
それは素晴らしいですね。そのようにして権利化した知財を、御社はどのように役立てているのでしょうか。
竹中工務店
建築プロジェクトのコンペや入札などで、当社独自技術のPRに活用しています。またお客様の方から「こういった課題について解決できる特許技術はないか」と問い合わせが来ることもありますから、取得している知財が多いほど、お客様のニーズへの対応力が大きくなります。それから、免震技術では免震部材をメーカーと共同出願することがあるのですが、メーカーから実施料をいただけるような契約を心がけるようにしています。実施料収入の一部を発明者に報奨金という形で還元し、モチベーションアップに役立てるためです。
取材担当者
一般の製品でしたら知財を模倣対策に役立てる場合がありますが、建築・建設分野ではいかがでしょうか。
竹中工務店
我々も同業他社も、お互いの権利を侵害しないように先行技術調査などをしっかりやっていますので、模倣が問題になることはあまり多くありません。侵害が懸念される場合は、事前に権利者と協議を行い、クロスライセンスを含めた許諾交渉を行うケースが増えています。協調して進めるべき分野は知的財産も含めてオープンにし、各社の強みのある競争領域は独自にやる。その方が、建設業界全体として発展するのではないかと考えています。
取材担当者
業界全体を見据えて知財を活用しているのですね。最後に、社外の弁理士とはどのように役割分担されているのか教えていただけますか。
竹中工務店
以前は主に明細書の作成を弁理士事務所に依頼していました。現在はお願いする範囲を拡大しておりまして、先願調査の他、現場での発明発掘や本店での説明会にも弁理士さんに同席いただき、アドバイスや相談対応をお願いしています。
取材担当者
弁理士も現場へ出向いているのですか。
竹中工務店
はい。最近はどの企業でも知財部員が足りない、という話を聞きますが、当社も例外ではありません。そこで、特許事務所の弁理士の方々にも発明発掘の初期の段階から参画いただいています。
取材担当者
なるほど。弁理士としても、お客様と密接に関わらせていただいくことで、より的確なお手伝いができると思います。今後もぜひ、貴社の知財戦略に我々弁理士をお役立てください。本日は貴重なお話をありがとうございました。

株式会社竹中工務店
1610年(慶長15年)創業。建築とは生命や財産を守る器である以上に時代の文化を後世に伝えるもの、という考えから建築を「作品」と捉え、時代のランドマークとなる建物を多数手掛けています。また近年、事業は建築の粋を超え「まちづくり」へと拡大。グループ各社が緊密に連携し、構想段階から企画・計画・建設・維持運営まで、「まちづくり」の全てのステージでお客様と社会の期待に応えます。


2021年2月24日掲載