特許:第2986590号 権利者:トーカロ株式会社
特許:第3510993号 権利者:トーカロ株式会社、東京エレクトロン株式会社
特許:第5025190号 権利者:日本精工株式会社、トーカロ株式会社
商標:第6419342号・第6443049号 権利者:トーカロ株式会社
溶射技術で国内シェアトップを誇る
トーカロの知財戦略とは
トーカロ(兵庫県神戸市中央区)は、溶射をはじめとした表面改質技術の総合メーカーです。鉄鋼や産業機器、半導体などさまざまな分野で使われる部品や生産設備に対して、特殊なコーティングを行うことで耐熱性や耐腐食性、耐摩耗性といった多様な特性を付与します。部品や設備の表面改質を行うことで、製品寿命が延びるため資材保全や廃棄物削減に貢献します。トーカロは表面改質技術のトップランナーとして国内シェアナンバーワンを誇り、海外企業とも数多く提携しています。トーカロの強みは、企業ごとの要望に応じた施工を行っていることですが、その特殊技術を守るための知財戦略について、担当者にお話を伺いました。
~耐熱性、耐腐食性、耐摩耗性などが向上する溶射技術とは~
- 取材担当者
- 今日はよろしくお願いいたします。早速ですが、トーカロ株式会社について教えてください。
- トーカロ
- トーカロは1951(昭和26)年に神戸市東灘区に設立した会社です。当時はカロライズ処理という表面改質技術に特化した会社で、社名も東洋カロライジング工業でした。1960(昭和35)年頃に溶射事業に本格的に乗り出し、1981(昭和56)年にトーカロへ社名を変え、2000(平成12)年前後から半導体市場の拡大に伴って急成長してきました。現在は半導体をはじめ鉄鋼、産業機器分野などで、顧客の工場がある太平洋沿岸地域を中心に、九州や中国地方にも工場や営業所などの拠点を展開しています。海外にもアジアを中心に、多くの提携企業や技術協力を行う企業があります。
- 取材担当者
- 御社のビジネスは溶射技術の提供であり、装置そのものの製造や販売は行っていないのでしょうか。
- トーカロ
- はい。装置そのものの製造や販売は行っておらず、お客様からお預かりした製品を、お客様のご要望に合った条件に施工して納品する、いわゆるソリューションビジネスを展開しています。そのため顧客の工場の近くに拠点を構え、部品の納品やメンテナンスをタイムリーに行える体制をとっています。
- 取材担当者
- ありがとうございます。あらためて御社の特徴である「溶射技術」とは何かを教えていただけますか。
- トーカロ
- 溶射技術とは、高硬度で高融点の金属やセラミックスなどを超高温で溶かして微粒子化し、高速で機械部品などの表面に吹き付けることによって、高機能皮膜を新たに形成する技術です。これにより、非常に熱に強くなる、腐食しにくくなる、あるいは摩耗しにくくなるなどの付加価値が生まれます。例えば航空機のジェットエンジンの表面に溶射技術による耐熱加工を施すことで、高温高圧の環境にも耐えられるようになるわけです。
こうした特殊なコーティングを施すことで劣化を遅らせ、部品を長持ちさせます。もしコーティングが痛めば、すぐに張り替えるといったメンテナンスも行っています。
- 取材担当者
- 「塗装」のように、単純に色を塗るといった施工とは全く違いますね。まさに表面の性質を変化させてしまう、かなり特殊なコーティングですね。それによって表面が分厚くはなりませんか。また溶射での着色は可能ですか。
- トーカロ
- 着色は可能ですが、色指定のご要望はないですね。大抵は白やグレーで、あとはベージュなどもあります。溶射による皮膜の厚さは数十ミクロンから、1ミリ弱程度です。見た目は「色が変わった」程度の変化ですし、研磨すればなめらかで美しくなります。もちろん動作にも影響しません。コーティング前には塗材の定着をよくするため、部品表面に凹凸を付ける技術も必要となります。そうした細かいノウハウがあるのも弊社の特徴です。
~大きく拡がる溶射技術の活用分野~
- 取材担当者
- 高度な「表面処理技術」で、横断的に多様な分野へ参入されておられますが、具体的にはどのような製品を施工されているのですか。
- トーカロ
- 代表的なものとしてベアリングの絶縁コーティングが挙げられます。ベアリングの寿命を左右する主要因の一つが、電気的腐食です。そのため、ベアリングの表面に絶縁のためのコーティングを施す必要があり、それには溶射技術が適しています。新幹線の車輪のベアリングでは、ほぼ100%当社の溶射技術が使われています。
- 取材担当者
- それはすごいですね。
- トーカロ
- また、古くから溶射技術が使われている分野が製鉄です。製鉄ラインには、搬送ロールという設備があります。そのロール部分に溶射によるコーティング処理をして腐食や摩耗を防ぎます。お客様の搬送ロールを当社工場に持ち込んで溶射加工を行うこともありますが、搬送ロールを取り外せない大型設備などの場合には、現地に出向いて施工することもあります。そして、耐熱性の例としては、先ほど例に出した航空機のエンジンがあります。溶射技術は大型部品にも施工できますので、エンジンにセラミックスのコーティングを行い、高温による腐食を防ぎます。
- 取材担当者
- そうした昔からの既存ビジネスも大切にされておられますが、御社の飛躍の足掛かりになったのは半導体と伺っています。
- トーカロ
- 2000年頃に半導体分野へ参入しました。半導体は市場規模が大きく、現在も伸び続けています。半導体分野では製造装置であるドライエッチング装置部品に、溶射技術が活かされています。絶縁機能を持たせ、さらにプラズマによる腐食を防ぐコーティングを行うことで、部品のダメージを軽減し、交換の頻度を減らします。半導体製造装置の部品には、製鉄同様に、溶射技術が適しています。そのため、半導体分野の成長と共に溶射技術をもつ当社も成長を続けてきました。
- 取材担当者
- 医療分野でも使われていると伺いましたが、いかがでしょうか。
- トーカロ
- 例えば、インプラントに、溶射技術が使われています。またこれは溶射ではありませんが、手術用のマイクロ波メスに人の組織がつかないよう、汚れを防ぐコーティング技術を提供しています。この表面に汚れをつけない改質技術は、医療以外の分野でも応用されています。
- 取材担当者
- ありがとうございます。このようにして御社が溶射技術等の表面処理技術で国内トップシェアを占めるようになったのですね。
~「がんばって一緒に特許を取ろう」共同出願が多い理由とは~
- 取材担当者
- お客様のご要望に合わせて施工するという、技術的な部分に御社の知財要素がたくさん詰まっていますね。
- トーカロ
- 溶射に必要な装置や材料は、入手可能です。しかし、それらを用いた施工技術は簡単ではなく、技術的なノウハウが必要です。その点私たちには、長年にわたり蓄積してきた膨大なノウハウがあります。ノウハウは当社の財産なので、大前提として外部には出しません。
- 取材担当者
- 一方で御社は共同出願など、他社との共有で特許を取られるケースが多いのですが、共同出願にはどのような狙いがあるのでしょうか。
- トーカロ
- 当社の場合、お客様と最初から「成果が出た暁には一緒にがんばって特許を取りましょう」という姿勢で臨むケースが多いのです。せっかく一緒になって開発して得た成果物だからこそ、「共有財産として形にして残しましょう」というわけです。特に直近の10年間では、共同出願が全体の4~5割を占めています。
- 取材担当者
- 技術面においてのお客様との共同出願が多いということですが、例えば溶射装置や材料を扱うメーカー様との共同特許はありますか。
- トーカロ
- 材料メーカーの方々とは、共同で特許を取得することがあります。やはり装置やノウハウがあっても、しっかりした材料でなければ満足のいく成果物はできません。例えば、「こういう要求がきていてこういう特殊な材料が必要ですが、一緒に材料開発からやりませんか」とお声がけする、という具合です。
- 取材担当者
- 御社が国内トップシェアとなった理由には、共同出願数の多さも関係があるでしょうか。
- トーカロ
- そうかもしれません。大手企業と組んで開発した技術を、しっかりと特許で守り管理できたことは、企業の成長に大きく影響しました。
しかし当社が大きく成長できた一番の理由としては、自分たちのノウハウを安易に世の中に出さない戦略をとっていることです。溶射技術を営業秘密としてしっかりと守り、さらにお客様との共同特許でお互いの権利を守ったことで、社会からの信頼を得ることができ、成長が確実なものになったと思います。
~特許化するか?しないか?守りを利用するトーカロの知財戦略~
- 取材担当者
- 企業様と共同特許を取ることが多いとのことですが、一番のリスクは情報漏洩ではないでしょうか。競合相手に御社の営業秘密であるノウハウが漏れるリスクについて、どのように対策しておられますか。
- トーカロ
- お客様と共同開発を開始する際には、必ず「秘密保持契約(NDA)」を結んでいます。重要なノウハウはお互いの間だけにしておきましょうという具合です。しかしおっしゃる通り、情報漏洩のリスクはゼロではありません。そのため、本当に出せないものは出さない、出せる情報は必要最小限に絞ろうといった具合です。
- 取材担当者
- しかし出願書類においては、ある程度技術についても文章化しなければなりませんし、公開特許となればだれでも閲覧できます。どこまで書くか、どういう書き方にするかなどは、かなり難しいのではないでしょうか。
- トーカロ
- そこは私たちの過去の出願を参考にしています。以前はここまで書いているので今回はここまで書けるとか、ここまで書けば要件を満たせるとか、照らし合わせながら検討し判断しています。出願件数が多い分、事例も多いのでその点は助かっています。
- 取材担当者
- そのチェックは特許に関する知識はもちろん、豊富な業界知識が求められる作業かと思います。特許化する技術と、一方で特許化せずに秘匿しておく技術がおありだと思います。どのように区別されていますか。
- トーカロ
- 先ほども申し上げたように、当社は世の中に技術を出さないのが大前提です。しかしその中で、特許を出した方が良いと判断したものを特許化しています。
その一例が他社と共に開発した成果物に対する共同出願です。
いずれ世の中に出ることがわかっている技術も、先んじて特許化しています。独占できる技術を持っていることは、お客様への良いPRにもなるからです。
また、ある技術に世の中の注目が思いがけなく集まり、その技術を当社がすでに持っていた場合も、やはり特許化します。それこそ他社に取られたら当社が使えなくなってしまうからです。
- 取材担当者
- 特許件数やその管理はかなりの量になると思われますが、御社の知財部門はどのような体制で活動されているのでしょうか。
- トーカロ
- 特に独立した知財部門はありません。研究所の中に企画管理課があり、そこで特許に関する業務を一手に引き受けています。新規の出願件数は国内で年間10件ほどです。優先権出願や分割出願、さらには海外出願も含めると合計で年間30件ほどあります。
~カタイものを扱っている企業だからこそ、柔らかいキャラで認知を広める~
- 取材担当者
- 御社は、キャラクター「表面カエル戦隊カエルンジャー」を商標登録した上で、積極的に使われていますね。
- トーカロ
- 当社は法人顧客を対象とした事業モデルを採用する企業ですので、世間一般にはなかなか認知されにくい企業です。このカエルンジャーは、そういった固い印象を柔らかく知ってもらうためのキャラクターです。日刊工業新聞が主催の「日本産業広告賞」のコンペに向けて何年か前にデザインされたものです。
- 取材担当者
- それぞれ「耐食」「耐摩耗」「耐熱」「耐高温酸化」「低摩擦」「電気絶縁」と6つの役割をもつ6人のカエルとして紹介していますね。色もすべて違います。
- トーカロ
- カエルの色を変えることで、表面の質を「変える」を表現しました。カエルを起用したのも「変える」だからです。商標登録は5年ほど前ですが、実は10年以上前から使用していました。10年前からグッズも作って露出を増やし、トーカロの最初の入り口として世間一般に知っていただくため、またリクルートでも活躍してもらっています。
- 取材担当者
- 自社の財産である技術を特許で守りながら、さらに共同開発、共同出願で他社と強固な関係を築き、ひいては自社の成長にもつなげていく、素晴らしい知財戦略だと思います。これからのますますのご活躍に期待しています。
本日は貴重なお話をありがとうございました。
トーカロ株式会社
1951(昭和26)年設立。兵庫県神戸市中央区に本社を置く、溶射で表面改質技術を駆使し、金属部品を主として耐久性や耐熱性、耐腐食性など表面の機能性を向上させるソリューションを提供する技術会社。
2026年2月2日掲載



