特許などの知的財産権を財産権として評価することは、その評価が知的財産権の譲渡、担保、投資、貸借(実施権設定)の際の基準評価となることから、キャピタリストや投資家、企業家更には発明家にとって大事な問題です。
この知的財産権の評価手法には、(1)コスト・アプローチ、(2)マーケット・アプローチ、(3)インカム・アプローチの3手法が存在します。
(1)コスト・アプローチによる評価手法
コスト・アプローチによる評価手法では、鑑定評価日における「再作成原価(Cost of Reproduction New: CRN)」、「取替原価(Cost of Replacement: COR)」と呼ばれるもののいずれかを算定する必要があります。
つまり、コスト・アプローチによる評価手法とは、知的財産を再度開発するのに必要な費用を見積る方法です。
例えば、
1.製品開発に従事する科学者及びエンジニアの給与や報酬
2.プロジェクト実施に要した原材料費
などの原価を積み上げて価値評価を行ないます(CRN)。
前記CORとCRNの間に価格差が生じる場合がありますが、その場合はその特許に技術的陳腐化が生じている事を意味します。
(2)マーケット・アプローチ
前記コスト・アプローチは、評価される資産の再作成に必要な金額を調査することによって、その資産の価値を明らかにするものですが、マーケット・アプローチは、評価される資産に類似する資産の取引を調査することによって、その価値を明らかにしようとするものです。
この場合、考慮すべき要素は、
1.産業分野
2.利益の多寡
3.市場シェア
4.新技術の内容
5.参入障壁の高さ
6.成長の見込み
などです。
代替企業の存在がない場合、マーケットアプローチによる知的財産権の価値評価は困難です。
なお、このマーケット・アプローチの一態様として、ワンプロダクト企業の知的財産権を評価し、その評価を株価のように変動させて知的財産権の現在価値,将来価値を算出する手法があります。
この手法を使って知的財産権の取引きを媒介するベンチャー企業も出現しています。
(3)インカム・アプローチによる評価方法
(A)インカム・アプローチによる知的財産権の評価の一態様として収益還元法という考え方が有ります。
この収益還元法は、知的財産権に実施権を設定している場合に、そのロイヤリティの年間収入を、市中貸し出し金利相当として見た場合に対応する元金をもって知的財産権の価値とする考え方です。
この場合のロイヤリティは、25%ルール(期待利益の1/4~1/3をロイヤリティとする)、または製品価格の3~5%をロイヤリティとするという商慣行によって決定される事が多いです。
年間ロイヤリティ総額÷市中金利=知的所有の価値
この考え方は、知的財産権が第三者によって使用されているという前提ですから、所有者自らが実施する知的財産権の価値は0となります。
(B)知的財産権の対象物の販売により、将来収益(ネット・キャッシュフロー)を根拠とし、将来生み出す収益を予測し、それを現在価値に割り戻すディスカウントキャッシュフロー法が存在します。
このキャッシュフロー法では、(1)知的財産権に係る対象製品の売り上げ(収益)、(2)知的財産権の譲渡先の事業体(或いは想定事業体)の収益をそれぞれ算定基準とします。
この収益の予測に、対象商品の売上増加係数を評価し、これを予測収益の算定に利用します。
収益に貢献する要素として、資本力、営業力、特許権(利益3分説)があります。
このキャッシュフローディスカウント法は、平成8年知的財産研究所「知的財産権の価値評価に関する研究報告書」が基本となり、その修正案も種々提案されています。
(4)ブランド(商標権)の価値
ブランドにはGoodwill(信用)(俗に暖簾代と称する財産権)が化体しています。
ブランド商品を購入する際、ノーブランド商品(一般商品の総称、或いは競合商品)とどの程度の金額の差があっても、その商品を購入するかという金額差をブランドエクィティと言います。そのエクィティと販売個数の積がブランドの価値として算出されます。
ブランド価値=ブランドエクィティ×販売個数
以上、知的財産権の価値評価について述べましたがこれはという決定的な方法は存在しませんので事情に応じた方法を採用することが肝要です。
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