我が国の著作権法では、著作権は、著作物の創作と同時に発生し、著作者の死後50年(映画の著作物は70年)まで存続するとされています(著作物の公表後50年という場合もあります。)。つまり、日本における著作権の保護期間は、原則として著作者が著作物を創作した時から著作者の死後50年までとなります。日本と同様に50年を採用している国もありますが、70年を採用している国も多く70年が国際的に主流であるとも言われています。
TPPで著作権の保護期間が延びるというのは、著作権の保護期間延長に積極的なTPP加盟国の主張を採り入れることに合意したということです。TPPは様々な分野における多国間交渉であり、各国には自国の国益に照らして譲れない分野と多少譲ってもよい分野が存在するでしょう。著作権の保護期間についてどのようなせめぎあいがあったのかは知る由もありませんが、他国に歩調を合わせてもよいと判断されたから著作権の保護期間の延長について合意したと考えられます。
では、著作権の保護期間延長は具体的にどのような影響を及ぼすでしょうか。
著作権の保護期間が切れると、その著作物はパブリックドメイン(公共財産)となって誰もが自由に利用することができるようになります。保護期間の延長はパブリックドメインになった著作物について著作権が復活し、再び利用不可となるといった混乱を招くかもしれません(※あまりにも影響が大きいため著作権を復活させるような遡及的な延長はしないと言われています。)。
著作権は著作者が亡くなった後も存続するわけですから、著作者の死後は相続人が著作権を有することになります。現行の50年でも著作権の相続人が分からなくなって、著作物利用の許諾を受ける場合の権利者捜索に苦労することがあります。70年まで延長すれば著作者の孫・曾孫の代まで権利が存続するため権利関係がさらに錯綜することもあるでしょう。権利の所在が分からない著作物を「孤児著作物」といい、権利者が不明で許諾を得られないために著作物利用の機会が阻害される等の問題があります。著作権の保護期間延長はこのような孤児著作物問題を助長しかねません。
もっともマイナスの影響だけではなく、保護期間延長という保護強化により著作者の創作意欲を刺激するといったプラスの影響もあります。
著作権の保護期間の規定(著作権法第51条等)にある「50」の数字を「70」に書き換えるだけで済む話ではありません。著作物の円滑な利用にも配慮した法整備が求められることになるでしょう。
なお、この回答は「TPP協定交渉の大筋合意」という首相官邸の発表直後に書かれたものです。保護期間の延長についてどのような改正が行われるか不透明な状況における回答であり、実際の改正後の内容と整合しない場合がありますので、ご了承ください。
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