公開されてしまった営業秘密を「回収」することはできませんので、
(1)営業秘密の公開によって生じる不利益の拡大を防止すること、
(2)過去の被害を賠償させること(金銭賠償)、
による救済にとどまります。
このうち(1)については、営業秘密の公開媒体がまだ流通しているときにはそれを回収して廃棄することや、営業秘密の使用によって製造した商品を廃棄させるなどの法的手段をとることになります。当然ながら、(営業秘密を不正取得した)人間の頭の中に記憶された情報までは消去できません。
原理的にはいったん公開されれば世界中にその情報は流布される可能性がありますが、現実には営業秘密を世間一般に対して公開するようなことはほとんどなく、営業秘密を不正に入手した者は、ごく限られた者にそれを公開(限定公開)する場合がほとんどです。このため、いったん公開された後でも情報のさらなる拡散を防止できることも多く、法的手続によって営業秘密を記録した媒体を廃棄させることにより、被害の拡大を防ぐことも可能です。
営業秘密が顧客名簿のような場合には、不正取得された情報であることを知ってその顧客名簿を利用した者(A)が得た利益を、営業秘密の本来の所有者(B)の損害額と推定する規定(不正競争防止法第5条第2項)などもありますが、Aがその顧客名簿を用いることによって商品を販売できたのか、それともA本来の正当な営業活動だけで商品を販売できたのかということを区別しなければなりません。
不正競争防止法で規制されている行為のうち、営業秘密関係は「情報の流出」がその本質であるために「原状回復」が難しい部類に入ります。特に近年はデジタル技術が発達していますので、営業秘密が記録された媒体を物理的に動かさずに情報を複写することが可能となっており、その防衛が難しくなってきています。
その一方で、営業秘密関係の不正競争は、自社の情報防衛努力によって相手側の不正競争行為を防止できるという点で、商品形態の模倣等のような相手方による単独行為とは異なる特徴があり、「予防」こそが最大の対策ということになります。
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