平成21年3月12日判決 知的財産高等裁判所 平成20年(行ケ)第10205号
- 審決取消請求事件 -
- 審決取消請求事件 -
- 事件名
- :強化導電性ポリマー事件
- キーワード
- :数値範囲と発明の効果との関係、阻害要因
- 関連条文
- :特許法29条第2項
- 主文
- :特許庁の審決を取り消す。
1.事件の概要
平成6年(1993年)3月30日国際出願(PCT/US94/03514)
平成7年9月29日翻訳文提出(特願平6-522357号)
発明の名称:強化導電性ポリマー
平成16年4月12日:一次補正
平成16年12月15日:二次補正
発明の名称:ポリマー組成物およびその製造方法
平成17年1月31日:拒絶査定
平成17年5月9日:拒絶査定不服審判請求(不服2005-8590)
平成19年6月5日:三次補正
平成20年1月21日:拒絶審決
2.争点及び判事事項
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本発明の内容 【請求項1】ポリマー組成物の製造方法であって,
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引用発明の内容
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(3) |
審決の内容 本願発明は,引用発明1~3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから特許法29条2項により特許を受けることができない。 <一致点>(主引例:引用文献2) いずれも, 「ポリマー組成物の製造方法であって,
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3.執筆者のコメント
3.2.引用文献1および3にはいずれも、炭素フィブリルの樹脂中の分散性を改善するという本件発明とは異なる理由により炭素フィブリルの凝集体の径を小さくする動機付けは記載されている。審査基準によれば、「引用発明が、請求項に係る発明と共通する課題を意識したものといえない場合は、その課題が自明な課題であるか、容易に着想しうる課題であるかどうかについて、さらに技術水準に基づく検討を要する。」、「別の課題を有する引用発明に基づいた場合であっても、別の思考過程により、当業者が請求項に係る発明の発明特定事項に至ることが容易であったことが論理づけられたときは、課題の相違にかかわらず、請求項に係る発明の進歩性を否定することができる。」(第2章、2.進歩性、2.5論理づけの具体例、(2)動機づけとなり得るもの、[2]課題の共通性)とされており、審決もこのような論理付けにより、本願発明の進歩性を否定したものと思われる。
しかし、裁判所は、引用文献には、本願発明を構成する「面積ベースで測定して,35μmよりも小さい径」という具体的数値と得られるポリマーの「導電性及び許容されるノッチ付き衝撃強さ」という効果の関係についてまでは記載されていないことから進歩性を認めた。
導電性ポリマーの導電性や機械的強度は自明な課題であり、当業者が適宜検討するポリマーの特性であると思われるが、当該特性を改善するために炭素フィブリルの凝集体の径を検討する動機付けは引用文献にはないため、裁判所の判断は妥当と思われる。
本件は、引用文献がいずれも出願人自身の先願であり、同一の技術分野での特許ポートフォリオを築くため、改良発明を先願の公開後に出願する場合には、当該先願に対する特許性を検討する必要があり、引用文献に具体的に記載されていない構成と作用効果の関係により進歩性が認められた本件は、参考になる事例である。
(執筆者 山本 健二 )