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平成21年12月22日判決 知的財産高等裁判所 平成20年(行ケ)第10425号
- 審決取消請求事件 -

事件名
:審決取消請求事件
キーワード
:進歩性
関連条文
:特許法29条2項
主文
:特許庁が無効2007-800233号事件についてした審決を取り消す。


1.事件の概要
原告は,発明の名称を「呼吸装置」とする特許第3726886号(以下「本件特許」という。)の特許権者であり、被告は,平成19年10月25日付けで,本件特許について特許無効審判を請求し,無効2007-800233号事件として係属した。
原告は,平成20年7月4日付けで,本件特許について訂正請求をし、特許庁は,同年10月15日,本件訂正を認めた上,「特許第3726886号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との本件審決をした。
本件審決が認定した引用発明並びに本件発明と引用発明(実開平4-51928号)との一致点及び相違点(以下「本件相違点」という。)は,以下のとおりである。
一致点 : 面体の前部に,排気時に開くと共に吸気時に閉じる排気弁と,排気時に閉じると共に吸気時に開く吸気弁とを設け,モータで駆動され,その通常作動時に前記吸気弁を通して外気を前記面体内に濾過材を介して送り込むブロワーを設置した防塵又は防毒用呼吸装置。
相違点 : 本件発明は,排気弁又は吸気弁の近傍に,前記排気弁又は吸気弁からの距離を感知して,排気時又は吸気時に信号を発するフォトインタラプタより成るセンサを設置し,該センサからの信号により,吸気時には前記モータヘ通常作動するよう電力供給されると共に,排気時にはモータヘの電力供給が停止或いは減少されるように呼吸に連動したブロワー送風の切り替えを行うものであるのに対し,引用発明は,そのような構成を備えていない点。


2.裁判所の判断
本件発明の検知の構成が,消費電力の増加を抑制するために呼吸連動制御の構成を採用する前提として,呼吸の状態(排気又は吸気)を検知し,これにより,呼吸に連動したブロワー送風の切替えを行うものであるのに対し,引用例4の検知の構成は,無呼吸症候群の病状をモニターするなどするため,呼吸の状態(呼吸停止の有無)を検知するものの,これを単にデータとして取得するのみであり,これによって呼吸に連動したブロワー送風の切替えその他の呼吸に連動した何らかの制御を行うものではないから,引用例4の検知の構成は,その作用及び機能の点において,本件発明の検知の構成と大きく異なるものであるし,また,その解決課題の点においても,呼吸連動制御の構成と大きく異なるものであるというべきである。さらに,上記のとおり,引用例4には,同引用例記載の鼻被覆具を防じん防毒用のマスクとしても使用することができるとの記載がみられるものの,引用例4の検知の構成を付加した目的に照らすと,同構成を付加した引用例4の鼻被覆具は,防じん防毒用のマスクとして用いられるものではなく,加えて,上記のとおり,引用例4の鼻被覆具がブロワーを備えないものであることをも併せ考慮すると,引用例4の検知の構成を備えた同引用例の鼻被覆具は,その属する技術分野の点においても,呼吸連動制御の構成を有する呼吸用保護具(モータで駆動されるブロワーを設置したもの)と異なる面を有するものといわざるを得ない。
したがって,引用発明において,呼吸連動制御の構成を採用し得ると仮定しても,本件出願当時の当業者において,その構成を実現する具体的な方法として,引用例4の検知の構成を適用し,本件発明の検知の構成に容易に想到することができたとまで認めることはできない。
この点に関し,被告らは,引用例4記載の発明が属する国際特許分類を根拠に,引用例4の検知の構成を備えた同引用例の鼻被覆具と本件発明とが同一の技術分野に属すると主張するが,発明の属する国際特許分類が同じであることから直ちに,発明の構成の組合せ,置換等の容易性を判断する際の考慮要素の1つとなる技術分野の異同に関し,各発明の属する技術分野に異なる面がある場合を否定することはできないというべきである。


3.コメント
本件と、引用例4との構成について、その作用及び機能の点において,本件発明の検知の構成と大きく異なるものであるし,また,その解決課題の点においても,呼吸連動制御の構成と大きく異なるものである点を指摘し、審決を取り消したのは妥当と考える。


(執筆者 東山 香織 )


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