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平成19年7月19日 知的財産高等裁判所
- 平成18年(行ケ)第10519号 審決取消請求事件
平成19年(行ケ)第10091号 審決取消請求事件 -

事件名
:餃子の王将事件
キーワード
:商標の類似、商品の出所の誤認混同、取引の実情
関連条文
:商標法第4条第1項第11号
主文
:特許庁が無効2005-89164号事件及び無効2005-89170号事件についてした審決を取り消す。


1.事件の概要
本件は、被告(大阪王将)が、原告(京都王将)が有するA商標及びB商標が、被告(大阪王将)が有する引用商標1ないし引用商標3と類似していることを理 由に、特許庁に対し、原告(京都王将)を被請求人として、A商標及びB商標について、それぞれ商標登録の無効審判を請求したところ、A商標については、引 用商標1ないし3と称呼及び観念を共通にする類似商標であり、指定商品の一部も類似することから、A商標の登録は無効である旨の審決がなされ、B商標につ いては、引用商標1ないし3と外観、称呼及び観念を区別し得る非類似商標であることから、B商標の登録は無効にすることができない旨の審決がなされたた め、A商標の請求成立審決に不服の原告(京都王将)が審決の取消しを求めて訴訟(A事件)を提起し、B商標の請求不成立審決に不服の被告(大阪王将)が審 決の取消しを求めて訴訟(B事件)を提起した事案である。
尚、上記のA商標、B商標及び引用商標1ないし3は、それぞれ、下記のとおりである。
A商標は、左側に赤の色彩を施した「餃子の」の文字を配し、その右側に赤地に白抜きの文字で大きく「王将」の文字を表し、その「王将」の文字を緑・橙・黄 色の三重の括弧「<<<」、「>>>」で挟んでなるものを標章としており、「ぎょうざ、サンドイッチ」等を指定商品としている。
B商標は、「元祖餃子の王将」の文字を同書同大に等間隔にまとまって横書きしてなるものを標章としており、「餃子、サンドイッチ」等を指定商品としている。
引用商標1は、「王将」の文字を横書きしてなるものを標章としており、「ぎょうざ、しゅうまい」を指定商品としている。
引用商標2は、「王将」の文字を横書きしてなるものを標章としており、「サンドイッチ」等を指定商品としている。
引用商標3は、五角形の将棋の駒を左斜め横から表して駒の厚みを表現し、その内部(駒の表面)に「王将」と大きく横書きし、その他に「品質優良」、「K商店」等の文字を小さく縦書きしてなるものを標章としており、「漬物」等を指定商品としている。


2.争点及び判決の要旨
(1)
争点
A事件についてはA商標と引用商標との類否が、そして、B事件についてはB商標と引用商標との類否が、外観、称呼及び観念の対比の他、取引の実情を踏まえた商品の出所の誤認混同の有無という観点から争われた。
(2)
判決要旨 
A事件について
裁判所は、「A商標と引用各商標とは、外観において区別しうるが、称呼については場合によりこれを同じくし、観念は同一であることになる。」としながら、 A商標が多数の店舗で基本的な看板等として使用されてきたという使用実態があるのに対して、引用商標1、2が「大阪王将」と結びついて使用されているとい う使用実態があり、また、引用商標3が使用されていないという使用実態があるという事情を考慮して、「共通の指定商品である餃子に関し、その取引者・需要 者には、A商標は高い識別力を有し、その外観により原告の商品であることを想記させるものとして引用各商標と識別することは十分に可能というべきであ る。」として、「A商標と引用各商標とは、同一または類似の商品に使用された場合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとは認められず、互い に類似する商標であるということはできない。」、「A事件の審決には、法4条1項11号にいう類否判断を誤った違法があり、この誤りは審決の結論に影響を 及ぼすものというべきである。」と判示した。
B事件について
裁判所は、「B商標と引用各商標とは、外観において一応区別しうるもののそれほど顕著な差異とはいえず、称呼については構成音及び語調語感にさほどの差異 はなく、観念についてはほぼ同一というべきである。」とするとともに、「原告がB商標を実際に使用しているとの証拠もなく、また、原告の使用する『餃子の 王将』と『元祖』とを組み合わせるなどした表示も使用していないことから、商品の出所に誤認混同をきたすおそれがないとはいえないというべきである。」、 「原告は、『餃子の王将』についてはこれを標章として使用しており、著名である旨も主張するが、『元祖餃子の王将』として標章を使用している事実は認めら れず、また上記のとおり「元祖餃子の王将」の文字から「餃子の王将」の部分だけが取り出され認識されるほどに著名であるとまで認めることはできない。」と して、「B商標と引用各商標とは、観念をほぼ同一にし、称呼上及び外観上の差異も顕著とはいえないものであるから、同一または類似の商品に使用された場合 に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがある類似の商標であるといえる。」、「B事件の審決に、法4条1項11号にいう類否判断を誤った違法があ り、この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものというべきである。」と判示した。


3.執筆者のコメント
A事件及びB事件は、「氷山事件」(最高裁 昭和43年2月27日判決)における「商標の類否は、対比される両商標が同一または類似の商品に使用された場 合に、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが、それには、・・・(中略)・・・その商品の取引の実情を明らかにし うるかぎり、その具体的取引状況に基づいて判断すべきである。また、商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同の おそれを推測させる一応の基準にすぎず、従って、上記三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等 によって、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについてはこれを類似商標と解すべきではない。」という見地に立って、A商標が著名 である事実、引用商標1、2が「大阪王将」と積極的に結びつけられた状態で使用されている事実、及び、B商標が不使用であるという事実とを考慮して、商標 の類否を判断したものであり、妥当なものであると思われる。
尚、本判決のように、商標の類否判断において取引の実情による商品の出所の誤認混同のおそれの有無が重視されていることを考慮すれば、商標権者の立場にお いては、異議申立や審判、裁判等において、事実上不使用の登録商標との誤認混同のおそれがないことを理由にして、非類似という判断を最終的に得ることがで きる可能性はあると思われるが、実務的には、不使用の登録商標を引用されて類否判断を争う必要が生じた場合には、不使用取消審判を請求する等の手段を採用 することが好ましいものと思われる。


(執筆者 山根  政美 )


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