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平成19年4月26日 知的財産高等裁判所  平成18年(行ケ)第10484号
- 審決取消請求事件 -

事件名
:吊戸のガイド装置事件
キーワード
:引用発明の認定の誤り、創作容易
関連条文
:特許法29条2項
主文
:特許庁が無効2005-80250号事件について平成18年9月19日にした審決を取り消す。


1.事件の概要
本件は,原告の有する特許(特許第3245490号)について,被告が無効審判請求(無効2005-80250号事件)をしたところ,特許庁がこれを無効とする審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。


2.争点
刊行物2(実開昭53-83841号)記載発明の認定の誤り・相違点1についての判断の誤りがあるかどうか。


3.判決の要旨
本件発明1は,ガイドピンが床面に磁力にて突出引退自在に設けられた構成を有するものであって,ランナーに吊り下げ状態で走行自在な吊戸のガイド装置にお けるガイドピンを,吊戸本体下部の走行溝に挿入させる構造に関し,従来は,磁力によってガイドピンの挿入状態を維持していたものを,ガイドピンの上端部外 周面に係止溝を形成し,走行溝の長さ方向の中間部分における吊戸本体側に,係止溝にスライド自在に係入及び離脱する一対の係止ガイド片を対向させて設け, 係止ガイド片間の間隔を係止溝を形成する首部分よりも大きく係止溝の上下の大径部分よりも小にして,ガイドピンの係止溝が一対の係止ガイド片間に係入する ことにより,ガイドピンの大径部が係止ガイド片に当接することにより機械的に保持され,走行溝から下降しないようにした点に,相違点1に係る構成の主たる 技術的意義があるものと認められる。
刊行物2(甲2)においては,規制ピンは敷居に植設固定されており,ビス22を遊挿された遊転ローラー21の案内溝19への挿入,離脱は,引戸13の建て こみ,取り外しによって行われていること,また,規制ピンの突出状態を保持する機能は,敷居に植設される構成によって実現されていることが認められる。
そうすると,引用発明2において,引戸が持ち上げられる際,コの字型の案内溝のフランジ18に遊転ローラー21が当たることにより案内溝から規制ピンが抜 け出ることが規制されることがあるとしても,突出引退自在なガイドピンの保持構造を開示するものということはできない。
また,刊行物2(甲2)の規制ピンは,高さ方向(上下方向)においても動くことのない植設固定状態にある。そして,刊行物2においては,遊転ローラは案内 溝の側面に接して回転するものと認められるところ,遊転ローラーを案内溝のフランジに当接させると,遊転するローラーは,軸の左右のいずれか一方において は引戸を前進させる方向,他方においては引戸を後退させる方向という,全く逆方向に同時に回転しようとすることとなり,円滑な回転ができないこととなる。 したがって,遊転ローラーがローラーとしての機能を発揮するには,ローラーがフランジと当接する構造(フランジがローラーを機械的に保持する構造)であっ てはならず,引用発明2は,フランジと遊転ローラーとの間の高さ方向において,一定の間隔を設けることを前提とする技術であると認められる。
以上検討したところによれば,本件発明1は,ガイドピンが床面に磁力にて突出引退自在に設けられた構成を有するものであって,ガイドピンの大径部が係止ガ イド片に当接することにより機械的に保持され,走行溝から下降しないようにした点に主たる技術的意義があるものであるのに対し,刊行物2(甲2)において は,規制ピンは敷居に植設固定されており,突出引退自在に設けられたものではないから,「走行中や停止中において,吊戸本体3の揺れや振動などにてガイド ピン4が磁着体Xから外れ,ガイドピン4がその自重で容易に床面下に下降する」という本件発明1の従来技術にいう課題を解決する手段として突出引退自在に 設けられたガイドピンを係止ガイド片によって機械的に保持する技術を開示するものではない。しかも,刊行物2(甲2)の遊転ローラは,フランジと当接する 構造(フランジがローラーを機械的に保持する構造)であってはならず,引用発明2は,フランジと遊転ローラーとの間の高さ方向において,一定の間隔を設け ることを前提とする技術であるから,本件発明1のガイドピンの大径部が係止ガイド片に当接することにより機械的に保持する構造とは,その技術的意義が異な るものである。
したがって,引用発明1における,ガイドピンが突出引退自在である構成を前提としたまま,刊行物2の「フランジ18を有したコの字型案内溝19にビス22 の遊転ローラー21を案内させる構成」を適用することはできないというべきである。そうであれば,引用発明1におけるガイドピンの走行溝への挿入構造に代 えて,引用発明2に示されたところの規制ピンのコの字型案内溝への挿入構造を用いるように変更することについて,当業者(その発明の属する技術の分野にお ける通常の知識を有する者)が容易想到と解することはできないから,首部分よりも上下の部分が大径である形態を有したピンが周知であるとしても,相違点1 に係る本件発明1の構成を容易想到ということはできず,原告の取消事由1は理由がある。


4.執筆者のコメント
刊行物2記載の発明がピンの構造において本件発明と相違するにもかかわらず、この点を看過し判断した審決を取り消したのは妥当と考える。


(執筆者 東山 香織 )


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