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平成19年3月29日 知的財産高等裁判所  平成18年(行ケ)第10422号
- 審決取消請求事件 -

事件名
:靴底事件
キーワード
:容易想到性
関連条文
:特許法29条2項
主文
:特許庁が不服2002-17337号事件についてした審決を取り消す。


1.事件の概要
拒絶査定で引用された引用発明に、本願発明との相違点に係る構成について記載もなく示唆もなく、また、審決が周知技術として引用する刊行物にも記載がない のであるから、当該相違点に係る構成を容易想到とすることはできないとして、相違点に係る構成の進歩性を否定した審決を取り消した事例。


2.争点
本願発明と引用発明(甲1)及び審決が引用した刊行物(甲2ないし甲4)との間の相違点は、本願発明の構成には「靴底の少なくとも周縁に沿って、少なくと も膜の影響を受ける領域に1つ以上の貫通孔を備えた、ゴムまたはそれと同等の材料(不透過性の材料)でできた1つの上部部材が膜の少なくとも周縁領域を被 覆している」のに対して、引用発明及び刊行物(甲2ないし甲4)は、かかる上部部材を備えていない点である。
審決では、「引用発明の防水性をより向上させるために、革製本底1の上面が露出する部分を防水性のある合成ゴム等の合成樹脂で覆うようにするとともに、防 水部材2との境界部分からの漏れも生じないように、防水部材2の周辺部をも防水性のある合成ゴム等の合成樹脂で覆うようにして、上記相違点に係る本願発明 の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た」(審決4頁第2段落)と判断した。
なお、審決が引用した刊行物には「靴底において革製本底と合成ゴム等の合成樹脂を積層すること」が記載されており、積層すること自体は周知技術であるといえる点は争いない。


3.判決要旨
引用発明において、「通気性を有する防水部材」を革製本底の上面に積層することにより達成しているものであり、かつ、「本実施例のように防水布(本願発明 の「通気性でかつ耐水性の材料からなる膜」に相当)を積層配置しただけで充分に効果的である」(甲1の明細書5頁第2段落)とあるように、それで足りると しているものである。
引用発明には、更に防水性を高めるために「不透過性の材料でできた上部部材」で覆うというようなこと(相違点)については記載も示唆もない。
また、審決が周知技術として引用する甲2ないし甲4には、革製本底のほぼ全面に各種の合成樹脂を積層して「素材としての積層体」を構成することが記載され ているだけであり、革製本底の周縁部などのような限られた一部分について合成樹脂を積層することについては記載がなく、更に、本願発明の上部部材のよう に、貫通孔を有した合成樹脂を積層すること(相違点)については、なんらの記載も示唆もないのである。
したがって、防水性を高めるために、貫通孔を備えた不透過性の材料でできた上部部材により被覆するという本願発明の相違点に係る構成を採用することが、当 業者に容易想到とすることはできない。被告の主張は、裏付けのない主張であり、本願発明の相違点にかかる構成を後から論理付けしたものというほかなく、採 用することができない。
以上の通り、本願発明は、引用発明及び審決が引用した周知技術によって容易想到とすることはできないから、本願発明は引用発明及び審決の認定した周知技術から容易に想到し得たとする審決の判断は誤りである。


4.執筆者のコメント
本願発明が、2層+不透過性の上部部材という構成であるのに対し、引用発明及び甲2ないし甲4の構成が2層であるので、当然の、明解な判決だと思います。ただ、この容易想到性は難しく、引例次第で判断が異なることもあるのではないかと思われる。


(執筆者 大和田隆太郎 )


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