平成19年3月8日 知的財産高等裁判所 平成18年(行ケ)第10277号
- 審決取消請求事件 -
- 審決取消請求事件 -
- 事件名
- :記録媒体用ディスク事件
- キーワード
- :発明の要旨の認定
- 関連条文
- :特許法第29条第2項
- 主文
- :特許庁が無効2004-80029号について平成18年5月12日にした審決のうち、特許第3349138号の請求項2に係る部分を取り消す。
1.事件の概要
本件訴訟は、訂正を認め、請求項1に係る発明についての特許を無効とし、請求項2に係る発明についての審判請求を不成立とした審決に対し、無効審判請求人が請求項2に係る部分の取り消しを求め提起した審決取消訴訟である。
2.争点
原告は取消事由として訂正の許否の判断と進歩性の判断における相違点6の判断の2点を主張したが、いずれも請求項2の「当接」の意義の解釈の誤りを実質的 内容とするものである。すなわち、審決は、「当接」の意義を、明細書の記載を参酌して、カバー体3と保持板2のヒンジ結合側端縁部が、さらなる相対回動を 可能にする位置において当接する場合に限定し、さらなる回動が阻止されるような位置において当接する場合は、カバー体3と保持板2のヒンジ結合側端縁部が 当たり接していても、「当接」とはいえないものと解釈した。これに対し、原告は、リパーゼ事件最高裁判決(最二小判平3年3月8日)を引用して、「当接可 能」とは字義通り「接し当たることが可能である」状態を意味すると解釈すべきであり、「当接」の意義を明細書の記載に限定して解釈した審決は誤りである旨 主張した。
要するに、ものということができる。
3.判決要旨
特許の要件を審理する前提としてされる特許出願に係る発明の要旨の認定は、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないと か、あるいは一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど,発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特 段の事情のない限り、特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである(最二小判平3年3月8日・民集45巻3号123頁参照)。
請求項2の「当接」との用語は、被告も指摘するとおり、一般的に用いられる言葉ではなく、広辞苑や大辞林にも登載されていないが、この言葉を構成する 「当」と「接」の意味に照らすと、「当たり接すること」を意味すると解することができる。そうすると、請求項2の「前記カバー体(3)の内面と前記保持部 (5)の上面とは当接する」とは、「カバー体(3)の内面と保持部(5)とが当たり接すること」を意味し、「前記カバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁 部は前記保持板(2)のヒンジ結合側端縁部と当接可能になっており」とは、「カバー体(3)のヒンジ結合側端縁部と保持板(2)のヒンジ結合側端縁部と が、当たり接することが可能な状態となっていること」を意味するものと一応理解できる。
請求項2には、カバー体3が保持板2に対して収納状態(つまり0°)から180°開いた状態に相対回動可能になることと、180°開いた状態においてカ バー体3と保持板2のヒンジ結合側端縁部が当接可能になることは記載されているが、カバー体3と保持板2とが180°開いた状態で当接した後、さらにカ バー体3と保持板2とが相対回動するための構成についての記載はない。したがって、請求項2の「当接」が、カバー体3と保持板2が180°を超えて相対回 動することを前提としているということはできない。
また、特許請求の範囲において同一の用語が複数用いられている場合には、特に異なる技術的意義を含むと認められない以上、同一の意味を有すると解すべきと ころ、請求項2には「カバー体(3)の内面と前記保持部(5)の上面とは当接する」との記載がある。ここにいう「当接」は、単に「当たり接すること」を意 味すると理解するほかなく、「その後の回動を可能とすることを前提にその位置において当接」することを意味するとは理解できない。
請求項2の「当接」という用語の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとして、本件訂正明細書及び図面を参酌するとしても、同請求項の「当 接」は「当たり接すること」を意味するにとどまるというべきであって、審決のように「当接」の意義を限定的に理解することは相当ではない。
4.執筆者のコメント
本件では他に審決の部分確定の問題がある。すなわち、本件では被請求人が請求項1を無効とする部分について審決取消訴訟を提起しなかったが、審決のこの部分が本件訴訟とは別に確定するかという問題があるが、肯定すべきであろう。
(執筆者 鎌田 邦彦 )