平成18年12月27日 知的財産高等裁判所 平成18年(行ケ)10262号
- 審決取消請求事件 -
- 審決取消請求事件 -
- 事件名
- :長期飼料事件
- キーワード
- :新たな拒絶理由の通知義務、周知技術、明細書中に記載された従来技術文献
- 関連条文
- :特許法159条2項で準用する同法50条、特許法29条2項
- 主文
- :特許庁の審決を取り消す。
1.事件の概要
明細書中に従来技術として記載された文献は出願人が熟知していることを理由に、これを主要な引用発明として新たな拒絶理由を通知することなく行った拒絶審決が特許法159条で準用する同法50条違反とされた事例。
2.争点及び判決の要旨
(1) |
争点 新たな拒絶理由を通知することなく行った本件審決は特許法159条で準用する同法50条に違反するか。 (ア)拒絶査定の理由:本願発明は刊行物2発明に基づき当業者が容易に発明できたものであるから、特許法29条2項により特許を受けることができない。 (イ)審決理由:本願発明は,刊行物1(明細書中に従来技術として記載された文献である。)と刊行物2に記載された周知技術とに基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから,特許を受けることができない。 審決は,刊行物1発明と本願発明との一致点及び相違点を認定し、相違点は刊行物2に記載されていると判断した。 |
(2) |
判決要旨 本件審決は,刊行物1を主引用例とし,刊行物2を補助引用例として,本願発明について進歩性の判断をして,進歩性を否定したものであるが,主引用例に当たる刊行物1は, 拒絶査定の理由とはされていなかったものである上,これまでの審査・審判において,原告に示されたことがなかったものである。原告に意見を述べる機会を与えることなくされた審決の判断は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反するものである。 原告が刊行物1に記載の技術内容について熟知していたとしても,主引用例に当たる刊行物1が,拒絶査定の理由とはされておらず,審査・審判において原告に 示されていないことに変わりはないのであって,なお原告は,審判官から,本願発明を刊行物1発明と対比することにつき意見書を提出する機会を与えられるべ きであった。 |
3.執筆者のコメント
判決は妥当である。審決が主引用例とした刊行物1は、本件明細書に従来技術として記載されていたものである。これをもって特許庁は、出願人は刊行物1の内 容を熟知していたから、刊行物1を主引用例とする新たな拒絶理由を通知することなく、いきなり拒絶審決して構わないと主張した。しかし,仮に、この主張が 通るなら,審査官が明細書中に背景技術や従来技術として挙げてある文献に基づき拒絶の心証をもった場合は,拒絶理由を通知することなく,いきなり拒絶査定 をしてもよいことになり,不当である。
(執筆者 高瀬 彌平 )