平成18年11月29日 知的財産高等裁判所 平成17年(行ケ)第10673号
- 審決取消訴訟 -
- 審決取消訴訟 -
- 事件名
- :「ひよ子」の立体商標事件
- キーワード
- :立体商標、特別顕著性、特許庁長官の意見
- 関連条文
- :商標法3条1項3号、同条2項、63条2項、特許法180条の2
- 主文
- :1特許庁が無効2004-89076号事件について平成17年7月28日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
1.事件の概要
本件は「ひよ子」の立体商標について無効不成立審決に対する審決取消訴訟である。本件立体商標に関する経緯は次の通りである。すなわち、被告は平成9年4 月1日(立体商標に関する改正商標法の施行当日)に指定商品を第30類「菓子及びパン」として本件立体商標の出願をなした。本件出願は商標法3条1項3号 を理由に拒絶査定を受けた。被告は拒絶査定不服審判を請求して指定商品を第30類「まんじゅう」に補正し、特許庁は平成15年7月24日に商標法3条2項 を理由に原査定を取消し本件立体商標の登録審決をした。原告は無効審判を提起したが特許庁は請求不成立の審決をした。そこで原告は本審決取消訴訟を提起し た。なお、本件立体商標の形状は判決添付の「立体商標を示した書面」を参照されたい。
2.争点
本件立体商標が自他商品識別力(特別顕著性)を獲得したか否か
3.裁判所の判断
裁判所は文字商標「ひよ子」は九州地方や関東地方を含む地域の需要者には広く知られていると認めることはできるものの、本件立体商標それ自体は未だ全国的 な周知性を獲得するまでには至っていないと判断した。その主な理由は、ア)被告菓子の取引展開が日本全国にあまねく及んでいるとはいえないこと(被告の直 営店舗の多くは九州北部、関東地方等に存在し、必ずしも日本全国にあまねく存在するものではないこと)、イ)被告の菓子の包装や宣伝広告は文字商標「ひよ 子」に注目するような形態で行われてきたこと、ウ)本件立体商標の形状は和菓子としてはありふれたものと評価されること(鳥の形状の焼き菓子が全国の各地 に23業者によって製造販売されており、これらの菓子は隔離的に観察する際には被告菓子と見分けがつきにくいほど似ていること、また、わが国において鳥の 形状を有する和菓子は伝統的なものとみられること)、である。
4.コメント
本件立体商標は商品の形状そのものについて立体商標が登録となった極めて稀な事例であったが、知財高裁により特別顕著性が否定された。審査基準にあるよう に一般に、法3条1項3号に該当し本来は自他商品の識別性を有しない立体商標であっても、長期間にわたる使用、又は短期間でも強力な広告、宣伝による使用 の結果、同種の商品等の形状から区別しうる程度に周知となり、需要者が何人の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったものは識別力を有す ると解されている。裁判所は本件立体商標について特別顕著性を検討する際の留意点として、要件の有無は「立体商標を示した書面」による立体的形状について 独立して判断すべきで、付随して使用された文字商標・称呼等は捨象すべきであること、商標法は日本全国一律に適用されるものであるから特別顕著性を獲得し たか否かは日本全体を基準とすべきであることをあげているが、上記の各理由に照らせば、特別顕著性を否定した裁判所の判断は正当というべきであろう。
なお、本件は63条2項の準用する特許法180条の2(平成15年特許法改正で導入された「無効審判の審決取消訴訟における求意見制度及び意見陳述制度」)により特許庁長官の意見が述べられたおそらく初めての事案である。
(執筆者 鎌田 邦彦 )