平成18年10月24日 知的財産高等裁判所 平成17年(行ケ)第10856号
- 審決取消請求事件 -
- 審決取消請求事件 -
- 事件名
- :二輪車の取り外し可能ハンドル事件
- キーワード
- :審決取消、新たな証拠
- 関連条文
- :実用新案法3条1項,2項
- 主文
- :特許庁が無効2004-40007号事件についてした審決を取り消す。
1.事件の概要
本件は、被告が有する実用新案について、原告による無効審判請求を不成立とした審決に対し、原告が新たに証拠を提出し、引用考案の認定に誤りがあるとして取り消しを求めた事例である。
2.争点及び判決の要旨
(1) | 争点 争点は、(ア)引用考案1の認定に誤りがあるか、(イ)引用考案1及び2に基づいて、本件考案にきわめて容易に想到することができるか、である。 無効審判において、原告は、被告と訴外Aにより設立された引用考案1の総輸入代理店のホームページ中、一部のページをダウンロードした書面等を証拠として 示し、本件考案の構成要素のうち、A,B,C,D,F及びEの一部(弾性ロープによって連接された左右ハンドル)を具備した商品(引用考案1)が本件出願 前に公知となっており、Eの他の部分(ハンドルホルダー)についても引用考案2によって本件出願前に公知となっていたから、本件考案1は引用考案1及び2 に基づいて当業者がきわめて容易に想到できるものであり、本件考案2も本件考案1に周知・慣用技術を付加しただけであって進歩性がないと主張した。しかし ながら、本件審決は、上記証拠からは、引用考案1の左右のハンドルが弾性ロープによって連接されているとまでは認められず、原告の主張の前提自体が成立し ないので、本件考案のその余の構成要件について検討するまでもなく、本件考案1及び2に対する無効理由は根拠がないとした。 そこで、原告は、本件出願前に原告により販売されて訴外Bにより購入された引用考案1の現物等の証拠を新たに提出し、[1]『引用考案1が本件出願前に公 知になっていたこと』、[2]『引用考案1は、本件考案1の構成要素Eのうち「弾性ロープによって連接された左右ハンドル」との構成を備えており、「ハン ドルホルダー」を除く本件考案1の構成要件を全て備えるものであること』は明らかであり、審決の「左右のハンドルが弾性ロープによって連接されているとま では認められない」との認定は誤りであると主張した。さらに、引用考案1に引用考案2を組み合わせることにより、本件考案1及び2はきわめて容易に想到で きると主張した。 これに対して、被告は、原告が新たに提出した証拠は、本件審判において審理判断されなかった事実に関する新たな証拠であって、単なる補強証拠とはいえない から、本件審決の引用考案1の認定に誤りを主張することは許されないと主張した。また、引用考案1の認定が誤りであるとしても、本件考案1及び2は、引用 考案1及び2に基づいて、きわめて容易に考案することができたものではなく、上記誤りは本件審判の結論に影響するものではないと主張した。 |
(2) | 判決要旨 裁判所は、メリヤス編機事件(最高裁昭和51年3月10日判決昭和42年(行ツ)第28号)判例を引用し、「実用新案登録無効審判の審決に対する取消訴訟 についても、・・・無効審判において実用新案法3条1項各号に該当するものとして審理されなかった公知事実については、取消訴訟において、これを同条1項 各号に該当するとして主張することは許されない」としたうえ、原告が提出した新たな証拠については、「本件審判で審理判断の対象とされなかった公知事実を 立証しようとするものではなく、本件審判において審理判断され、本件審決においてその存在を認められなかった引用考案1に係る前記[1]及び[2]の事実 について、その存在を立証しようとするものであるから、これらに基づいて本件審決の誤りを主張することは許される」として、被告の主張を退けた。 そして、審判段階の証拠に新たな証拠を加えれば、引用考案1に係る前記[1]及び[2]が認められると認定し、「引用考案1のハンドルが取り外し可能であ るとしても、左右のハンドルが弾性ロープによって連接されているとまでは認められない」とした本件審決の事実認定は誤りであり、したがって、「『引用考案 1は本件考案1の構成要素のうち、Eの要件についても『弾性ロープによって左右ハンドルが連接されている』という部分は充足している』という請求人の主張 の前提が成立しない」とした本件審決の判断も誤りである、と判示した。 また、本件考案1及び2の容易想到性については、「本件審決は、・・・引用考案1と本件考案とを対比検討して本件考案の容易想到性の有無について判断しな いまま、原告が主張する本件考案1及び2に対する無効理由は根拠がないと結論付けたものであるから、容易想到性の点について検討するまでもなく、上記引用 考案1の認定の誤りが、本件審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかであり、本件審決は取り消しを免れない」として、判断を要しないとした。 |
3.執筆者のコメント
審決取消訴訟において提出された新たな証拠は、審判段階で審理対象となった引用考案1の現物等であることから、補強証拠に該当するとの認定は妥当であると思われる。なお、当業者の技術常識を認定し、考案の持つ意義を明らかにするための資料として新たな公知技術を主張・立証することは許容されるとの判例(食品包装容器の構造事件:最高裁昭和55年1月24日判決昭和54年(行ツ)第2号)もある。
(執筆者 森川 淳 )